白金自然教育園 ~都心に残された森・夏7月~


 

【東京都 港区 平成24年7月22日(日)】
 
 梅雨が明けました。開けましたが、あのギラギラした太陽にはあまりお目にかかっていません。それどころかこの週末は4月下旬並みの気温だったとかで、肌寒いような状態でした。夏らしい天気はこれからに期待しましょう。
 さて、7月の自然教育園、どんな感じになっているでしょうか。とりあえず蚊が多いでしょうね。

 

 管理棟をくぐって園内に入ります。緑が濃いですね。みっしりとした緑です。

 カクレミノ

 さっそく可愛い花が出迎えてくれました。これはカクレミノの花。小さいですが愛嬌のある姿をしています。これでもっと派手な色合いだったらみんなにチヤホヤされたのかもしれません。濃い緑色の葉の中で目立たない花です。
 このカクレミノ、なんとウルシのかぶれの成分(ウルシオール)が樹液の中に含まれているのだそうで、人によってはこの木でかぶれることもあるのだそうです。知らなかった。

 

 ウバユリ

 チゴユリやヒメユリなど繊細なイメージのあるユリ科ですが、このウバユリは「剛」のイメージですかね。なんか甲冑のような姿をしています。蕾も固く締まった葉巻型をしていて、当初まっすぐ上に向いて付いているのですが、開花前の段階になると付け根から90度角度を変えて、水平に花を開くのです。花はあまり開かず、これが全開の状態です。

 

 ヤブミョウガ

 これはヤブミョウガ。ちょっと湿っぽいところに咲く花です。輪生する花が何段にも重なって、面白い姿をしていますね。名前は葉がミョウガに似ているところからきているのですが、分類上は仲間ではありません(ミョウガはショウガ科で、ヤブミョウガはツユクサ科)。

 ハエドクソウ

 「蝿毒草」。なんともおどろおどろしい名前です。それはこの植物から出る液に毒が含まれていて、殺虫剤に使われていたからなのだそうです。花は5、6㎜と小さく、決しておどろおどろしくありません。

 

 ミズタマソウ

 これも小さな花のミズタマソウ。果実の白い毛が露に濡れると水玉のように見えるからだそうです。面白い造形ですね。この形を人工的に造ろうと思うとなかなか大変ですよ。

 ヤブラン

 盛夏の花、ヤブラン。ランと名が付いていますが、ユリ科の植物です。

 

 分かれ道にやって来ました。右に折れれば水生植物園の方。左に進めば水鳥の沼の方になります。今日は左から回ってみましょう。

 水鳥の沼

 今日は風がないので暑いです。ところでここで水鳥を見かけたことはないような気がします。近くを高速道路が通っているからでしょうか。

 

 ソクズ

 小さな星形の花を散りばめたソクズ。この花には蜜はなく、代わりに黄色の杯状の器官が蜜を出すのだそうです。上の写真でもアリが蜜を舐めに来ていますね。

 いもりの池

 いもりの池です。ここでは水鳥(カルガモの親子)を見たことはあります。

 ヤマユリ

 武蔵野植物園までやって来ました。この辺りでちょうど中間地点です。
 開けたところにヤマユリが。このユリのイメージは、例えば「麗」とかでしょうか。なにしろ花冠が大きく、ハンドボールくらいの大きさがあります。そんなのが4つも5つも咲いているのですから、豪華な姿になりますよね。ただ、どうしても先端が重たくなるので、だらしなく傾いているものも少なくありません。

 

 キキョウ

 夏の草原にはこの花、キキョウです。涼しそうな姿をしていますね。ところで、この花の花冠の中をよく見てみると、花によって様子がちょっと違っているのが分かります。2分割写真の左側が開花後間もないもの、右側が数日経ったものです。開花直後は5個の雄しべが雌しべの柱頭を支えるように寄り添って、その状態で花粉を出します。そしてあらかた花粉を出し終えたら、雌しべから離れるようにして開き、役目を終えます。すると次は雌しべの先端が5つに割れて反り返り、受粉の態勢が整うというというわけです。キキョウはまず雄しべが先に成熟し、時間差で後から雌しべが成熟するようになっていて、これは自らの花粉で受粉してしまうことを避けるための仕組みなのだそうです。賢いです。

 

