至仏山 〜山上の花畑ふたたび(前編)〜


 

 (前編)

【群馬県 片品村 平成25年7月28日(日)】
 
 盛夏です。東北や北陸ではまだ梅雨明けしていませんが、関東ではてんこ盛りの盛夏です。この連日の猛暑から逃れるべく今回向かったのは、心を解放する別天の地、尾瀬。この時期尾瀬ヶ原の湿原にはニッコウキスゲが満開でしょうが、目的地はそこではなく、湿原を取り囲む外縁の山の方です。まずは尾瀬の玄関口鳩待峠から至仏山へ。山頂まで往復して鳩待峠で一泊し、翌日は峠を挟んで至仏山とは反対側に位置するアヤメ平に向かう予定です。yamanekoは至仏山は2回目(妻は初めて)、アヤメ平はまだ行ったことがありません。(前回の至仏山はこちら
 
                       
 
 今回東京を発ったのは午前5時。尾瀬に向かうにはちょっと遅めでした。目白通りから関越道に入って沼田ICで高速を下りたのが7時前。そこから国道120号線を山の奥に向かって走りました。片品村の役場がある鎌田という集落で尾瀬方面に分岐(ここを直進すると奥日光に至ります。)。沼田から約1時間で尾瀬へのベースキャンプ的な戸倉という集落に到着しました。シーズン中は曜日や時刻によって鳩待峠までのマイカー通行が規制されるので、ここに車を停めてここからはバスか乗り合いタクシー(10人乗りワンボックス)で鳩待峠に向かうことになります。バスでもタクシーでも片道900円也。
 戸倉の温泉街から川を渡った対岸にある第1駐車場は280台収容。駐車料金は1日(24時間)1千円で、管理棟のような建物中に綺麗なトイレとバス・タクシー共通の乗車券売り場があります。売り場前には手配師のようなおばちゃん(時間によっては若いお姉さんの場合も)がいて、乗客を効率的にタクシーに振り分けていきます。今回、第1駐車場は日帰り客用ということで、泊まりでの入山者は温泉街から見て反対側の山手にある第2駐車場に誘導されました。第2の方も250台収容と大型で、第1同様の施設があります。ここは第1駐車場から鳩待峠に向かう道の途中にあり、第2駐車場で何人待っているかという情報が随時第1に送られていて、例えば2人待っているということであれば、第1から2席分空けた状態のタクシーが上がってきます。また、9人以上が待っている場合は空のタクシーを差し向けるというシステムです。このタクシー、シーズン中は朝4時台から運行していて、なかなか便利です。

 尾瀬エリア
 Kashmir 3D
〔今回のルートを大きな地図で〕

 至仏山は尾瀬エリアの南西端に位置します。鳩待峠の標高は1591m。至仏山の山頂が2228mですので、標高差は約630mということになります。
 午前8時に第2駐車場から乗り合いタクシーに乗って鳩待峠に向かいました。途中、子熊がタクシーを見て慌てて道路脇の藪を駆け上がるという場面に遭遇。yamanekoの座っていた位置からははっきりとは見えませんでしたが、きっと親熊も近くにいたのではないでしょうか。

 鳩待峠からの至仏山

 鳩待峠には8時30分に到着。早速至仏山の方を見てみると、上空に雲はあるものの、山容はくっきりとしています。「至仏山への入山は遅くとも午前9時までに」と看板に書いてあるので、てきぱきと準備運動とトイレを済ませました。トイレは売店の裏手にあり、チップ制です。

 さあ行くぞ

 さあ、出発。今回は山小屋泊とはいえ2日分の荷物を背負っているので結構重いです。

 鳩待山荘(左)

 至仏山への登山口は広場を挟んで反対側。上の写真は登山口から振り返って見た図です。峠の上には雲が低く垂れ込めていて、明るい至仏山方面とは対照的な雰囲気です。右の建物は売店、左が今晩泊まる鳩待山荘(外壁改装中)です。峠にタクシーやバスが上がってくるたびに数人の登山客が広場に降り立ち、しばらくたむろした後に多くの人は尾瀬ヶ原方面(写真では左側)に下っていきます。

