大霧山 〜山々は淡いパッチワークに(前編)〜


 

 (前編)

【埼玉県 東秩父村 令和4年4月10日(日)】
 
 4月に入り、巷はめっきり春めいてきました。木々は芽吹き、山は新緑のパッチワークに彩られているでしょう。今回の野山歩きは埼玉県西部、東秩父村と皆野町との境にある大霧山(767m)です。
 
                       
 
 駐車場で待機しているドリーム号Vに乗り込みエンジンを始動。町田街道を西に向かって圏央道に上がると、高速道路は順調に流れていました。鶴ヶ島JCTで関越道に入り、嵐山小川ICで一般道に下りました。



 高速を下りるとこんな風景が広がっていました。淡いパステルカラーで彩色されたような野山。なんだかウキウキしてきます。正面奥に見えている山が今日の目的地、大霧山です。ここから小川町の市街地を巻いて山間(やまあい)に入っていき、東秩父村の橋場というところから山上に向けて上がっていきます。

 駐車場

 山歩きのベースは「彩の国ふれあい牧場」の駐車場。大霧山から流れる稜線上にあり、ここからだと山頂までの累積標高差は400m弱とお手軽です。

 彩の国ふれあい牧場

 牧場はこんなにも長閑な感じ。「彩の国ふれあい牧場」はこの辺りに広く展開する埼玉県立の秩父高原牧場内にある観光エリア部分の名称です。

 Kashmir3D

 今日のルートは、彩の国ふれあい牧場から稜線上を南下し、粥仁田峠(かゆにたとうげ)へ。そこから更に南下し大霧山山頂へ向かいます。復路は来た道を戻ります。
 これから歩く尾根を挟んで西側の谷は三沢川が削ったもので、東側の谷は槻川が削ったもの。両方とも南から北に向かって川が流れていて、それぞれ荒川に注ぎます。ただ、三沢川がここから3kmほど先で荒川に注ぐのに対して、槻川が荒川に注ぐのははなんと50kmも先。最終的には同じ川に注ぐのに、ここの尾根に降った雨はどちらに流れ下るるかで旅のルートが大きく違ってくるんですね。



 10時30分、スタート。まずは車道を来た方向に戻る形です。そして、100mほどで右手の脇道に入ります。
 谷を挟んで正面に笠山と堂平山が見えますね。両方とも11年前に登った山です(こちら)。

 イヌナズナ

 道端にイヌナズナが群落を作っていました。ナズナ(ぺんぺん草)に似た姿をしていますが、花が黄色です。ナズナが春の七草として食用とされたことに対し、これは食用にならず役に立たないことから「イヌ」の名を冠したのでしょう。植物の名前では、人間の役に立たないものにイヌやカラスなど動物の名が付けられていることがよくあります。イヌナズナによく似たイヌガラシ(こっちもイヌ!)との違いは葉と茎に短毛が密生していること。

 

 里では葉桜になりつつありますが、標高600mのここではちょうど満開でした。



 左手に車道を見下ろしながらのんびりと歩いて行きます。正面に大霧山。こことの間に粥新田峠があり、そこまで下ってから登り返す形になります。

 西側の眺望

 しばらく行くと西側の眺望が開けました。なだらかな斑模様の山は簔山(587m)。皆野町と秩父市にまたがる山で、山頂部は美の山公園として整備されているようです。その背後は奥秩父の山々。簔山の奥のツインピークスは城峯山(1038m)、左手奥のテーブル状のシルエットは両神山(1723m)です。

 南方向

 ここから林道を奥に向かって歩いて行きます。奥の山並みは東京都との境となっていて、ほぼ正面に東京都の最高峰、雲取山が見えています。ここからの距離は約30kmほどあります。

 ミツバアケビ

 ミツバアケビの花はまだ開き始め。下界とは半月ほど季節のずれがあるようです。

 リョウブ

 リョウブの若葉。陽を透かして輝いています。

 ニワトコ

 これはニワトコですね。花が開き始めています。ニワトコは漢字では「庭常」ですが、別名を「接骨木」(せっこつぼく)といい、これは枝や幹を煎じて水飴状にしたものを湿布薬として利用したことによる名前だそうです。花や葉も解熱や利尿の民間薬として利用されたそうで、いろいろ人間様の役に立つ植物だったようです。その意味では、決して「イヌ○○」といった名前は付けられなかったでしょうね。「庭常」の名も、役に立つので常に庭に植えておきたいといった意味なのかもしれません。

