大町自然観察園 〜下総台地の四季・5月〜


 

【千葉県 市川市 平成22年5月15日(土)】
 
 5月になって暖かい、というか初夏のような日が続いていて、野山は急に賑やかになってきました。今日はたまたま気温が低いですが、天気は上々。5月の長田谷津は先月とはまた違った顔を見せてくれることと思います。

 先月は緑が多くなったとはいえ、まだ葉が茂るといった状況ではなく、日光が地面にまで降りそそいでいました。でも、今日は青々と茂った葉で立派な「木陰」が出来上がっています。さあ、緑のトンネルの中を歩いて自然観察園に向かいます。

 丘の上へ

 前回、ヒトリシズカなどを見かけた丘の上に登ってみましょう。

 キンラン

 おっと、いきなりキンランです。生き生きとした色で、まさに今が一番美しいとき。本当に宝石のような花です。辺りを見渡すと、あっちにもこっちにも咲いているではないですか。こんなにまとめて見たことはありません。丘の上のやや乾燥した環境を好むのでしょうか。

 ヒトリシズカ

 こちらはヒトリシズカ。花も落ちて、より濃くなった葉がテカテカと輝いていました。

 ニガナ

 普段は見過ごしてしまいそうなニガナでさえ、この時期には薫風に揺れて、その姿に端正な美しさが感じられます。よく見ると1枚1枚の舌状花がシンプルで「機能美」という言葉が浮かんできます。

 キンラン

 キンランは花弁が外側に向かって開かないところがいいですね。「和」のランといった雰囲気です(中国や朝鮮半島にもあるようですが。)。
 いくら美しいからといって盗掘してもムダ。枯れてしまってほとんど栽培することはできないそうです。それは、このランが栄養を得るために根に飼っている菌が特殊で、他のランの菌のように腐葉土から栄養をとることができないからだそうです。どちらかというとキノコが朽ち木から栄養補給するときに働く菌に近いのだとか。ふーん、つい最近分かったことなのだそうです。ランって菌が重要な役割を果たしているんですね。ちなみに漢字で書くと「金蘭」ですから、念のため。

 ツリバナ

 葉陰で揺れる可憐なモビールはツリバナです。日陰だし風もあって、どうしてもピントがぶれてしまいます。この写真が精一杯でした。

 マユミ

 ニシキギの仲間は4枚の花弁。このマユミもご覧のとおりです。蕾がまん丸で意外に可愛いことに今日気がつきました。

 定点写真

 定点写真、5か月目。おおっ、ずいぶん緑が増えましたね。アシの丈はまだ短いものの、これからぐんぐん伸びて目の前を鬱蒼とした葦原にするでしょう。
 左側の木陰は真っ黒ですね。いつも左側の縁の散策路を通って奥に向かい、右側を通って戻ってきます。なので、往きは日陰で、帰りは日向になります。

 キショウブ

 レモンイエローも鮮やかなキショウブ。元々はヨーロッパ原産で、明治時代に渡来したものだとか。その繁殖力は旺盛で、現在では川原などにどんどん広がっていることから、「要注意外来生物」に指定されているのだそうです。

 緑モリモリ

 新緑の頃の淡い緑から、濃い緑に変わってきました。もう初夏と言っていいですね。

 イヌザクラ

 イヌザクラはずいぶん盛りを過ぎてしまったようです。2年前のGWに来たときにはまさに盛りでした。春から初夏にかけての野山では、ちょっと時期がずれるだけで主役がクルクル入れ替わってしまいます。

 オトシブミ

 やや分かりにくいですが、この木の枝という枝にオトシブミがぶら下がっていました。なかなか壮観でした。で、この木は、んーと、エゴノキのようですね。

 ニワトコ?

 葉の付き方(奇数羽状複葉)や小葉の形、小さな花が集まって付く様子などはニワトコなんですが、どうも雄しべが長すぎるような。本年枝の根元が褐色で白い点が散らばっているところなんかもそうだし、うーん、やっぱりニワトコだよな。

 ハンノキ越しの空

 あー、清々しい。1年中こんな天気だったらいいのに…。いやいや、梅雨も、真夏の暑さも、雪の日も、やっぱりみんなあっての四季ですもんね。

 エノキ

 一見美味そうなエノキの実。でも熟しても食べられません。もっぱら鳥たちのごちそうです。
 そういえば、広島に住んでいたとき、通勤途上に大きなエノキがあって、これを通年観察していました。当時からかなりの樹齢と思っていましたが、今も元気に生きているでしょうか。

