中央森林公園 〜花の季節が終わっても…〜


 

【広島県本郷町 平成16年11月21日(日)】
 
 11月の定例観察会は広島空港に隣接する中央森林公園で開催されました。空港建設に併せて造られた公園です。
 平成5年10月に移転開港した広島空港は、賀茂台地に広がる山々を削って造成されました。緑の山並みの中に突然現れる姿は、上空から見るとまるでナスカ高原の地上絵のようです。

 開会

 午前9時半、公園センター前の広場で開会です。今日の参加者は69人。天気が良かったせいか、たくさんの人々が集まりました。リーダーは三原市在住の石丸さん。毎回巧みな話術で参加者を飽きさせません。
 一行は園内の遊歩道をゆっくりと移動しながら観察をしていきます。11月も下旬になると野山は急に色を失ったようになりますが、それでもじっくり見てみると興味をそそるものはいっぱい。さあ、今日はどんな発見があるでしょうか。

 朝日を浴びて

 サイクリングロードの法面になにやら面白いものが。タヌキマメの花の跡です。

 タヌキマメ

 タヌキマメは、日当たりが良く少し湿ったところに生えるマメ科の植物です。毛がフサフサのカプセルのようなものは、花の後、萼が大きくなって果実を包み込んだもの。その中の果実はエンドウマメのミニチュアのようです。(花はこちら
 種は扁平な形で表面はツルツルでした。
 
 花こそないものの、林のふちにはガマズミやノイバラ、ヒサカキなどの実が揺れています。石丸さんは白い布片にボールペンでサラサラッと花の絵を描き、その上でガマズミの実をすりつぶして色つけをして見せてくれました。なんともいえない味わいのある紅色の花の出来上がり。周囲から「ホ〜ッ」といった声が上がります。次に参加者のみなさんにも布片が配られ、めいめいに色つけを試してみることになりました。
 
 しばらく行くとナツツバキの幼木(植栽)の根本になにやらおもしろいものが。木くずの粉を丸くボール状にしたようなものがたくさん溜まっています。1個の大きさは直径8ミリほど。子供の頃遊んだ銀玉鉄砲の弾くらいの大きさです。このボール、乾燥していてつぶすとボロッと崩れます。

 このボールは?

 よく見ると地面すれすれのところに同じくらいの大きさの穴が一つ開いています。カミキリムシの幼虫が木の中を食べながら進んで、そのときに出す排泄物だということは分かったのですが、さてカミキリムシはいったいどうやってそれを木の外に出したのか。自分が掘り進んだパイプの中をコロコロと転がって外に出てきたのではないかとか、いや、パイプの中には数珠状に連なっていて順々に押し出されるようにして出てきたのではないかとか、いろんな意見が出されました。結局のところ決め手がなかったので、指導員の吉岡さんが広島市立昆虫館に電話をして聞いてみました。結果は、カミキリムシがいちいち外に出てきて排泄し、終わったらまたパイプの中に戻っていく、といったことでした。言われてみればなるほどといった感じです。
 また一つ面白いものに出会うことができました。

 小春日和

 今日は朝方冷え込んだものの、陽が昇るにつれてポカポカとした小春日和になりました。黄葉の梢越しに見上げる秋空はどこまでも透きとおっています。

 コナアカミゴケ

 遊歩道沿いにある朽ちた木製の手すりにも面白いものが。高さ1〜1.5センチの小さなマッチ棒が林立しています。何だろう。キノコなのかな。参加者の方から「何ですか?」と問われて、つい「キノコの仲間じゃないですか? ここ(頭の赤い部分)から胞子が飛ぶんだと思いますよ。」と言ってしまいました。あぁ、なんて無責任なことを言ってしまったのか。帰ってから調べてみると、これは「コナアカミゴケ」という地衣類でした。地衣類は菌類と藻類が共生しているもの。一方、キノコはれっきとした菌類。まったく別のものでした。反省です。ちなみに名前からしてコケの仲間かとも思われますが、コケは緑色植物なので、これまたまったく別物です。あ〜、ややこしい!
 でも、そんなことは置いといて、この不思議な世界を見てください。小さくなってこの中に迷い込んだら大変そうです。「風の谷のナウシカ」の中にこんな風景が出てきませんでしたか?

 何が始まるのかな?

