尾瀬ヶ原 〜尾瀬の野山に深まる秋(後編)〜


 

 (後編)

【福島県 檜枝岐村・群馬県 片品村 令和5年9月15日(金)】
 
 秋の尾瀬で楽しむ野山歩き。昨日は鳩待峠からアヤメ平を歩き、八木沢道を下って見晴で宿泊しました。今日はあいにくの小雨の中ですが、尾瀬ヶ原を歩き、鳩待峠に戻ります。(尾瀬ヶ原前編の様子はこちら

 「逆さ燧」ポイント

 朝7時に泊まっていた尾瀬小屋を出発し、下田代、中田代と歩いて上田代までやって来ました。上の写真は振り返って撮ったもの。このちょっと大きな池塘は「逆さ燧」と呼ばれるところで、晴れていれば正面に見える燧ヶ岳が綺麗に映るビューポイントなのです(晴れの日の様子)。あと、正面奥に見えている拠水林は、中田代と上田代を分ける上ノ大堀川が作った拠水林です。

 オクトリカブト

 丈が伸びたオクトリカブトが横倒しになったまま花を付けていました。どうしても茎頂部分が重たくなりますからね。茎の先端のものはもう実になっています。

 原の川上川橋

 ヨッピ川(川上川)に架かる原の川上川橋。山ノ鼻の奥に川上川橋という橋があるので、ここは「原の」が付くのだと思います。この橋を渡ると山ノ鼻も近いです。



 至仏山の麓もずいぶん近くになりました。木道の行き着く先が山ノ鼻です。

 山小屋群

 木立の中に山ノ鼻の山小屋群が。山ノ鼻には3軒の山小屋とビジターセンターがあります。

 山ノ鼻

 9時35分、山ノ鼻に到着しました。見晴を発って2時間半です。空はどんよりですが雨はほとんど降っていません。ザックを下ろしてちょっと休憩です。写真左の山小屋は至仏山荘。正面の道を奥に辿ると、やがて山道になり鳩待峠に至ります。

 サラシナショウマ

 この雨空にいきいきとしているのはサラシナショウマ。花序に勢いがあります。

 ビジターセンター

 尾瀬山ノ鼻ビジターセンターに寄ってみました。尾瀬にはビジターセンターが2箇所あり、ここの他には尾瀬沼東岸にあります。両方とも公設民営の形態だそうです(山ノ鼻は群馬県の設置、尾瀬沼は環境省の設置。運営は双方とも尾瀬保護財団)。
 ここでクマ情報を入手して、お土産に缶バッヂを1個買って、あらためて鳩待峠に向けて出発しました。時刻は10時ちょうどでした。

 ミズナラゲート

 出発してほどなく、yamanekoが「ミズナラゲート」と呼んでいるポイントにやって来ました。ここには大きなミズナラが数本発っていて、木道はその間を通っています。

 川上川橋

 川上川を跨ぐ橋「川上川橋」です(別名「山の川上川橋」とも)。いつもこの橋を渡るときに「ああ尾瀬とももう少しでお別れか」と思い、逆から来るときは「さあこれから尾瀬ヶ原だ」と思う地点です。

 川上川

 橋の上からの写真。川上川は鳩待峠の直下にあるオヤマ沢に源を発する川で、山ノ鼻まで下って尾瀬ヶ原に入り、湿原ではヨッピ川と名を変えて湿原を縦断していきます(上田代では引き続き川上川と呼ばれることもあるようです)。

 クロヅル

 これはクロヅルですね。ツル性の樹木で、大きな翼果が鈴なりに実っていました。大きさはアーモンドくらいです。翼は3個あって、形としてはヤマノイモの翼果に似ています。



 しばらくはほとんど傾斜はなく、並行する川上川の河原も広いです。

 節理

 木道脇にルービックキューブみたいな大きな岩が。大きさは2m四方くらいありました。四角形に割れていく節理で、これはおそらく花崗岩だと思います。

 キツリフネ

 木道脇にキツリフネがありました。しゃがみ込むようにして写真を撮っていたら、立ち上がるとき痛みとともに腰が変な音をたてました。危ない危ない。

 残骸

 木道の左手にはミズバショウの群落が。よく見ると何者かに食べられたような痕跡が。ミズバショウはクマの大好物なんですよね。

 

