生田緑地 〜多摩丘陵の春・4月〜


 

【川崎市 多摩区 平成20年4月27日(日)】
 
 いよいよゴールデンウィークが始まりました。どっかに遠出でもしたい気もしますが、どうせむちゃくちゃな渋滞にはまるのは目に見えているし、かといってこれからじゃあ新幹線も予約取れないしで(ついでに子どもたちもついて来ないしで)、近場でのんびり過ごそうかということに毎回落ち着いてしまうのです。
 ということで、近場の代表格、生田緑地です。前回、訪れたのが彼岸の時期。あれからわずか1ヶ月ですが、この谷地はびっくりするほど変化していました。この変わり様からすると毎日訪れてもその変化の具合がはっきりと分かるのではないでしょうか。(いやそれは言い過ぎか。) とまあ、そのくらいに草木が生き生きと活動する季節なのです。毎年この時期は忙しいのでなかなか野山に出ることができないのが残念ですが。

 いつもの入口

 いつものように西口駐車場にドリーム号を停めて歩き始めます。滴るような緑とはこんな様子をいうのでしょう。この時期、木々の緑は明るく輝いています。(1月の様子
 ほどなく西の谷地へと下りていくいつもの入口に至りますが、きょうはここからではなく、ちょっと先の入口から尾根筋の道を下っていこうと思います。

 ヤマツツジ

 尾根道に入ってしばらくするとヤマザクラの根元を彩るように咲いているヤマツツジに出会いました。晩春から咲き始めて今がちょうど盛りの頃。この花は庭先に咲くより、やっぱりこんな風景の中で静かに咲いている方が似合っていると思います。

 タマノカンアオイ

 足下の葉陰に濃い紫色の花を発見。萼筒の口部のゼブラ模様が鮮やかなタマノカンアオイです。この花はまさにここ多摩丘陵で発見されたアンアオイ属の植物で、多摩丘陵とその周辺部にのみ生育するのだそうです。

 チゴユリ

 この尾根道は西の谷地と東の谷地とを隔てる尾根筋の上にあり、谷地の底を歩くいつものコースに比べて少し乾燥しているようです。そんな林の中にうつむき加減に花を付けるチゴユリ。まるで丁寧にお辞儀をしているようです。

 キンラン  ギンラン

 わずかに時期が早かったようですが、キンランとギンランに出会いました。双方およそ50pほどしか離れていませんでした。金と銀とでなんか縁起が良さそうな感じです。キンランもギンランも雑木林の同じような環境に生育するのでこんなこともあるのでしょう。

 芝生広場

 尾根筋に沿ってどんどん下っていくと芝生広場という開けた場所に出ます。ここは先月は木々に葉がなく、もっと明るく広々としていたのですが、一気に葉が展開してきたので広場と言うほどの広々感はないようです。桜と紅葉のポイントとのことなので、シーズンにはここで弁当を食べたりする人が多いのだと思います。

 キランソウ

 キランソウは漢字では「金瘡小草」と書きます。昔から薬草として人間の生活に深く関わっていて、その効能は、打ち身、捻挫や火傷に始まり、腎臓病や結膜炎、高血圧まで様々です。別名を「地獄の釜の蓋」といい、その薬効は地獄の釜に蓋をして病人を死地から救い出すほどといわれたことから、その名が付いたとも言われています。ちなみにシソの仲間です。

 ツボスミレ  アオキ

 道は芝生広場から左右に分かれ、左へ向かうと西の谷地へ、右へたどると東の谷地へ下りていきます。今日は東の谷地から回ってみましょう。
 ツボスミレは小さなスミレ。でもルーペで覗いてみると、唇弁にある紫色の筋がくっきりとしていて、凛々しい姿です。地味なアオキの花にも出会いました。この株は雄花だけを付ける雄の木です。拡大写真でも分かるとおり、雄花には雄しべが4つあり、先端の薄黄色い葯が目立っています。この花もルーペがあると観察しやすいですね。

 ミズキ

 斜面の道を上って戸隠不動跡までやってきました。ここはさっきの尾根筋とは別の尾根筋の上にあたります。広場(焼失前の境内跡)の脇にミズキが青々とした葉を茂らせ、散房状に白い花序を出していました。見た目もみずみずしいですが、実際にも樹液が多く、春先に枝を切ると水が滴ることからその名が付いたといわれています。ひょっとして漫画家の水木しげるさんの名も青々と茂るミズキと何か関連があるのかと調べてみましたが、特になかったです。

