浅間尾根 〜いにしえの尾根道を行く〜
![]() |
【東京都 檜原村 平成22年4月18日(日)】
先週末に「本格的に春が来た」と書いたとたんに、降りました。雪が。40数年ぶりだそうです。今週末の天気はまずまずのようですが、まだしばらく気温の低い日が続くそうです。
まあ、それはそれとして、今日は職場の仲間と山歩きをしに、奥多摩は檜原村(ひのはらむら)にやってきました。メンバーは去年利尻山でお世話になったTさんと(Tさんはこの春、転勤で東京にもどってきたのです。)、笠取山に同行したMさん、B君。yamanekoを含めて計4人です。
8時19分新宿発のホリデー快速あきがわ3号(10両編成のうち、後ろの6両はおくたま3号)に乗り込み、中央線を一路西へ。拝島駅で後ろの車両を切り離し、五日市線に入ります。終点の武蔵五日市駅に着いたのは9時21分。約1時間の旅でした。ここからは西東京バスです。
改札を出て駅前ロータリーのバス乗り場へ向かうと、すでに藤倉行きのところに長蛇の列が。こりゃとても乗り切れないだろうと思っていると、同時刻発で増便されていて、3台連なって出発しました。普段は超ローカル路線なのでしょうが、週末ともなると都心部からたくさんの人がやってくるのです。
払沢の滝入口 |
yamanekoたちを乗せたバスは秋川沿いに檜原の山の奥を目指していきます。武蔵五日市駅から約10qほど走ったところにある払沢の滝入口のバス停で下車。この辺りは本宿という集落で、役場や学校がある、いわば檜原村の中心地です。秋川はここで北秋川と南秋川とに分かれ、浅間尾根をはさんでさらに谷を刻んでいきます(藤倉行きのバスは北秋川沿いの道を分け入って行きます。)。
ここには払沢の滝という景勝地があることに加え、浅間尾根の東の登山口もあり、多くの人がここで下車していました。とくに外国人のハイカーが多いのにはビックリ。辺りはインターナショナルな雰囲気でした。
登山口 |
午前10時、スタート。払沢の滝の川筋に入らずに、舗装道路に沿って時坂(とっさか)の集落方面に向かいます。その昔、本宿から甲州方面への往き来には浅間尾根の道が幹線道路として利用されていたのだそうです。いったん尾根筋に出てしまえば概ね標高が安定しているし、なにより蛇行を繰り返す川沿いに行くよりも、尾根に道をとった方が距離も短く便利だったのでしょう。
![]() Kashmir 3D |
今日のルートは、時坂集落から更に上り、支尾根をたどりながら839mピークで主尾根に出て、浅間嶺(903m)に向かいます。そこからは尾根道をほぼ水平移動し、908mピーク(数馬分岐)から一気に300m下って数馬集落へ出ます。そこからはバスで戻ってくる予定です。歩く距離は約10qです。
時坂集落 |
時坂集落は急な斜面にへばりつくように民家が点在していました。雛段を縫うようにジグザグの舗装道路がありましたが、それをショートカットするように民家の庭先を通って登っていく道があり、そちらを歩いていきました。すでに汗が出てきて、みんな上着を脱いでいます。
木漏れ日 |
木漏れ日の道。いい雰囲気です。こういう道を歩いていると、背中から目に見えない鉄板がはがれ落ちるような気がします。
ニリンソウ |
ニリンソウの純白の花。「調和のとれた美」だと思いませんか。若い葉は美味しいらしいですが、猛毒のトリカブトの葉と似ていることから、誤食による事故が絶えないそうです。おお怖っ。
時坂峠 |
10時40分、支尾根の時坂峠に出ました。峠といっても反対側に下る道はなく、尾根道に突き当たる形です。ここには鳥居と朽ちかけた小さな祠がありました。往時には旅の安全を祈念する人々が足を止めたのでしょうね。
ヤマブキ |
峠を左手に折れて、支尾根をたどって主尾根へと向かいます。ここで出会ったヤマブキはまだ蕾。でももうすぐにでも開いていいように、ふんわりとしていました。
キブシ |
一方、キブシは満開でした。この花の色や質感、何に例えればいいかと、この花を見るたびにいつも思っていましたが、思いつきました。アイボリー、象牙細工の色と質感です。やれやれ、何かスッとしました。
峠の茶屋 |
11時、峠の茶屋に着きました。現役バリバリの茶屋でした。ここは北秋川河畔にある夏地集落からの道が合流してくる峠です。
奥多摩の稜線 |
浅間尾根に平行して北側に居並ぶ稜線(マウスオーバーで山名表示)。茶屋の前からのパノラマです。あの向こう側は多摩川が刻んだ深い谷があり、奥多摩湖などもあるはず。こうやってみると思いのほか雄大ですね。
桶里集落 |
この辺りではびっくりするほど高いところに集落があります。尾根沿いの街道に近いということもあったのかもしれませんが、やはり日当たりではないでしょうか。谷底では畑に十分な日光が得られないのでは。以前、小菅村の集落で聞いた話ですが、谷の集落は日照時間が短いので、一番日当たりの良い場所は畑にして、家は山影の方に作るのが普通だったということです。
ヤマエンゴサク | ナガバノスミレサイシン |
休憩を終えて再び歩き始めます。今度は森の中の道です。足元では春の小さな花が迎えてくれました。
ヒノキの森 |
浅間尾根にはヒノキやスギの植林地があちこちにあります。いずれも上の写真のように林床に十分に光が入っていて、枝打ちもしっかりとされているなど、よく手入れがされていました。昔から炭焼きや林業が基幹産業だった地域でもあり、浅間街道のおかげで山に入りやすかったというのもあるのかもしれません。
ニリンソウの群生 |
