野川公園 〜神無月の武蔵野〜


 

【東京都 調布市 平成19年10月13日(土)】

 街角にキンモクセイの香りが漂いはじめると、朝の空気もどこか白っぽく見え、通勤の人々の装いも落ち着いた色のものに変わっていきます。東京もすっかり秋めいてきました。
 さて、10月の野川公園です。ここも秋の装いを身にまとっているでしょうか。

 クヌギ林

 いつもは駐車場からヒマラヤスギの林、トウカエデの林を抜けて芝生広場に向かうのですが、今日は公園の西側にあるクヌギの林を歩いてみることに。賑やかな歓声が聞こえてくるのは、隣にあるアメリカンスクールで運動会をやっているからです。

 クヌギ

 クヌギの実がたくさん落ちていました。メデューサの髪のような殻斗が特徴です。ほとんどの実は地面に落ちた時点で殻斗から外れてしまっていました。というより成熟した実を落とすために細長い鱗片を開ききっているのです。なので、写真は撮影用に組み合わせたものです。殻斗は雌花の苞葉が融合したもの。その役割はまだ若い実を守るためのものです。

 落葉

 東八道路の手前側にある桜並木。もうすっかり葉を落として、木々の下に赤茶色の絨毯を広げていました。秋ですねぇ。

 野川

 野川の川面には夏の日の輝きはなく、子供たちの嬌声もありません。川端の柳の色もちょっとくすみ気味。しっとりと落ち着いた秋の休日です。

 イシミカワ

 自然観察園の園内に入ると、ちょっと変わったものが。イシミカワの果実です。同じタデ科の植物のママコノシリヌグイなどと同じく、茎に下向きの刺があって、これで他の植物にからみつきながら伸びていきます。花は緑色で小さくて目立ちませんが、やがてその花被が肉厚になって果実を包んで、写真のような状態になるのです。果実の色は、緑白色→紅紫色→青藍色に変化していき、写真でも下の実から熟していったことが分かります。

 カラスノゴマ

 前月、花を見たカラスノゴマの果実が実っていました。まだちょっと若い感じ。観察用に2つほどもらって、中を見てみました。すると確かにゴマのような果実が並んでいます。(先月見た花

 コメナモミ

 こちらはメナモミの小型種ということでコメナモミ。山野の荒れ地などに生えています。一見雑草、でもルーペで見るとびっくりするほど華麗な花、といった花の代表格です。同じキク科にオナモミ(ひっつき虫で有名な)という植物があり、語源はそれぞれ「菜揉み」だとか(他説あり)。いにしえに強壮薬を作る際、これらを含む数種の植物を揉んで醗酵させたことに由来するのだそうです。その主原料となった植物のうち、全体的な姿の印象としてがっしりとしたものに「雄」の字を、繊細なものに「雌」の字を冠したのだと考えられています。
 ちなみに、この「雄」と「雌」は他にもいくつかあって、キく科のオタカラコウ(雄宝香)とメタカラコウ(雌宝香)、イネ科のオヒシバ(雄日芝)とメヒシバ(雌日芝)、同じくイネ科のオカルガヤ(雄刈萱)とメカルガヤ(雌刈萱)などがあります。

 シュウメイギク

 「秋明菊」という名とその姿からキクの仲間と思われがちですが、じつはキンポウゲ科。キクとは縁もゆかりもありません。古い時代に中国から渡来したものと考えられていて、京都の貴船に多く見られたことから貴船菊とも呼ばれています。紅い花弁のように見えるのは萼片で、本物の花弁はありません。これはキンポウゲ科の花ではお馴染みの構造ですね。

 ホトトギス

 ホトトギスという名は、花冠の斑点を鳥のホトトギスの胸模様に見立てたことからだとか。と言うことは、鳥の方が先に名前が付いていたということになりますね。でもこの模様、今風にいうならヒョウ柄です。

 クマノミズキ

 まるでサンゴのような花序。散策路にいくつか落ちていました。これはクマノミズキの花序です。この時期、野山を歩いていると、枝先がほんのりと紅くなっているこの木をときどき見かけます。枝先に付いている黒い果実は鳥たちの大好物。鳥たちがこの実を食べることによって種子を散布してくれるのです。
 

 シモバシラ

 このシモバシラはビックリするような特徴をもっています。冬になって明け方に気温が氷点下になる頃、枯れた茎の根元に氷でできた霜柱を作るのです。本物の霜柱は垂直方向に成長しますが、シモバシラからできる霜柱(ややこしい!)は、まっすぐに立っている茎から真横に成長するのです。なんで?ってかんじですが、からくりはこう。地上部が枯れても地中は暖かく根は生きているので、ぐんぐん水を吸い上げます。それが茎の導管から染みだし、外気に触れて凍り始めます。氷が成長すると茎が破れ、そこからまた水が染みだしどんどん大きく成長するという仕組み。最後は導管も破れてしまい、地中も凍って水を吸い上げられなくなって、この霜柱は見られなくなってしまうのです。ヤマハッカやシロヨメナなど他にも霜柱を作るものがあり、作るか作らないかの決め手はどうやら水を吸い上げる力の強さのようです。

 キバナアキギリとイヌショウマ

 日当たりのいい丘には一面にキバナアキギリの黄色い花が。その中のところどころから背の高いイヌショウマの茎が立ち上がっています。そしてその先端で小さな白い花を咲かせていました。

 サクラタデ

 花のサイズは小さいものの、その色は春爛漫の桜そのもの。湿地を埋めつくすサクラタデはなかなか壮観でした。

 オナモミ

 おっと、これがオナモミの果実。強烈なイガイガっぷりです。

 ヒガンバナの原

 先月、この原っぱを真っ赤に染めたヒガンバナたち。今はみごとに花殻の状態に。秋が深まってくると今見えている地上部はすべて消えてしまって、次に葉が生えてくるまで何もない状態になってしまいます。

 サワフタギ

 コバルトブルーの果実を付けているのはサワフタギ。花は純白で、5月に開花します。(花はこちら) あれから5ヶ月をかけてようやく果実を実らせました。

 ジョロウグモ

 この時期によく見かけるクモの一つ、ジョロウグモ。産卵を控えて腹部が大きくなっているからよく目立つのです。漢字では「女郎蜘蛛」と書くのが普通ですが、本来は「上臈(じょうろう)蜘蛛」であるとする説があるとか。上臈とは身分の高い女官のことで、女郎(≒遊女)とは対極にある言葉のようですが、もともと女郎という言葉自体が上臈の変化したものとのことなので、どちらが正しいということではないようです。それにしても女郎の語源が上臈だなんて、なにか悲しい物語がありそうな気がしますね。

 シロヨメナ

 季節はもう10月も半ば。木々や草花は様々な果実を実らせていました。あるものははじけて地面に散り、あるものは人や動物にくっついて遠くへ運ばれ、またあるものは鳥に食べられその分布を拡大していきます。みな、このときのために春先から頑張ってきたのです。本当にお疲れ様でした。


 


 アオギリ

 芝生広場の縁にあるアオギリが実を付けていました。アオギリが子孫を残すのにこの形を選んだ理由は何なんでしょうか。
 
 

  武蔵野台地と野川公園