 今度は周りにリョウブの木が植えられている広場で何か始まりました。石丸さんがリョウブの幹を輪切りにしたものを一人ずつに配っています。これは自宅の近所のバイパス工事のために伐採されたものを現地で譲り受けて、自ら裁断したものだそうです。
 みんなに行き渡ったのを見計らって、「この中にいくつか月桂樹の輪切りが混じっています。臭いで嗅ぎわけてみてください。」みんなクンクンと嗅いでいます。月桂樹の方はともかくとして、リョウブの木があんなに酸っぱい臭いがするものだとは初めて知りました。木の材の臭いは普段意識しないことが多いので新鮮な驚きです。
 次に年輪を数えてみました。1、2、3…、どうやら15歳くらい。ぎりぎり平成生まれのリョウブのようですね。最後にリング付きネジと紐がくばられ、各自でペンダントに仕上げて簡単な工作を楽しみました。
 
 途中、滑走路脇の広場に立ち寄り飛行機の離着陸を目の前で見て、それから昼食場所となる展望広場を目指しました。ここは整備された公園とはいえ、もともとは山の中。けっこうアップダウンのある山道です。

 ヤブムラサキ(実)

 ヤブムラサキの葉の色もこころなしか黄色っぽくなっています。下から覗くと葉裏に1個だけ実が残っていました。光沢のある赤紫色の実。そのまま指輪にしてもおかしくないほどの美しさです。

 展望広場

 山道を登り詰めると展望広場に出てきました。ここで昼食です。
 ここからも滑走路がよく見えます。晩秋の穏やかな陽を浴びながらボーッとしていると、遠くに見える山並みが大海原の波濤のようにも見えてきて、なんとも不思議な気持ちになってきます。

 北東方向の展望

 展望広場から北東方向には世羅台地が広がっています。広島県の地形は大まかに言って3段構造になっていて、中国山地から海岸部に向かって、高位面(脊梁面)、中位面(吉備高原面)、低位面(瀬戸内面)と呼ばれています。世羅台地やここ賀茂台地は中位面に位置していて標高は400〜600メートル。同じような高さの山々が遙か遠くまで連なっています。

 ナンバンギセル  種子

 サイクリングロード脇の草むらにナンバンギセルの花の跡が。(花はこちら) この時期、先端の果実の中にごく小さな黄色い種子がたくさん詰まっています。指先でトントンと突いてみると、コショウの粉(粒ではなく、粉です。念のため。)くらいの大きさの種子がパラパラと落ちてくるので、それをティッシュに集めてファーブル(ニコン社製の実体顕微鏡)で覗いてみると、予想もしなかった世界が広がっていました。なんと種子の一つ一つには小さな穴が空いていて、まるでサンゴの抜け殻のようになっていました。あんな微少なものにさらに小さな穴が空いているなんて。自然の造形にはつくづく驚かされます。
 しかし、なんで穴が空いているんだろう。身を軽くして少しでも遠くまで飛んで行こうというのでしょうか。でも、ナンバンギセルはススキなどの根に寄生する植物なので、遠くに飛んでいってしまっては宿主と離ればなれになって都合悪いだろうし。謎です。

 用倉川

 最後に用倉川を500メートルほど下って女王滝まで行ってみました。
 この辺りの岩盤は花崗岩。節理に沿って岩が崩れていった結果、川床はテーブル状になり、大小さまざまな滝や落ち込みがあります。

 女王滝

 女王滝は大きく三段になっていて、その落差は約25メートル。写真では一番上の段が見えていませんが、二段目からの落差でも約20メートルあり、見上げるような立派な姿です。

 用倉川は中位面から低位面まで一気に駆け下る川で、その途中に女王滝があります。
 その昔(ン十万年前?)、中位面から低位面に向かって流れる沼田川が、その浸食作用によりどんどん谷を作っていき、中位面の奥深くに切れ込んでいきました。その先端の段差では滝が岩盤を削っているのです。これは支流の用倉川についても同様です。すなわち現在もこの女王滝はごくわずかずつ岩を砕きながらゆっくりと後退していっているのです。

 紅葉のグラデーション

 渓流に覆い被さるように紅葉の梢が張り出していました。コハウチワカエデでしょうか。足下にもたくさん散っています。
 だれかがそれを拾い集めて、岩の上に並べ始めました。周りにいた人たちも手伝って、きれいなグラデーションの出来上がり。こういった遊び心を持っているオトナは、きっと自然を観察する視点も多面的で、その感性も豊かなんだろうな、と感心することしきりでした。
 
 この時期、午後3時ともなるとかなり陽が傾いてきます。今日一日素晴らしい晴天でした。いろんな面白いものにいっぱい巡り会って、小さな発見と感動を得ることができ、満たされた気持ちです。
 一行はスタート地点の公園センター前に戻ってきました。ケガ人もなく無事に終了。リーダーの石丸さんに感謝です。