大岳山 〜早春の花々再び〜


 

【東京都 檜原村 平成23年4月24日(日)】
 

 4月、年度替わりのバタバタがようやく落ち着いてくると、いつのまにかGWもすぐそこまでやってきています。街路樹の緑も輝いて、まさに「風薫る」季節になってきました。
 今日は、その特徴のある姿で都心から眺めてもよく目立っている大岳山に登ってみることにしました。去年、浅間尾根三頭山に登ったときに「存在感あるなぁ」とちょっと意識していていたのです。大岳山は同じ多摩川南岸の三頭山、御前山とともに奥多摩三山と呼ばれていて、奥多摩ファンには一目置かれている山なのです。
 大岳山は、奥多摩の山並みの中にありますが、アクセスは悪くはありません。一般的なルートとしては武蔵御嶽神社のある御岳山から延びる稜線に沿って登るのが主流で、その御岳山まではケーブルカーで簡単に登れるのです。大岳山の標高が1266m、ケーブルカーの終点が約840mなので、実質的には標高差約420mを登ることになります。
 
                       
 
 日曜日の朝、平日と同じような時刻に起き出してきて、普通に朝ご飯を食べたり家事をしたりしていたので、出発は10時前になってしまいました。首都高から中央道に入り、八王子JCTから圏央道へ。日の出ICで高速を下りて多摩川の右岸をさかのぼっていきます。ケーブルカーの滝本駅に着いたのは11時半過ぎ。準備を整え、11時50分発の「日の出号」に乗り込みました。車内はほぼ満員で通勤電車並みでした。

 御嶽山駅

 終点の「御嶽山駅」には12時に到着。御嶽神社は御岳山の山頂部にありここから約1qの距離です。山登りの格好をしていない人たちはみんな御嶽神社を目指すのだと思います。ちなみに神社は「御嶽」で山の名前は「御岳」と書きますが、なぜかケーブルカーの駅の看板は「御嶽山駅」。もしかしたら「御岳」は国土地理院が用いているだけで、地元では神社も山も「御嶽」なのかもしれません(ちなみにちなみに大田区の街中に東急池上線の御嶽山という駅があり、こちらは「おんたけさん」と読みます。)。

 麓の谷

 駅前広場の脇は展望台になっていて、藤棚やベンチがありました。そこからケーブルカーで登ってきた谷を見下ろすと、多摩川が何十万年もかけて削った雄大な景色が広がっていました。

 昼食

 さて、時間も時間だし、まずは昼食で腹ごしらえをすることにしました。今日は久しぶりにバーナーを持参。数年ぶりです。実は先日非常持ち出し用品を整理していたときにもう何年も使っていないガスボンベがあることに気づき、ボンベが傷み始める前に使い切ることにした次第。新品を含め5個あったので、これから積極的に活用しようと思います。で、メニューはコンビニで買った冷凍ちゃんぽんです。


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 昼食を終えてようやくスタート。時刻は12時半です。
 今日のコースは、ここからまず御岳山を目指し、参道の途中から大岳山に向かう山道に入ります。往路は山腹を歩き、養沢川の谷筋に出会ってからはその源流部をさかのぼります。高岩山に続く稜線に出てから後はおおむね尾根道。大岳山の山頂部に近づくと岩場が出てきます。復路は来た道をとって返し、途中から鍋割山方面の尾根道へ。御嶽神社の奥の院を経て、また来た道に合流するというものです。

 日の出山

 歩き始めてほどなく、谷筋をはさんだ向こう側に今年1月に登った日の出山が見えました。あのときはケーブルカーを使わずに歩いて御岳山に登って、御嶽神社に参拝した後、日の出山まで歩いたのです(その後、つるつる温泉に下りてさっぱりと。)。

 エイザンスミレ

 今日の天気予報はきっかり「晴れ」でしたが、そこはそれ山の天気のこと。さっきから何度も雲が太陽を隠しています。
 最初に出迎えてくれた花はエイザンスミレ。関東の低山でも比較的よく見かけるスミレです。葉が深く裂けているのが特徴ですね。

 ナガバノスミレサイシン

 すっきりとした姿のスミレ、ナガバノスミレサイシンです。「ナガバノ」は葉を見れば何となく「長葉の」であろうことは見当が付きますが、では「サイシン」は? 「サイシン」は漢字で「細辛」と書き、これはウスバサイシンというアオイ(葵)の仲間の植物のこと。水戸黄門でお馴染みの葵のご紋のあの形の葉っぱをしていて、それに似た葉をしているということで「スミレサイシン」、しかも「長葉の」ということです。
 スミレの図鑑には、スミレを地上茎のあるものとないものとの二つに大きく分類していますが、エイザンスミレもナガバノスミレサイシンも地上茎のないスミレのグループです。地上茎のある種類のものでも、伸び出したばかりの頃はよく見ないと間違えてしまいます。 

