生田緑地 〜多摩丘陵の冬・1月〜


 

【川崎市 多摩区 平成20年1月14日(月)】
 
 今日は成人の日、本年2回目の祝日です。今はハッピーマンデーになって8日から14日の間で毎年さまようことになってしまいましたが、もともと成人の日が1月15日だったのには意味があったようです。それは、江戸時代まで元服の儀を旧暦の1月15日に行っていたから。男子は装束を整え冠をかぶって祝ったそうで(ちなみに「冠婚葬祭」の「冠」はこの元服のこと)、戦後、この日を成人の日として国民の祝日に決めたのだそうです。
 とまあ、そういうわけで今日は休みなので、川崎にある生田緑地に行ってみることにしました。去年は武蔵野台地の野川公園で定点観察をしてきましたが、今年は多摩丘陵の自然を見てみようと思います。
 
                       
 
 新ドリーム号は、山手通り、甲州街道、環状八号と走り継ぎ、世田谷通りへ。やがて遠くに多摩丘陵が見え始めると多摩川はもうすぐそこです。多摩水道橋を渡って神奈川県に入ると目の前に生田緑地が広がっています。自宅から約1時間ほどで到着です。(道が空いていればですが。)

 西口駐車場付近

 生田緑地は多摩丘陵の辺縁部、多摩川の河岸段丘と接するような場所にある緑地で、気候が良くなると休日には多くの人が訪れる場所です。(こちら参照) その広大な敷地の北西部に自然の谷地(やち)を保全した区域があり、ここに自然探勝路が設けられているので、ここを歩いてみようと思います。生田緑地の正面玄関は敷地の東側にありますが、自然探勝路には西口が便利です。
 西口駐車場は専修大学の裏手にあり、地形的には丘陵の尾根部分に位置しています。今日は車は数台止まっていましたが、ガラーンとしていました。1月に入ってから毎日厳しい寒さが続いていて、今日も予報では最高気温が6度。空も曇っていて日差しがなく気温が上がりません。人影がまばらなのもやむを得ないでしょう。

 蕾はまだ堅く

 今日のようなモノトーンの景色の中では、まだ蕾であってもウメの紅にホッとします。「梅一輪 一輪ほどの暖かさ」、来月このウメが咲く頃には少は暖かくなっているでしょう。ついでに花粉も大量に飛んでいることでしょうが。

 自然探勝路へ

 西口駐車場から枡形山展望台へ向かう道の左手に広がる谷地が定点観察のフィールド。道の途中に谷地に下りていく探勝路の入り口があります。

 一気に下る

 ここは谷地の入り口から見ればどん詰まりに当たる場所。山腹にそって設けられた木道が谷に向かって一気に下っていきます。

 ヤツデ

 ヤツデが若い果実を付けています。ヤツデは晩秋に白っぽい花を開いて、まず雄しべが先に成熟し、次にいったん中性の時期を経て今度は雌しべが成熟します。これは自家受粉を避けるための工夫。また、虫の少ない時期に花を開くので、盛んに蜜を分泌して虫を呼び寄せます。でも中性の時期には蜜を作らないというしっかり者。やっぱり蜜を作るのにはエネルギーがいるのでしょう。効率化を追求するとこういう仕組みになるのかもしれません。そしてこの果実は5月頃に焦げ茶色に熟していきます。

 
 
 カニクサ

 妙に青々とした葉を付けている木があるな、と近づいてみると、この木の葉と思っていたのは木とは別のツル植物でした。近くの地面から伸びて木に巻き上がっていたのです。
 このツル植物はカニクサ。こう見えてもシダ植物です。一見、長く伸びたツル状の茎に葉が付いているように見えますが、実は本当の茎は地中にあって、なんと地上で見えてる部分が1枚の葉なのです。ツルを伸ばしてみるとゆうに2mはありました。葉という概念を打ち破る巨大な葉です。

 小さな池

 ここは谷地のどん詰まりの地形なので、やっぱり湿潤な環境です。周囲の斜面から浸みだした水が集まり小さな池を作っています。のぞき込んでみても生き物の影は見つけられませんでしたが、春になるとたくさんの命が育まれる貴重な場所なのだと思います。

 探勝路  マユミ(実)

 探勝路を谷地の出口に向かって歩いていきます。途中マユミの木に一つだけ実が残っていました。中の種子はもう落ちてしまって殻だけが残り、寂しい姿ですが、この薄桃色の周りだけポッと暖かい空気に包まれたように感じました。それほどに今日は寒いのです。

