生田緑地 〜多摩丘陵の春・5月〜


 

【川崎市 多摩区 平成20年5月24日(土)】
 
 5月も下旬となり、夏日を観測することも多くなってきました。街路樹の葉も本来の姿に茂っています。
 さて、5月の定点観察。今日は帰りに新宿で買い物をしたいので、車ではなく電車で生田緑地に向かいます。新宿で小田急線に乗り換えて、向ヶ丘遊園駅まで約20分。そこからは民家の横の路地を歩いて10分で自然観察園の北口に到着します。

 自然観察園北口

 そこは住宅地の奥に突然現れる階段から始まります。左右に門柱のようなものがあり、この奥にある戸隠不動(数年前に焼失)の参道入口として整備されたものだと思います。

 自然観察園入口

 最初の写真の階段を上ってすぐのところに右手に下りる階段があり、そこを下りると上の写真の場所。実質的にここが自然観察園の入口です。写真中央奥の鈎型に左に折れるところに、いつも観察しているコブシの木が見えます。

 コブシの若い果実

 コブシの若い果実です。樹名の元ともなったごつごつした姿が少しづつ現れてきています。(先月の様子2ヶ月前の様子

 葦原

 背の高い枯れた去年のアシを圧倒するように若いアシが伸びてきています。谷地の奥からゆっくりと流れてきた水が、この辺りで更にスピードを緩め、アシによって水質が安定化された上で谷地の外に流れ出していきます。また、この葦原は外敵から身を守るのに都合がよいことから、たくさんの生物の生活の場となっているのです。

 定点写真

 毎月同じ地点、同じアングルで撮っている定点写真。先月からまた一層緑が濃くなりました。アシの丈も伸びています。冬場には木々の足下にまで日差しが届いていたのですが、今は黒々とした木陰となっています。真夏には木々が涼しい空間を作ってくれるのです。

 シオカラトンボ(♀)  産卵

 シオカラトンボといえば薄水色というか灰色というか、そんな色のトンボという印象がありますが、雌はこんなタイガースカラーをしています。ホバリングをしながらときおり尾を水面にチョンチョンとつけて産卵をしていました。水面を滑るようにスイスイと飛ぶトンボ、本当に気持ちよさそうです。

 カルガモ

 夫婦でしょうか、カルガモが2羽のんびりとしていました。ときおり泥を浅く梳くようにして餌を採っています。こうやってみると地味な鳥ですが、羽を広げると鮮やかなメタルブルーの翼鏡(カモ類の次列風切り羽にある光沢のある部分。)がよく目立ちます。飛んでいるときだけに見せる隠れたおしゃれです。

 シロダモ

 シロダモの若葉。芽吹いたばかりのときは黄金に輝く軟毛に覆われていますが、今はそれもとれて濃い緑色の堅い葉へと少しずつ変化していく過程です。

 ニホンカナヘビ

 観察路を歩いていると素早く動く影が。ニホンカナヘビです。カナヘビは「ヘビ」と名が付いてはいるもののトカゲの仲間。青い金属光沢のニホントカゲに比して地味な色合いですが、その姿は全体にスマートで精悍な印象を与えます。yamanekoはどちらかというとカナヘビの方が好きですね。

 エゴノキ

 今日の主役はやっぱりエゴノキだったと思います。上の写真の株に限らず、園内のあちこちで満開の枝を広げていました。おもわず感嘆のため息を漏らしてしまうほどです。

 エゴノキは枝の下にびっしりと白い花を付けます。おそらく上から見たらなんのことはない緑の樹木に見えるでしょうが、下から見上げると一面真っ白。それは見事という他はありません。
 エゴノキは、その実を口に入れると喉や舌を刺激してえぐいことからその名が付いたといわれています。実際に果皮にはサポニンという毒素があって、昔はこの実をつぶして川に流し毒にやられて浮かんだ魚を捕るという漁法があったそうです。ちなみに、シャボンはサポニンから転訛した言葉。エゴノキの実は石鹸の代用として洗濯に用いられたこともあったそうです。

 イモちゃん

 うーん…。何の幼虫だろう? 涼しそうなカラーリングで可愛いイモ虫ですね。鳥に食べられる前に早く葉裏にでも隠れればいいのですが。

 オカタツナミソウ

 オカタツナミソウは丘陵地の林縁などに生えています。他のタツナミソウたちに比べて花の筒の部分が長く立ち上がっているのが特徴。きっと雄しべや雌しべも長いんでしょうね。

