八島ヶ原湿原 〜山上の楽園花回廊〜


 

 

【長野県 下諏訪町 令和3年8月28日(土)】
 
 今日は霧ヶ峰での爽快野山歩きです。まず鷲ヶ峰に登って絶景を堪能し(こちら)、下山後は八島ヶ原湿原に向かいました。下山といってもそこも霧ヶ峰の山上部なのですが。
 

 Kashmir3D

 八島ヶ原湿原の周囲にはぐるりと散策用の木道が敷設されているのですが、一周するのは大変なので、気の済むところまで行って引き返す予定です。

 八島ヶ原湿原

 藪の中からいきなり湿原の縁に出てきて、目の前に現れたのがこの風景。霧ヶ峰の山々が外輪山のように連なっています。広く、そして驚くほど静かな空間です。



 左を向くとこの風景。広っ!



 右を向くとこうです。こっちも広っ!
 これからこちらの方向に木道を歩いて行きます。

 オミナエシ

 オミナエシ。鷲ヶ峰で見たマルバハギ、カワラナデシコに続いて本日3つ目の秋の七草です。あとはクズ、ススキ、キキョウ、フジバカマですが、今回見られるかどうか。

 クルマバナ

 これはクルマバナ。輪生する花穂を車輪に例えて名付けられたものだそう。同様のネーミングのものに、クルマユリ、クルマムグラなどがあります。

 ベンケイソウ

 妻が茂みの中にベンケイソウを見つけました。相変わらずの「鬼の目」です。漢字では「弁慶草」と書きますが、この「弁慶」は単に強い(生命力が)という意味で用いられたもののようで、特段武蔵坊弁慶の逸話とかにちなんだものではないとのこと。強い者の代名詞が弁慶なんですね。そういえば弁慶タイプの強者って弁慶の他にちょっと思いつきません。

 シュロソウ

 地味な色合いの花を付けるのはシュロソウ。同じ姿で緑色の花を付けるアオヤギソウという植物があり、シュロソウはその変種なのだそうです。でもyamanekoとしては本種のアオヤギソウよりも圧倒的にこちらの方を目にする機会が多いのですが。



 こういう風景を左手に見ながら歩いて行きます。気持ち良すぎです。

 シラヤマギク

 最もポピュラーな野菊といえばこれ。シラヤマギクです。

 ハバヤマボクチ

 前衛アートのようなこの花。ハバヤマボクチです。「ハバ」の「ヤマボクチ」ということですが、「ハバ」とは「葉場」でこれは草刈場のこと。山の草原に生えるホクチアザミってことですね。ちなみにホクチは「火口」と書き、このアザミの葉裏に生えている軟毛を集めて乾燥させて作った着火材のことです。

 サラシナショウマ

 サラシナショウマです。花穂はまだ咲ききってはいない状態。 

 ミヤマキケマン

 ミヤマキケマン。ケシの仲間で、「深山に咲く黄色い華鬘草」というネーミングです。調べてみると華鬘とは仏具の装飾品の一種なのだそう。ただ、この花のどこが華鬘に似ているのかは分かりませんでした。

 クサレダマ

 クサレダマです。湿った環境のところを好む花で、湿原の常連。「腐れ玉」ではなく「草連玉」と書きます。

 キリンソウ

 これはキリンソウ。黄色い花が輪になって咲くから「黄輪草」だそうです。さっき見たベンケイソウの仲間です。ちなみに野山でよく見るアキノキリンソウはキク科で、全く別物。名前も「黄輪」ではなく「麒麟」です。



 こんな気持ちのいい風景の中を歩く幸せ。諸々に感謝したくなります。

 メタカラコウ

 メタカラコウ。雌宝香と書き、図鑑を読むと、宝香とは香料(防虫剤にもなる)の龍脳香のこととありました。龍脳香に似た香りということでこの名が付いたということです。ただ、その龍脳自体が分からないので更に調べてみると、東南アジアに分布する高木「龍脳樹」から染み出す樹脂が結晶化したものだそうです。貴重なものなのだとか。別にオタカラコウ(雄宝香)というものもあり、このオタカラコウに比べて柔らかな感じがするので「雌」ということのようです。

 八島ヶ原湿原

 八島ヶ原湿原は1万2千年前に誕生した高層湿原で、日本の高層湿原の南限にあたるそうです。泥炭層の厚さは約8mもあり、これは尾瀬よりも厚いのだとか。泥炭層は寒冷な気候で発達するといい、確かにここは尾瀬よりも標高で200m以上も高い場所になります。

 シモツケソウ

 シモツケソウ。まだほとんどが蕾の状態です。

 イケマ

 イケマはツル性の植物。やや縦長ハート型の葉が特徴的です(花も十分に特徴的ですが。)。イケマはアイヌ語に由来する言葉で、アイヌでは古くからイケマを薬用や食用、魔除けなどに用いていたとのことです。