 ハクウンボク

 おお、ハクウンボクです。豪奢ですね。樹冠の下に入って見上げる格好で撮った写真なので、暗くぼんやりしたものになってしまいました。

 サワフタギ

 こちらはサワフタギ。次から次へと花が出てきますね。秋にできるコバルトブルーの実が楽しみです。
 サワフタギは別名「ルリミノウシコロシ」。「ルリミノ」は「瑠璃実の」で、これは実が瑠璃色だからですね。一方、「ウシコロシ」は「牛殺し」で、もともとはカマツカの別名のこと。カマツカの材は折れにくく加工しやすいため、牛の鼻ぐりなどに利用されていたそうです。その鼻ぐりで牛の動きを制御する(動きを殺す)ことから、いつしかカマツカ自体のことを「牛殺し」と呼ぶようになったとのことです(もちろん、カマツカは鎌の柄にも加工されていた。)。で、ようやく話が元に戻るのですが、サワフタギの材も牛の鼻ぐりに加工されたことから、「瑠璃実の牛殺し」となったというオチです。チャンチャン。

 湧水池

 谷地の最奥までやってきました。水深50pくらいの遊水池で大きなコイがじっとしていました。
 下総台地は、近隣の大宮台地、武蔵野台地などと同様に浸食谷が発達していて、その谷底は細長い沖積低地となっています。そこに堆積しているのは、台地上から流されたの関東ローム層の粒子の細かい泥で、これらの沖積低地には沼などが多くあるとのことです。

 光合成

 今、葉の中ではデンプンを生成中。日当たり次第で秋の紅葉も違ってきます。

 ヘラオモダカ ×
 ナガバオモダカ ○

 花を一見してオモダカと思っていましたが、葉が矢じり型でなく線形なので、ヘラオモダカでしょうか。花の大きさは3〜4センチ。yamanekoが認識しているヘラオモダカの花はもう2回りくらい小さく、花弁の上端がギザギザに欠けているというイメージなんですが。 → 後日、ナガバオモダカであることが判明。北米産の帰化植物だそうです。

 サギゴケ

 ムラサキサギゴケの白花がサギゴケ。どっちが本家かというとムラサキサギゴケの方なんですから、ややこしい。純白ですね。一昔前の洗剤のコマーシャルに出てくる一面に干された白シャツの色です。

 ハルユキノシタ

 じめじめと湿ったところに生えていました。全体的には明らかにハルユキノシタですが、下2個の花弁がずんぐりとしているのがちょっと気にかかります。地域的な変異なのか、それとも園芸種か。

 トウカエデ

 さて、今度は谷地の反対側の縁を辿って戻ります。
 トウカエデはもう果実が実りつつありました。葉はまだしんなりとしているようです。緑が輝いていますね。

 フトイ

 太い、いや太藺。別名「オオマルスゲ」で、名前のとおり全体に大型です。茎は太くて断面が丸い円柱形をしています。この花の花言葉は「肥大」、「品位」、「無分別」。フトイに花言葉があることにも軽い衝撃を覚えましたが、その内容にも???。「肥大」は太いから? 「無分別」は辺り一面に蔓延るから? 「品位」って何だ?

 ハンター

 木陰でカワセミが休んでいました。ときどき頭を上下させながらキョロキョロしていましたが、特段獲物を狙っているようでもありませんでした。

 オニグルミ

 よく知られている硬いクルミの実はこの木のもの。あの硬い種子は厚い果肉の中にあって、種子を取り出そうと手で果肉を砕いたりすると、指先が真っ黒になって1週間くらいは取れなくなります。しかし、この垂れ下がる花からは想像できませんよね、あの丸い実は。

 ハンノキ林

 少しだけ陽が傾いてきたでしょうか。実は今日は気温が低く、Tシャツ一枚だったyamanekoは震えていました。

 フジ

 ちょっと遠くだったので種類までは分かりませんでしたが、フジですね。かなり大きな木で、この写真はテレコンを使って仰角も大きくして撮ったものです。ハナバチたちにとっては巨大レストランといったところでしょうか。

 カルミア

 これはカルミアという園芸種。樹形からシャクナゲの仲間かなと思い調べてみると、別名をアメリカシャクナゲ、ハナガサシャクナゲとも言うそうです。シャクナゲとは同じツツジ科ですが、さして近い仲間でもないようでした。蕾の形がアポロチョコみたいですね。

 ギンラン

 キンランに比べてずいぶん華奢な印象のギンラン。丘の斜面の暗い林床で、スポットライトを浴びて健気に咲いていました。でも決して目立っているわけではなく、この辺りに咲くことを知っていたから見つけることができたものの、知らずに来ると分からないかもしれません。

 自然観察園の入口近くまで戻ってきました。さすがは5月、今日は本当に様々な花が迎えてくれました。長田谷津はこれから急速に緑を濃くしていくでしょうね。来月は梅雨の様子を観察することになるでしょう。
 
 

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