谷川岳 〜「魔の山」 再び(前編)〜


 

 (前編)

【群馬県 みなかみ町、新潟県 湯沢町 平成23年9月10日(土)】
 
 数日前、朝方涼しく感じる日があり、「おっ、秋の気配か?」と期待しましたが、その後暑さがぶり返してきて再び真夏のような日が続いています。どこか涼しいところにでも行きたいのですが、まだどこに行っても暑いでしょうね。このところ仕事でいやな汗ばかりかいているし、どうせなら高い山にでも行って気持ちのいい汗をかきたいものです。
 で、どこに行くかと考えましたが、山歩き仲間のMさんのリクエストもあり、上越国境の谷川岳に行ってみることにしました。今回はそのMさんと、数年前の利尻山登山をプロデュースしてくれたTさん(札幌転勤から去年戻ってきました。)との3人です。
 この3人は「楽な山にしか行かない」という共通項で結びついてる職場の山会仲間で、その会の活動はもっぱら飲み会に重きを置いたものとなっています。山会には他に、幽霊会員となりつつあるBさんと、この4月に広島に転勤になって休会中のAさんがいます。いつの間にかできた会なので、またしらないうちに消滅していないとも限らない、常に風前の灯火的な会です。(過去の活動 高尾山・影信山利尻山笠取山浅間尾根三頭山御岳山・日の出山
 
                       
 
 午前4時15分起床。そして5時過ぎにドリーム号で自宅を出発。池袋駅で2人をひろって、首都高、外環道を乗り継いで関越道に入りました。早朝にもかかわらず車の量は結構多かったです。途中、上里SAでトイレ休憩。最近、どのSAもトイレがきれいになりました。
 7時50分、水上ICを下りて、国道291号線へ。この辺りは上越国境の山々を間近に望む場所で、水上温泉という有名な温泉地があります。早朝だったからか、温泉街にはあまり活気がないように感じました。今から15、6年前に職場の忘年会で一泊した覚えがありますが、当時、温泉街は賑やかでした。あの頃はまだ職場で旅行をするという懐かしい慣行があったのですね。もう、絶えて久しい行事です。よその会社では今も普通にやっていたりするのでしょうか。

 天神平

 8時30分、谷川岳ロープウェイの土合駅に到着。装備を整えて早速ロープウェイに乗り込みました。乗っている時間は10分弱。あっという間に標高約1300mの天神平に到着しました。ここが登山のベースになります。
 駅舎を出るとこの風景。谷川岳がドドーンと聳えています。二つの耳を立てた巨大な化け猫のようにも見える魔の山。実際、谷川岳は統計が開始された昭和6年以降800人近くの遭難者を出していて、これはギネスにも登録されるほどの大変な数字なのだそうです。谷川岳の標高は2000mたらずでそれほど高いわけではないのですが、険しい地形と気候の変化が激しいのが災いしているのだそうです。


Kashmir 3D
 

 今日のコースは、天神平から山肌を徐々に上っていき、天神尾根に出たらあとはひたすら稜線を歩きます。谷川岳は双耳峰で、手前のピークが「トマの耳」(「手前の耳」が訛ったもの)、奥のピークが「オキの耳」(「奥の耳」が訛ったもの)。今日はオキの耳までの往復コースです。山頂はオキの耳の方で標高1977m。トマの耳はそれより14m低い1963mです。

 

 8時50分、登山開始。まずは等高線をなぞるように高度を上げていきます。

 ツクバネソウ

 ツクバネソウの実が黒く熟しています。気温19度、下界よりもずいぶん早く秋が来ているようです。

 

 谷川岳の山肌が見えるところにやって来ました。何とも険しい崖です。これから写真左側の稜線を登っていきます。反対側(右側)の稜線は「西黒尾根」といい、ここを下ると土合駅に戻ることができます。

