桐生自然観察の森 〜カッコソウの咲く森へ〜


 

【群馬県 桐生市 平成20年4月29日(火)】
 
 連休前半の最終日、空はきれいに晴れ渡り、すっかり初夏のような陽気です。今日はドライブがてら、群馬県桐生市にある「桐生自然観察の森」に行ってみることにしました。
 「桐生自然観察の森」は桐生の市街地の背後にある吾妻山の北麓にあります。ここでは絶滅の危機にさらされているカッコソウの保護増殖を進めているとのこと。資料によるとカッコソウはサクラソウ科の植物で、全国でもここ吾妻山からその奥に連なる鳴神山周辺でしか生育していないそうです。その可憐な姿からこれまでひどい盗掘にあってきた歴史があり、保護活動が定着してきた現在でも、商業ベースでの大量盗掘はともかく「山野草愛好家」による盗掘は絶えていないのだそうです。
 
                       
 
 輝くような日差しの下、高松ランプから首都高に乗って、そのまま東北道方面へ。車の量は多くも少なくもなく順調に流れています。栃木県に入ってすぐのところにある佐野藤岡ICで一般道へ。インター近くにあるアウトレットモールに入るための車列がインター出口近くまで延びていたせいで、ここでちょっと渋滞に巻き込まれてしまいました。でも、そこを過ぎると国道50号線はスイスイ。快適なドライブです。

 緑が濃くなってきた

 桐生市内で昼食を済ませ、ナビをたよりに自然観察の森へ。田園風景からやがて山里へと辺りの雰囲気が変わってきました。そして道の両側に山が迫ってきた頃、駐車場に到着しました。広い駐車場ですがほんの数台しか車は停まっていません。静かです。

 ミヤマハコベ

 駐車場を出るとすぐに森の中。とりあえずネイチャーセンターに向かいましょう。足下にミヤマハコベの白い花。野辺で見かけるハコベより一回り大きな花冠です。花弁が10個あるように見えますが、ひとつの花弁が深く2裂しているだけで、本当は5個です。

 ネイチャーセンター

 ネイチャーセンターに展示されているパネルなどでこの辺りの自然の特徴をチェック。主にクヌギやコナラの雑木林と、スギなどの植林地で、様々な生き物が暮らしているようです。身近にこんなところがあるといいですね。

 トチノキ

 トチノキの葉もまだみずみずしく、陽光を透かして明るく見えます。この梢の下にサマーベッドでも持ち込んで、ひがなウトウトして過ごしたりすると気持ちいいだろうなぁ。

 頂芽の跡

 だらーんとぶら下がっているのは頂芽の跡。頂芽は枝の先端についている芽のことで、トチノキの頂芽は3pくらいのずんぐりとした大きな芽です。これが春になるとさらに長く伸び、やがて芽鱗がめくれて中からその年の枝や葉、花序などが伸び出します。写真の芽鱗より左がこの春に伸びた部分です。

 観察路

 湿地の上には木道の観察路。まだ葉を茂らせていない木々もあるので、明るい雰囲気です。

 ミツバウツギ

 観察路の脇に立っていたミツバウツギです。この木は沢沿いなど日当たりの良い湿ったところを好んで生えています。写真では分かりにくいですが、名前のとおりに葉は3出複葉。花はまだ咲きはじめですね。ちなみにウツギの仲間ではありません。

 コマユミ

 コマユミの花は緑色でしかも小さいのでなかなか目立ちません。もともとニシキギなんですが、ニシキギのうち枝に板状の翼ができないものをコマユミといいます。ニシキギの変種ですね。(ニシキギの翼の様子はこちら

 マグワ(?)

 まだ若いマグワ(ヤマグワではないと思うのですが。)の果実です。夏に黒く熟して、甘く美味しいです。でも指先と口の周りが紅黒くなってしまいますが。マグワは中国原産。こうやって野山で見かけるものは、かつて養蚕のために栽培されていたものが放置され、野生化したものだと思います。

 ショウブの池

 涼しい水辺を歩いていきます。それにしてもほとんど人と出会いません。聞こえるのは鳥の鳴き声と風の音くらいでしょうか。のんびりとした自然観察。こういうのが大好きです。

 ヤブヘビイチゴ

 やぶ蛇なイチゴではなく「藪」+「ヘビイチゴ」です。普通のヘビイチゴよりも一回り大きな花冠で、葉の色も濃く、よりしっかりした印象を受けます。でも確かにこの草むらをつついたら蛇くらいは出てきそうです。

 カッコソウ

 やがてカッコソウの保護地へやってきました。10m四方くらいのがっちりした金属製の柵の中にポツンポツンと咲いています。サクラソウに似ていますが、こちらの方がよりワイルドな感じで、葉も大きくちょっとサンカヨウの葉に似ています。
 じつは今から10年以上前に吾妻山に登ったことがあって、その下山途中にピンク色の花の群落に出会ったことがありました。当時その花がなんなのかは分かりませんでしたが、やや薄暗い林の斜面に広がるその花の映像が忘れられずに、これまでも何度か思い出したりしていたのです。今回ここにやってきたのも、もしかしたらその時の花がカッコソウではなかったと思ったからです。まあ、当時の記憶も曖昧なので実物を見ても今ひとつ判然としませんでしたが。

 新緑の山々

 十分にカッコソウを堪能した後、小高い山を登って下りるコースの観察路へ(園内にはいくつも観察路があるのです。)。チゴユリやジュウニヒトエ、ツクバネウツギやオトコヨウゾメなど、この時期に出会う花には白いものが多いように思います。
 山々は新緑に覆われて明るく輝き、生き生きとした姿をしています。写真の右のピークが吾妻山。あの向こう側に下山していく途中に見たピンク色の花は何だったのか。もうそれも判明することはないかもしれませんが、それはそれとして、今日はカッコソウを見ることができ、そして長閑な緑の中に身を置いて楽しい休日を過ごすことができたと思います。
 いつの日かカッコソウが絶滅の危機を脱し、この山々の中で長く生きていくことを願って桐生を後にしました。