三瓶山 〜懐かしの故郷の山(前編)〜


 

 (前編)

【島根県 大田市 平成27年7月20日(月)】
 
 

 故郷の山

 yamanekoの故郷の山、三瓶山(さんべさん)。幼い頃からあまりにも身近な存在で、その素晴らしさを意識することなく暮らしていましたが、遠く離れて暮らす今となっては、思い浮かべる故郷の山河には必ず三瓶山の姿があります。上の写真は国道9号が三瓶川を跨ぐ橋の上から撮ったもの。遠い夏の日、川遊びの途中で見上げた三瓶山と変わりない姿をしています。 今回は法事で帰省するのに合わせてこの三瓶山に登ってきました。かれこれ11年ぶりの三瓶登山です。
 
                       
 
 最近じわじわと注目度が高まってきた(と何となく感じる)島根県。東西方向に細長い県ですが、その中央部に三瓶山はあります。

 定の松

 JR大田市駅前を7時17分発の石見交通バスに乗車。所要30分で登山口のある西の原に到着しました。この間乗客はyamanekoのみ。主に高齢者の生活の足として路線が維持されているのだと思いますが、なかなか厳しい現実ですね。バス停の名前は「定(さだめ)の松」。あらためて字面を見ると曰くありげな名前ですが、これはバス停横のこの松が一里塚であったことによるもの。最近は樹勢が衰えてきたそうで、周囲には保護柵が設けられていました。解説板には次のような記述が。「慶長六年(一六〇一)、石見銀山御料の初代奉行大久保石見守長安は御料内の検地を基礎に町立てや交通網の整備を行ったが、この松はその頃一里塚の基準として定められた松という。また一説には旅人や里人が雪道の道標として植えたものともいわれている。(略)推定樹齢は二株とも約四〇〇年で樹高二十一メートル目通りの経は一、七メートルあり、対立性一里塚としては県下唯一のものである。」

 西の原から

 西の原の駐車場から望む三瓶山。カメラのフレームに入りきりません。三瓶山は中国山地の脊梁から外れて日本海側に位置しているため、独立峰のような格好になっています。標高は1126mでありながら堂々として見えるのはそのせいかもしれません。左が主峰の男三瓶(おさんべ)、右は子三瓶です。ここからだと両者同じような高さに見えますが、実際には男三瓶の方が150mくらい高いです。


Kashmir 3D

 日本に活火山は110あるそうですが、地域的な偏りがあり、近畿、中国、四国地方はその空白地帯。このエリアにはわずか2つの活火山があるのみで、そのうちの一つが三瓶山です。 三瓶山は主峰の男三瓶のほか女三瓶(めさんべ)、子三瓶、孫三瓶、太平山、日影山の計6つのピークが環状に肩を寄せ合っていて、それらの中心部には室ノ内と呼ばれる噴火跡の陥没地形があります。また、三瓶山の周囲には、噴火活動の後期に細かい噴出物が降り積もってできた西の原、北の原、東の原という平坦地があります(南側は谷になっていて平坦地はない。)。三瓶山を取り巻く円形の低地はカルデラ地形とのことです。


Kashmir 3D

 今日のルートは、西の原から山腹を直登して男三瓶の山頂に立ち、そのまま北の原に直降するというもの。三瓶山には5つのピークを巡る縦走路があり、そこに麓からアクセスする登山道が主なもので5本あります。そのうち男三瓶のピークに直接アプローチするのはこれから登る西の原ルートを含め3本です。yamanekoも以前、山上の道をぐるっと回ったことがあります(こちら)。

 登山開始

 準備運動を入念にしてから出発。時刻は8時20分です。
 西の原は扇状地のような地形になっていて、古くから放牧などで人の手が入り草原が維持されてきています。最近はクロスカントリーのコースが出来ていて、この時間早くもトレーニングしている人もいました。ここで大会なども開かれるようです。
 これから扇状地を登り詰め、正面に見える男三瓶(左)の山腹を直登します。途中から樹林帯を抜けて眺望が開けるはずです。

