高安山・信貴山 〜秋空の下、歴史の径を行く(後編)〜


 

 (後編)

【大阪府 八尾市・奈良県 平群町 平成30年10月8(月)】
 
 秋空の下、歴史の径を辿る野山歩き。後編です。(前編はこちら


Kashmir 3D

 近鉄信貴山口駅を9時30分にスタートして、高安山の山腹を直登してきました。山頂では長居をせずに、一息ついたら次の信貴山に向けて歩き出します。時刻は11時5分です。



 来た道とは別の、はっきりとした登山道を下っていきます。するとほどなく農道に出ました。先ほどの気象観測レーダーから続いている道です。ここは左手に緩い傾斜を下っていき、正面の倉庫のところを右に折れていきます。



 森の中に入ると緩やかなアップダウンの繰り返し。木々の梢を通り抜けてきた光が気持ちいです。



 やがてゆっくり下って行った先に道路が見えてきました。信貴生駒スカイラインです。この道は近鉄が所有する私道で、有料道路なのだそうです。

 信貴生駒スカイライン

 立派な舗装道路ですが車の影はありません。森の中でもあり、この辺りは日に何台通るのだろうかといった感じです。(後で聞いてみると、前年の台風被害の影響で、このときこの辺りの区間は通行止めになっていたようでした。どうりで。)
 道を渡って再び向こう側の山道に入ります。



 ところどころに倒木が。この程度なら特に問題ありません。
 しばらく行くと「高安城倉庫跡」という表示があったので、脇道を50mほど入ってみました。突き当たりにはスギ林を伐採した小広い空間がありましたが、特段遺構のようなものは見当たりませんでした。当時はここにどんなものが保管されていたのでしょうか。

 大和盆地

 一箇所だけ展望のきく場所がありました。見えているのは南東側で、6月に登った大和三山(耳成山、香具山、畝傍山)が見えています。



 道は再び森の中に入りました。やがてちょっとわかりにくい分岐が。2万5千分の1地形図での表示では十字路になっていて現況と異なっていたのでしばし悩みましたが、鍵型に写真奥右手に向かうのが正解でした。



 スギ林の中を登っていきます。枝打ちなど手が入っているので林床も明るいです。



 山腹を巻くように歩いて行くとコンクリート舗装の林道に出ました。ちょっとびっくりするような傾斜です。この道は山頂にある信貴山神社に続いているはず。ここを登っていきます。



 道はジグザグに折り返し、高度を上げていきます。

 信貴山城趾

 11時50分、信貴山の山頂部に到着しました。「信貴山城趾」との石碑があります。こちらは高安城とは異なり中世の山城。15世紀、応仁の乱の頃に築城されたことが文献に残っているそうです。



 ここから表側の参道に入り、千本鳥居をくぐって行くとすぐに山頂です。

 空鉢護法堂

 山頂のお堂が現れました。これは空鉢護法堂(くうはつごほうどう)という仏閣で、信貴山中腹にある朝護孫子寺の伽藍の一部を占めるものだそうです。このお堂は毘沙門天の眷属である難蛇竜王を祀っているとのこと。 有名な国宝「信貴山縁起絵巻」の題材となった物語に空を飛ぶ鉢が出てきますが、その鉢に霊験を持たせたのがこの難蛇竜王だそうです。「空鉢護法」とはその霊験のことなんでしょうね。



 空鉢護法堂には周囲ぐるりを10以上もの摂社が取り囲んでいます。それを反時計回りに参拝していき、一回りしました。すると南側にある清水の舞台のようなテラスに至ります。

 金剛山地

 そのテラスからの眺望。大阪と奈良とを分ける金剛山地が正面に見えています。

 二上山、葛城山、金剛山

 手前から、二上山、葛城山、金剛山と続いています。二上山の手前には、金剛山地とここ生駒山地との間を切り通した「亀の瀬」と呼ばれる峡谷があります。そこを流れるのは大和川。奈良盆地を流れるほとんどの川を集めて流れ下っています。

 麓の集落

 信貴山縁起に出てくる命蓮法師は、ここから麓の長者のところへ鉢を飛ばしたのでしょうか。その鉢にのって倉が飛んで戻ってくるところを想像すると、まあなんというか荒唐無稽ですね。



 ひとしきり眺望を楽しんだ後は、表側の参道を朝護孫子寺に向かって下っていきます。

 ツルアリドオシ

 参道脇の岩壁にツルアリドオシの赤い実を見つけました。この実は二つの花の実が合着する形で成長して一つになったもの。その名残が実の先端に二つ跡になって残っています。

 シロヨメナ

 これはシロヨメナでしょうね。秋の花です。

 多宝塔

 しばらく下って行くと朝護孫子寺の多宝塔が現れました。大日如来が祀られているそうです。江戸時代初期の建立で、明治の初めに一度修復しているそうですが、そこからでもすでに100年以上経っているんですね。



 一つの谷全体を使って寺の伽藍が配置されています。大きなお寺です。

 朝護孫子寺

 いくつか塔が見えるのは、成福院や玉蔵院という寺院兼宿坊だそうです。
 朝護孫子寺の創建の時期や経緯はよく分かっていないのだとか。信貴山縁起絵巻は平安後期に描かれたものだそうですが、そこにこの寺のことは何ら触れられていないとのことです。通常の寺社縁起絵ではむしろ創建の経緯などを記すために描かれるものなんでしょうけど。



 様々な仏閣の建ち並ぶ中を歩いて行きます。大小の建物あり、路地あり、通りあり。ちょっとした街のようです。



 やがて朝護孫子寺の敷地を抜け、バス乗り場までやって来ました。時刻は12時40分です。次のバスまで約15分。とりあえずこの待合室で昼ご飯を食べることにしました。コンビニのおむすびですが。

 信貴山門バス停

 バスはおよそ40分間隔で運行。ここ信貴山門バス停からから約2km先の終点の高安山バス停まで向かいます。ほぼ山の中を走るその間に停留所は1箇所だけ。沿線に住宅はなく、唯一のバス停は山中にある大規模霊園に行く人のため用です。

 高安山バス停

 定刻にバスに乗り、あっという間に高安山バス停までやって来ました。ここに信貴山ケーブルカーの駅があるのです。yamanekoを降ろしたバスはロータリーを回って戻っていきました。

 大阪平野

 駅舎の脇からの眺望がまた素晴らしい。六甲山地までよく見渡せます。ここでビアガーデンとかすると儲かりそうですよね。東京では高尾山のビアテラスがあんなに盛況なんですから。都心からの電車とケーブルカーと飲み放題チケットで5千円くらいでどうですか。

 近鉄高安山駅

 ここがケーブルカーの駅舎です。ちなみにここでもICカード乗車券が使えます。



 ケーブルカーはちょうど発車間際。ベルにせかされるように乗り込みました。

 近鉄信貴山口駅

 そしてわずか数分で麓の信貴山口駅に到着。ここは近鉄信貴線のどん詰まり。ここで電車に乗り換えます。電車は2駅先の河内山本駅との間の単線区間を往復しています。

 河内山本駅から

 今日は秋が深まりつつある生駒山地をゆっくりと楽しむことができました。登山客にもほとんど出会うことなく、静かな野山歩きでした。
 写真は河内山本駅での乗り換えの際に写したもの。ビルの間からではありますが高安山の全体の姿を見ることができました。「今日は楽しませてくれて、無事に帰してくれてありがとう。」
  秋はさらに深まっていきます。