金沢緑地群 〜初冬の里山を歩く〜


 

【横浜市 金沢区 平成18年12月10日(日)】
 
 早いもので今年も師走になってしまいました。月日の流れる速さにはただただ驚くばかりです。(毎年こんなことを書いています。)
 「山茶花(さざんか)梅雨」というのでしょうか、12月に入ってから冷たい雨が降る日が多いような気がします。昨日も凍りつくような雨でした。
 で、今日は天気が回復するというので、のんびりと里山歩きでもすることにしました。
 
                        
 
 午前9時、首都高の新宿ランプから4号線へ。都心環状を経由して、1号横羽線へ入ります。休日の朝にしては渋滞もなく気持ちの良いドライブです。多摩川を渡り神奈川県に入っても流れはスイスイ。三ツ沢ランプから横浜新道、横浜横須賀道路(通称「横横道路」)と走り継ぐと、この辺りから緑の多い丘陵地になってきます。今でこそ宅地造成で周囲を住宅街に取り囲まれて、しかもその面積をどんどん狭めていっていますが、高度経済成長を迎える前は広い範囲に森が広がる里山の丘陵地だったのだと思います。横横道路はこの自然の起伏をうまく利用しながら、三浦半島の脊梁部を観音崎の近くまで貫いているのです。
 

 横横道路を保土ヶ谷方面から南下し、釜利谷JTCで並木方面へ進むと、やがて料金所があり、左端のゲートが金沢自然公園の駐車場へ直結しています。この公園の駐車場には高速道路からしか入れない構造になっているのです。(一般道から入れる駐車場も別にあります。) でも、これが結構便利です。
 この辺り一帯は横浜市の「緑の七大拠点」とされ、円海山(153m)と大丸山(159m)を中心として「氷取沢市民の森」、「瀬上市民の森」、「横浜自然観察の森」、そして「金沢自然公園」などが一帯となって広がっています。

 駐車場

 10時すぎ、駐車場にはまだ数台の車しか停まっていませんでした。ここの駐車場はかなり広く、500台くらいは停められそうです。形は長靴のようで、そのつま先部分に新ドリーム号を停めました。ここが園内入り口に最も近いのです。
 車から下りると、すぐ脇のアキニレから小鳥のさえずる声が聞こえてきました。さっそく双眼鏡で覗いてみると、萌葱色の体に目の回りの白いリング。メジロです。アキニレの梢を忙しく往き来していました。

 園内入り口
 (MAPの1のところ)

 金沢自然公園は南側を望む丘に造られていて、金沢八景あたりからその向こうの浦賀水道にかけての広々とした展望を楽しむことができます。園内には「ののはな館」というビジターセンターがあって、植物に関する様々な企画展が催されていたり、学芸員(?)も常駐しているので自然全般についての質問に応じてもらえるようです。なかなか充実しています。あと園内には動物園があって、ここを目当てに多くの家族連れが訪れています。子供たちの一番人気はコアラなのだとか。なかなか本格的な動物園です。

 観察路へ

 園の裏手へと続く観察路は、夜半まで降っていた雨のせいでしっとりと潤っていました。木道に落ち葉が張り付いて、それに足を取られそうです。日陰は気温も低く冷気が足下からはい上がってくるようです。

 コクサギ

 コクサギの葉の付き方、ちょっと変わっています。一般的な互生は枝に対して、…と葉が並びますが、コクサギの場合、、…と2個ずつ並んでいるのです。このような葉の付き方を「コクサギ型葉序」と呼び、少数派ですが他にもこのような葉の付き方をする樹木があります。(イソノキとか) 右の写真は果実。この中に黒く丸い種子が1個ずつ入っていて、乾燥すると開裂してはじき出されます。

 秋の名残

 やがて観察路は高速道路に突き当たり、ここからしばらくは道沿いに歩きます。乾燥してモコモコになったセイタカアワダチソウの花序(種子)とか、深紅のタンキリマメとか、その都度立ち止まるのでなかなかペースが上がりません。いつものことですが。

 森の中へ

 しばらく道路沿いに歩いた後、くねった坂道を上って山の中に入っていきます。日陰ですが上り坂なのでうっすら汗ばむほどに。そんなときは面倒くさがらずに着ているフリースを脱いで温度調節を。涼しくなったらまた着て、暑くなったらまた脱いで。これが体温管理の基本なのです。

 ヤブツバキ

 日陰の道をポッと明るくしてくれているのはヤブツバキ。花弁は5枚ありますが基部で合着し、また、たくさんある雄しべも合着していて、この花が散るときはつけ根から花そのものの形のままボトッと落ちます。昔、これが斬首を思い起こさせ縁起が悪いとして、武士の家には植えることをしなかったのだそうです。

 尾根道へ

 金沢自然公園の南端までやってきました。公園といっても里山なので柵があるわけでもなく、そのまま隣の横浜自然観察の森へつながっています。

 釜利谷陸橋から

 11時45分、横横道路をまたぐ釜利谷陸橋に出ました。南側には金沢文庫方面にかけて広大な住宅街が広がっています。数十年前まではこの住宅街の辺りには森や谷が残っていて、たくさんの動植物がここを生活の場として生きていたことと思います。日本の経済発展と引き替えに消えていった自然です。もちろんそれが悪いなどと言うつもりはありません。自身、都心に住んで利便性を享受し、高速道路を車を飛ばしてやってきているのですから。ただ、消えていったものはもう戻りませんが、これからでも何かできることはないのか、せめてそんな気持ちは持ち続けていきたいと思います。

