白金自然教育園 ~都心に残された森・夏8月~


 

【東京都 港区 平成24年8月19日(日)】
 
 いつのまにかお盆も終わりましたな。その間、帰省するわけでもなく、かといって観光地に出かけるわけでもなく。まあ、仕事に熱中しておりました。
 そして月イチの自然教育園です。残暑の中の白金の森を見てみましょう。

 入口

 目黒駅から目黒通りを都心方面に5分ほど歩くと、左手に自然教育園の入口が現れます。ここが異次元空間への入口です。

 

 日向と日陰とのコントラストがくっきりとしていますね。緑もハンパない繁りよう。こりゃ持参の虫除けをしっかり塗っておかなければ(管理棟にも無料の虫除けスプレーが用意されています。)。

 キツネノカミソリ

 園内を奥に向かって歩いて行きます。今日のウエルカムフラワーはキツネノカミソリ。日陰の暗さをものともしない元気さを感じさせます。夏の花ですね。

 ヤブミョウガ

 一方、こちらは渋めの色をしたヤブミョウガの実。和のテイストです。

 イヌビワ

 ビー玉くらいの大きさのイヌビワの果実。ビワというよりイチジクに似ています。それもそのはず、戸籍を調べてみるとイヌビワはイチジクと同じクワ科イチジク属。ビワはバラ科ビワ属だそうです。

 ???

 えーと、この花は…。花も実もナス科の特徴を備えています。その辺は間違いないと思いますが、木本で葉は被針形。ちょっと思い当たるものがありませんでした。図鑑を調べてもこれだというものがなくて。

 キンミズヒキ

 これは自信を持ってキンミズヒキ。実はひっつき虫で、野原を歩くとよく靴の紐に鈴なりにくっついてきます。写真のものも下の方はもう実になっていますね。

 ハグロソウ

 ハグロソウ・ツインズ。1.5㎝ほどの小さな花ですが、バックの葉が濃緑なので(故に葉黒草)よく目立ちます。

 

 夏の日射しは入射角が大きいので、森の中の地面もダイレクトに照りつけます。ジリジリと暑いです。

 ヌスビトハギ

 これも果実がひっつき虫になるヌスビトハギ。いったい何が盗人(ぬすびと)なのかというと、果実の先端にちょろっと伸び出た髭のような爪のような部分が、盗人の忍び足に似ているからだそうです。また細かいところに注目したものです。

 定点写真

 草木の勢いここに極まれり。「盛夏」という言葉がぴったりの風景です。暦の上ではもう秋なんですけどね。

 コバギボウシ

 池の畔には涼しそうなコバギボウシが揺れていました。花冠の内側に濃い紫色の筋があって、これが花の印象をキリッと引き締めています。

 水生植物園

 湿地にはヒメガマがみっしりと生えていました。夏の空、幾分高いのは秋の気配か?

 

   ナンバンギゼル

 ススキの根元に寄生するナンバンギセル。花の姿が南蛮人の煙管に似ているということでしょう。別名を「思草」(おもいぐさ)。こちらは思いを巡らせ小首をかしげている様子に見立てたものだそうです。「道の辺の尾花が下の思草…」と万葉集にも読まれていて、千数百年も前からススキとの関係が一般的に知られていたということに、ちょっと驚きます。

 ナガボノシロワレモコウ
 

 長い名前ですが、漢字にしてみると「長穂の白吾亦紅(われもこう)」と一目瞭然。これぞ表意文字の強みですね。花は上から下に向かって咲いていきます。写真のものは3分の2ほど咲いたもの。奥にこれから咲くのが写っていますが、これを見ると、咲くにつれて伸びていく、ちょうどヘビ花火のような伸び方をするのが分かります。

 ノシラン

 ランと名が付くけどユリの仲間というよくあるパターンの花。ノシランはジャノヒゲに近い花です。花も葉もよく似ています。

 ヤブラン

 このヤブランもユリの仲間。昔の人の蘭の定義って、いったいどんなものだったのでしょうか。他にもスズラン、ノギラン、タケシマランなどもユリ科です。

 

 丘の上に上がってきました。武蔵野植物園もこの繁りよう。なんか圧倒されそうな勢いです。

 フシグロセンノウ

 このフシグロセンノウは咲いたばかりで花弁がツルッとしています。蕾も今にも咲きそう。フシグロセンノウにとってはこれからが盛りの時期です。

 

 シュロソウ

 地味な花のシュロソウ。花が黒褐色なのでバックの森に溶け込んでステルス仕様になっています。名前は、茎を包むように巻いている葉の根本の部分が枯れるとシュロのように細い繊維状になることからだそうです。

 キキョウ

 初秋の草原を彩る秋の七草、キキョウです。柱頭が5つにくるんと反り返っているのは、雌しべが熟している状態。雄しべは先に熟してしまい、この時期には既に枯れて根元で干涸らびています(先月の様子)。

 水鳥の沼

 暑い暑いと言いつつ水鳥の沼までやってきました。相変わらず水鳥はいません。

 

 トラノオスズカケ

 おお、これがトラノオスズカケの花か。解説の写真では知っていましたが、なるほどあまり見かけない姿をしています。この株が50年の眠りから覚めて発芽したものとは(こちら参照)。なんとも不思議なことです。種子って本当に生命のカプセルなんですね。

 イイギリ

 見上げるほどのイイギリの大木。20m以上はあるでしょうか。朱い実をブドウの房のように枝からたくさん下げている冬の姿とはまったく印象が異なります。

 イイギリの葉

 いくら暦の上では秋がやってきていても、現実世界では盛夏そのもの。それを残暑というと「なんでいつまでも暑いんだ!」となりますが、まだまだ夏はこれからと思うと、この暑さも「まあそんなもんか」となるから不思議なものです。
 さて、次に来るときは正真正銘の秋でしょうね。花のラインナップもだいぶん変わっているのではないでしょうか。楽しみです。
 
    

   自然教育園の周辺の様子