ぽっかりと木立が空いたスペースにニリンソウの群落が広がっていました。今がちょうど盛りです。こういう風景に出会えるのも山歩きの楽しみのうちの一つですね。
カタクリの群生 |
ぬかるんで足元の不安定な道をしばらく行くと、今度はカタクリの群生地がありました。でも、数日前に降った雪のせいなのか、開いたまま枯れてしまっていた花も多くあり、ちょっと無惨といった感じでした。
ところでカタクリの群生地って決まって北側斜面ですよね。
浅間嶺下の広場 |
12時15分、浅間嶺直下の広場に到着しました。ここにはトイレやベンチなどの休憩施設が整っていて、ぱっと見、3、40人くらいの人が昼食をとっていました。yamanekoたちも腹ぺこなので、さっそくシートを敷いてご飯を食べることにしました。
御前山 |
いつのまにか上空には薄雲が広がり、じっとしていると肌寒い感じです。御前山を正面に見ながらコンビニで買った助六弁当を広げました。おかずはローソンの「からあげくん」です。やっぱり外で食べると何でも美味しいなあ。
雪が…。 |
食事を終える頃には体が冷えてきたので、早々に出発準備をして歩き始めました。数日前の雪が残ってます。
リアル浅間嶺 |
「浅間嶺」と記した木柱のある見晴のよいピークは別にありますが、本来のピークはこちら。標高はそこより10数mほど高い903mです。ミズナラの幹に「浅間嶺」と書かれた小さなプレートが打ち付けてありました。
しっかりと雪が |
ピークの周囲はまだしっかりと雪が積もっていました。踏みしめてもサクサクしていて、融けそうな気配はありません。この辺りは南側がヒノキの植林地で、そこで日差しが遮られる分、雪も溶けにくいんでしょうね。それにしても4月も半ばなんですけど…。
道標 |
1時10分、883mピークを越えたところにある人里分岐までやって来ました。ここから左手に下ると人里(へんぼり)集落へ出ます。苔生したこの道標はこれまで多くの旅人を見守ってきたのでしょうね。
尾根道 |
浅間尾根を西へ西へと歩いていきます。上の写真のようにそこそこのアップダウンはありますが、最も低い地点と最も高い地点の標高差は40mほど。道はそのピークを辿ることなく手前で巻いて延びているので、実際の標高差は20mくらいではないでしょうか。ここを薪や荷物を背負った馬が往き来していたと思うと、何か感慨深いものがあります。
生藤山 |
今回のルートで最も高い930mピークまでやってきました。道はピークから20mほど低いところを通っていますが、「一本杉(一本松)」と書かれた柱が道の脇に立っていたので、おそらくピークにはそれらしい木が立っていたのだと思います。それが松なのか杉なのか、それとも今は何も残っていないのか、登って行って確認しようとは誰も言い出しませんでした。
ここからは南の方角の展望が開けていました。南西に見えるピークを地図とコンパスとで確認してみたら、ちょうど1年前に登った生藤山でした。あのときは春爛漫のポカポカ陽気でしたが、どうやら今日は積雪があるようです。
浅間街道 |
いにしえより数多の人々が往来した浅間街道。手入れしながら使われてきたのでしょう。谷筋に道路が整備された現代では、自然の中に身を置きながら歩くことができる楽しい道です。
サル石 |
「サル岩」という大きな岩の前に出てきました。看板によると岩の表面に猿の手形模様がついているとのこと。でも誰も見つけられませんでした。なにしろ岩がでかすぎて、手形といわれれば手形に見えるような模様があちこちにあったので。みんなモヤモヤ感を抱きつつ、その場を立ち去ったのでした。
深い谷 |
昔ここを通りかかった人たちも、この深い谷を眺めただろうなあ。
数馬分岐 |
2時15分、数馬に下る分岐までやって来ました。浅間尾根はまだ続きますが、ここから左手に下って数馬の集落に向かいます。ここの標高が約870m、数馬が600mですから、一気に270mを下ることになります。
エイザンスミレ |
道の脇にエイザンスミレが咲いていました。深く裂ける葉が特徴です。「エイザン」とは「比叡山」のことで、名の由来は、比叡山に咲くからとも、比叡山で発見されたからともいわれています。日本特産ですが、比叡山に限ることなく日本各地で見られるそうです。
集落の桜 |
数馬の民家も山の斜面に点在しています。今ちょうど桜が満開を迎えていました。民家の庭先や畑の脇を通って下っていきいます。静かな午後です。
数馬は五日市から約30q、本宿からでも谷筋をさかのぼること約20qのところにある山里です。檜原村ではもっとも奥にある集落で、南北朝時代の初期に南朝方の武士が戦を逃れてここに住み着いたと伝えられています。「数馬」とは、その一族の名前から付けられたのだそうです。
マルバスミレ |
マルバスミレも北海道を除く日本各地で見られるそうです。名前が示すとおり、丸っこい可愛い葉です。きれいな白だなあ。
はるか下に |
ジグザグの道をずいぶんと下ってきました。膝が笑ってしまいそうです。はるか下の谷底に見える道路は檜原街道(都道206号)です。
ゴール |
2時45分、浅間尾根登山口のバス停に到着しました。所要時間5時間弱。いにしえに思いを馳せる楽しい山歩きができました。満足、満足。
ところが、これからが大変でした。次のバスまでの待ち時間が1時間。満員のバスに揺られて武蔵五日市駅まで向かうのに更に1時間。約1分の乗り継ぎで閉まりかけのホリデー快速に飛び乗って、そこから新宿までまた1時間。電車の中では熟睡でした。
![]() ![]() |