白金自然教育園 ~都心に残された森・秋9月~


 

【東京都 港区 平成24年9月22日(土)】
 
 なんだかんだで今年も秋分の日がやってきました。暑さ寒さも彼岸までといいますが、今年の場合は彼岸過ぎてもまだ暑い、という感じの毎日です。さて、白金自然教育園での月イチ自然観察。園内には秋の気配が漂っているでしょうか。
 

 入口

 今日は祝日。さすがは「国立」の施設だけあって、入口に国旗が掲げられています。
 そもそも祝日って…。「国民の祝日に関する法律」を検索してみると、その第2条で祝日の種類と日にち、そしてその趣旨を定めています。例えば、こどもの日は「五月五日」とし、その趣旨を「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する。」としています(こどもの日に母のみに感謝することになっているとは、父として少し納得がいきませんが。)。一方、秋分の日はどう定められているかというと、「○月○日」といったものではなく、「秋分日」となっています。日にちが特定されていないのです。この秋分日は毎年国立天文台が測定し、閣議決定の後、官報で発表されているそうです。毎年ほぼ決まって9月23日ですが、まれに違う日になるそうで、今年は9月22日。なんと116年ぶりのことだそうです。春分日と併せてカレンダー業界では要注意の日ですね。

 ミズヒキ

 まだ平気で夏日なんですが、植物を見ると秋の訪れを確信しますね。これはミズヒキの花。3㎜くらいの小さな花です。誰に注目されるでもない小さな花ですが、それでも時期が来るときちんと咲いて自らの役割を果たしている。こういった野の花は健気で大好きです。

 ヌスビトハギ

 これはヌスビトハギの果実ですね。ズボンなどにくっついてくるひっつき虫です。その果実の先端の形が盗っ人の忍び足に似ているとして、ヌスビトハギの名が付いたといいうことです。

 クロアゲハ

 都市近郊でも普通に見られるクロアゲハ。タイアザミの花の蜜を吸いに来ていました。
 アゲハには夏や初秋に成虫になる夏型と、蛹で冬を越し春に成虫になる春型があるそうで、これは夏型の個体になります。よく調べてみると夏型にも3パターンあって、春型の成虫が産んだ卵から初夏に成虫になるもの、その成虫が産んだ卵から夏に成虫になるもの、さらにその成虫が産んだ卵から初秋に成虫になるものがあるのだとか。写真のクロアゲハはその3番目のやつですね。そして今成虫のものが秋に産んだ卵は来年の春型の成虫になるのでしょう。

 

 森の中の様子はまだ鬱蒼としていますね。今日は時計回りに、まず水鳥の沼方面へ進みましょう。

 

 頭上でジジジッとセミの声がしたので見上げてみると、ジョロウグモの巣に引っかかっていました。しばらくジタバタしていましたが、ほんの数十秒で動かなくなってしまいました。季節外れに羽化してきて、うまく結婚相手が見つかっただろうか。だめだったとしてもわずかな地上の時間を満喫したかっただろうに。

 ウバユリ

 水鳥の沼周辺までやって来ました。なんかマラカス風の実を付けているのはウバユリの果実です。みっしりと重たい実で、それを支える茎もしっかりとしています。

 マンネンタケ(たぶん)

 木の切り株からキノコが立ち上がっています。柄が笠の中央ではなく端っこに付いていて、高さは15㎝ほど。笠の質感はなんとなくサルノコシカケのようでもあります。図鑑で調べてみたところ、たぶんマンネンタケだと思います。

 カリガネソウ

 武蔵野植物園にはカリガネソウが。膨らんだ蕾もありますね。ちょうどこれからが盛りの時期です。釣り竿のようなものは花柱と雄しべです。花にハチなどが訪れるとこの釣り竿がぐぐっと下がってきて、ハチの背中に花粉を付けるようになっているそうです。その現場はまだ見たことがないので一度見てみたいです。

 ツルボ

 これはツルボ。小さな星を散りばめたような姿をしています。これでもユリの仲間です。これから咲こうとしている蕾がたくさん待機していますね。

 オオヒナノウスツボ

 オオヒナノウスツボは変わった名前の植物で、漢字で書くと「大雛の臼壺」。「臼壺」は花の形からきたものでしょう。その前に付いている「ヒナ(雛)」は小さいという意味なんですが、それにかぶせて「オオ(大)」を付けるとは。いったい小さいのか大きいのか。
 そろそろ花の時期は終わり。実の方が多い状態です。

 ヤマハギ

 秋の七草のうちの一つ、ヤマハギです。林の縁や草地など人の生活と関わりの深いところに生えているので、遠い昔の山上憶良の目にも留まったのでしょう。なにしろハギは万葉集の中で最も多く詠まれている植物だそうですから。その数141首だとか(万葉集全体では4500首以上もありますが。)。古くから日本人に好まれてきた花なんですね。

 カラスノゴマ

 武蔵野植物園はたくさんの花で飾られています。葉陰で控えめに咲いているのは「カラスの胡麻」 種子がゴマのようなのですが食用に適さないためカラスが食べるのにちょうどよいということのようです。カラスノゴマはシナノキ科という草本では珍しい科に属しています。有名なところではボダイジュがシナノキ科です。

