野川公園 〜霜月の武蔵野〜


 

【東京都 調布市 平成19年11月11日(日)】
 
 なんだかんだで今年もあと1ヶ月半。おかしいなあ、ついこの間まで半袖を着ていたような記憶があるんですが。どうも毎年この時期は加速度的に年末に向けて転がって行くような気がします。
 さてさて残すところ2回となった野川公園の定点観察。今日は晩秋の武蔵野の風情を感じることができるでしょうか。

 ヒマラヤスギの雄花

 駐車場からすぐのところにあるヒマラヤスギの林。ちょっと薄暗いその林床に細めのウインナーのような物体が。これはヒマラヤスギの雄花。毎年この時期に花を付けます。でもなんでこんなに地面に落ちているのでしょうか。どれもまだ花粉を飛ばす前のようです。先日の強風のときに落とされてしまったのかもしれません。

 スズカケノキ

 うそ寒く垂れ込めた雲の下、芝生広場には静かに落葉を続けるスズカケノキが佇んでいました。今日は辺りには子供たちの明るい笑い声はありません。

 ユリノキ

 こちらはユリノキ。別名、ハンテンボク(袢纏木)。地味な色の紅葉でも今日はホッとした温かみを感じます。

 ロウバイ

 3ヶ月ほど見ないうちにロウバイにもう次の花芽が付いていました。ひょっとすると年内に開花させるかも。でも、その前に今はまだ青々としてる葉を枯れ葉にして落とさなければなりません。写真の奥には今年付けた偽果が見えています。

 野川

 夏にあれほど鬱蒼と茂っていた土手の草も秋口に刈ってからは伸びていませんね。それどころか地上部がすっかり枯れてしまって、川岸の水際の様子があらわになっています。

 サネカズラ

 9月に白磁色の花を付けていたサネカズラ。今は独特な形の実を付けています。(9月に見た雌花はこちら) 色といい形といい鳥が好みそうな果実です。やっぱり鳥によって種子を散布しているのでしょうか。あまりこの実を食べに来ているところは見かけたことがありませんが。

 アワコガネギク

 経約1.5pとやや小ぶりの頭花を密集して付けているアワコガネギク。この咲き方が泡を吹いたような印象を与えるということのようです。見るからに賑やかなこの花。今日はこの花が一番勢いがあったように感じました。

 侘び寂の世界

 園内はすっかり晩秋の気配。空気までもが沈殿してしまったかのような静寂の世界です。実際には様々な音が聞こえてきますが、この景色を前にしてじっとしていると、俗世のざわめきが遮断されて無音の中に佇むことができるよう。脳内ノイズリダクションですね。

 ツワブキ

 初冬の季語となっているツワブキ。漢字で書くと「石蕗」ですが、葉に光沢があることから「艶蕗」から転訛したものと考えられています。西日本に多く、特に沿岸部でよく見かけます。この花を見ると瀬戸内の沿岸部や島嶼部で野山歩きをしていたときのことを思い出します。

 コセンダングサ

 本家のセンダングサを圧倒しつつあるといわれるコセンダングサ。名前に「コ(小)」とついていますが、大きさはセンダングサと大差ありません。写真の左側は果実。いわゆるヒッツキムシですね。これが付くとズボンの上からでも結構痛かったりします。右側は花。キク科の花の多くは中心に筒状花がありその周囲を舌状花が取り囲んでいるという構造ですが、コセンダングサは筒状花のみです。ルーペでよく見てみると一つ一つの筒状花の先端が5つに分かれていて、なかなか可愛いです。

 サンシュユ

 早春、まだ木々の多くが若葉を展開していない頃に鮮やかな黄色の花を満開にしていたサンシュユでしたが、冬を目の前にした今、ようやく果実を実らせました。見るからに美味しそうですね。でも、薬用にされるのが主でどうも生では食べられないようです。(早春に見た花はこちら

 ガマズミ

 こちらはガマズミの果実。鳥たちの御用達。たわわに実っています。これは生でも食べられますが、果実酒にされることも多いです。

 かがみ池

 木立の向こうに静かな水面を湛えているかがみ池。本当にここは都会の真ん中でしょうか。

 キチジョウソウ

 漢字で書くと「吉祥草」。吉祥とは良き兆しのこと。吉事があると開花するという伝説に由来する名だそうです。ちなみに武蔵野市のおしゃれな街吉祥寺は、江戸時代に水道橋にあった吉祥寺の門前町の住人が、明暦の大火をきっかけに集団で移住してきたことから街の名になったのだとか。寺は大火後、現在の本駒込に移転したのだそうです。

 コウヤボウキ

 キク科ではめずらしい木本のコウヤボウキ。今年伸びた枝の先端に繊細な花を一つ付けます。去年の枝には花は付きません。たくさんの花弁があるように見えますが、本当は先端が5つに裂けた筒状花が10数個集まったもの。この花の名は、高野山の僧がこの枝を箒の材料にしたことに由来するのだそうです。

 リョウブ

 リョウブの葉も色づいてきました。山にあるものはこの時期にはもう葉を落としているでしょうね。花は梅雨のさなかの7月に満開になっていました。(花の様子はこちら

 ハンノキ

 ハンノキといえば湿地に生える高木。この辺りは崖線からの湧水で湿気が多いのでハンノキにとっては生活しやすい場所かもしれません。写真は雄花。寒いところでは3月から4月にかけて開花しますが、暖地では11月にもうこの状態。来月あたりには開花して花粉を飛ばし始めるかもしれません。

 ヒガンバナの原っぱ

 林立していた彼岸花の茎は跡形もなくなって、今度は葉が伸び始めました。これから競争相手のいなくなったこの原っぱで冬の光を存分に浴びて養分を地下の球根に蓄えるのです。

 リュウノウギク

 香りの高いキクが咲いていました。リュウノウギクです。漢字で書くと「竜脳菊」。龍脳とは東南アジアに生育するリュウノウジュ(竜脳樹)から採れるアルコールの一種で、古くから香料として用いられてきたもの。このキクの香りがその竜脳に似ることから名が付いたのだそうです。花に顔を寄せてみるとちょっと防虫剤の原料の樟脳に似た臭いがします。

 遊歩道

 遊歩道に落ち葉が絨毯を織りなしています。しっとりとした午後のひととき、こんな小径を歩くのもなかなかいいものです。林の奥でヒヨドリの鳴き声が静寂を破り、そしてその余韻を引いてまた静かな空間にもどっていきました。

 トチノキ

 こちらはトチノキの落ち葉が敷き詰められた小径。春から夏、秋へと光を一杯に浴びて光合成をしてきた葉たちが、今はその役目を終え、静かに散っていきます。
 
 季節は足早に冬に向かっています。生きものの多くはその活動を休め、また、自らの命を次世代につなぎ終えて朽ちていく、そんな時期がやってきます。でも、それは次の春を迎えるまでのつかの間の沈黙。これまでここで見てきた輝くような生命の活動をまた来年も見せてくれる、そのためのいわば準備期間なのです。
 さあ、来月はいよいよ定点観察最終回。師走の武蔵野はどんな姿を見せてくれるでしょうか。
 
 

  武蔵野台地と野川公園