戦場ヶ原 〜秋澄む野辺に遊ぶく〜


 

【栃木県 日光市 令和3年9月20日(月)】
 
 今日は秋分の日。祝日です。しかも晴天予報です。
 「暑さ寒さも彼岸まで」とはいいますが、巷はまだまだ日中は暑いです。真夏日とかあったりして。ここはひとつ標高の高いところで野山歩きを。ということで、今回は奥日光の戦場ヶ原に行ってみることにしました。ここでの自然観察はかれこれ14年ぶりです。
 
                       
 
 午前5時半に自宅を出発。圏央道、東北道と乗り継いで、途中から日光宇都宮道路へ。日光の市街地や東照宮をやり過ごす形で通り過ぎ、終点の清滝ランプで下道へ。そこから標高差700mの第2いろは坂にとりつき登り切ると、中禅寺湖です。その湖畔をしばらく走って更にもう一段上ったところに広大な湿原、戦場ヶ原が広がっています。自宅からの走行距離は220km。結構な距離です。
 今日の野山歩きの起点、赤沼自然情報センターには9時前に到着しました。

 赤沼自然情報センター

 赤沼自然情報センターは、日光側から戦場ヶ原に入った場合、その最も手前に位置しています。栃木県立日光自然博物館(こちらは中禅寺湖畔にある。)のサブセンターという位置付けだそうです。この日はコロナ禍のため閉館していました。
 県営駐車場にドリーム号Vを停め、準備体操をしてから散策スタートです。

 Kashmir3D

 戦場ヶ原の西側を流れる湯川。戦場ヶ原から更に一段上にある湯ノ湖から湯滝を下って流れ出る川で、戦場ヶ原を潤した後は龍頭の滝を経て中禅寺湖に注いでいます。今日のルートは、その流れに沿って延びる自然研究路を北上します。ただ、泉門池(いずみやどいけ)から先は、2年前の台風の影響で通行止めとなっていて(青線の部分)、その西側の丘を行く小径を辿ることになります。湯滝に到着したら国道にあるバス停に出て、そこから赤沼に戻ってくるというルートです。



 上の断面図を見ると戦場ヶ原と湯ノ湖、中禅寺湖との関係がよく分かると思います。また、戦場ヶ原がずいぶん高いところにあることも分かります。

 自然研究路入口

 自然情報センターから国道120号線(通称「ロマンティック街道」)を渡ったところが自然研究路の赤沼入口。時刻は9時10分、スタートです。



 脇の小川は赤沼川で、この先で湯川に合流します。
 空気は涼しく、「クリア」と表現するのがピッタリ。大気中に不純物がない感じがします。よくテレビの旅番組とかで「ああ空気が美味しい」などと言っていますが、こんな感じなのかもしれません。正直これまでどこに行ってもあまりそんなふうに感じることはなかったのですが。

 サルオガセ

 木の枝にサルオガセがぶら下がっていました。霧が立ちこめるような環境に生息する地衣類の一種です。

 分岐

 ほどなく分岐が現れました。ここをまっすぐ行くと龍頭の滝に至ります。赤沼川もここで湯川に合流して龍頭の滝に向かいます。yamaneko達はここを右折して湯川沿いの研究路を遡ります。



 研究路の木道はこんな感じで、すごく歩きやすいです。戦場ヶ原は尾瀬とほぼ同じ標高にありますが、こちらは観光地化しているので、木道も尾瀬のそれに比べてフラットで幅も広いです。



 木立の切れ間から眺望が得られる場所がありました。正面に見えるのは大真名子山(右)と小真名子山(左)です。手前の褐色の広がりは湿原を覆うホザキシモツケの大群落。もう花期は終わっています。

 ホザキシモツケ

 そのホザキシモツケの中にも希に季節感のおかしなやつもいるようで、ここで一株だけ花を付けているものを見つけました。本来なら7月頃に盛りを迎える植物です。このピンク色の花が一面に広がっている様はそれは見事でしょうね。



