鷲頭山 〜小春日の沼津アルプス(前編)〜


 

 (前編)

【静岡県 沼津市 平成26年12月23日(火)】
 
 暮れも押し詰まってきました。そろそろ今年の山納めに行かなければなりません。やっぱり暮れに山に登りその一年の野山歩きを振り返らなければどうも落ち着かないんですよね。
 さて今回は、伊豆半島の付け根、沼津市にある沼津アルプスの縦走をしてみようかと。沼津アルプスは駿河湾の一番奥まった辺り、その沿岸に釣り鉤形に連なる山々のことで、正式には静浦山地というそうです。「アルプス」、「縦走」のワードから連想される厳しいものとは対極にあるのんびりコースで、標高は最も高いピークでも400mに達しませんが、縦走路はアップダウンが多く、直登直降でその斜度も結構なもの。ルート上に絶景ポイントが多いこともあって、登山愛好家には人気の山なのだそうです。(沼津市観光WEB)
 
                       
 
 朝7時半、ドリーム号で出発。相模原市の橋本五叉路から国道129号を南下し、相模原愛川ICで圏央道へ。海老名JCTで東名高速に入って、あとはひたすら西進します。御殿場を過ぎ第二東名を左に分けると、目的地最寄りの沼津ICはすぐそこです。高速道路を下りたら沼津市街地の中心部へ。あらかじめ調べておいた市役所前にある市営駐車場にドリーム号を停めました(1時間100円也)。ここで装備を整え、目の前にあるバス停から登山口のある多比(たび)というところまで路線バスの旅です。バス停に着いて30秒後に目的のバスが来るという幸運に恵まれ、しかも我々を含め乗客4人のがら空きで、長閑な路線バスは海沿いの道を南下していきました。

 多比バス停

 途中乗り込んでくる人もほとんどなく、乗車時間30分弱で終点の多比バス停に到着しました。目の前にはよろず屋的な商店が1軒。静かな漁村といった風情の場所でした。 バス停から少し戻ったところに登山口があるとのこと。確かに20mくらい先にそれらしい路地が見えます。

 
Kashmir 3D

 今日は多比から稜線に登り、まず大平山(356m)へ。そこから折り返して北西方向に向かって縦走を開始します。主峰の鷲頭山(392m)を経て徳倉山(256m)まで歩く予定です(「アルプス」としてはその先の横山、香貫山まで続いています。)。この辺りは温暖な気候で小春日和が期待でき、まさに今年のあれこれを思い起こしながらのんびりと歩くにはもってこいの場所と言えそうです。

 午前10時、スタートです。見上げるとこれから向かう大平山(右)と鷲頭山(左)の間の鞍部、多比口峠が見渡せました。海抜0mからの登山なので、低山とはいえのしかかってくるような高さを感じます。

 路地の入り口に登山口の標識が。ここから民家の間の坂道を登っていきます。
 途中で道が二又に分かれているところがあって、さてどっちかなとキョロキョロしていたら、そばで大きな声で世間話をしていたおばちゃんが「どっち行ってもいいよ」、「上でまた合流するから。」と忙しい世間話の合間合間に顔だけこっちに向けて教えてくれました。きっとこれまで何回も尋ねられたんでしょうね。親切で気の良さそうなおばちゃんでした。ここは昔ながらの人情が残っている集落のようです。

 ソシンロウバイ

 南向きの斜面を登っていくのでポカポカと暖かいです。今日は風もありません。 ソシンロウバイが蕾を膨らませてるなと足を止めたら、気の早いのが一輪だけ咲いていました。さすがは香り高い花。一輪だけでもしっかりと存在を主張していました。

 センニンソウ

 このフワフワはセンニンソウの果実ですね。タンポポの綿毛のように風で飛ばされていきます。

 ニホンズイセン

 小春日和の日差しをたっぷりと受けてニホンズイセンが咲いていました。これを見ただけで暖かい気持ちになれます。

 民家が途切れてからもぐんぐん登っていきます。やがてこんな標識が現れました。ガイドブックには標識が充実していて安心して歩ける旨の記述がありましたが、この豊富な情報量。記述に偽りはないようです。ちなみに、一番下の楕円形のプレートに現在地が書いてあります。

 林道

 簡易舗装の林道を登っていきます。上の方まで農地や作業場があり、何台か道の脇に軽トラが停まっていました。この急傾斜の道をよく登ってこられたものです。

 イヌマキ

 これはイヌマキの葉ですね。緑色が濃く、表面がテカテカしています。裸子植物ですが照葉樹林を構成する樹木です。すぐ沖まで湾入してくる黒潮のおかげか、この辺りには気候的にも温暖で照葉樹林が発達できる環境なんでしょう。鷲頭山の手前にはウバメガシの純林もあるそうです(日本での分布の北限)。

 日本の原風景

 もう随分登ってきました。振り返ると江浦湾に浮かぶ淡島とその向こうに伊豆半島の山々が見えました。冬晴れの光を乱反射する水面、以前BSジャパンの「にっぽん原風景紀行」という番組をよく見ていましたが、それに出てきそうなどこか懐かしい風景です。

 ホソバタブ?

