生田緑地 〜多摩丘陵の秋・9月〜


 

【川崎市 多摩区 平成20年9月27日(土)】
 
 9月も終盤、もうすっかり秋です。この前までザンショザンショとセミが鳴いていていましたが、そろそろ10月の声を聞くようななるとさすがに季節の交替を感じざるを得ません。
 さて、9月の生田緑地。何か面白いものはあるでしょうか。

 谷地へ

 いつものとおり西口駐車場にドリーム号を停めて、観察開始。さすがにまだヤブ蚊がいるので、虫除けスプレーをしっかりと振りかけてからのスタートです。
 生田緑地は、この尾根筋をはさんで北側は自然観察路のある谷地となっていて、里山そのもののようなエリアですが、南側には茅葺きの日本家屋などを何軒も移築して展示してある日本民家園とか岡本太郎の美術館がある、若干公園の色合いの強いエリアになっています。それでも自然の地形を利用した緑豊かな場所です。多くの人は東側にある正面入口から入って、主に尾根から南側の方を訪れるのです。

 ヤブマメ

 つい見逃しそうになったのはヤブマメ。この花の後にやがて実を付けますが、同時に地中に伸びた茎にも閉鎖花があってこちらにも実を付けます。地上にできる実は、他の植物と同じように、他の個体の遺伝子と混ざることで多様化した子孫を広く拡散させる役割を負っていて、一方、地中にできる実は、自分のクローンで、仮に地上の花が結実しなかった場合でもとりあえず来年に向けて生き残れるようにとバックアップの役割を負っているのです。なかなか危機管理ができています。

 夏の疲れ

 自然観察路にはなんとなく夏の疲れのような雰囲気を感じます。厳しい暑さを乗り切って、これからようやく実りの秋を迎えようというところでしょう。

 ヤブミョウガ

 ヤブミョウガの液果です。濃藍色で表面が少し粉を吹いたようになっています。

 クヌギの林

 この場所は谷地の斜面に当たるところで、辺りはクヌギ林。これがもう少し下って谷地の水が集まる部分になると湿った場所を好むハンノキの林に変わっていきます。

 観察デッキ

 斜面から谷地の谷筋に下りていくと観察デッキがあります。この向こうには斜面からの水を集めた小さな池があり、春先にはヒキガエルの卵なども見ることができます。

 ノダケにヒメスズメバチ

 先月見たノダケにヒメスズメバチが来ていました。こんな小さな花からも蜜を集めているんですね。ちょっと意外です。

 ツリフネソウ

 今回、最も印象的だったのはツリフネソウ。ちょっとした谷地の全面を紫の絨毯で覆い尽くしていました。きっと何万個かの花が咲いていたと思います。

 ヒガンバナ

 まだヒガンバナも咲いていました。深まる秋を感じます。それにしてもこの造形。自然が創り出したまさに「神業」です。

 カシワバハグマ

 おっと、これはカシワバハグマ。こんなところでもお目にかかれるとは。

 サトイモ畑

 いつもの畑まで下ってきました。里芋の葉が大きく伸びています。もうそろそろ収穫ですね。地上に伸びている茎(正しくは葉柄)も食用になり、これをズイキと呼んでいます。
 里芋はボルネオなどのジャングル地帯で食用にされているタロイモの仲間で、その仲間の中ではもっとも北方で栽培されているものなのだそうです。日本には縄文時代に伝わってきたと考えられていて、山地に自生する山芋に対して里芋と名が付いたそうです。確かに里で栽培されていますよね。

 収穫近し

 今年は台風が1個も上陸していないのに水田のイネが倒れていました。ちゃんと立っているところもあるので、ちょうどここが風の通り道だったのかもしれません。稲穂を見てみるともうすぐ収穫できそうな実の入りでした。来月訪れたときにはもう刈り取られているでしょうね。

 定点写真

 さあ、いつもの定点写真の場所です。ちょっと分かりにくいですが、ヤブガラシが全面を覆っていて、手前のアシには花が咲いています。ここが住宅街のど真ん中にあるなんて、この写真からは想像ができませんよね。いつまでも残していってほしい自然です。

 ミゾソバ

 このミゾソバも大きな群落を作っていて、ピンクのかわいらしい花をたくさん咲かせていました。花被の先端部が濃い色になっていて、よくみると花屋さんに並んでいる園芸品種たちにも決して引けをとっていません。ミゾソバは花が終わると花被が閉じて袋状になり、中の果実を包み込みます。

 コブシ

 コブシの集合果が裂けはじめています。中にある朱いのが種子。この集合果がもう少し大きく裂けだすと種子がむき出しになってポロッと…は落ちずに、糸状のもの(珠柄)でぶら下がるのです。何故だろう。ぶらぶらと揺れて鳥に見つけてもらいやすくするためだろうか。

 戸隠不動跡へ

 谷地の出口近くから戸隠不動跡への参道に入ります。なだらかな上りになっていて、ここからは尾根筋の道になります。

 東の谷地

 戸隠不動跡からいったん東の谷地に下りて、そこから東西の谷地を分ける中央の尾根筋を辿ることにしました。今日は登ったり下りたりのコースです。

 シラヤマギク

 えっちらおっちらと登っていると、足下にシラヤマギクが。舌状花の数が少なめなのが特徴で、写真のように間がスカスカであることが多いです。

 急階段

 最後の上りとなる階段。登りきった上から写したものです。ここからは生田緑地を南北に分かつ尾根に沿って西口駐車場を目指します。
 今回の観察を振り返ってみると、谷地の水が集まる谷筋にはまだたくさんの花が咲いていて、逆に尾根筋は乾燥していて花はわずかしか出会えませんでした。これから少しずつ寒くなっていくと乾燥の度が増してきます。いよいよ花は少なくなっていくでしょうね。次回は更に秋が深まっているでしょう。
 
 

  多摩丘陵と生田緑地