生田緑地 〜多摩丘陵の春・3月〜


 

【川崎市 多摩区 平成20年3月23日(日)】
 
 3月も下旬となりずいぶん暖かくなってきました。早いところでは桜がもう五分咲き。来週あたりは花見にちょうどよいタイミングでしょう。
 さて、今月の生田緑地はどんな感じなのか。どんどん紹介していこうと思います。

 コナラの発芽

 観察路の脇の斜面でさっそく出会ったコナラの発芽。辺りにいくつも見かけました。でも実生から成木にまで育つのは、よっぽど幸運に恵まれたドングリです。成長の早い草たちに頭の上を覆われる前に、ぐんぐん育って光の争奪戦に勝ち残れ。頑張れドングリ、です。

 ウグイスカグラ

 ウグイスカグラの花をローアングルから。この時期、まだ葉も柔らか。春の日差しを透かして明るく輝いています。ウグイスカグラはスイカズラ科の落葉低木で、名は漢字で「鶯神楽」と書きます。なにやら曰くありげな名前ですが、その由来には諸説あるとのこと。有力なものとしては、この木は小枝が茂るので「鶯隠れ」から転訛したものとか、この木の実を食べるためにウグイスが舞うように枝を行き交う様を表したものとか。実際、実は赤く、そして、みずみずしく甘いので、yamanekoも子供の頃よく食べていました。

 キブシ

 淡い黄色が鈴生りに揺れているのはキブシの花。何とも言えない清楚な黄色です。この花は森の木々が葉を茂らせる前に咲くので、いつも明るい背景で写真を撮ることが多いです。

 ヒュウガミズキ

 出だしからいろいろな花が迎えてくれます。こっちの黄色は少し濃いめ。ヒュウガミズキです。同じマンサク科の近い仲間にトザミズキやコウヤミズキ、キリシマミズキなどもあり、日向、土佐、高野、霧島と地名を冠した名前が特徴的です。みんなこの時期に黄色い花を枝先からぶら下げるように咲かせています。

 モミジイチゴ

 次々と紹介しましょう。純白の花弁はモミジイチゴ。鋭い刺に要注意です。やっぱりバラ科の植物ですね。あと2ヶ月もするとべっ甲色に輝く甘酸っぱい果実をたわたに実らせます。山歩きをしていてこれに出くわすと、時間を忘れて食べてしまうんですよね。ちなみにモミジイチゴは東日本に分布していて、西日本には葉が縦長なナガバモミジイチゴが分布しています。(いずれもモミジと名が付くだけあって、葉はモミジのように5裂しています。)

 ヒメカンスゲ

 冬の寒さにも耐えて緑の葉を茂らせるカンスゲ(寒菅)。小柄な種なので、ヒメカンスゲです。オートフォーカスでピンを合わせるのが大変でした。

 春の雑木林

 丘の上から下を覗くと谷地の底まで見通すことができました。木々がまだ葉を展開していないからですが、来月はもう無理だと思います。

 ヒキガエルの卵

 池の中に何やら異形のものが。カエルの卵です。紐状なのでヒキガエルの仲間のものだと思います。左の方は今にもゼリー状の紐から飛び出しそうな勢いです。これが全部育ったらさぞやうるさいでしょうね。でも、ここにいったい何万匹いるか分かりませんが、このうちのほとんどは他の生物の餌となって、この谷地の生態系維持に貢献しているのです。

 ザゼンソウ

 ぽつんとザゼンソウが。茶色い仏炎苞がひしゃげて、そこからみずみずしい若葉が伸びつつあります。これからどんどん成長して驚くほど大きな葉になります。ちなみに、サトイモの仲間です。

 明るい谷地

 こういう風景の中をゆっくりと歩いていると、なんか日頃の澱が溶け出していくような気がして。なんともいえず…、いいなぁ。

 ヤブツバキ

 満開のヤブツバキ。まさに今が盛りです。この花が散るときは花冠のつけ根からぼとっと落ちるので、それが斬首を連想させるとして、昔、武士は自宅の庭にヤブツバキを植えることを嫌ったのだそうです。
 この花冠を取って根元を吸うと甘い蜜の味がするので、子供の頃野山でこの木を見つけるとよくやっていました。