 これはホソバタブか?テカってますね。今日は照葉樹の葉をたくさん見られそうです。

 時刻は10時50分、稜線までの5分の3くらいを登ったところでようやく舗装路が終わりました。ここから山道です。

 地面は細かい粒子の土に拳大からそれ以下の大きさの石が混ざっていて、ちょっと滑りやすいです。調べてみると、この辺りの地質は海底火山の噴出物とその火山が削られた土砂が海底に堆積してできた凝灰岩で、それが伊豆半島の本州衝突によって隆起し地上に現れたものなのだそうです。ただ、含まれている石が全体的に丸っこくて河川から流れ込んだものの様子に似ているのですが、最初から海に堆積したものも海流とかに流されて丸くなるのだろうか。???です。

 稜線へ

 11時10分、稜線に出ました。多比口峠です。スタートから1時間と10分。相変わらずのスローペースです。
 ここはそのまま右手に向かい、大平山を目指します。

 いきなりゴツゴツした岩の急登が現れました。黙々と登っていきます。

 峠からほどなく、北側の展望が開け、富士山がドドーンと。ここでちょっと足を止めて風景を楽しむことに。南側の姿なので宝永噴火の際の火口が大きく見えています(中腹にかかる雲の左あたり。)。10月には三ツ峠山から北側の姿を拝みましたが、富士山は東西南北どの方角から見ても絵になりますなあ。でも、そういえば真西からの姿は見たことないかも。竜ヶ岳から北西面の富士山を見たことはありますが(こちら)。

 ひとしきり風景を楽しんだ後、再び歩き始めます。傾斜は更にきつくなってきました。歩幅を小さく、一歩で上がれる段差もあえて二歩で。

 しばらく登っていくとやがて傾斜が緩やかに。頂上が近いようです。

 大平山山頂

 11時25分、大平山の頂上に到着しました。広々としていますが我々以外誰もいません。周囲は木々が取り囲んでいて眺望はほとんどありませんでした。唯一南側の一部が切れていて、藪の向こうに眺望が広がっていました。山頂広場には大きなサクラの木があって、春にはここのサクラに会いにそこそこ人が集まるのではないでしょうか。

 山頂では定番の行動食、アンパンを食べるなどして、10分ちょっと休憩。そして来た道を下りて行きます。ここから縦走スタートです。

 南アルプス

 途中、遠く駿河湾越しに南アルプスの白峰が見渡せました。おそらく北岳以南の峰々が見えていると思います。ここからだと直線距離にして80qくらい離れています。

 大平地区

 眼下をみやると、ポコポコポコっと小山が連なっていました。これはいったい。どうなったらこういう地形ができるんだろう。その山の列を境に土地利用ががらっと変わっていますね。手前の田園地帯は沼津市の大平地区、その向こうの住宅街は清水町、更に奥は三島市です。

 多比口峠

 多比口峠まで戻ってきました。ここからは反対側に登り返します。

 鷲頭山

 正面にこれから登る鷲頭山が見えてきました。

 ぐぐーっと下ったり…

 また黙々と上ったり。明るい稜線歩きが続きます。

 ウバメガシ純林

 この辺りがウバメガシ純林の中心です。備長炭、作り放題ですね。ウバメガシの材は緻密で比重が大きいので水に沈むのだそうです。これも良い炭になる理由の一つなんでしょうか。

 ウバメガシ

 ウバメガシの葉は小さく硬いです。これも照葉樹林の代表選手です。

 石灰岩

 お、これは石灰岩。熱帯の海から北上してきた伊豆半島が運んできたものでしょうか。日本列島にぶつかるまではまだ「半島」ではなかったわけですが。

 箱根山塊

 富士山から箱根山塊までが一望に。この風景を見ただけでも沼津アルプスの縦走が人気なのが分かるような気がします。

 岩を彫り込んで階段にしてありました。こういうのが地味に助かります。

 ちょっと広い場所に出ました。ここからいったん下り、そこから山頂に向かって、笑ってしまうほどのまっすぐな急登の道が続いているのです。距離にして100mくらいもあります(このときはまだそんなことは知らなかった。)。

 多比峠

 さっきの広場からいったん下ったところが、ここ多比峠。さあ、ここから直登の始まりです。日陰になっているせいで坂道は湿っていて、気を抜くとズルズルと滑ってしまいそうでした。

 大平山

 坂道の途中でふと振り返ると、最初に登った大平山が。この角度から見ると意外と鋭いシルエットをしていますね。

 多比峠から黙々と登ること15分、ようやく山頂が見えて来ました。

 鷲頭山山頂

 12時35分、鷲頭山の山頂に到着しました。スタートから2時間半、やっぱり超スローペースです。

 とりあえず記念撮影。
 先客は、30歳代男性の単独、アラフォー山ガール2人組、60歳代夫婦など。yamanekoたちの後から登ってきたオバチャン4人組が山ガールを駆逐してベンチを占拠し始めました。「あらー、いいのよ。そう?ごめんなさいねえ。」 恐るべし…。この厚かましさはいったいどこから来るのかね。案外、外務省とかで雇えば外交交渉の場で国益に貢献できるんじゃないだろうか。「あらなーに?米・肉・乳製品には関税かけさせてもらってていいのね。そういうことでしょ? じゃあこの際税率も上げさせてもらってもいいかしら、ね。」
 さあ、昼食、昼食。今日もカップラーメン+おにぎりです。

 ソメイヨシノ

 山頂にはソメイヨシノの古木が何本か。枝先ではしっかりと次の春の準備をしていました。

 鷲頭神社奥宮

 山頂の祠とサクラ。この祠は麓の大平地区にある鷲頭神社の奥宮とのこと。いにしえより多くの人がお祈りして来たでしょうね。

 金冠山

 南の方角には伊豆半島の山々が。
 食後は小春日の陽射しをたっぷりと体に浴びました。暖かく本当にのんびりできました。
 さて、ここから先は縦走のハイライト(ガイドブックの評。)といわれる急坂が待っています。どんな感じか楽しみです。(続きは後編で。)