 青空と黄葉始めの木々。気持ちのよい散策です。ときどき立ち止まって伸びをしたりして、リラックス。

 湯川

 木道の脇には湯川の流れ。透き通っています。



 水面の下では、青い水草が流れに揺らめいていました。ちょっと幻想的な感じです。

 カンボク

 カンボクが赤い実を付けていました。ツヤツヤして輝いています。ただ実には強い苦みがあるようで、食用には向いていないとのこと。

 リンドウ

 林床に咲くリンドウ。陽を浴びるともう少し花冠が開くはずです。

 男体山

 どーんと眺望が開けました。ひときわ存在感を見せているのは男体山(2486m)です。古代、ここ戦場ヶ原で戦いを繰り広げた一方の雄だけのことはあります(もう一方の戦の相手は赤城山)。その言い伝えについてはこちら

 大真名子山など

 男体山から視線を左に移すと、ここ戦場ヶ原を取り囲むように並んでいる山々が。右から、大真名子山(2376m)と小真名子山(2323m)。大きな鞍部を挟んで太郎山(2368m)、山王帽子山(2077m)です。

 三岳など

 更に左に移すと、姿のとおりの名前の三岳(1945m)、その左奥に温泉ヶ岳(2333m)です。左端に見切れている山裾は外山(2224m)になります。

 ウメバチソウ

 この湿原によく似合うウメバチソウ。花冠が家紋柄の「梅鉢」に似ていることからのネーミングだそうです。

 湯川

 水、澄んでいますね。温泉成分が含まれているでしょうから、貧栄養なるが故の透明度なのかもしれません。

 「盆栽」

 枯木の窪みに苔が生え、そこで小さな盆栽を作っていました。見ようによっては針山みたい。

 清流

 これぞ清流。水は滔々と流れるも、音もなく静かです。



 林間の空気に夏の名残はありません。日向はひんやりとまではいかないものの、サラッとした肌触りで、むしろ心地よかったです。



 紅葉が始まりつつあります。標高の高いこの地、朝夕はしっかり冷え込むんでしょうね。

 シロヨメナ

 ふつう野菊という場合、キク科のうちキク属とシオン属といったところがそれに当たり、そのシオン属の中で抜きん出て分布が広く個体数も多いといわれているのが、このシロヨメナだそうです。山でこのての野菊を見かけたら、まずシロヨメナを疑ってみるべし、ということです。

 外山

 進行方向の正面に見える山は日光白根山塊の外山(2204m)です。山塊の盟主の日光白根山はその外山に阻まれここからは見えていません。

 アキノキリンソウ

 アキノキリンソウ。秋を待たずに夏の間から咲いています。



 木道には所々に休憩用のスペースが設けられています。この風景の中でお茶とお菓子を食べる幸せ。寿命が延びそうです。

 孤高

 孤高の枯木。
 湿原の中を流れる川の両岸には自然堤防が形成され、そこは土壌が安定しているため、背の高い木が育つことが可能になります。そんな木々が林のような密度で連なる状態を「拠水林」と呼びます。

 ズミ

 自然研究路沿いにはこのズミが多くみられました。それもそのはず、戦場ヶ原は日本でも有数のズミの観察ポイントだそうです。ズミはバラ科で、リンゴに近い植物。別名「コリンゴ」とも。それにしては小さすぎるリンゴですね。

 ダイサギ

 湿原の中に白い影が。あれはダイサギですね。サギはじっとしていてくれるので写真を撮りやすいです。

 ホザキシモツケ

 おっと、ここにもホザキシモツケが。この時期に出会えるとは、ラッキーです。

 ゴマナ

 こちらはゴマナ。さっき見たシロヨメナより花冠は小さめで、かつ、花序の花数は多めです。葉の形も明らかに異なりますね。



 少し木立の密度が高くなってきました。これはこれでいい感じです。

 サラシナショウマ

 このスケルトン感満点のものは何かというと、サラシナショウマの果穂なんです。花はこちら

 青木橋

 10時45分、青木橋までやって来ました。自然研究路に入って初めて湯川を渡ります。これまでは一貫して湯川の左岸を歩いてきましたが、ここからは橋を渡って右岸を歩いて行きます。写真は橋の上から川下側を撮ったもの。



 ときには森の中を歩きます。

 奥日光の峰々

 雲一つない秋晴れの下、奥日光の峰々が肩を寄せ合ってこっちを覗き込んでいました。「おーい、楽しんでるかーい」って。右から大真名子山、小真名子山(その鞍部にわずかに見えているのが女峰山のピーク。)です。そして左が太郎山です。

