牛久自然観察の森 〜冬ざれの枯れ野を見てみると〜


 

【茨城県 牛久市 令和5年1月8日(日)】
 
 新しい年が明けました。今年もあちこちの野山に出かけて楽しみたいと思います(そんな穏やかな一年であってほしい。)。ただ、この時期、雪道とかを走るのは恐いので、行き先はどうしても関東平野内になってしまいがちですが。
 ということで、今回は茨城県にある牛久自然観察の森に行ってみることにしました。
 自然観察の森は、主に大都市近郊での自然保護教育の拠点施設として、昭和の終わりから平成の初めにかけて整備されたものだそうです。広島在住時代にときどき行っていたおおの自然観察の森と同系列だということを初めて知りました。ついでに、10数年前に行った桐生自然観察の森横浜自然観察の森も。これまでに全国10か所中3か所に行っていたことになります。知らなかった。
 
                       
 
 朝、8時半過ぎ、ドリーム号Vで出発。目的地の最寄りのICは圏央道の牛久阿見ICなので、yamanekoの自宅からなら圏央道をひた走れば着くのですが、常磐道以東に行くときに圏央道を使うと若干遠回り感があるので、そっち方面に行くときは都心経由が多いです。今回も、中央道→中央環状→常磐道→圏央道のルートで行きました。普段は渋滞も多いですが、幸いにもガラ空きでした。 



 上の図は東京の高速道路網の概念図。数年前に圏央道が全ての高速道路と接続したので相当便利になりました。今、外環を中央道に接続させる工事が進められています。ほぼ全線トンネルで。 

 牛久沼

 牛久といえば「牛久沼」。自然観察の森に向かう前に立ち寄りました(ついでに昼食も)。水面にはヒドリガモがのんびりしていました。
 田園地帯のど真ん中にある牛久沼ですが、灌漑目的で人為的に作られた沼ではなく、自然のものだそう。縄文時代、この辺りは海だったとのことで、その後徐々に海水が引いていく過程で湖沼として残り、一旦湖沼化した後は雨水の流入と流出で淡水化していったということのようです。
 ところで、沼の名前は牛久ですが、立地としては牛久市ではなく全域が龍ケ崎市内にあるのだそうです。龍ケ崎市ができる前から牛久沼という名前だったのでしょうが、市制に合わせて沼の名前まで変えることはさすがにできなかったということでしょう。龍ケ崎市としては悔しいでしょうね。「牛久沼」は関東ではそこそこメジャーな地名で、牛久に行ったことのない人でも牛久沼の名前は知っている人が多いと思います。

 Kashmir3D

 牛久自然観察の森は、稲敷台地に位置し、そこは畑と雑木林がパッチワークのように入り組んで広がる長閑な里地になっています。ちなみに、稲敷台地の広がりは、まさに関東平野から海が引いていったその流路を表すように筑波山の南麓から南東に延びています。
 今日は、園の西端にある駐車場からメインのエリアに向かい、ネイチャーセンターを見てから順路に従って散策したいと思います。

 駐車場

 12時30分、駐車場に到着。駐車エリアは芝生でした。ずいぶん広いですが、桜の季節にはこの駐車場も満杯になるようです。その時期には普段は閉鎖している第二駐車場も開放するのだとか。



 駐車場からメインのエリアに向けて移動。車もほとんど通らないような道沿いに歩いて行きます。



 綺麗に葉を落としたコナラの林。ここまで手入れされていると綺麗ですらあります。里地の雑木林は人間が適度に手を入れて生活に利用してきた歴史があります。木材は薪炭として、また、枯れ葉は肥料として。動物や鳥、昆虫の住処でもあったでしょう。はやりの言葉で言えばサステイナブルということですね。

 ガマズミ

 ガマズミの実が陽に透かされて宝石のように見えました。見ようによっては、ですが。
 この実はこうやって枝に残っていることが多いです。鳥たちに人気がないのでしょうか。

