野川公園 〜皐月の武蔵野〜


 

【東京都 調布市 平成19年5月12日(土)】
 
 早いなぁ、もう一ヶ月経ってしまいました。この時期、ちょっと目を離していると野山の姿はガラッと変わってしまいます。
 さあ、野川公園はどんなふうに変わったでしょうか。

 トウカエデの林

 駐車場からヒマラヤスギの林をぬけると、その先にトウカエデの林が広がっています。先月はまだ枝に若葉を付けはじめたばかりで、まだ林全体が明るかったのですが、今はもう濃い緑の葉が茂り、それが木陰を作っています。寒いときには日の光を大地に届け、暑いときには木陰を作ってくれる。自然って賢いですね。

 広場

 広場にも爽やかな風が吹いています。ビールでも飲んでごろーんと大の字になりたい感じです。

 クヌギ

 先月、花を付けていたクヌギ。そのときは葉はまだ柔らかく黄色っぽかったですが、今は緑色が濃くなり硬くなっていて、風に吹かれてサラサラと音をたてていました。これから晩秋になってその梢を離れるときまで、光合成をして栄養を作り続けるのがこの葉たちの役割です。がんばれ、若葉!

 ロウバイ

 こっちは2月から観察しているロウバイ。先月の状態と比べて偽果の赤い色の部分が大きくなっているようです。また上半分が赤いのは日光を浴びているからでしょう。タコの足のような形の部分もなんかかわいいですね。葉も大きく茂ってきていて元気いっぱいです。

 キンラン

 クヌギ橋の手前の丘の斜面、大きな木の下にこんな花が咲いていました。林床の宝石、キンランです。昔はこんな花があちこちで見られたんでしょうね。

 シダレヤナギの葉が茂り、風に揺れています。野川の中に入って遊んでる親子。コンクリート護岸されていないのでいろんな生きものが潜んでいるかもしれません。子供の頃、スンドリ(砂利をすくう馬蹄形のザルのようなアレです。)で川岸の藪の中をザクザクとすくい、ハヤなどを捕っていたものですが、今の子供達はそんなことはしないんでしょうね。
 さあ、今日もこの橋を渡って自然観察園に向かいましょう。

 園内には早くも夏草がしげっていました。先月と比べて草の丈がずいぶんと大きくなっています。

 ムサシノキスゲ

 先月一株だけ咲いていたムサシノキスゲですが、今日は草原のあちこちに咲いていました。生育場所も限られ、まだ正式な学名もないという希少な植物です。

 ケキツネノボタン

 葉が牡丹のそれに似ていることから名が付いたキツネノボタン。茎などに毛が多いものは別種でケキツネノボタンといいます。以前は田んぼの畦などでよく見かけました。今でも郊外に行けばめずらしくはないのかもしれません。
 ある植物に似ているもののそれよりも小さかったり人の役に立たないものだったりすることから「イヌ」とか「カラス」とかが名前に付く植物があります。イヌザンショウとかカラスムギとかがそうですが、これは「キツネ」です。ひょっとして、牡丹と見間違って狐にだまされたようだということでしょうか。

 ウグイスカグラ

 2月に訪れたときに花を付けていたウグイスカグラ。今日はみずみずしい果実を付けていました。子供の頃、近所の庭木からこの実を採って食べていました。これより二回りくらい大きいグミの実に比べると断然甘く、グミには手を付けずにこっちばかり食べていた記憶があります。当時からこれはいったい何の実なんだろうと思っていました。

 気持ちの良い木漏れ日。数ヶ月前の冬の園内とはまったく異なる様相です。ただ歩いているだけで十分に満足。ここが都会の一角だとはにわかには信じがたい感じです。

 ホウチャクソウ

 先月訪れたときに咲き始めていたホウチャクソウ。今はもう花の時期も終わりに近づき、中には実を結びつつあるものも。この実はこれから熟していくにつれて大きく黒く丸くなっていきます。

 エビネ

 エビネがこんな明るい藪の中に生えているのを見ることはあまりありませんよね。だいたい薄暗い林の中とかが多いと思います。野山では盗掘が横行し野生のものを見ることは希ですから、こんな形であっても庭園で見るよりは自然っぽいのかもしれません。

 林間のエリアから開けたところにやってきました。昭和30年代頃までは都内でもこんな風景があちこちにあったんだと思います。

 チョウジソウ

 森の奥などの湿地に生えることの多いチョウジソウ。ここは日当たりが良すぎるせいか、花の色が薄いように思います。いままで見てきたチョウジソウはもっと紺色が濃かったですが。
 チョウジソウの名の由来は花冠を横から見ると「丁」の字の形をしているから。なるほどです。

 キショウブ

 菖蒲といえば純和風な感じがしますが、このキショウブはヨーロッパ原産で明治時代に日本に入ってきたものだそうです。現在では全国に帰化しているのだとか。それにしても綺麗な黄色ですね。

 ヒガンバナの原っぱ

 先月にも増してヒガンバナの姿が少なくなってきています。他の植物の進出と入れ替わるようにその姿を消していきつつあり、おそらく来月にはこの原っぱは他の植物に覆われていることと思います。次にヒガンバナに出会えるのは4ヶ月後。わずか1週間ほどで茎を60pも伸ばし真っ赤な花を咲かせるのです。その時には葉は一切ありません。ヒガンバナは花の時期と葉の時期とが完全に分かれているのです。

 クサノオウ

 1月から観察を続けているクサノオウ。はじめは小さなロゼットだったのに、今では直径1mほどの株に成長しています。ケシ科の花の特徴をよく表している花冠。写真の右下には若い果実が写っています。

 サワフタギ

 純白で気品のある花をたくさん付けるのはサワフタギ。秋にはコバルトブルーの果実を実らせます。自然観察を始めたばかりのころ、このサワフタギの果実を見てびっくりしたことをよく覚えています。なにしろとても自然界の色とは思えないほど鮮やかだったからです。今度また10月に来るときを楽しみにしておきましょう。

 ハルジオン

 こんなありふれた花であっても、まずはじっと見つめてみること。きっと新しい発見があるはずです。見慣れた花であればあるほど、その時の感動が大きいもの。たとえばこのハルジオン。蕾のときは下を向いてうつむいているのに、花が開くとピンと背筋を伸ばすのです。こんなことに気がつくだけでも親しみを感じてしまいます。ところでなぜうつむいているのか。清楚な花だけに、蕾もきっと恥ずかしがり…なわけないですね。

 野川

 野川の土手も柔らかな夏草に覆われました。来月にはもっと濃い緑の逞しい草に成長しているでしょう。これがうちの田舎あたりだとそろそろ草刈をしたりするのですが、ここではどうなのでしょうか。ずっとこのままというのも良いのでは。それはまた一月後に来たときに分かりますね。
 
 

  武蔵野台地と野川公園