三瓶山 〜ぐるっと回って爽快山歩き〜


 

【島根県大田市 平成16年11月22日(月)】
 
 勤労感謝の日が近づくと師走もすぐそこ。そろそろ慌ただしい季節になってきます。しかーし、そんな世間の動きをよそに飛び石連休の間を埋めて三瓶山へ行くことにしました。
 
 三瓶山の標高は1126メートルとそれほど高くはないのですが、周囲に高い山がない独立峰なので西中国山地の多くの山々からその美しい姿を望むことができます。ということは三瓶山からも広大な展望が望めるということなのです。

 Kashmir 3D

 三瓶山は、男三瓶(おさんべ)、女三瓶(めさんべ)、子三瓶、孫三瓶、太平山などの峰々が円形に連なる山で、れっきとした火山(現在、活動はしていませんが)です。今回はこの峰々をぐるっと縦走することにしました。まず東の原からリフトを使い稜線に出て、そこから女三瓶、男三瓶、子三瓶、孫三瓶、太平山と反時計回りに歩き、また東の原に戻ってくるコースです。

 東の原
 (左手前:太平山、右奥:女三瓶)

 太平山の山腹はスキー場になっていて基本的に通年リフトが稼働しています。でも、スキーシーズンを控えて明日の祝日を最後にしばらく点検のため休業になると張り紙がしてありました。
 約10分ほどリフトに揺られると、太平山と女三瓶との鞍部に到着します。ここで入念にストレッチ。そして、10時20分、スタートです。
 
 歩き出してすぐジグザグの登りになりました。季節は晩秋を迎え、植物たちもひっそりとして冬を待っているようです。

 女三瓶から望む孫三瓶(左)
 と子三瓶(右)

 10時45分、女三瓶(957m)に到着。気温が低いせいか汗はかきません。
 南西の方向に目をやると室の内(火口原)の向こうに子三瓶と孫三瓶の姿。その背後には雲海が広がっています。今朝はあの雲海の下をドリーム号を駆って三瓶山までやってきたのです。

 兜山の手前から男三瓶を望む

 女三瓶山頂からいったん50メートルほど下り、カケスの声を聞きながらミズナラ林の中を歩いていきました。しばらくは平坦な道を進みます。

 ミズナラ林の登山道
 (正面に兜山、奥に「ユートピア」)

 次に男三瓶との間にある岩峰、兜山にとりつきこれを越えていきます。高低差は20メートルほどですが、傾斜がきつく手を使って登っていかなければなりません。そして11時ちょうど、兜山山頂に到着しました。

 「ユートピア」からの南方向の眺め

 兜山を過ぎると次に馬の背のような形の高台に登っていきます。ここは「ユートピア」と名付けられている場所で、ベンチなどもあり小休止にちょうどいい場所です。標高は女三瓶よりも高い981メートル。一息ついてお茶でも飲みましょう。
 南側を見やると、孫三瓶とそれに連なる太平山のなだらかな稜線が目の前に広がっていました。その手前には火口湖の室内池が。それにしても静かです。今日は風もなく、この時期の山歩きとしては最高の条件といえますね。

 島根半島もバッチリ

 再び男三瓶を目指して進みます。北東の方向には島根半島の西半分がバッチリ見えました。(写真では判然としませんが。) 出雲大社付近の弧状の砂浜やその先にある日御碕なども。

 「犬戻し」
 (はるか後ろに女三瓶)

 ユートピアを過ぎると男三瓶に向けて最後の登りが始まります。途中、登山道の両側が深く切り立った斜面になっている「犬戻し」と呼ばれる難所があります。道幅は1メートルほど。砂礫がゴロゴロしていて滑りそうです。高いところが苦手な自分としては背中がヒュ〜でした。ここを過ぎるとあとは山頂を目指して登るのみです。

 山頂

 11時50分。ようやく山頂に到着。平日ということもあってか、山頂には数組の登山者が休んでいるのみです。さすがに素晴らしい展望。360度の大パノラマです。
 ちょうど3年前のこの時期にも仲間数人と三瓶山に登っていて、山頂に立つのはそのとき以来です。そのときは今日と同じように東の原から登って女三瓶、男三瓶進み、ここから北の原へ下りるコースでした。予定では北の原から東の原まで三瓶周遊バスに乗って戻るつもりだったのですが、バス停に行ってみるとシーズンオフなので運行していないことが判明。日が暮れた麓の外周道路を月を見ながらみんなで歩いたことを思い出します。

