堂平山 〜外秩父で静寂山歩(後編)〜


 

 (後編)

【埼玉県 東秩父村 平成23年3月5日(土)】
 
 堂平山の後編です。(前編はこちら

 昼食

 山頂に着いて、あまりの眺望の良さに空腹を忘れていましたが、ちょっと感動も収まってきたところで昼食に。メニューは定番のカップラーメンとおにぎりです。お湯は家から水筒でもってきました。やっぱり暖かい食べ物がいいですね。ここは見晴らしがいいぶん風があったりしたら寒いでしょうが、今日は快晴無風なので言うことなしです。

 南西方向

 ベンチに腰掛けて辺りを見渡します。上の写真は南西方向。今日は手前の谷を右から左へとさかのぼってきたことになります。奥に見える稜線は山梨、東京との県境の山並みで、遠目に見ると水平に見えますが、これでも標高は約2500m(写真右端)から約1500m(同左端)へと徐々に下がっていっています。
 ところで、正面の丘のようなピークは丸山といい、その丸山と奥の稜線との間に横縞模様のちょっと変わったピークが見えます(右の写真)。この山は武甲山(1304m)といい、この山の北面が石灰岩の大鉱床となっていて、明治期から大規模に採掘され続けているのです。横縞は露天掘りの跡です。この山は採掘のため山頂の三角点が何度か移転され、その都度標高が変わっているとのこと。もちろん以前は標高がもっと高かったということです。
 武甲山は、太古、南の海で積み重なった珊瑚が海洋プレートにのって北上し、やがてプレートが沈み込む際に大陸側のプレートの縁でこそぎ取られて、それがまた長い年月をかけて隆起してできた山。そうやって何億年もかけてここに山として存在しているものを、わずか100年足らずで山の形が変わってしまうほど削ってしまうとは。人間の営みとはすごいというか恐れ多いというか…。

 南方向

 食事を終えたら、ちょっと辺りを見てみましょう。
 南方向には木立がありますが、その左手には関東山地の辺縁部分がずっと奥に向かって続いているのが分かります。都心方向はこのさらに左手(南東方向)になります。その方向は霞んでいてよく見えませんが、双眼鏡でスカイツリーは確認できました。新宿の都心ビル群は霞の中で不明。恐るべしスカイツリー、です。

 パラグライダー

 山頂の北側にはパラグライダーの発着ポイントがあります。今日は特に気持ちがいいでしょうね。

 東方向

 こっちは東方向。埼玉方面です。東松山、川越、さいたま新都心も見えています。すぐ下に見えるのはキャンプ場。

 

 12時20分、再び歩き出します。ここからは、北に向かって下っていき、上り返して笠山へ。そこからまた北に向かって下ります。同じ林道を何回か横切って萩平という集落に下りて、そこからバス停のある皆谷まで歩きます。

 

 天文台の左側から時計回りに回り込んで車道に出ます。その先がパラグライダーの広場。その向こうから樹林帯に入ります。この樹林帯への入口が今回のルートで唯一迷いやすいところでした。
 急な下り坂を慎重に下りていきます。午後になって気温が上がったのか、北斜面の雪もところどころ溶け始めていました。

 笠山

 木立の向こうに笠山が見えます。正面の斜面を登っていくことになりますね。

 

 まだしっかりと雪が残っているところも。ザクザクだったり、ガチガチだったり、ツルツルだったりで極めて歩きにくい。向こうずねの横の筋肉を常に緊張させていて筋肉痛になりそうです。

 七重峠

12時40分、鞍部に下りてきました。七重峠です。
 通常、峠は稜線の鞍部にあって、稜線の左右に谷筋が延びているのが普通ですが、ここの鞍部は、南北に延びる稜線に対して、西方向、南東方向、北東方向の3本の谷筋が集まっています。西方向の谷と南東方向の谷筋との鞍部が七重峠、西方向の谷筋と北東方向の谷筋との鞍部がこの先にある笠山峠です。
 ここは林道を横切って向こう側に下りていきます。この林道は白石峠から延びてきているもので、写真奥に向かって行くと萩平集落までつながっていて、この先何回も横切ることになります。