 分岐

 小田代ヶ原に向かう道の分岐にやってきました。ここは直進です。

 泉門池

 11時10分、泉門池に到着。ここは大きな休憩スポットです。この池は湯滝から流れ下った湯川が戦場ヶ原に出る場所にあり、流れの水はいわば一旦ここにためられて湿原を潤すといった格好になっています。

 マムシグサ

 泉門池で小休止した後、再び歩き始めました。ここからは森の中を緩やかに上っていきます。湯川沿いの通常の自然研究路が通行止めになっているので、その迂回路になります。

 倒木

 途中、倒木が朽ちていきつつある場所がありました。株元から手前側に倒れたままに朽ちていて、倒れてもう何年も経っている様子でした。あえて片付けないんでしょうね。



 こんなものが設置されていました。クマ遣りの鐘です。鳴らしてみるとびっくりするほど大きな(なんなら心臓に悪いくらい)、良く通る音が響き渡りました。



 「何か面白そうなものはないかな?」 野山歩きでは夫婦揃ってこんな調子なので、いつも標準的なコースタイムの1.5倍を見込んでおかなければなりません。

 バイカモ

 流れの中にバイカモを見つけました。漢字では「梅花藻」で、花は梅に似て、葉は藻に似るということでのネーミングです。事実、葉は細かく裂けていて常時水の中に漂い、藻のように見えます。株自体が水中で生きています。一方、花は葉腋から水面上に伸ばした花茎の先に付きます。たくさんの白い花が水面に揺れる様は微笑ましいものがあります。



 おっ、あれは湯滝ですね。とうとうやって来ました。滝の幅がやけに広いです。水は垂直に落下しているのではなく、斜めの岩盤を流れ下るスタイルです。

 湯滝

 11時50分、湯滝に到着です。大きな滝です。なんというかどっしりとした存在感。滝の下に釣り人が見えますが、それとの比較で大きさが分かります。
 湯滝は落差70m。斜面を下る形なので、深くえぐれるような滝壺はないようです。水が下り出す滝口すぐのところまで湯ノ湖が迫っています。

 湯滝入口バス停

 湯滝を後にして、近くを通る国道に出ました。ここにバス停があり、スタート地点の赤沼に戻ります。
 20分ほど待ってバスがやって来ました。湯ノ湖の奥にある湯元温泉を発って、東武日光駅まで。長距離路線です。yamanekoは4つ先のバス停で下車ですが。
 
 赤沼に戻って、リュックを下ろし、整理体操。そしてドリーム号Vに乗り込んで帰途につきました。本当に清々しい野山歩きでした。
 


 

 金精峠からの男体山

 帰路は朝来たルート(東北道経由)ではなく、戦場ヶ原から奥に入り、金精峠を越えて群馬県側から関越道を通って帰ることにしました。距離は往路と似たり寄ったりだと思います。
 途中、金精峠の手前の駐車スペースに車を停めて、上の写真を撮りました。男体山の均整の取れた姿がよく見えました。手前に見えているのは湯ノ湖です。

 金精山

 これから越える金精峠。のしかかるように聳えるのは金精山(2244m)で、この国道はこの先であの山をトンネルで貫き、群馬県側に下って行くのです。そこから片品村、沼田市を走っていきます。
 
 そして帰りの関越道、そこそこ渋滞していました。


 そういえば今日は秋分の日でした。
 毎年、翌年の秋分日(秋分点がある日)がいつになるかを国立天文台が発表しているのをご存じの向きも多いところ。その日が「秋分の日」として祝日になるのですが、計算でずっと先まで分かるのになぜ一括して発表せず、毎年翌年のもののみ発表するのか。現に国立天文台のHPには計算によって求められた春分日、秋分日が向こう30年分掲載されています。ただ、「地球の運行状態は常に変化しているために、将来観測した結果が必ずしもこの計算結果のとおりになるとは限りませんので、あくまでも参考として」との注意書きが。なるほど、だから直前に発表するようにしているということですね。と納得しかけましたが、(ホントか?そんなに誤差が出るものなのか?それ言ったらカレンダー自体あやふやなものになってしまわないか?閏年とか。)と疑念が湧いてくるのでした。