 ヤブカンゾウも加わった夏の野草3種。若干、寄せ植え的ではありますが。

 タケニグサ

 2mくらいにも成長するタケニグサ。木本と間違うほど大柄ですが花は思いのほか繊細。すっと伸びた姿が涼しそうです。花は下の方から咲いていき、写真の左(先端側)が蕾、中程が開花状態、右側が実になった状態です。このタケニグサの茎を折ると山吹色の乳液が出てきます。これが手などに付くと赤黒いシミが残って当分(へたすると半月くらい)とれません。ちなみに有毒だそうです。

 キンミズヒキ

 おお、早くもキンミズヒキが。盛夏のこの時期にもそっと秋の使者が姿を見せています。こうやって季節が移ろっていくんですね。

 オオバギボウシ

 オオバギボウシの花の根元にマルハナバチが止まって、なにやらごそごそしていました。花の口は窄まっているので体の大きなマルハナバチは玄関から入っていくことはできないのですが、どうやら花の根元に穴を開けて蜜をいただいていたようです。花粉の運び役は果たさずに蜜だけいただくとは。あと、アリが根元に集まっているのは、マルハナバチが開けた穴からおこぼれにあずかっているのでしょうか。

 ツユクサ

 一日花のツユクサ。某有名ネズミみたいです。こんなにかわいく咲いても一日でしぼんでしまいます。

 ヒダサカズキタケ?

 キノコの場合図鑑をめくってもなかなか同定は難しいです。でも図鑑をめくることがいいんですよね。目的とは無関係なところでいろんな興味深いものにも出会えたりしますから。

 

 都心で森に包まれる。本当に不思議な感覚です。

 ダイコンソウ

 このダイコンソウ、ちょっと変ですね。普通は5個の花弁が6個あります。自然界ではときどきこんなことがあります。ダイコンソウは何がダイコンなのかというと、根元から生える葉(根生葉)がダイコンの葉に似ているからだそうです。ちなみにダイコンはアブラナ科なので花弁は4個です。

 

 ミソハギ

 水生植物園のエリアに来ました。緑色の風景の中にミソハギのショッキングピンクが目を引きます。
 ミソハギは「禊(みそぎ)萩」とも書き、昔からお盆の時期に仏前に供えられてきた花だそうです。yamanekoの実家ではダリヤとか花壇に咲いていた花が供えられていましたが。

 ヒメガマ

 池の畔にはヒメガマが立ち並んでいます。ヒメガマはガマやコガマと一見して異なるところがあって、見分けるのに便利です。それは雌花穂と雄花穂とが離れているところ。でもそんなニッチな情報よりも、そもそもガマの穂が花だったということにビックリする人も多いのでは。

 ヌマトラノオ

 キリッとした立ち姿のヌマトラノオは見ていて気持ちがいいです。

 

 ミソハギの群落。夏を感じさせますね。

 ヤブカンゾウ

 なんかモジャモジャっとしている花はヤブカンゾウ。本来の花弁の他に雄しべが花弁状に変化したものも寄り集まっているので、見た目暑苦しいほどです。

 トモエソウ

 先月きれいに咲いていたトモエソウも今は花弁は枯れ果てて、雌しべの子房部分が実になっていました。
 この花を初めて見たのは広島の山奥、千町原でのこと。夏の暑い日を思い出します。そういえば、この花に限らず、初めて見たときのことを覚えているのは少なくありません。昨日のことはすっかり忘れていたりするのですが。不思議ですね。

 ヘクソカズラ

 名に反して可憐な花。花冠の内部には臙脂色の細かい毛が生えていて、それが入口を塞ぐようになっています。受粉の邪魔にならないのでしょうか。

 定点写真

 水際の草むらが一段と繁り、水面に覆いかぶさらんまでになっています。

 

 シオデ

 シオデは雌雄異株で、雄花だけを付ける株と雌花だけを付ける株とがあります。写真のものは雌株。それぞれ花被片が反り返ってウインナーのタコのようになっていますね。ぷっくりと丸くなっているのは子房の部分です。

 

 そろそろ管理棟に向かって戻りましょう。写真のアカマツは江戸時代から生きている「物語の松」。存在感ありすぎです。

 

 マツカゼソウ

 管理棟の前までやって来ました。往きには気がつかなかったマツカゼソウが花を付けています。これがミカンの仲間だとは。
 
 さて、7月の定点観察はこんな感じでした。園内は益々生命感にあふれていて、多くの花に出会うことができました。梅雨も明け、これから夏本番を迎えるでしょう(そう言いつつも、来月は少し秋の気配が感じられるでしょうか。)。
 
   

   自然教育園の周辺の様子