 故郷大田市

 どうも男三瓶上空にのみぽっかりと雲が浮いているようで、山頂の広場は日が陰っています。弁当を食べている間にもどんどん体が冷えてきました。ブルルッ。
 12時15分、ちょっと早めですが出発することにしました。
 
 山頂はテーブル状になっていて、そこにはササ原が広がっています。やがて分かれ道にやってきました。右に行けば西の原へ、左に行けば子三瓶に至る縦走コースです。

 縦走コースへ
 (手前:子三瓶、正面奥:孫三瓶)

 さきほどの分かれ道を左にとってしばらく行くと、展望が開け、そこから登山道が一気に下降していきます。その下り口に立って正面を見ると、室の内を取り巻くように連なる子三瓶、孫三瓶、太平山の姿を一望にすることができました。なんだかこのままトンッと地面を蹴れば、火口原からの上昇気流に乗って飛び立っていけそうなきがしてきます。(おお、怖っ)
 さあ、靴ひもと気を引き締めて、壁のような斜面の下りに取りかかります。
 ときどきつんのめりそうになりますが、少しずつゆっくりと下りていきます。ふと足を止めると、目の前でゴジュウカラが頭を下にして木の幹に留まっていました。

 急降下

 岩がゴロゴロしている登山道を延々と下り、いいかげん膝がガクガクしてきたころ、ようやく鞍部に到着しました。時計をみるとちょうど1時。この斜面に40分あまりも時間がかかってしまいました。でも捻挫することもなく内心ホッとしたところです。
 ここは十字路になっていて、まっすぐ行けば小さな赤雁山を越えて子三瓶へ、左に下りれば室の内へ、右に下りれば西の原へとつながっています。
 小休止をした後、また歩き始めました。

 女三瓶と太平山
 (手前に室の内)

 去年の秋三瓶に来たときは、東の原から登って今日とは逆回りに太平山、孫三瓶、子三瓶と歩き、さっきの十字路から室の内に下りて、そして上の写真の正面の山肌を登って、その向こうにある東の原に下りていきました。男三瓶の山頂は踏みませんでしたが、室の内にはそれなりに良さがあって、こっちもオススメです。

 赤雁山へ

 子三瓶の手前に赤雁山という小さなピークがあります。高低差は30メートルほどですが、縦走も後半に入って少し疲れが出てきたせいかなかなか足が進みません。妻も若干へたり気味。でもザックを開けてイカの姿揚げ(ビールのつまみのあれです。)とポカリスエットを食したとたん、「イカパワー!」とか叫んで急に元気になっていました。なぜかこのとりあわせで食べると体力回復に即効性があるようです。(一般人にも同様の効果があるとは思えませんが。)

 振り返ると男三瓶
 (子三瓶山頂直前から)

 子三瓶の標高は961メートル。女三瓶より高かったことを実は今日初めて知りました。子供の頃から「男三瓶がお父さん、女三瓶がお母さん」と思っていたので、子が親より背が高いなんて思わなかったのです。でも最近の子は栄養がいいからどんどん大きくなって….。

 子三瓶から南西方向を望む

 1時35分、子三瓶山頂に到着。ここの展望も男三瓶のそれに引けをとりません。
 南西方向を見ると遠くに大江高山火山群が横一列に並んでいるのが見えました。左端の大江高山(808m)が最も高く右端の馬路高山(499m)まで少しずつ標高を落としていっています。これらの山々は約100万年前の火山活動によって作られたと考えられていて、三瓶山から見れば大先輩にあたります。
 三瓶山の歴史は今から約10万年前にさかのぼるのだそうです。10万年前といえば、人類の歴史でいえば旧石器時代の終わり頃。終わり頃といっても、旧石器時代は初めて猿人が石器を使った約200万年前から始まりわずか1万年前まで続いていたわけですから、ちょっとピンときませんが、三瓶山が活動を始めたのはちょうど旧人(ネアンデルタール人など)が出現し始めた頃にあたります。(ちなみについ20年前まで、日本列島に人類が住み着き始めたのはせいぜい3万年前くらいだろうといわれていました。ところがその後の研究により、約60万年前の原人(北京原人など)の時代には既に住み着いていたことが解ってきたそうです。)
 大江高山火山群の向こうの最奥に目を凝らすと、広島県の最高峰恐羅漢山の姿を認めることができました。向こうから三瓶山を見ると順光になるので比較的見やすいですが、こちらから恐羅漢山を見ると逆光になりなかなか見にくいのです。
 それにしても、山頂一面に広がるササ原からパチパチと何かがはじけるような音がしていたのは何だったのでしょうか。ササの種がはじけ飛ぶ音とか?不明です。