 南東方向

 南東方向の谷筋に沿った景色。広大な関東平野です。

 

 林道のガードレールの切れ目からまた山道がつづいていて、そこを下りると、すぐ先に白石車庫バス停に向かって下りる分岐がありました。ここは直進です。
 ポカポカと暖かくいい感じの山歩きです。なにより静かなのが心をしっとりと落ち着かせてくれます。

 笠山峠

 しばらく行くと道が上りに変わりました。ここが笠山峠。正面に北東に向かって下る谷筋があります。

 北東方向

 ここからは北東方向の視界が開けています。小川町やその先の熊谷方面、ずっと奥には宇都宮があります。遠くに見える山の連なりは足尾山地でしょう。それにしてもスギの色がハンパないですね(くわばらくわばら)。

 

 日差しが燦々。こんな道なら多少の上り坂でも苦になりません。

 アセビ

 アセビはまだ蕾。しかもその数もわずかです。春にはもうちょっと間がありそうです。

 

 さっきの林道と出会いました。いったん合流して、50mほど先でまた分かれて右手の斜面を登っていきます。

 急登

 ここから笠山山頂までの上りが今日一番の急傾斜。汗がドッと噴き出てきます。

 笠山山頂(西峰)

 13時05分、稜線に出ました。T字路になっていて、左に行けば萩平集落に下る道、右に行けばすぐそこが山頂です。
 笠山の山頂は点(ピーク)ではなく、線(尾根)になっていて、手前が西峰、奥が東峰になっています。西峰は木立に囲まれていますが、北方向だけ展望が開けていました。

 北方向

 西峰からの展望。遠くに足尾山地の山並みが見えます。その手前の平野部は、埼玉と群馬の県境地域で、双眼鏡を覗くと深谷、桐生、伊勢崎などの街並みが見えました。

 

 関東平野北辺の山々をアップで見てみましょう。霞んだようになっていますが、コンパクトデジカメの能力ではこれが限界です。特に目立っている山を見てみると…。
 赤城山は榛名山、妙義山とともに「上毛三山」の一つに数えられる山。山頂部に湖があるカルデラ火山です。黒檜山はカルデラを構成する山々のうちの主峰で、10数年前、まだ小学生だった子供たちと登ったことがある思い出深い山です。
 正面には山頂部に溶岩ドームの形を残している日光白根山。特徴のある形をしているのですぐに分かります。標高は2578mで関東以北で最も高い山だそうです。山頂から左に延びる稜線の奥に至仏山や燧ヶ岳まで見えていますね。尾瀬は今頃深い雪の下で静かに春を待っているでしょうね。
 日光白根山から右手は栃木県。男体山や女峰山など、こちらも2000mオーバーの山々です。麓には戦場ヶ原や中禅寺湖があるはずです。 ああ、それにしても地図と双眼鏡さえあればいつまでも見飽きませんなぁ。(以前の日光白根山至仏山尾瀬戦場ヶ原も。)

 

 ちょっと距離があったので細かいところまで分かりませんでしたが、おそらくアブラチャンかと。蕾から開いたばかりのようです。まだ花の少ないこの季節、笠山山頂で春を感じることができました。

 東峰へ

 西峰で眺望を楽しんだ後、尾根沿いに東峰に向かいました。ここには雪がしっかりと残っています。東峰の標高は837m。西峰より20mくらい高く、こちらが主峰になります。

 栗山集落

 斜面の下に集落が見えます。後で調べたところ栗山という集落で、これから下りていく萩平集落から東側に尾根一つ越えたところに当たるようです。山ひだの奥にある隠れ里のようなところです。