 戸隠不動の参道

 広場から尾根筋を下る形で続いている参道を歩きます。やっぱりここは植栽のものが多いです。この参道を抜けるとやがて住宅地の細い路地に出て、そこから10分ほど歩くと小田急の向ヶ丘遊園駅です。今日は住宅地に出る前に脇道を左に入り、谷地の出口付近に下りて、そこから前回までとは逆に谷地をさかのぼる形で歩いていこうと思います。

 コブシ

 先月、純白の花を付けていたコブシ。今では花弁はすっかり落ちて、雌しべの集合体(柱頭は脱落し、子房の部分が密着して寄り集まっている)が少し大きくなってきていました。これが秋に握り拳のようにゴツゴツした果実になるのです。雌しべの下にある未熟なイチゴのようなものは花床で、白い点々は雄しべが付いていた跡です。(先月の花の様子

 ムラサキサギゴケ

 田んぼの畦に咲いていたムラサキサギゴケ。ぱっと見で目立つのは下唇の黄色い斑模様。滑走路の誘導灯のように2列に並んで虫たちを招いています。この斑点の部分は盛り上がっていて足がかりになるばかりでなく、ご丁寧に毛まで生えていて、スリップを防ぐようになっています。

 定点写真

 先月とは様相を一変させた谷地の合流部(定点写真のポイント)。どうやら右の大きな木はミズキのようです。手前のアシ原も新しい芽が伸びはじめています。この場所は水と日差しに事欠かない、生き物にとっては快適な場所でしょう。

 シラカシ  雄花

 シラカシは関東地方ではごく普通に見られるカシです。その枝先という枝先から垂れ下がる雄花序。まるで緑の滝です。垂れ下がる形で花を付けるメリットは風に吹かれて花粉を飛ばしやすいということでしょうか。

 キツネノボタン  ムラサキケマン

 春の野原でなじみの花二種。キツネノボタンは葉がボタンにのそれに似るところから名が付いたといわれています。個性派揃いのキンポウゲ科の植物です。ムラサキケマンはケシ科。距(きょ)と呼ばれる長い突起をもつ花で、ぱっと見筒状のように見えます。でも実際には4個の花弁が組み合わさっていて、ちょっと文字で説明するのが難しい構造です。雨樋を上下から組み合わせて筒状にし、その中に左右から組み合わせた一回り小さな花弁が入っているとでも言えば分かりやすいでしょうか。

 サワフタギ

 ヤマザクラの足下で咲き誇るサワフタギ。沢に覆い被さるように茂るので「沢蓋木」と名が付きました。秋には瑠璃色に輝く実を付けます。ところで、ヤマザクラはソメイヨシノなどとは異なり森の中で出会うからか、木立越しに見るその姿に幽玄の趣を感じます。森に霧が入り込んでいるときなどはなおさらです。

 白花のシャクナゲ

 うーん…、これは園芸種の植栽か? よく分かりませんでした。

 ホウチャクソウ

 ユリの仲間のホウチャクソウ。宝鐸(ほうちゃく)とは五重塔の軒の先端にぶら下がっているあの金属製の飾りのこと。その宝鐸に似ているということで名が付きました。先ほどのムラサキケマンの華鬘(けまん)といい植物の名前には仏教関連のものが少なくありません。

 新緑の森

 木々に葉が展開してきたことにより、林の下は少しずつ光が届きにくくなってきます。これからまたシビアな光の争奪戦が始まります。

 池に来てみると  ヒキガエルのオタマ

 谷地の奥の池にやってきました。先月、卵塊で覆われていた池の底が、今ではたくさんのオタマジャクシに占拠されていました。体長はまだ普通サイズ。これからずんずん大きくなっていきます。(卵塊の様子

 いつもの入口へ

 西の谷地の最奥まで至ると、そこから山肌に沿って尾根筋まで上ります。上り詰めたところがいつもの入口です。

 ヒメコウゾ(雄花)  (雌花)

 上り詰める直前にヒメコウゾを見かけました。コウゾといえば紙幣の原料として有名ですが、このヒメコウゾもその仲間(というか、親)。でも遠い昔に和紙や織物の原料として利用されたことはありますが、現在ではヒメコウゾを原料に使うことはないようです。ちなみに、コウゾはこのヒメコウゾとカジノキとを交配させた(又は自然交配した)ものだそうです。
 
 季節が春から初夏に移ろい、谷地のあちこちで様々な生き物の息吹を感じることができるようになりました。来月はもう濃い緑に覆われていることと思います。夏鳥もやってきて梢でさえずっているかもしれません。今から楽しみです。

 ハハコグサ

 駐車場の脇でけなげに生きるハハコグサ。(昔は草餅の材料として用いられていたそうです。)
 
 

  多摩丘陵と生田緑地