 雨は完全に上がりましたが、木橋は濡れてツルツルです。

 テンマ沢

 その橋が跨ぐのはテンマ沢。川上川の左岸側に流れ込む3つの沢のうちの一つです。



 テンマ沢を過ぎると傾斜が出てきます。おお、ちょっと雲が薄くなってきましたね。



 ここから鳩待峠までの標高差は約200m。この2日間の締めくくりの整理体操と思って登っていきました。



 ミズナラを覆う苔や蔦。なぜかこういうのに癒やされます。



 斜度は小さいものの延々と登りなので息が上がります。
 木道に木漏れ日が差してきました。息だけでなく気分も上がります。

 ヨセ沢

 10時55分、2つ目の沢、ヨセ沢を渡りました。なんか黒い獣が出てきてもおかしくないような雰囲気です。

 ハクサンシャクナゲ

 ハクサンシャクナゲに果実ができていました。花はフリフリで可憐ですが実は結構無骨です。そして熟したあとは実が開裂してファンキーな感じになります。ハクサンシャクナゲは氷河時代の遺存植物の一つだそう。可憐になったり無骨になったりを氷河時代から繰り返しているんですね。そういえば今日尾瀬ヶ原で見たミツガシワも遺存植物とのことです。

 ベンチ

 木道脇にベンチが。ちょっと休憩です。
 湿原のみならず山の中であっても木道から足を踏み外すことはマナー違反。とはいえ立ち止まって休憩していると往来の邪魔になるので、こうしたベンチが必要になります。鳩待峠と山ノ鼻の間にはベンチが6か所あり、休み休み歩くことができます。

 至仏山

 左手に至仏山のピークが見えました。今日登っている人もいるでしょうね。

 ハトマチ沢

 3つ目の沢、ハトマチ沢です。流れの位置がちょっと分かりにくいですが、木道に沿って藪の中を流れています。木道は写真奥で右手に折れ、橋を渡る形になっています。

 ヤグルマソウ

 橋を渡ると、法面にヤグルマソウが繁っていました。タイヤほどの大きさがあり、なかなか存在感がありました。

 ナンブアザミ

 ナンブアザミです。刺のように反り返った総苞が「俺に触るとケガするぜ」と言っているかのよう。葉も相当トゲトゲしいです。

 石畳

 道が石畳になってきました。鳩待峠が近いという印です。

 キツネノボタン

 野の花というイメージがあるキツネノボタン。標高1600mの林内でも生きていけるんですね。



 石畳の傾斜が小さくなってきました。もうゴールも近いです。

 入山カウンター

 11時20分、尾瀬ヶ原への入山口に到着しました。道が二股になっていますが、ここには入山カウンターが設置されていて、双方向右側通行になっています。

 鳩待峠

 カウンターを通過するとこの風景。鳩待休憩所と広場です。なぜこんなに広い空き地があるかというと、何年か前まで乗り合いタクシーやバスがここまで上がってきて、ここで登山者の乗降をしていたから。車両の待機場所もあってこんなに広いのです。今は、峠の100mほど手前にロータリーが作られていて、登山者はそこから歩いてやって来ます。尾瀬の環境への負荷を軽減するためでしょうね。
 
 とりあえず整理体操をして、ロータリーに向かいました。そこには乗り合いタクシーが何台か待機していて、運転手さん達が雑談していました。しばらくベンチで待っているとぽつぽつ乗客が集まってきて、定員に達したところで出発しました。

 午後の見晴

 戸倉の駐車場に向かう車内でこの2日間を振り返りました。天空に広がるアヤメ平、クマにビビりながら歩いた八木沢道、幽玄という言葉がぴったりな尾瀬ヶ原。どれも印象深かったですが、山小屋に荷物を置いてビールを一杯やってからぶらぶら歩いた見晴周辺のことを思い出すと、自然と顔がにんまり。心底開放感に浸ったひとときでした。
 やっぱり尾瀬は特別な場所。また来年、この自然を楽しみに訪れたいと思います。