 いざ出発

 なんだかんだでyamaneko達がスタートしたのは8時55分。ギリ9時前でした。

 木漏れ日の森の中を登っていきます。なんとも清々しい。今日一日、ずっとこんな天気でありますように。

 ズダヤクシュ

 登山道脇に小さな白い花。背丈は20pほど。ズダヤクシュです。ズダとは信州の方言で「喘息」のこと。むかし喘息の薬として用いられたのだそうです。

 オオバノヨツバムグラ

 これも花の大きさが5oほどと小さな花。図鑑によるとオオバノヨツバムグラだそうです。名前のとおり葉は4個。よく見ると花弁も4個です。

 ミヤマウド

 この線香花火のような花はミヤマウド。あのタラノメの仲間です。

 シロキクラゲ

 ぷよぷよ感触のこれはシロキクラゲというキノコ。食べられるそうですが…。

 ハリブキ

 ハリブキの特徴的な葉。茎だけでなく葉の脈の上にも鋭い針が並んでいます。いったい誰から身を守ろうとしているのか知りませんが、過剰防衛では。

 小至仏山

 木立の間から小至仏山が見えました。至仏山の手前にあるピークで、これからあの稜線を左から右に向かって歩く予定です。それにしても夏の青空、気持ちいいです。

 ゴゼンタチバナ

 背丈は10pほどと小柄ですが、これでも立派な樹木。ゴゼンタチバナです。もう花は終わってしまって、これから赤い実になる部分が秋を待っている状態です。

 ユキザサ

 ユキザサ。こちらも秋にルビーのような赤い実を付けます。花は雪のように白い色をしています。

 ミヤマタムラソウ

 シソの仲間のミヤマタムラソウ。雄しべ、突き出し過ぎです。

 東側の展望

 1897mピークの南斜面を横切っていきます。この辺りからはちょうど登ってきた方を見渡せました。明日登るアヤメ平も。「平」と名が付いているだけあって、緩やかに傾斜した広い空間が山上に広がっています。

 黒雲と青空が上空で入り乱れています。さっきまで青空だったのがあっという間に雲に覆われてしまったり。

 イワオトギリ

 これはイワオトギリ(たぶん)。分布は関東地方北部から中部地方の日本海側とされています。他の仲間となかなか見分けが難しいですが、葉の形と(先端が細い楕円形)と黒点が多いところ、あと株立ちのしかたなどから、勝手ながらイワオトギリとさせていただきました。

 ミズキ

 ミズキの葉を透かす夏の光。眩しいです。ミズキは標高の低いところでは5月から6月に花を付けますが、この辺りでは今頃咲いています。

 ダケカンバ

 ルート上にあったダケカンバの大木。雪の重みで斜めになっているのでしょうね。

 ピラミッド?

 西の方角にピラミッドのようにつき出している山が。あれは笠ヶ岳(2058m)。雲がなければ奥に谷川岳など上越国境の山々が見えるはずなんですが。

 ミヤマキンポウゲ

 ミヤマキンポウゲは黄色の金属光沢の萼片が特徴。背景の黒い影とのコントラストがいいですね。

 オガラバナ

 葉の形からも分かるとおりカエデの仲間のオガラバナ。上に向かって伸びているのは花穂です。あまり見かけないのは、本州では標高1500mから2000mの高地に生えるものだからだそうです。

 尾瀬ヶ原

 今度は1935mピークの北側斜面を登っていきます。尾瀬ヶ原が見えてきました。右奥は燧ヶ岳です。ちょっと雲が厚くなってきたか?
 この辺りは森の木立が切れ草原状の斜面になっているので、日当たりが良く、これまでの林間とは異なり花の種類が一気に増えたようです。

 ニッコウキスゲ

 見渡した限り一株だけ残っていたニッコウキスゲ。この花は一日でしぼんでしまう一日花です。今日yamaneko達が来るのを待っていてくれたのか?

 ウラジロヨウラク

 これでもツツジの仲間。ウラジロヨウラクです。何が裏白かというと葉っぱの裏です。

 ハクサンボウフウ

 むかし生薬として風邪薬に使われたというハクサンボウフウ。ボウフウとは「防風」で、風邪を防ぐという意味です。名前にハクサンと付いていますが、至仏山にはハクサン(白山)の名が付く花がたくさん見られます。

 クルマユリ

 ササの中にオレンジ色の花。あれはクルマユリですね。
 それにしても花が多くてなかなか先に進めません。

 ダイモンジソウ

 ダイモンジソウはその名のとおり花冠が「大」の文字の形をしています。少し湿ったところを好む花です。

 

 ホソバノキソチドリ  タカネシュロソウ

 スマートな姿の花を2種。ホソバノキソチドリは距が細長く下にカーブ。ランの仲間です。タカネシュロソウはここ至仏山のものを標本として新種登録されたのだそうです(これを「基準標本」というそうです。)。ユリの仲間です。

 おお、これぞ夏の尾瀬といった風景。こういうのを見られるだけで山に来た甲斐があるというもの。

 ミネウスユキソウ

 ミネウスユキソウは和製エーデルワイス。白い大きな花びらがあるように見えますが、本当の花は中心部の丸いやつで、花びらに見えるのは苞という葉の変化したものです。

 ああ、夏山は楽し。まだ至仏山までの行程の3分の1を過ぎたあたり。「ここに咲いてるよー」数々の花が呼び止めてきますが、出発が遅めだったので先を急がねば。これから小至仏山に向けて滑りやすい蛇紋岩が出てくるので気を引き締めて行きましょう。(中編へ続く)