 ニリンソウ

 一輪しか咲いていないけどニリンソウです。日が差すと植物も輝き出しますね。
 しばらく行くと山上に開ける集落へ。規模的には集落と言うよりちょっとした町と言った方がよいくらいで、ちゃんと統一地方選の候補者パネルも設置されていました。ここは武蔵御嶽神社の御師の町で、大昔から栄えていた歴史を持っています。

 大岳山への分岐

 土産物屋さんの通りを抜けると山門(?)があり、ここから参道の階段が始まります。その階段をちょっと上ったところから大岳山に向かう道が分かれています。ここからが山道です。時刻は12時50分。ここの標高は約890mで、ケーブルカーの駅から50mほど登ってきたことになります。御岳山の山頂はここから階段を上ったところで、標高は929mです。

 ミヤマキケマン

 山道になると一層いろいろな植物が花開いていました。写真の鮮やかな黄色い花はミヤマキケマンです。西日本に生育するフウロケマンの変種だそうです。

 マルバスミレ

 「長葉」があれば「丸葉」もあるということで、マルバスミレです。でもこの手の葉をもつスミレは結構あるのですが、その中で「丸葉」を冠したということは、葉以外に特徴がなかったということですかね。

 モミジイチゴ

 下を向いて花を付けるモミジイチゴ。バラの仲間です。西日本には「ナガバモミジイチゴ」が分布していて、ここでも「長葉」と葉の形状が冠されています。

 

 道は細かなアップダウンを繰り返しつつも、基本的には山腹を水平移動する感じです。標高は1000m近く。全体的にまだ緑色は薄いですね。

 ハシリドコロ

 道の脇にハシリドコロが多く見られるようになってきました。この植物があるということは沢が近いということです。地図で確認してみると、もうじき養沢川の源流部の谷筋に合流するようです。
 ハシリドコロはアルカロイド系の猛毒植物。若葉などは見るからに美味そうですが、食べたりすると大変なことになります。

 イワボタン

 これはイワボタン。別名をミヤマネコノメソウといいます。これでも満開状態です。

 ヤマウツボ

 このちょっとグロテスクなのはヤマウツボです。樹木の根につく寄生植物で、葉緑素をもっていません。栄養を自分で作る必要がないんですね。軸の部分から放射状に伸びているのが一つ一つの花です。

 カタクリ

 カタクリもたくさんありました。木々の梢に葉が展開するまでのこの季節、林床はカタクリなどのスプリング・エフェメラルの舞台になります。

 アズマイチゲ

 日が陰っているせいかアズマイチゲの花は閉じたままでした。(カタクリはちゃんと咲いていたぞ。)

 

 谷筋の最奥部を登り切ると、明るい尾根道になりました。正面に大岳山が見えています。時刻は1時50分。スタートしてから1時間20分が経過しました。

 シロバナナガバノスミレサイシン

 ナガバノスミレサイシンの白花モデル。わかりやすいネーミングです。

 

 葉が展開する前から咲いているツツジの仲間。何だろう?

 

 山頂部が近づいてくると登山道はこんな感じになってきます。鎖場も出てきますが、道はしっかりしています。

 三畳系チャート

 大岳山の山頂部は烏帽子のように突出していて、岩がゴツゴツしています。この部分は三畳系と呼ばれる中生代初期の地層でできているとのこと。この時期、地球ではほとんどの大陸が合体したパンゲアという巨大大陸の時代で、その大陸の周囲の浅海部でできたチャートと考えられています。それが2億年の歳月を経て、今目の前にあるのです。うう、なんかすごい…。

 大岳神社

 2時20分、山頂部の直下にある大岳神社までやってきました。鬱蒼とした杉林の中にひっそりと佇んでいる小さな社。その周囲だけなんというか結界に守られた異空間のような雰囲気を醸し出していました。こういうスタイルの神社は、大規模で壮麗な神社とは異なり、戸板一枚はさんでそのすぐ奥に不知の力(フォース)をもった対象物がいるように感じられて、畏怖の念のようなものを文字どおり肌で感じることが多々あります。自然と手を合わせて無事の下山を祈りしました。