 ニシキウツギ

 陸橋を渡ったところでニシキウツギの果実に出会いました。すでに開裂して小さな種をたくさんまき散らした後です。独特な形状が目を引きます。名前は漢字で「二色空木」と書き、開花直後は白色だった花がその後紅色に変わっていくことから「二色」という名が付いたということです。最初に名前を聞いたときはてっきり「錦空木」だとばかり思っていました。

 ジャノヒゲ  マンリョウ

 再び日陰の道を歩いていきます。
 落ち葉の陰から瑠璃色の種子をのぞかせているのはジャノヒゲ(蛇の髭)、別名リュウノヒゲ(龍の髭)ともいいます。子供の頃、シノダケを20pほどに切って、その両端にこのジャノヒゲの種子を詰め、さらに細い竹の棒で片方からところてん突きの要領で強く突いて遊んでいました。圧縮された空気によって弾を撃ち出す空気銃です。ポーン!という発射音とともに予想外の勢いで種子が飛んでいき、体に当たるとそれなりに痛かったりします。今考えると目なんかに当たったりしたら大事になると思うのですが、当時は遊びの中にそんな危険はそこいらじゅうにあって、知らず知らずに経験によって危険を見分ける学習をしていたのだと思います。
 紅い実のおかげでマンリョウも目立っていました。雲形のような葉の鋸歯も特徴的です。もともと自生のものなのか、近所の庭木から鳥が運んできた種子によるものなのか。後者だとしたら紅い実をつけるマンリョウの勢力拡大戦略は効を奏しているといえるでしょう。

 関谷奥見晴台から  磯子方面(左の写真の中央部を拡大)

 12時15分、関谷奥見晴台に到着しました。(MAPの2の地点) 北の方角の展望が開けています。雲一つない冬晴れの日。遠くに磯子方面の石油精製プラントや火力発電所などが見えました。手前の森の中に少し見える道路は釜利谷のジャンクションでしょう。気持ちがスカーッとしたところで昼食にしました。

 昼食

 コンビニで買ってきた冷凍うどんをガスストーブで温めます。でも気温が低いためにガスが思うように気化してくれません。しょうがなしに両手でボンベを包んで暖めるのですが、本当に手が切れるかと思うほど冷たいです。

 木漏れ日の道

 腹がいっぱいになったところでまた歩き出しました。木漏れ日の稜線の道です。

 紅葉  クロモジ

 この時期、もちろん花と出会うことはほとんどありませんが、例えば、イロハモミジの赤やクロモジの黄など葉の装いを楽しむのもいいものです。それが紅葉の名所でなくても、いやむしろそうでない方が、しっとりと、充実感をもって楽しむことができるようです。

 自然の絨毯

 盛りの時期の紅葉に負けず劣らず、地面に敷き詰められたこの紅葉もペルシャ絨毯のようで綺麗ではありませんか。落ち着いた深い色合いです。

 住宅街

 山道のすぐ下まで庄戸の住宅街が迫っています。森と街、動物と人間の生活域が緩衝地帯なしに接しているのがよく分かります。

 タイワンリス

 視界の端で何かが動きました。斜面に立つカラスザンショウの幹です。20mほど離れているでしょうか。なんと大型のリスのようです。よく見ると1本の木に3、4匹動いています。そういえばさっきから道ばたに木の皮を削ったカスがたくさん落ちていました。通りがかりの地元の人に聞いてみると、この辺りでは平成になった頃からタイワンリスが増え始め、今ではその食害で多くの樹木に被害が出るほどになっているのだそうです。くだんのカラスザンショウは幹のぐるりをはぎ取られていました。こうなると後は枯れるのを待つばかりでしょう。

 氷取沢

 氷取沢市民の森までやってきました。上空はいつのまにか雲に覆われてしまっています。ここからは谷の中に下りていくので、ますます薄暗くなっていきます。足下も湿っていて、やがて水音も聞こえるようになってきました。ここの沢は大岡川の源流で、ここから約20qを流れ下って、横浜のランドマークタワーの畔で海に注ぐのです。(終着点が大都会だと考えるとなんか不思議な感じがします。)

 おおやと広場

 谷を下りきって「おおやと広場」までやってきました。(MAPの3の地点) 時計を見ると午後2時半です。ここで野鳥の写真を撮っている二人の男性に出会いました。三脚に大きな望遠レンズ付きのカメラをセットして、シャッターチャンスが訪れるのを小声で談笑しながら待っているようです。ついさっき撮ったというルリビタキをモニターで見せてもらいました。淡いブルーが鮮やかで、すぐそこにいるかのような臨場感のある写真でした。

 高架越しの氷取沢

 沢から農耕地に出てきました。振り返ると高速道路の高架越しに、さっき下ってきた氷取沢の谷が見えます。この辺りにはまだまとまった畑があるようです。この先にはすぐ住宅地が広がっているのですが。

 金沢自然公園のスタート地点が近づいてきました。あと少しです。最後の山を越える手前で振り返ると、釜利谷ジャンクションの向こうに今日歩いてきた尾根を見渡すことができました。
 午後3時20分、公園の駐車場に到着。久しぶりに長く歩いたせいで、ふくらはぎがカチカチになっています。軽くストレッチをして(車内で少し寝て)また高速に乗って帰ります。これからの時間だと渋滞は避けられないでしょうが、まあしょうがないですね。

 お土産

 今日一日歩いて拾ったお土産です。それぞれ何の葉か分かりますか?