 カワラナデシコ

 これはカワラナデシコ。西の原は花の宝庫です。

 オオバギボウシ

 こちらはオオバギボウシ。自然の中に咲く花はたくましい。

 こんなふうに縦横にクロスカントリーのコースが整備されています。

 長い上り坂。だんだん草丈が高くなってきました。草原ももうじき終わりです。

 ヤマハギ

 これはヤマハギでしょうか。かつてyamanekoは西の原で秋の七草を探したことがありますが、フジバカマを除いてあとは全部見られました。

 分岐

 扇状地の扇頂部に至ると樹林帯の始まり。山頂へはこの奥に入っていきます。ちなみに、ここを左手に行くと山麓を辿って北の原まで道が伸びています。

 また分岐

 すぐにまた分岐が現れ、ここは左に。右に行くと男三瓶と子三瓶との鞍部を越えて室ノ内に至ります。

 樹林の道

 いい感じの森の道です。登山道はここからジグザグに高度を上げていきます。

 広葉樹の森は明るくていいですね。足元の土も固すぎず柔らかすぎず、歩きやすいです。

 ヤマアジサイ

 ヤマアジサイの両性花。まだいくつか咲き残っていました。アップで見ると不思議な造形をしていることが分かります。

 登山道沿いにはなかなか個性のある木々もありました。風雪に耐えてきた感じです。

 視界オープン

 樹林帯を登ること1時間、視界が開けてきました。眼下の草原が西の原。今日のスタート地点が見えています。森を挟んで奥にある湖は浮布池(うきぬののいけ)で、恋に破れて身を投げた娘の着物が浮いてきたという悲しい伝説のある湖です。ずっと奥にあるノコギリの歯のような山並みは大江高山火山群。石見銀山の鉱脈を作った山々です。約2百万年前の活動によってできた山だそうで、三瓶山の大先輩に当たります(三瓶山の噴火の歴史は10万年前からと言われています。)。

 もう少しワイドに見てみるとこんな感じ(パノラマ処理)。右手には日本海。左手にには中国山地が広がっています。若者4人組が休憩していたので声をかけてみると、出雲市から来たとのことで、三瓶山は初めてのようでした。なかなか気のいい若者たちでした。

 まだ標高は1千mにも達していませんが高い木はなくなりました。足元には石が多くなってきたので捻挫に注意です。

 高い木々がなくなると風の強さを感じます。それが汗を冷やしてくれて心地いい。

 結構な斜度。行く手は見上げるような感じです。

 北西方向

 ときどき立ち止まって小休止。背後の風景を楽しみましょう。
 北西方向。日本海の手前にある市街地は故郷大田市の町並みです。大田市は人口3万5千人ちょっとの小さな町。子どもの頃は活気がありましたが、最近は中心市街地は閑散として、国道沿いのショッピングセンターに人が集まっています。でも、今年、宝島社が発行している月刊誌「田舎暮らしの本」の誌上ランキング「日本『住みたい田舎』ベストランキング」で大田市が総合1位を獲得したそうです(昨年もいいとこいっていたとか。)。あくまでも「田舎」の中の一等賞ですけど、嬉しいです。

 南方向

 こちらは南方向。中国地方一の大河江の川(ごうのかわ)がここで流路を大きく曲げています。北方向に流れ下ってきた川が三瓶山の南で南方向に急角度で方向転換しているのです。三瓶山が成長過程で流路を変えてしまったのでしょうか。ところでこの江ノ川、中国山地の南側から脊梁部を貫いて北側の日本海に注いでいるんですよね。このように山脈を横切って流れる河川を「先行河川」と言うのだそうです。もともと準平原だったこの辺りを流れていた江ノ川。その後の中国山地の隆起スピードより江ノ川の浸食スピードの方が勝っていたということですね。

 ところどころ手を使って登る登山道。振り返ると眼下に西の原が見えます。吹き渡る風が気持ちいいです。

 オトギリソウ

 これはオトギリソウ。樹林帯の中に比して花の種類が増えました。

 アカモノ

 これはアカモノの実です。

 ツリガネニンジン

 おおツリガネニンジンまで。

 ようやく標高1千m。でも結構高度感があります。

 キュウシュウコゴメグサ

 キュウシュウコゴメグサ。白い花弁の黄色い斑紋が可愛いです。

 ヤマアジサイ

 ヤマアジサイ。色が濃いです。

 登るにつれどんどん眺めが良くなってきます。さっき登った道、稜線上の小さなピークが大空への踏切台みたいです。

 これから登っていく稜線。さっきの4人組が先行しています。 陽射しは強いですが風がひんやりとしているので気持ちいいです。

 ウツボグサ

 これはウツボグサ。花穂が短いのは強風地が故か。



 左手に三瓶山のピーク群の一部が見えています。左端の大きな山体は今登っている男三瓶の一部。その右隣が子三瓶で子三瓶の左奥が孫三瓶です。見えていませんが、孫三瓶の左に太平山があり、更に続いて女三瓶、そして男三瓶へと環状に続くのです。遠くの山並みは中国山地です。(続きは後編で)