 ハンノキ

 この辺りはハンノキの林です。この木は湿地や地下水位の高い場所を好んで生育するのが特徴。大きな木が林立していて、新緑の頃が楽しみです。

 ヤブツバキ

 葉がテカテカに輝くヤブツバキ。西日本の里山では定番中の定番です。花が年末に咲くものと春先に咲くものとがありますが、この株はまだほとんどが蕾なので後者のパターンのようです。 

 カラスウリ

 この谷地のいたるところでカラスウリの実を見かけました。いずれも手の届かない枝の先です。

 梅園

 休憩施設のある梅園までやってきました。でも、このベンチで弁当を広げたりするのには今日の天気は厳しすぎます。手前に写っている木はカキノキ(標準和名は「カキ」ではなく「カキノキ」)です。

 定点写真

 ここは北から南に向かって延びている谷地が二又に分かれる場所。ここまで西側の谷地を下ってきたのですが、写真正面から右奥に向かって東側の谷地が延びています。こちらは西側の谷地に比べると規模は小さいです。二つの谷地が合流するこの場所はちょっと開けた地形なので、これから毎月ここの風景の移り変わりを記録してみたいと思います。今日は手前のススキがちょうどよい荒涼感を演出していて、見るからに寒そう(実際かなり寒かったです。)。左右から張り出す木も何なのか今はよく分かりませんが、葉が茂る頃には判明するかもしれません。正面の丘は戸隠不動の参道があったところです。

 コブシ

 ♪コブシ咲くあの丘、北国の…、「北国の春」でお馴染みのコブシです。ここは北国ではないですが、それでもこの冬芽が緩み白い花弁が広がるにはあと2ヶ月以上はかかりそうです。

 戸隠不動参道跡

 以前、この奥に戸隠不動という神社があったのですが、平成5年に焼失してしまいました(不審火だったとのことです。)。再興も図られたようですがうまくいかず、当時まで私有地だったものを川崎市に委譲されて生田緑地の一部として整備されたのだそうです。

 コバギボウシの果実  カワラタケ

 東側の谷地に下りてきました。
 しゃれたスパークリングワイングラスのようなコバギボウシの果実。中の種子はあらかた落ちてしまっているようです。
 カワラタケはサルノコシカケの仲間です。とても硬いので食用にはされませんが、なんと菌糸体から採れる成分が抗ガン剤として用いられているのだとか。ただし単独では効用はないそうで、他の薬と併用するのだそうです。

 二つの谷地を隔てる丘

 東側の谷地から丘を登ると広々とした園地に出ました。ここの紅葉は見事なのだそうです。さっきから写真の端に写っているオレンジのズボンはyamanekoの妻。日頃から三歩下がって影を踏まないように心がけています。

 再び西側の谷地へ

 丘を下って再び西側の谷地に戻ってきました。50年くらい前まではこんな風景があちこちに広がっていたのでしょうね。ここは多摩丘陵の端にあたるので、当時は生き物の生活圏が分断されることなく大きな森とつながっていたのだと思います。

 ジャノヒゲ  ガクアジサイ

 ジャノヒゲの種子はコバルトブルー。果実のように見えますが種子です。地表近くで葉陰で隠れるようにしているのに、この鮮やかなブルーはいったい誰に対してのアピールなのでしょうか。
 ガクアジサイの装飾花はドライフラワーになっても花を飾り続けています。装飾花とは目立たない両生花(雄しべと雌しべを持ち、受粉により結実することができる)の周囲で華やかに目立つことにより昆虫を引きつける役割を負っている花。一般に雄しべ雌しべが退化していることが多いです。

 明るい林床

 谷地のもっとも低い部分から周囲の丘へと続く斜面の部分を歩いていきます。今は木々が葉を落としきっているので遠くまで見通せますが、春になって葉を茂らせはじめると鬱蒼とした雰囲気になると思われます。

 季節の記憶

 歩き始めてそろそろ2時間になります。つま先まで冷えてきたので、西口駐車場に戻って暖かい缶コーヒーでも飲みたいと思います。
 今日はすれ違う人もまばらで、静かな静かな散策になりました。これから1年、この谷地で楽しませてもらおうと思います。来月の様子はどうでしょうか。きっとウメの花なども咲きはじめ、そろそろ生き物の活動も見られるかもしれません。楽しみです。
 
 

  多摩丘陵と生田緑地