 クワ

 夏が近いですね。クワの実が黒く熟しはじめました。これを食べ始めると指先も口の周りも濃い紫色に染まってしまいます。でも美味しいんですよね。ただ、yamanekoの故郷ではほとんど養蚕が行われていなかったので(少なくとも昭和中期以降)、子供の頃に野山でこれを食べた記憶はありません。はじめて食べたのは大人になってから。しかも東京のど真ん中でです。

 初夏の日差し

 木立越しに差し込む眩しい日差し。この季節、生き物たちの活動もますます盛んになってきます。今日は午後から雨とのこと。今の天気からはちょっと想像もつきません。でも少し空が白っぽいのは空気に湿気が多いからか?

 フロートフラワー

 池一面にエゴノキの花が浮かんで、ちょっとトロピカルな雰囲気。このエゴノキの季節が終わると、また一歩夏に近づいて行くのです。

 木漏れ日

 こうやって観察路を歩いていると体が緑色に染まってしまいそう。今、目の前に見えている風景の中にいったい何個の葉緑素があるだろう、って考えたことはありませんか(yamanekoは何回かそんなことがありました。)。もちろん具体的に計算したことはありませんが、ものすごくたくさんあるでしょうね。でも、全宇宙の星の数よりは少ないだろうな、なんてその都度漠然と考えていたりしていました。
 いつか読んだ記事では、ものすごい大雑把な計算として、葉っぱ1枚(1gとして)に葉緑素は10の17乗個から18乗個くらいあると計算されていました。ざっと10京個から100京個…、ってまったくピンときません。一方、我々の宇宙の中にある恒星の数は10の23乗個(1000垓個)という説があります。でも、これはあくまで恒星(太陽のような星)の数。地球や火星のような星まで加えるとかるく10の25乗の10ジョ(禾に予と書く)くらいにはなるでしょう。目の前に葉っぱが1千万枚あるとは思えませんので、やっぱり星の数の方が多そうです。(しかも我々の宇宙以外の宇宙もあることを考えると…)
 ちなみに、数の単位としては、兆から、京、垓、ジョ、穣、溝、澗(かん)、正、載、極(ごく)、恒河沙(こうがしゃ)、阿僧祇(あそうぎ)、那由他(なゆた)、不可思議(ふかしぎ)、無量大数(むりょうたいすう)と続くのだそうです。ふーん。

 キブシ

 なんか美味しそうなキブシの果実。ヘーゼルナッツのような形です。2ヶ月前には淡い黄色の花でしたが。(花の様子

 ハコネウツギ

 「箱根」と名が付きながら箱根には自生していないと長い間考えられていたそうですが、近年箱根で自生が確認されたというややこしい植物です。東京近郊では公園の垣根などにけっこう植栽されています。花は初めは白く、だんだん紅色に変化していきます。ただ、ベニバナハコネウツギってのもあって、これは初めから紅色という、ホントややこしい植物です。

 ニガナ

 スッキリとした花のニガナです。「苦菜」の名のとおり、茎を折ると苦い乳液が出ます。「菜」の付く植物は食用になるという話を聞いたことがありますが、このニガナは食べられそうなところはありません。(ウサギは好んで食べるそうです。)
 通常、ニガナの舌状花は5個ですが、ここのはみな6個でした。

 東の谷地へ

 今日はいつもの順路とは異なり、谷地の出口から入って、西の谷地をさかのぼり、尾根筋に着いたら今度は東の谷地との間の尾根筋を下って、東の谷地に下りてくるというコースで観察しました。ここから戸隠不動跡を通って最初の入口に戻ります。

 アヤメ

 東の谷地にはアヤメが揺れていました。初夏の昼下がり、いつまで見ていても飽きませんでした。
 
 向ヶ丘遊園駅に戻って、大戸屋で焼き魚定食をたべて、ホームで電車を待っている頃にはどんよりと曇ってきました。そして新宿で買い物をしているとぽつりぽつりと雨粒が。やっぱり天気予報も当たるときは当たるんですね。
 
 

  多摩丘陵と生田緑地