 正面入口

 正門をくぐるとこの風景。一面の枯れ野といった感じですが、ここからがメインエリアになります。

 スイカズラ

 藪にまとわりついていたのはスイカズラの蔓です。スイカズラを漢字で書くと「忍冬」。葉を丸くして文字どおり冬を耐えているようですね。

 ヤブマメ

 これはヤブマメの鞘が乾燥してロール状にねじれたもの。中の種子は完全に落ちてしまっています。

 ヘクソカズラ

 ヘクソカズラの実。明るいブラウン光沢があり、なぜか不思議な魅力を感じます。
 この果実は、昔はしもやけの薬になったそうです。とはいえ現代でしもやけなんて言っても通用しないかもしれませんが。yamanekoも子どもの頃にしかかかった記憶がありません。「しもやけ」と聞いて皮膚のひび割れを思い浮かべたりしがちですが、それは「あかぎれ」。しもやけは指先などが赤く腫れ上がる状態になります。

 ヤマノイモ

 ササにヤマノイモの刮ハが絡みついていました。
 こうやって見ると枯れ野の主役はツル植物ですね。

 セイタカアワダチソウ

 いや、そうでない役者もいました。こちらはセイタカアワダチソウ。枯れてもなお気丈に立っています。一時期、秋の花粉症の原因と言われていましたが、虫媒花で花粉を大量に飛ばすようなことはないので、完全に濡れ衣なのだそうです。

 コセンダングサ

 コセンダングサ。痩果には3個の槍状の棘があり、衣服や靴にくっつきます。服の上から肌を刺し、結構痛いです。

 ヤブラン

 ずっと褐色の植物ばかり見てきたのでヤブランの緑色の葉が新鮮です。黒い果実に見えるのは実ではなく種子。果皮の部分は薄く、早々に破れて脱落してしまうのだそうです。ヤブランなのに。

 ネイチャーセンター

 木立の中に入るとネイチャーセンターが現れました。ちょっと覗いてみましょう。



 中に入ると、水辺の生きものの水槽がいくつか並んでいました。メダカ、ドジョウ、ゲンゴロウ、カワエビ、フナ、カメなどなど。みんな子ども達の目線の高さになっていました。奥の方には子どもが木のおもちゃで遊べるコーナーがあって、こちらは入場料が300円必要。



 しばらく生きものを観察した後、園の東側に延びる散策路に向かいました。初めは暗いスギ林です。

 マンリョウ

 林床にマンリョウが。スポットライトを浴びていました。

 ナンテン

 ナンテンです。葉もいきいきと展開していて、生命力を感じます。日陰を苦にしない植物ですね。



 野鳥観察のためのフェンスです。

 コムラサキの池

 その小窓の先にあるのが「コムラサキの池」。さすがに午後のこの時間、鳥たちの姿はありませんでした。

 ヤツデ

 林が途切れる当たりにはヤツデ。この植物も少々薄暗くても育ちます。昔は民家の裏などで栽培されることが多く、野山でこれを見かけると以前この場所に民家があったのかもと想像ができます。
 花序の上の方には両生花が、下の方には雄花が付きます。両生花は自家受粉を避けるために先に雄しべが成熟し、花弁と雄しべが落ちてから雌しべの柱頭が伸びる仕組みになっています。雄しべが成熟している時期と雌しべが成熟している時期にのみ花盤から蜜を出して虫を呼び、その中間の時期には蜜を出さないという省エネ設計。蜜を出すのは植物にとって負担が大きいですからね。写真のものはちょうどその中間の時期でした。

   ヤシャブシ

 ヤシャブシの高木です。枝先には越年した果穂とこの春に咲く雄花雌花が用意されていました。この果穂にはタンニンが多く含まれていて、染料として利用されていたそうです。

 雑木林

 スギ林の先には明るい雑木林が広がっていました。見通しが良いのは、夏の間、木々に繁っていた葉がきれいに落ちてしまったからです。でも、その割には落ち葉がないですね。おそらく、きっと昔そうだったように、人間が落ち葉書きや柴拾いをしたのかもしれません。それらは生活に欠かせない資源だったからですが、現代では環境維持が目的でしょう。

