高安山・信貴山 〜秋空の下、歴史の径を行く(前編)〜


 

 (前編)

【大阪府 八尾市・奈良県 平群町 平成30年10月8(月)】
 
 10月に入り、朝夕がぐっと涼しくなってきました。家の周りでもモズの高鳴きが聞かれはじめ、秋がより深まってきたことを感じます。
 今回の野山歩きは、八尾市の東縁に位置する高安山(488m)に登り、そこから奈良県側にある信貴山に向かいます。信貴山とは「信貴山縁起絵巻」が有名なあの信貴山です。
 
                       
 
 高安山へのアクセスは近鉄大阪線で。河内山本駅で近鉄信貴線に乗り換えると、次の服部川駅辺りから登り勾配となり、2駅目で終点信貴山駅に到着します。電車で山麓を少し登った感じです。


 信貴山口駅

 この駅では改札を出ずに信貴山ケーブルカーに乗り換えることができますが、yamanekoはここから歩いて登ります。天気は上々、駅前でストレッチをして、9時30分、スタートです。


Kashmir 3D

 今日のルートは、信貴山口駅から民家を抜けてすぐに直登し始めます。まずは生駒山地の主稜線上に位置する高安山に向かい、そこから奈良県に入って信貴山へ。麓の朝護孫子寺を経て、その先のバス停がゴール。そこからはバスでケーブルカー駅に出て、信貴山口駅に戻ってるというものです。
 地図でも分かるとおり、生駒山地は南北に延びる稜線を境に、大阪側は急な斜面の先ですぐに平坦地になりますが、奈良県側はいくつもの細かな谷に浸食され、大和盆地までなだらかに標高を下げていきます。今日はその両方を歩きます。



 線路に沿って戻る形で30mほど歩道を歩くと踏切が現れました。ここを渡って反対側の住宅地の中へ入ります。しばし家並みに沿って歩いたら、あとは直登となります。



 民家の庭先に立派な柿の木が。秋ですな。柿といえば、昔、採ってきた渋柿を木綿の袋に入れ、口を縛って風呂の残り湯に一晩漬けて渋抜きをしていたことを思い出します。 これで甘くなった柿を「あわし柿」と呼んでいました。「あわし」とはおそらく「湯がいた」という意味なのではないかと思います。

 高安山

 正面に高安山を見上げながら登っていきます。丸い建造物が見えるのは気象庁のレーダーサイト。高安山のピークはそのすぐ左手になります。
 高安山には大和朝廷によって大和防衛のための高安城が築かれていたのだそうです。飛鳥時代の更に前、古墳時代のことです。確かにこちら側からだと攻めにくそうですね。

 キンモクセイ

 民家の垣根にはキンモクセイの花。ちょうど今頃が盛りの時期で、辺りに良い香りを漂わせていました。 ところで虫の嗅覚ってどの程度のものなんでしょうか。

 アオツヅラフジ

 アオツヅラフジの果実。ちょっと粉を吹いたようなマットな風合いがなかなか渋いです。花はこちら

 ヤブマメ

 アオツヅラフジと同様にツル性植物のヤブマメ。関東地方以西の低地に普通に見られる種です。エンドウ豆のような果実を付けますが、そこは野生種のこと、貧弱で食用には適しません。

 法蔵寺

 ぐんぐん登り、そろそろ民家が途切れるところに立派なお寺がありました。広い駐車場も備えています。法蔵寺というお寺だそうです。



 その駐車場からの眺めがこれ。結構見事な眺めではないですか。大阪市街地の中心部が一望です。

 登山口

 宝蔵寺から先が山道になります。ここが実質的な登山口でしょう。



 いっきに風景が変わります。



 この辺りはまだ民家に近いせいなのか、竹林が見られます。前後に人はいません。静かです。



 しばらく行くと、道はこんな感じに。山登りっぽくなってきました。



 ときどき足を止めて深呼吸。頭上を見上げると、梢の奥に秋晴れの空が望め、気持ちがすーっとします。



 こんな崩壊地も。立派な柵があるということは、先月の台風の傷跡ということではないのかも。

 休憩所?

 右手に休憩所、という標識。ちょっと休むかと思って見てみると、「ここが?」といった感じでした。下草こそ刈ってあるものの木立多過ぎです。

 アケボノシュスラン

 おお、こんなところでアケボノシュスランに会えるとは。地面に這うように咲いている和製ランです。アケボノというのは、薄桃色の花の色を曙の空の色に例えたものだそうです。



 倒木です。これは台風の置き土産かもしれません。

 ヒイロタケ

 コナラの朽ち木に生える朱色のキノコ。ヒイロタケです。少し薄暗い林内ではよく目立つキノコです。

 林道

 10時40分、林道に出ました。木立の向こうから機械音が聞こえてくるところからすると、ケーブルカーの駅のすぐ近くに出たのでしょう。予定では直登して稜線にでるつもりでしたが、直前で巻き道に入ってしまったようです。

 開運橋

 林道はUターンする形で高安山の山頂に向かっていきます。しばらく行くと小さな鞍部を跨ぐように架かる橋が現れました。開運橋というようです。本来なら左手からこの鞍部に登ってきて、ここで橋に上がる予定でした。

 気象レーダー観測所

 道が平坦になってきてすぐ、気象レーダー観測所に到着しました。気象庁の施設です。ドームの中にあるアンテナをぐるぐる回して、半径数百kmの範囲内の雨や雪を観測しているのだそうです。ドップラーレーダーというやつですね。全国に20機あるそうです。

 セイタカアワダチソウ

 観測所の前庭(?)にセイタカアワダチソウが咲いていました。人の背丈ほどにもなる植物ですが、通常は直立します。ここのは奔放ですね。花は満開状態です。一時期、この花が花粉症の原因と言われましたが、虫媒花であることから、どうやら濡れ衣だったようです。
 さあ、あらためて高安山のピークを目指します。もうほぼ水平移動でしょう。



 歩き出して20m、んっ? 左手の藪の中に何やら矢印が。通りかかった人の10人中8人が見逃すであろうというくらい簡素な標識です。矢印は、そう言われれば道かなというような藪の中を指しています。
 当然入っていきます。



 その道とは、まあ、こんな道ですわ。

 コバノガマズミ

 コバノガマズミが実を付けていました。時代劇に出てくる町娘のかんざしみたいです。

 高安山山頂

 11時ちょうど、高安山の山頂に到着しました。周囲を藪に囲まれ、眺望はまったくありません。ただ、ここに高安城があった古墳時代、ここから大和防衛のために物見に立った兵士たちには、摂津や河内の野(当時は河内湖が広がっていたはず)、難波の海、そしてその向こうの六甲の山々も手が届きそうなほど近く見えたのではないかと思います。

 二等三角点

 6畳間ほどの広場の中央に三角点がありました。二等三角点でした。



 見事に折れていますね。これも台風の爪痕か。たまたま他のサイトを見ていたらこの木の写真が載っていて、少なくとも1年半前まで折れていなかったことを確認できました。



 秋空を背景に紅葉が。いや、かなり葉が痛んでいるので、紅葉というより枯れているのかもしれません。でも、すがすがしい風景です。
 さて、ここからは奈良県側に入って信貴山に向かいます。続きは後編で