野川公園 〜文月の武蔵野〜


 

【平成19年7月16日(月) 東京都 調布市】
 
 梅雨らしい日々が続いています。大雨こそないものの、ぐずついた空模様です。今日もいまにも降り出しそうな天気。これまでの定点観察は毎回晴天だったので、今回はちょっと違った雰囲気を味わえるかもしれません。

 トウカエデの林

 駐車場から芝生広場に行くにはトウカエデの林を抜けることになります。
 ここはいつ歩いても気持ちのよい場所です。

 ロウバイの偽果

 広場の奥にあるロウバイ。毎月観察してきたのですが、ここに来て大きな変化が。なんとこの1ヶ月のうちに偽果が一気に乾燥してしなびてしまいました。先月はこんな感じだったのに。晩秋から冬にかけてゆっくりと乾燥していくかと思っていたのですが、ちょっとビックリです。この姿のまま年明けまで、あと半年以上枝にくっついているのです。なぜだろう、早々としなびるわりにはいつまでも枝にくっついてるとは。中の果実(種子のように見えますが果実です。)は完全には乾燥していませんでした。果実はこの状態から熟していくのでしょうか。ひょっとしたら偽果を枯れたように見せることで中の果実を鳥などから守るという戦略か?ムムム…。

 野川

 野川を渡ると自然観察園です。先月水辺や土手には夏草が茂っていましたが、いつの間にかきれいに刈られていました。確かに子供の頃も田舎ではこの時期に河原の土手の草刈が行われていました。この部分だけを見ると懐かしいあの頃を思い出します。野川にもうちょっと水量があれば今でも子供たちの格好の遊び場になるのですが。

 シロザ

 観察園に入って最初に出会ったものはシロザでした。先月見た若葉の紅いアカザはこのシロザの変種です。

 チダケサシ

 これから夏本番にかけて花が少なくなる時期。そんな中でもこの観察園にはいくつか花を付ける植物がありました。まずはこのチダケサシ。山野のちょっと湿ったところに生えるユキノシタ科の植物です。薄桃色の花が涼しそう。名を漢字で書くと「乳茸刺」。チダケサシの茎は強くしなやかで、山野で採集した乳茸(ちちたけ、ちだけ)をいくつもこの茎に刺して持ち帰ったことから名が付いたということです。

 ウマノスズクサ

 園内の生け垣にウマノスズクサの花を見かけました。なんとも不思議なこの姿。ラッパのような形をしていて、細い管の根元には球形の部屋があります。地面に落ちていた花を拾って、二つに裂いてみたところが右の写真。この構造には合理的な理由があるとのこと。それはこういうことだそうです。まず、臭いで小型のハエを誘い、管の根元の丸い部分に導きます。管の内側には歯ブラシのような毛が根元側に向かって密生していて、奥まで入ったハエが外に出られなくなる構造になっています。ハエは雄しべが熟すまでこの部屋に閉じこめられます。やがて雄しべが熟すと管の内側の毛が萎縮して通り道が開き、花粉を体に付けたハエが外に飛び出すという仕組みです。へぇ〜、ウマノスズクサの全く無駄のない戦略に脱帽です。(右の写真は管の内側の毛が萎縮した状態です。)

 ベニバナボロギク

 アフリカ原産のベニバナボロギク。タンポポのように大きく開くことはなく、これでも満開の状態です。ルーペで見てみると雌しべの柱頭が「γ」形になって飛び出しているのが分かりました。この花の名前はちょっとかわいそうですが、花が終わった後の白い冠毛がボロ布のようだということで名前が付いたとのことです。

 オカトラノオ

 草原の花、オカトラノオです。白い小さな花が根元側から先端に向かって時間差で咲いていきます。名前の由来は丘に咲く虎のしっぽに似た花ということでしょう。他に湿地に咲くヌマトラノオというのもあります。

 メハジキ

 なんか前衛芸術のようにも見えるメハジキ。シソの仲間です。別名を益母草(やくもそう)といい、この時期に刈り取って乾燥させたものを産前産後の保健薬にしたのだそうです。

 ヤブミョウガ

 ヤブミョウガは茎の先に白い花を輪生状に付けます。薄暗い林をバックにしているのことが多いので、そのコントラストが鮮やかで、夏の野山歩きでは印象の深い花です。この花、意外ですがツユクサの仲間です。

 イヌゴマ

 イヌゴマの茎には4稜があり、その断面は四角形。これはシソ科の植物に共通する特徴です。名前は、果実がゴマに似るものの食用にはならないことから。植物の名前では、人間の役に立たないものに「イヌ」という言葉を付けているものが少なくありません。イヌにとっては失礼な話ですよね。あんなに人間様に忠実なのに。イヌゴマの他にも、イヌアワ、イヌビエ、イヌガラシ、イヌムギ、イヌヨモギ、イヌホオズキなど、いろいろあります。

 ハンゲショウ

 白いカラースプレーを葉に吹き付けたようなハンゲショウ。ちょうど花も咲いています。この葉が白くなる現象はすべての葉に起こるのではなく、先端に近い数枚のみ。しかも1枚の葉の全部が白くなることは通常ありません。葉の表側の葉緑素が抜け落ちるからだそうです。

 園内

 園内にはほとんど風が吹いていませんでした。天気も曇りで、こういうときは写真を撮るには都合がよいのですが、ちょっと蒸し暑いですね。虫除けスプレーを吹きかけているので、蚊に悩まされることはありませんでした。

 リョウブ

 先月まだ蕾だったリョウブが花を開かせ始めていました。
 リョウブの幹は鹿の子模様が美しく、すべすべしているので、昔は床の間の床柱として利用されていたそうです。そのほか、材は器具材や細工物に利用されるなど、人間との関わりが深い樹木のようです。

 ノカンゾウ  ヤブカンゾウ

 ノカンゾウとヤブカンゾウ。この花たちもこの時期に野山でよく見かけます。一重咲きのノカンゾウに対して八重咲きのヤブカンゾウ。ヤブカンゾウが八重なのは花の中心部にある雄しべが花弁化しているからだそうです。図鑑には「ふつう結実しない」とありますが、この日はさく果のような物を見かけました。ときには結実するのでしょうか。
 山あいの小さな草っ原に揺れているイメージが強いノカンゾウ。どちらかというと人家の周辺にはヤブカンゾウの方が多いような気がします。ヤブカンゾウの若葉は山菜として、酢味噌に和えて食べると美味しいですよね。

 ヤブラン

 ヤブつながりで、こちらはヤブラン。ランと名が付いていますがラン科ではなくユリ科です。

 ヤマユリ

 今度はユリつながりで。ユリの中でも大型で華やかな姿をしているヤマユリ。花の直径は20pくらいあります。この花には照りつけるような夏の日差しが似合いますね。

 かがみ池

 先月、ほとんど水がなかったかがみ池。今日はいつものとおり満々と水を湛えていました。小魚たちも戻ってきたでしょうか。

 ところで、今日は海の日。ハッピーマンデーになってからというもの、どうも何の祝日だったかを忘れがちです。もともと祝日のなかった7月に、という趣旨で海の日を7月に置いたのでしょうが、毎年梅雨のさなかなので(当初は7月20日でした)、いまひとつしっくりきません。もっと真夏にすればよかったのに、8月初旬とか。ひょっとしたら海の日をいつにするかの議論の過程で、学校の先生の団体から夏休み期間中は避けるように圧力がかかったのかも(笑)
 
 さあ、もうそろそろ梅雨明けでしょうか。
 

  武蔵野台地と野川公園