 ミヤマセンキュウ

 この時期、夏の花は既に姿を消し、秋の花に入れ替わる端境のようで、花の姿は少ないです。写真はミヤマセンキュウ。セリ科の可愛い花です。

 

 トリカブトの仲間ですが、何という種であるかはちょっと不明。

 

 9時15分、稜線に出ました。日射しを遮るものがなく、暑いです。

 

 ブナの殻斗を拾いました。クリでいうところのイガに当たる部分ですね。

 アキノキリンソウ

 ミヤマアキノキリンソウか。いやこれは低山でも普通に見かけるアキノキリンソウのようでした。

 

 ゴツゴツした岩の登山道を上っていきます。息も荒く、もう汗が噴き出してきました。

 

 9時35分、熊穴沢の避難小屋までやって来ました。ここで小休止、水分補給です。外国人のグループが賑やかに談笑していました。なぜか楽天イーグルスの帽子をかぶっている人が多かったです。

 ナナカマド

 見上げると色づきはじめたナナカマドが。葉より先に実が赤くなるんですね。全身真っ赤に色づいたナナカマドもきれいですが、こんな感じに赤と緑が混在している姿もいいものです。バックの青空がまたいい具合です。

 

 さて、休憩が終わったら再び歩き始めます。ここから傾斜がぐっときつくなってきます。

 東側の展望

 稜線から東側の展望はこんな感じ(写真にマウスオーバーで山名表示)。最も遠くにある会津駒ヶ岳まで約45qと、奥行きのある風景です。

 オヤマリンドウ

 濃い紫色のオヤマリンドウ。まだ蕾…、いやこの花は日が差してもほとんど開かないのです。

 

 だんだん背の高い木が少なくなってきました。森林限界も近いです。谷川岳では厳しい気候のために森林限界が標高1500mくらいになるのだそうです。

 

 今日は土曜日。登山者も多く、急な岩場では頻繁に渋滞していました。

 燧ヶ岳

 至仏山の左肩に燧ヶ岳が。山頂が矢筈形になっている特徴ある姿です。

 

 西側の風景はこんな感じ。天地創造の過程かと見まがうばかりの荒々しさです(大げさか。)。この稜線は日本の中央分水嶺で、右手の谷川岳山頂から続く稜線に、オジカ沢の頭、俎ー(まないたぐら)と険しいピークが続いています。その左、遠くに見えるピークは稲包山か。

 天神ザンゲ岩

 登山道上にある大きな岩塊。「天神ザンゲ岩」との名札が立ててありました。修験道と関係がありそうな場所ですが、yamanekoとしてはいったい何を懺悔すればよいのか(いろいろありすぎて)分かりません。

 

 前方には山頂方向が望めます。ここからピークは見えませんが、確かにあの稜線の向こうにあるはずです。「待っててくれよーっ」

 

 俎ーがだんだん目の高さになってきました。昔はこの山が谷川岳と呼ばれていたそうです。その頃今の谷川岳は「(オキ、トマの)二つ耳」という名前だったとか。それが、国土地理院の地図に谷川岳と誤って記入されたため、現在までそのままになっているのだそうです。(そんなのありなのか?) 
 ところで「俎ー」は、地図や書物によっては「俎嵒」と書かれていることがあります。「ー」と「嵒」、紛らわしいですが、どちらも「山にある大きな岩」という意味のようです。そういえばこの辺りには「くら」と名の付く山が多いです。茂倉岳、一ノ倉岳、高倉山などなど。

 天神尾根

 10時30分、山頂まで標高にしてあと200mくらいです。振り返るとこれまで歩いてきた天神尾根を一望することができました。ゲレンデ整備されているところが天神平。その左端にロープウェイの駅舎が小さく見えています。右手奥には水上の街が見えますね。その左奥には平らな山頂部が特徴的な三峰山、そしてその更に左奥には、遠く赤城山が見えています。
 さて、山頂まではあとちょっと。もう一汗です。《後編へ続く》