 林道

 林道はこんな感じ。行き交う車もほとんどない、静かな道です。

 モミジイチゴ

 モミジイチゴの花は下を向いて咲きます。貴重な花粉を雨から守るためでしょうか。この咲き方だと訪れることのできる虫に制約がありそうですが、ちゃんとこれで来てくれる虫がいるんでしょうね。むしろ都合の悪い虫を排除しているのかも。

 タチツボスミレ

 地上茎のあるタイプのスミレの代表選手、タチツボスミレ。低山や丘陵地でもっともよく見かけるスミレです。名前は「立ち上がったツボスミレ」ですが、ツボスミレとはまったく似ていません。

 シロバナエンレイソウ

 道の斜面にシロバナエンレイソウがありました。深山に来た感じがします。



 見上げる桜。清々しいです。

 ミヤマキケマン

 早春、日当たりの良い林縁で出会うことの多いのがミヤマキケマン。ケシの仲間です。



 林道を400mほど行ったところで、右手の林の中に入っていきます。

 カンスゲ

 カンスゲは林床の薄暗いところを好んで生えています。今はちょうど開花の時期。白いふさふさは雄しべの葯です。ちょっと揺らすとフワッと花粉が舞い上がります。



 多くの木々はまだ葉の展開前で、尾根道には明るく陽が降り注いでいます。

 ミツバツツジ

 まっすぐ上を向いて葉を伸ばしているのはミツバツツジの仲間。何か勢いを感じますね。もう少しすると水平に開きます。

 シュンラン

 シュンランです。葉はなぜかちぎれていましたが、花はいきいきしています。2個がシンメトリーになって生えていました。

 タチツボスミレ

 これはまだ小さかったので地上茎が分かりにくかったですが、これもタチツボスミレ。(托葉の付き方などで判断)



 簔山とその奥の城峯山とが一直線上に重なりましたね。写真左の特徴的な山、ここからだと尖った形に見えますが、実は山頂部が奥に向かって壁状伸びています。つまり90度角度を変えて見ると台形に見えるということ。いろいろ調べても名前は分かりませんでした。



 植林地の中の道を粥新田峠に向けて下って行きます。

 ヒナスミレ

 ヒナスミレ。「スミレのプリンセス」と呼ばれているそうです。確かに気品のようなものを感じます。ヒナスミレは地上茎のないタイプですね。

 粥新田峠

 眼下に粥新田峠が見えました。休憩用の東屋があります。

 エイザンスミレ

 おっと、足下にエイザンスミレが。葉が細かく裂けるタイプはスミレの中では少数派です。ちなみに「エイザン」とは比叡山のことだそうです。



 11時30分、粥新田峠に到着しました。江戸時代、秩父から江戸に向かう3つの道のうちの一つ、「川越通り」がここ粥新田峠を通っていたそうで、秩父に市が立つ日には何百頭もの荷駄がが行き交ったとのこと。秩父は四方を山に囲まれた盆地なので、外界との交易路は重要だったでしょう。秩父から見て東はここ粥新田峠。北に釜伏峠を越える熊谷通り、南に正丸峠を越える吾野通りがあったそうです。(解説板の記述を要約)



 小休止の後、大霧山に向けて登っていきます。

 エイザンスミレ

 さっき見たエイザンスミレは花冠が白っぽかったですが、これは薄ピンク。こちらの方がポピュラーです。



 「関東ふれあいの道」の石標。この名前は近場の山を歩いているとときどき見かけます。調べてみると、関東1都6県が整備している総延長約1800km(!)の自然歩道だそう。約10kmの日帰りコースに区切られていて、その数なんと151コース。県ごとに全コースを踏破するとそれぞれ認定バッジがもらえるとか。きっとコンプリートした猛者も少なからずいるでしょうね。でも、百名山より厳しいかも。

 ミツバツツジ

 登山道脇の斜面にミツバツツジが咲いていました。花冠の中の雄しべが5個だったので、トウゴクミツバツツジ(10個)などとの見分けは容易です。
 
 さあ、大霧山の山頂まではまだまだです。お腹はすいていますが、焦らず一歩一歩登るべし、です。(後編につづく