 笠山神社

 5分ほどで東峰に到着。山頂には東を向いて笠山神社がありました。社殿のぐるりをトタンで覆われています。冬期だけの措置でしょうか。ここでは無事の下山をお祈りして、来た道を戻ります。

 T字路

 13時30分、西峰を通り越してT字路の分岐点までやってきました。写真の左下から上がってくる道が笠山峠からの道で、今度はここを直進して萩平集落の方へ下りていきます。集落までの標高差は約500m。膝が笑わないように、歩幅を小さくして下りなければなりません。

 

 葉を落とした木立越しに西の山々が見渡せます。道はここから急降下です。

 

 明るく気持ちのいい尾根道の下り。風もなく静かです。雪を踏む音と自分の息づかいしか聞こえません。

 林道1

 13時50分、林道との最初の交差です。

 林道2

 高度が下がるにしたがって雪がなくなってきました。登山道はふかふかで、ところどろこ霜柱が立っています。ザクザクと踏みながら歩くのが楽しいです。
 そしてまもなく2回目の林道との交差。ここは右手のガードレールの切れ目からまた山道を下ります。

 林道3

 霜柱が溶けたところでは火山灰土がぬかるんで、靴の底にどんどくっついてきます。土踏まずが膨らんだような何か変な感じ。10年くらい前に流行った厚底ブーツもこんな感じだったのかも。
 そうこうするうちに3回目の林道との交差。ここでは林道がアスファルト舗装になっていました。ここを右に折れて、しばらく先にまた左手の斜面に下りていく道があります。ここまで下りてくると萩平集落も木立越しに見えるほどに近づいています。

 林道4

 14時10分、4度目の林道。萩平集落に到着です。人影はまばらでしーんとしています。風が梢を揺らす音しか聞こえません。

 萩平集落

 上の写真には民家が写っていないのであれですが、この辺りが中心地のようです。(民家もちゃんとありました。)

 フクジュソウ

 民家の敷地の端に植えられていたフクジュソウ。早春の陽を受けてまぶしく輝いていました。

 大霧山

 萩平の集落を過ぎ、皆谷のバス停を目指して更に下っていきます。その皆谷集落のある谷をはさんで正面に見えるのは、大霧山の中腹に広がる牧場と集落。その名も「牧場」という集落です。坂を下っていく背中を日差しが暖めて、歩いていても眠くなってきます。ここには確かに春がやってきているようです。

 マンサク

 この辺りでは民家が山の斜面に張り付くようにして点在しています。その民家の畑にはマンサクが。枝にびっしりと花が着いています。マンサクはまだ寒い谷間で震えるように花を開くといったイメージがありますが、これほど満開状態だとそんなけなげさのようなものはどっかに行ってしまったようです。
 
 やがて皆谷の集落が見えてきました。今日の山歩きもあと少しでゴールです。通りがかりのおばあちゃんが教えてくれた近道を通ってバス通りに出ると、バス停はすぐそこです。

 皆谷バス停

 14時40分、バス停に到着。ラッキーなことに、あと5分でバスが来るようです。

 MP3

 靴紐を緩めてちょっと休憩。今日も楽しい野山歩きになりました。
 上の写真は山歩きの時にメモ代わりとして使っているMP3。音楽プレーヤーですが、ボイスレコーダーの機能もあるので、気づいたことを記録しておくのに便利です。

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 そして靴を脱ぐとこんなものが。白いのはつま先専用の使い捨てカイロです。こうして改めて見てみると思った以上に残念な感じがします。さすがにもう剥がしてもいいでしょう。(むしろ蒸れるくらいだし。)
 
 バスはすぐにやってきました。ここから小川町まで出て、そこから東上線で池袋まで1時間ちょっと道のりです。でも、実際には小川町で電車をやり過ごして麦ジュースで喉を潤してから帰ったので、トータル2時間半くらいはかかったはずです。