 サラシナショウマ

 サラシナショウマ。試験管ブラシみたいです。

 フシグロセンノウ

 木陰に咲いていたフシグロセンノウ。これでもナデシコの仲間です。

 ヤナギラン

 これはヤナギランですが、既に花期が終わり果実ができている状態。果穂の下の方では果実が熟して裂け、中から綿毛を持った種子が飛び出しています。

 ヤマハッカ

 ヤマハッカはシソ科で、その花はシソ科に特有の唇形花。小さな花ですが巧みな造りになっています。それは下唇の縁が内側に巻いてカヤックの先端のようになっていて、普段はその中に雄しべと雌しべを格納しているのですが、虫がやってきてとまると下唇が下がり雄しべと雌しべが顔を出すというもの。必要なときにだけ出てきて、普段は大切な花粉を失わないように守っているんですね。



 ビジターセンターの方からやってくる木道が右手から合流しました。ここは左手へ。

 キツリフネ

 キツリフネ。黄色のツリフネソウということで、本家のツリフネソウは赤紫色をしています。写真のように葉の下に花を付けることが多いですが、日傘の役割は果たしていないようですね。眩しそうです。

 サラシナショウマ

 こちらは満開状態のサラシナショウマ。触ったらワシャワシャして気持ちが良さそうです。

 ヤナギラン

 まだ花を咲かせているヤナギランがありました。花序の中程の部分が開花していて、その上部は蕾、下部は果実ができています。

 タムラソウ

 アザミ、と思いきやこれはタムラソウ。よく似ているんです。一番の違いはタムラソウにはアザミのような棘はなく、触っても痛くありません。もちろんぎゅっと握ってもOK。

 鷲ヶ峰

 振り返るとさっき登った鷲ヶ峰が。尖って見えているのは山頂ではなく、1つ目のピークになります。

 シラヤマギク

 シラヤマギク。秋の訪れを感じさせる花です。実際には夏のうちから咲いていますが。他にヤマシロギクというのもあって紛らわしいですが、葉の基部(葉柄)の形で見分けるのが簡単です。シラヤマギクは長めの葉柄がありその先で葉が広がっていて、ヤマシロギクは葉柄はごく短く茎からいきなり葉が広がっているような形をしています。

 イブキトラノオ

 湿原の中にすっくと立つイブキトラノオ。望遠レンズを使用しています。「虎の尾」ということではさっき見たサラシナショウマの方がそれっぽいと思います。



 湿原の縁にはこんなふうに樹林が迫っているところもあります。残暑のギラギラした陽射しを遮ってくれて助かります。

 ウド

 ウドの花。もう果実ができる時期です。ウドは、若芽が山菜として食用になるし、「ウドの大木」といった諺もあるなど人間の生活に深く関わってきた植物です。ただ、ウドにもちゃんと漢字の名前があって「独活」と書くのですが、その由来は分かっていないのだとか。(婚活の逆か?)

 ヤマトラノオ

 時間的にそろそろ引き返さなければなりません。まだまだ花は尽きませんが、このヤマトラノオが見られたので心置きなく引き返すことができます。

 エゾリンドウ

 かなり遠くに咲いていたエゾリンドウ。これが望遠レンズの限界です。エゾと名が付いていますが、北海道だけでなく本州の中部地方以北にも分布しているとのこと。高地の湿原などを好む花です。

 ノコギリソウ

 葉の様子がノコギリに似ていることからノコギリソウの名を持っています。キクの仲間です。雲中の利尻山で見たノコギリソウ(シュムシュノコギリソウ)を思い出しました。

 マルバハギ

 近年になってなんかハギの良さが分かってきました。野にある美です。歳をとってきたからなのか、最近少し感性が変わってきたような気がするんですよね。日常生活の様々な場面で感じます。



 木道の合流点まで戻ってきました。さっきは右手からやって来ましたが、ここは直進です。

 コオニユリ

 葛飾北斎が描く美人絵は首を深く折り曲げている構図が多いのだとか。このコオニユリをみてそんなことを思い出しました。(やっぱり感性が…)

 アマニュウ

 もはや樹木と言ってもよいくらい立派なアマニュウ。セリ科の草本で、シシウドなどの仲間になります。茎を食べると甘いのだとか。



 木道は湿原を離れ、鷲ヶ峰の登山口のある広場に近づいてきました。



 この坂道を上るとその広場です。もうひと頑張りだ。



 15時ちょうど、鷲ヶ峰の登山口のある広場に戻ってきました。いやぁ、歩いたなー。



 あらためて八島ヶ原湿原を眺めました。花いっぱいの楽園のようなところでした。本当に楽しかった。
 
 ここでしばらく今日一日の幸せをかみしめて、ビジターセンターの方に戻りました。
 そして整理体操をしてから、駐車場で待っていたドリーム号Vに乗り込み帰途についたのでした。


 

 八ヶ岳

 出発してほどなく、車山方面へと続く道との分岐点に道の駅的なところがあったので、土産物を買いに立ち寄りました。道の駅ならぬ「霧の駅」の看板が出ていました。
 そこから望めるのがこの八ヶ岳。夕日を浴びて赤岳(最高峰)が確かに赤っぽくなっていました。