 梅園

 少しずつ谷地を下っていきます。畑の向こうに梅園があって、ウメがちょうど満開でした。ちょっと遅いような気もします。ベンチもいくつか設置されていますが、誰もいませんでした。南にある生田緑地の公園部分には大勢の人が訪れているのに、ちょっとした穴場ですね。

 代掻き前

 梅園を過ぎると小さな田んぼ。水が張られていて、冬の間に積もった枯葉が底でじっとしていました。これからこの水がぬるんでくると代掻きです。これは田植えの準備で、水を入れた状態で土を砕き掻きならす作業。その際、空気や水と共に枯葉なども梳き込まれ、田んぼの土は栄養豊かになるのです。また、こうすることによって漏水を防いだり、田の面を平らにして田植えをしやすくする効果もあるのです。昔は(今でも田舎では)里山のあちこちで見られた風景です。

 ブルーの絨毯

 この時期の主役(といってもあまり注目はされませんが)の花、オオイヌノフグリ。びっしりとブルーの絨毯を広げていました。この上に寝っ転がって目を閉じて、春の日差しをまぶた越しに感じるってのも気持ちいいでしょうね。

 定点写真

 先月は雪が積もっていた野原に緑の新芽がふいています。これまでの風景とはずいぶん印象が違いますね。ここは二つの谷が出会う場所。上流から流れてきた土が積もってできた原っぱです。初夏には草の丈が伸びて、ヨシも生い茂るかもしれません(枯れたヨシがまだ残っています。)。その前に木々が葉を広げるでしょうね。

 コブシ

 谷地の出口までやってきました。薄黄色の小さな花を鈴生りに付けるのがキブシ。そしてこれはコブシ。この木も葉を展開させる前に花を咲かせるので、淡く清々しい印象を受けます。ソメイヨシノなども同じですね。
 花冠の中央にあるベージュ色のものが雄しべ、真ん中の緑色のものが雌しべです。ちょっと変わった形ですが、このコブシをはじめ、タムシバやホオノキ、オオヤマレンゲなど、モクレン科の仲間にはこんなタイプのものが多いです。

 エドヒガン

 戸隠不動跡までやってきました。早くもエドヒガンが満開でした。この木はソメイヨシノより一足早く、ちょうど春の彼岸の頃に咲くのです。うん、やっぱりサクラには青空がよく似合います。

 アブラチャン

 今度は東側の谷地へ。アブラチャンが透明感のある黄色い花弁を広げていました。直径1p足らずの小さな花です。このアブラチャンも早春に出会う花です。名前のとおり樹皮や枝葉から油が採れ、香気があるので昔は髪につける油や灯油として利用されていたそうです。ちなみに「チャン」は愛称ではなく、漢字では「瀝青」と書き、ピッチ状の防腐塗料のことです。

 木漏れ日

 東の谷地の奥には散策路がないので、鬱蒼とした様相を呈していますが、今はまだ木漏れ日が差し込んでいて明るい雰囲気です。

 ヒサカキ

 ヒサカキの花が咲いていました。周囲に独特の香りを漂わせながら。この香りを嫌だという人もいますが、yamanekoとしては、春の山の匂いとして心が弾む香りと感じています。今年も本格的に春が来たのです。
 
 いやぁ、春でしたね。今月の生田緑地。来週あたりにはソメイヨシノが咲き始めるかもしれません。そうしたら、ここを訪れる人も増えるでしょうね。本来はありふれた自然だったものが、都市化の中でわずかに開発を免れたことにより貴重なものとなってしまった「閉じた世界」。多くの人にその「世界」のかけがえのなさを知ってほしいと思います。
 さて、来月は如何に。初夏に向かっての変化が楽しみです。
 
 

  多摩丘陵と生田緑地