 次の目標、孫三瓶

 子三瓶で10分ほど小休止をして、次の目標である孫三瓶を目指します。眼下に見える孫三瓶との鞍部は「風越」と呼ばれていて、ここも十字路になっています。ここを左に下りると室の内へ、右に下りると孫三瓶のふちを回って南の三瓶温泉街に至ります。三瓶山には「南の原」はないのです。
 遠くの山並みは広島県との県境の山々。中央やや左にあるわずかなピークが大万木山、よく見るとその左に猿政山の姿も認めることができます。
 
 風越まで下りてきました。時計を見ると2時5分を指しています。休むと後が次がしんどいので、そのまま孫三瓶にとりつくことにしました。妻はまた「イカパワー」の力を借りています。

 振り返ると子三瓶(手前)と男三瓶
 (孫三瓶山頂から)

 孫三瓶の頂上に着いたのは2時25分。ここでも10分間の小休止です。

 孫三瓶山頂から東方向を望む

 孫三瓶山頂(907m)では丸太の標識が倒れていました。この秋の台風の仕業でしょう。
 どの峰からもそうですが、この孫三瓶からもすべての峰が見渡せます。親、子、孫、三世代の家族が寄り添って、なんとも微笑ましい。
 さあ、ここから奥の湯峠に下り、そこからダラダラとした山道を登りきると最後のピーク、太平山に到着します。あと一息です。

 カラマツ林

 2時50分、奥の湯峠に到着。ここから先、太平山までは木立に遮られて眺望はありません。それでもこの季節、木々が葉を落としているので”垣根越し”にチラ見することはできます。道は長くゆっくりと上っていますが、カラマツやナラガシワの林の中はすみずみまで陽が届き、明るく気分爽快な山歩きです。
 途中、アキグミの実を口にすると、酸味と渋み甘みとが順番にやってきました。おかげで、疲れた脳みその窓を開け放って空気の入れ換えをしたようにさっぱりとしました。
 
 やがて正面に女三瓶の姿が見えてきました。ゴールの太平山も間近のようです。

 太平山から西方向を望む
 (左:子三瓶、右:男三瓶)

 3時10分、やったーっ、とうとう太平山に到着です。
 子供の頃から何回も三瓶山に来ていますが、ぐるっと縦走したのは初めて。ここから見える稜線はすべて今日歩いてきたルートです。何とも表現できない満足感に包まれました。

 やったー!

 太平山の標高は854メートル。でも、周りの山が高くないので十分に素晴らしい眺めです。遠くに県境の山並みが見えています。
 三瓶山は島根県内では17番目の高さの山ですが、中国山地の脊梁から離れて独立しているため、その秀麗な姿が際だって見えます。地元の人はもちろん、よその人でもファンは多いのではないでしょうか。
 
 リフト乗り場に戻ってきました。時計を見ると3時20分。スタートからちょうど5時間が経過しています。
 乗る前に軽くストレッチ。さすがに腿とふくらはぎがパンパンになっています。

 今日は好天にも恵まれて最高の山歩きになりました。でも、秋の陽はつるべ落とし。日陰にはいると風は早くも肌寒く感じられます。

 帰る途中、西の原から

 三瓶山は以前は「死火山」とされていましたが、直近の活動がわずか3600年前であることから、今では「休火山」ということになっています。10万年前に始まる三瓶山の活動は第1期から第4期に分類されるのだそうですが、第3期まではいずれも活動期の終わりに溶岩ドームを作っているのだそうです。しかし第4期の活動では溶岩ドームを作っていません。それってもしかして今でも活動期のまっただ中ってことでしょうか?