 狛犬

 拝殿の前に鎮座している狛犬です。愛らしいユーモラスな姿をしています。阿形・吽形の口をしていませんね。もともと狛犬の起源はライオンだそうですが、インドから中国を経て日本に入ってきた後は、独自の進化をしたようです。この狛犬は江戸時代中期のもの。ずいぶんシンプルで狐のような顔をしています。大きな尻尾がないので犬だとは思いますが。

 神社を後に

 神社を後にして最後の急な上りにとりかかります。振り返ると拝殿の後ろにちゃんと本殿がありました。

 

 写真ではそうでもありませんが、これで結構な傾斜です。

 アブラチャン

 おお、こんなところに花が。アブラチャンかダンコウバイか。ちょっと歩みを止めて見てみましょう。よく似た両者、これは花序に柄があるのでアブラチャンですね。透明感のある黄緑色の花弁がきれいです。

 最後の岩場

 最後の岩場は手も使って登ります。灌木がなかったら怖いような傾斜です。

 

 傾斜が急になだらかになると、その先が山頂。

 

 2時40分、ようやく山頂に到着しました。所要時間2時間10分です。
 山頂は三方を樹林で囲まれていて、南方向のみ眺望がありました。正面に富士山があるのが分かるでしょうか(心眼で見えるはず。)。写真右手前の濃い山並みが浅間尾根ですね。その一段後ろの稜線は神奈川県との都県境の山々です。

 山頂

 山頂には3、4グループが休憩していました。yamanekoたちはおやつタイムです。

 アセビ

 アセビはやや盛りを過ぎたあたりか。でもパールホワイトの花冠が午後の日差しを受けて輝いています。

 下山開始

 山頂で休憩した後、3時に下山開始です。ケーブルカーは4時台まで1時間に2便、5時台、6時台は1便ずつです。5時半の便に間に合えばよしとして、ゆっくり下山しましょう。

 狭山丘陵

 大岳神社も過ぎ順調に下っていきます。途中、木立の間から北東方向の眺望が見渡せました。遠くに見える街並みは、入間、所沢あたりの狭山丘陵です。

 鍋割山へ

 3時40分、鍋割山へ向かう道との分岐点までやって来ました。まっすぐ行けば往路と同じですが、ここは左手に上って鍋割山を経由したいと思います。

 

 西側斜面を歩くので、明るい日差しが心を軽くしてくれます。

 カタクリ

 この登山道沿いにもたくさんのカタクリが。春が来ていることを実感させますね。

 鍋割山

 4時、鍋割山の山頂に到着しました。標高は1084mです。他の登山者は誰もいません。

 大岳山

 鍋割山から見た大岳山です。あそこからここまで1時間かかりました。夕暮れも近いので、小休止のみで再び歩き出します。

 奥の院

 鍋割山からも引き続き尾根道を歩き、約10分で奥の院に到着。登山者以外ほとんど人が訪れないような場所ですが、本社が立派だからか奥の院もそれなりにしっかりした造りでした。

 急傾斜

 奥の院からはいきなりの急傾斜です。
 しばらく下ってふと考えるとどうも周囲の状況が変。どうやら下り口を間違ってしまったようです。持参の地図(2万5千分の1地形図)では、登山道は奥の院から更に尾根道を下って最終的には往路に合流することになっていて、地図上では奥の院から50mほど急降下し、その後は比較的緩やかな尾根道になることを示しています。てっきりこの坂道は地図に示す出だしの急降下と思って下っていたのですが、いつまで経っても道はなだらかにならず、それどころか更に傾斜を増していく始末。道の踏み跡もしっかりしていたし、梢にビニールテープが巻いてあったり、ところどころトラロープが張ってあったりして、明らかに登山道なのですが、その傾斜が半端ないのです。どうやら別の支尾根に延びる登山道を下ってしまい、180mほど下を通っている往路に向かって直下降してしまったようでした。地図を読むのにはちょっと自信があったのですが、反省しきりです。

 ヤマオオイトスゲ

 それでも無事に往路に(予定より500m手前で)合流し、あとはのんびりと歩きました。

 

 そしてまた御嶽神社の参道に合流。時刻は5時前、土産物の軒先を通る参道にも人影はまばらになっています。このペースだと5時半発のケーブルカーには十分間に合うでしょう。
 
 今日はスタートが遅かったので若干慌ただしい感じはありましたが、それでも平地では終わってしまった早春の植物に出会い、自然の中でのんびりと過ごすことができました。いつもの都会仕様の生活時間をリセットできた気がします。