 観察舎

 雑木林の先に、背後に森を背負って建物がありました。近づいて見るとこれは民家を模した観察舎でした。ここでしばし休息を。
 ここからは南から回り込む形で背後のスギ林の中に入っていきます。



 スギの切り株に苔が生えていました。じんわり朽ちて行きつつあるんでしょう。これがまた森を豊かにするんですね。



 園の南東端、「オトシブミの森」辺りです。冬晴れですね。今日は風もなく快適です。



 再び森の中に入ると小さな池が。木立で外の音が遮断され、静かな空間でした。

 センダン

 池の畔にセンダンがありました。高さは10mくらいはあり、枝先にたくさん実を付けています。ちなみに漢字では「栴檀」と書きますが、「栴檀は双葉より芳し」の栴檀(せんだん)は白檀のことで、この木とは違うものです。このセンダンは特段芳香はありません。

 センダンの葉軸

 木の下には落葉したときにバラバラになった葉軸が散乱していました。長さは30cmくらいあり、これが散らばっているのを見ると、ああセンダンの木があるなと気がつきます。街路樹としてもよく用いられるので、歩道に散らばったりしているのを見かけることもあります。

 カラスウリ

 暗い森の中をバックにカラスウリの実が照らされています。時刻はまだ1時半。陽の射角が浅く、もう夕方の雰囲気です。

 ナンテン

 ナンテンの実をアップで。なんか瑞々しいですね。昔、この実を煎じて咳止め薬にしていたそうです。里の植物は何かしらの形で人間が利用してきていることが分かります。



 園の北側の散策路。落ち葉を踏みながら歩いて行きました。

 東屋

 おっ、東屋。なぜかバス停みたいな標識が立っていました。マイクロバス的なものの終点のようでしたが、意味不明。外から直接入ってくるのかな。



 ぐるっと回って雑木林のところに戻ってきました。子どもの頃、こんなところを走り回っていたなあ。

 カキドオシ

 落ち葉に紛れて腎円形の葉が。葉裏が赤紫色です。これはカキドオシの葉ですね。枯れることなく冬を越すんですね。



 ネイチャーセンター前を横切って、裏側から駐車場に向かいます。

 白梅

 梅林のようなところに出てきました。20株くらいあるうちの数株で白梅が開花していました。何だか嬉しい気分になりますが、これから寒の入りを迎えると思うと、この花の行く末を案じてしまいます。

 トサミズキ

 ウメに混じってトサミズキもありました。こちらはまだ蕾。ですがかなりふっくらとしていました。3月ころにレモンイエローの花序をぶら下げます。

 マユミ

 これはマユミの実でしょうね。もともとピンク色ですが、もうすっかり色が抜けてしまっている状態。それでも枝に残る強い実です。この状態も渋くていいですね。「和モダン」といったところか。

 スギ

 2時ちょうど、駐車場に戻ってきました。のんびり歩いて1時間半でした。
 梅林の両脇にはスギ林。もうずいぶん褐色になっていて、花粉を飛ばす準備ができつつあるみたいですね。そういえば今年はかなりの飛散量とのニュースがありました。ほどほどにしておいてもらいたいです。

 さあ、新しい年の始まりです。令和もはや5年。平成も少し遠くになった感があります。昭和に至っては既に教科書の中の時代といった感じでしょうか。バリバリの昭和オヤジを自認するyamanekoとしては何か寂しいような。
 でも、考えてみると昭和を生きたのは20数年間。平成の30年間よりも短かったのです。なのに我が身を覆うこの昭和の遺物感は何なのだろう。青春時代を過ごしたのも結婚して家庭をなしたのも昭和でした。平成も半分くらいは昭和の価値観で生きていたような気がします。きっとそういうことなのでしょう。なので、昭和の思い出は色あせることなくyamanekoの記憶の中で輝いているのだと思います。
 帰りに寄った牛久大仏の展望台でそんなことをぼんやり考えていたのでした。