 ヤブタバコ

 根元近くの葉が大きくてタバコの葉に似ていることから「藪煙草」だそうです。花は写真の状態でほぼ満開。これ以上開くことはありません。花柄がほとんどないのでなんか窮屈そうに茎に並んでいます。

 

   キンミズヒキ

 ひっつき虫でお馴染みのキンミズヒキ。花の状態と実の状態です。新鮮な実がたわわに実っていますな。さあ、どいつにひっついてやろうかって感じです。

 キバナアキギリ
 

 キバナアキギリは独特の構造をしています。花の奥にあるピンク色の小さなものは不完全な雄しべ。これを押し込むと花冠上部に格納されている雄しべがシーソーの要領で下りてきて。虫の背中に花粉を付けるという仕組みになっています。普段は雄しべは隠れているということですね。その一方で、雌しべは写真のとおり花冠から長くつき出して目立っています。

 トラノオスズカケ

 おっ、まだトラノオスズカケが咲いています。50年の休眠から覚めて咲いている花です。(こちら参照

 シモバシラ

 シモバシラは咲き始め。下から咲いていくパターンですね。シモバシラは冬になり茎が枯れると裂け目から霜柱が伸びてくるという、知らない人が聞いたら???な現象が起きます。これが名前の由来となっています。

 

 ハギにススキ。秋の野…というより藪ですかね、この鬱蒼感は。さて、これから森の小道を歩きます。

 ヒガンバナ

 例年彼岸の中日に合わせたように咲くヒガンバナですが、今年はかなり遅れているようですね。森の中に一株だけ咲いていると、ヒガンバナ特有の陰な空気が辺りを取り囲みます。

 

 森の小径で拾ったもの。ああ、ドングリか、といって通り過ぎるところですが、よく見ると葉も付いた状態で茎のところで折れています。ふーむ、これは事件の匂いが…。いや、これはハイイロチョッキリの仕業ですね。
 ハイイロチョッキリとは小さな甲虫の仲間で、その産卵行動におもしろい特徴のある虫です。注目すべきはドングリ(コナラ)の殻斗、帽子の部分です。そこに小さな小さな黒点があるのが分かるでしょうか。じつはこれはハイイロチョッキリが開けた穴で、この奥に卵を産み付けているのです。おもしろいことにハイイロチョッキリはきまってこの殻斗の部分に穴を開けます。理由は、この部分が軟らかいからとも、穴を開けた後に殻斗をコルクのように詰めるためともいわれています。産卵後は枝の部分から(多くの場合葉付きで)切り落とします。なぜ切り落とす必要があるのか。卵が孵化した後幼虫が地面に移動しやすいようにという話を聞いたことがありますが、チョッキリの仲間には切り落とさないものもいるので、それもちょっと疑問です。また、枝を完全には切り離さず、半分くらい切断してぶらぶらさせるチョッキリもいるとのこと。そうなるとこれはきっと落とす落とさないが問題なのではなく、枝からの栄養補給を絶って、ドングリ自体の成長を止めることが目的なのではないでしょうか。幼虫が食べやすいよう軟らかいままにしておくためにとか。

 水生植物園

 そんなこんなで水生植物園までやって来ました。

 ツリフネソウ

 明るく湿った場所には広範囲にツリフネソウが咲いています。ツヤツヤですね。

 ユウガギク

 これはユウガギクです。「優雅な菊」ということではなく(むしろかなり簡素。)、柚子の香りがする菊ということで「柚香菊」だそうです。でも実際には柚子の香りはしない気がするのですが。

 シロバナサクラタデ

 純白の花を付けるシロバナサクラタデ。本家のサクラタデの方はその名のとおりほんのりサクラ色。一方こちらは純白です。タデ科の植物の花はだいたいみな小さいですが、いずれも端正な顔立ちをした美人ばかりです。ただし性格は(味は)辛いですよ。

 夏から秋へ

 ツリフネソウの群落。夏から秋へ、季節が移ろっていきます。そういえばいつの間にかヤブ蚊がいなくなりました。

 定点写真

 ぐるっと回って池の畔へ。いつもの定点写真です。先月に比べわずかに茶色っぽくなってきていませんか。いや、午後の光線の加減かもしれませんね。

 シュウブンソウ

 そろそろ管理棟に向かって戻っていきましょう。
 今日の日に最もふさわしい花、シュウブンソウ(秋分草)が咲いていました。なんとタイミングの良いことか。頭花の大きさは直径8ミリほど。ごく小さい花ですが、キク科の花らしくちゃんと舌状花が並んでいます。

 スダジイ

 また、道に面白いものを見つけました。スダジイの実です。子どもの頃、近所の山にシイの実拾いに行って、祖母に焙烙で煎ってもらって食べた記憶があります。遠い記憶ですが、フライパンなどではなく確かに焙烙でした。最近、そんな調理器具はまったく見かけませんね。シイの実は、食感はクリよりちょっと固い感じで、味はほんのりと甘く香ばしかったです。懐かしいなぁ。

 午後の光

 林の奥に午後の光が差し込んでいます。9月ももうじき終わり。これから本格的な秋の訪れです。
 白金自然教育園での観察も今月で4分の3を終えました。早いですね。これからぐんぐん日が短くなっていき、朝夕だけでなく日中の気温も下がっていきます。木々の葉も落ちて園内の様子も大きく変わるでしょうね。
 
     

   自然教育園の周辺の様子