日光白根山 〜東日本の最高峰へ(前編)〜


 

 (前編)

【群馬県 片品村、栃木県 日光市 平成21年8月15日(土)】
 
 「高速道路休日1000円乗り放題」。この夏、高速道路は大変なことになっています。ちょうど1年前はガソリンの高騰で高速道路はいつもガラガラだったのに、今年は至るところで数10qの渋滞が発生しています。これにお盆の帰省ラッシュが上乗せされたら一体どういう状況になるのか。いっそ環八から外に出るのはやめとこうか、ってこれじゃ軟禁状態ですか。
 ようやく夏らしい天気になってきたので、渋滞なんぞ恐れずに、ここはひとつ前から行きたかった山に行くべし。と決めて、群馬県と栃木県との境にある日光白根山に行くことにしました。
 
 日光白根火山は栃木県側にある男体山、女峰山などとともに日光火山群を構成していて、山頂部には溶岩ドームをもつ火山です。、標高2578m。日本アルプスの山々とも肩を並べる高さで、関東地方を含めここより北にこの山より高い山はありません。周りの山から頭一つ抜け出たその姿は印象的で、15年前、赤城連山の最高峰黒檜山から眺めた初めて見る日光白根山は今でもはっきり記憶に残っています。
 白根山の前にわざわざ「日光」が付くのは、同じ群馬県の西端にある草津白根山と区別するため。いずれも名山です。群馬県には他にも上毛三山と呼ばれる榛名山、赤城山、妙義山、また、谷川岳や浅間山など有名な山がたくさんあります。
 
 ところで、気象庁によると、日本には活火山は108箇所あって(←数年後、+2箇所)、日光白根山もそのうちの一つ。活火山といっても現在活発な噴気活動をしているものだけをいうのではなく、概ね過去1万年以内に噴火した火山も含まれていて、むしろほとんどがそういう火山です。
 先日、科博に行ったとき、活火山の分布図を見たのですが、大きく3つの塊があるようでした。一つは中部地方から北関東、東北と続き、北海道を東西に貫いて、北方四島に長くつながる分布。もう一つは、伊豆諸島から真南に向かって島伝いにつながる分布。あと火の国九州です。全世界の活火山のうちの1割が日本に集中しているというだけあって、まさに火山だらけです。でも、これが西日本にはほとんどないのです。中国地方に三瓶山(我が故郷の山)と阿武火山群の2箇所があるだけで、近畿と四国に至ってはゼロ。1箇所もないのです。この偏りはいったい何だ? この地域の火山は概ね1万年前までに活動を終えてしまったということでしょうか。日本の火山は海溝と平行に列をなしています。これは海溝から沈み込んだプレートが海水を地下に押し込んで、一定の深さの岩石を融かしやすくするためだそうですが、現在、西日本の地中深くではマグマの備蓄している最中なのかもしれません。あな恐ろしや。
 
                       
 
 さて、東京を出発したのはまだ暗い4時半。ずいぶん日の出が遅くなったものです。練馬で関越道に乗り、ひたすら北上。心配していた渋滞もなく順調に流れていました。群馬県の沼田ICで高速をおりて、国道120号線を東へ。どんどん山の中に入っていきます。目的地はこの先の丸沼高原ですが、この道は峠を越えて日光まで続いています。 

 ロープウェイ

 7時15分、丸沼高原のロープウェイ乗り場に到着。所要2時間45分。予想よりはるかに早く着いてしまいました。山麓駅の標高は1450mくらい。ここからロープウェイで一気に2000mの山頂駅まで上がります。

 丸沼

 途中、ロープウェイの窓から丸沼が見えました。高原の名前の元になった湖です。

 山頂駅に着いたらいきなりこの風景。ほぼ真西の方向で、写真中央やや左の山は武尊山(ほたかやま)、右端の山は尾瀬の至仏山です。

 日光白根山

 振り返ると、これから登る日光白根山。写真で見る以上にどっしりとした山です。これから右側の稜線を登っていきます。ちょうど溶岩ドームの肩あたり(稜線上にちょっと出っ張ったところ)が森林限界でしょうか。

 スタート

 さて、ストレッチをしてから出発です。時刻は8時半。登山ガイドでは山頂まで2時間半とありましたので、いつものペースだとプラス1時間程度と見込んでおけばよいでしょう。


Kashmir 3D

 山頂駅からしばらくはほぼ水平移動。七色平の手前で一気に60mを登り、そこからはだらだらと山肌を巻くように登っていきます。つづら折れの急な登山道を過ぎると標高2450mあたりで森林限界となり、いきなり眺望が開けます。そしてここからが本番。足元の悪い急傾斜のガレ場をの登っていくと、ようやく山頂です。

 林間の道

 出だしはこんな感じ。デジカメは自動で明るく写していますが、実際には暗い林床と木漏れ日とのコントラストがくっきりでした。

 個性的な姿のキノコがあちこちに。左のものは蕎麦饅頭のような形。名前は不明。右のは仲良し4人家族といった感じ。ツバアブラシメジか?

 倒木

 倒木が朽ちて土に戻ろうとしています。この森で生まれ、この森に育てられ、そして朽ちた後はこの森を肥やすんですね。

 シナノオトギリ

 真夏の高山。花の時期としてはやや終盤に差しかかった頃です。でもさっそくシナノオトギリに出会いました。亜高山より高いところでみかける可憐な花です。

 ドクベニタケ

 数日前まで不順な天候が続き雨が多かったせいか、森の中にはさまざまなキノコが。その造形にいつも興味を引かれるのですが、いかんせんなかなか名前が覚えられません。(そもそも種を同定できません。) これは死亡例も報告されているドクベニタケ。比較的ポピュラーな種だそうです。

 カニコウモリ

 今日の主役(だったことにこの先気づくことになる)カニコウモリ。亜高山帯の針葉樹林内に群生することが多いとのことで、まさにそのとおりでした。

 カニコウモリの群落

 斜面全体を覆うカニコウモリ。なかなか壮観でした。

 コバノイチヤクソウ

 これも亜高山帯の針葉樹林内に生えるコバノイチヤクソウ。右の写真でよく分かりますが、萼片が三角形で先端が尖っているのが特徴の一つです。
 こうやって自然の中に生きている花たち。例えばこの花の祖先は代々、何百年も何千年もずっとこの付近で生き続けてきたのでしょうが、こんな決してやさしくない環境の中でけなげに咲いているのを見ると、よくも絶えることなく命を繋いできたものだと感嘆せざるを得ません。そんな命を意味もなく摘んでしまうことなんて。やっぱりだめですよね。

 ズダヤクシュ

 これまた亜高山帯の針葉樹林内に生えるズダヤクシュ。変わった名前ですね。ズダとは長野県諏訪地方の方言で喘息のことをいい、この花が喘息の薬として用いられたことからこの名が付いたのだそうです。花茎はビロードのような腺毛で覆われていました。

 ハンゴンソウ

 夏の終わりの、しかも日暮れ時に見たら、なにやらうら寂しい雰囲気を醸しだすハンゴンソウ。今日はちょうどお盆なので、魂を呼び戻すという意味の「反魂草」はこの時期にピッタリの花です。でも、今は朝日を浴びて輝くような明るい表情です。

 ダイモンジソウ

 ダイモンジソウは岩場を好んで生える花。その姿は、線香花火がパッ、パッっと暗闇に刹那の花を描くよう。

 サンカヨウ

 サンカヨウはもう藍色の果実を付けていました。この花を初めて目にした猿政山のことを思い出すなぁ。

 ミヤマセンキュウ

 セリ科の花はなかなか見分けが難しいですが、これはミヤマセンキュウだと思います。葉の切れ込みがシダのような感じになるのが特徴です。

 森の中を行く

 右手に谷を見ながら高度を上げていきます。森の中なので風はありませんが、標高が高いせいか蒸し暑くはありません。

 ヌメリイグチ?

 うーん、図鑑を眺めてもよく分かりませんが、ヌメリイグチか? 栗饅頭みたいなキノコです。

 ゴゼンタチバナ

 花が終わった状態のゴゼンタチバナ。葉が4枚なのはまだ花を付けない若い株。6枚なのは実を付ける株です。

 ハクサンシャクナゲ

 つづら折れのきつい登りに息が上がってきました。足元ばかりを見ていましたが、周りにはこんなに繁ったハクサンシャクナゲが。これも花の時期は終わっています。高山は6月から7月にかけてが花のベストシーズン。でも、その時期は毎年仕事がハードで、山から足が遠のくんですよね。

 森林限界を超える

 突然、樹林帯を抜けました。森林限界です。見上げると、急な角度の斜面が空に向かって続いていて、ここからは頂上を目にすることはできません。山頂駅で素晴らしい眺望を見せた西側の風景は、次々と押し寄せる雲で何も見えなくなっていました。風に吹き寄せられた雲が稜線を隠したり、また次の瞬間には雲がちぎれて背景の青空を覗かせたりしています。

 ミヤマシャジン

 岩の隙間からフォトジェニックなポーズ。ミヤマシャジンです。往く夏を惜しむかのように、風に花冠を震わせて咲き誇っていました。

 ウスユキソウ

 ウスユキソウです。白い花弁のように見えるのは苞葉で、中心にある黄色いのが頭花です。「薄雪」とは苞葉の白い色を薄く積もった雪に例えたもの。優雅なネーミングですね。

 振り返ると

 ズリズリと滑って足場が悪い中、荒い息で登っていきます。ときおり立ち止まって深呼吸。振り返るとこんな風景が広がっています。正面の眼下に聳えているのは錫ヶ岳。標高は2338mあります。その左肩はるか遠くに見える大きな山塊は赤城山。そう、15年前、あの山頂からここを眺めたのです。
 
 さて、山頂まではまだしばらくありそうです。素晴らしい眺望を楽しみに、もう一頑張りしましょうか。《後編へ続く