入笠山 〜花と絶景の回廊へ(中編)〜


 

 (中編)

【長野県 富士見市 令和2年8月11日(月)】
 
 花と絶景の回廊を巡る野山歩き。中編です(前編はこちら)。
 
                       

 Kashmir3D

 
 9時半前にロープウェイの山頂駅をスタートし、森を抜け、湿原に入ってその縁を半周したところです。擂り鉢状の湿原の中で最も低くなっている辺りをしばらく散策し、その後山頂に向かいます。



 様々な花の群落が層になってずっと奥まで続いています。さながら富良野の観光花畑の天然版といった感じ。

 カワラナデシコ

 カワラナデシコの花弁は細かく裂けているのが特徴。繊細さを演出していますね。

 ヒョウモンチョウの仲間

 ヒョウモンチョウが訪れているのはマツムシソウ。秋の草原を代表する花です。標高2千m弱。8月中旬とはいえ、ここにはもう秋の足音が聞こえているのでしょうね。

 ツリガネニンジン

 ツリガネニンジンです。「ツリガネ」は花の形から。確かに釣り鐘型をしています。「ニンジン」は根の形状でしょうか。

 ダイコンソウ

 木道脇に咲いていたダイコンソウ。この花の何がダイコンなのかというと、根生葉が大根の葉に似ているからだとか。だったら大根と同じアブラナ科にもっと似ているものがあるだろうに。植物の名付けの親は気まぐれです。

 アカバナ

 経1cmほどの小さな花、アカバナ。白いですけどね。薄桃色のものもあります。名の由来はいくつかあって、秋に花茎が赤紫色になるからというものや、葉が赤くなるからといったもの。なぜ花の色に着目して名を付けないのか。

 クサレダマ

 クサレダマ。この花には真夏の湿原のイメージがあります。音からすると「腐れ玉」と思いがちですが、正しくは「草連玉」です。もともと「連玉」というマメ科の低木があり、それに似ている草本の植物だから「草連玉」。ただ、yamanekoは連玉を生で見たことがないんですよね。

 ウメバチソウ

 ウメバチソウは湿原で見ることもあれば山上の草原で目にすることもあります。なかなかタフなやつです。ちなみに「梅鉢」とは家紋の一つで、一重の梅の花冠を正面から見た姿を図案化したものだそうです。

 マツムシソウ

 マツムシソウもウメバチソウと同じような環境で生きています。
 ところでこの花は何でマツムシなんだろう。昆虫のマツムシはどっちかというと茶色っぽい色で、この花の爽やかな雰囲気とは似ても似つかないのですが。で、調べてみると、マツムシが鳴く頃に咲くからだとか。何じゃそりゃ。そういう花は他にもいっぱいあるだろうに。あと、どうやら松虫鉦という楽器に花の形が似ているかという説も。金色の灰皿みたいな楽器です。共通点は円いということだけ。
 まあ、花の名前にいちいち突っ込んではいけないということですね。

 ミズチドリ

 ラン科のミズチドリですね。唇弁を千鳥に見立てたネーミングです。どうりでクセが強そうな花です。



 擂り鉢の縁に上がって湿原を眺めるの図。背後には売店やトイレなどもあって、休憩するにはもってこいの場所です。時刻は11時。ちょっと早いですが昼食タイムにすることに。



 地元のローソンで調達した昼食。おにぎり弁当+ゆで卵です。



 おおよそ30分の休憩の後、入笠山の山頂を目指して歩き始めました。

 タマガワホトトギス

 普通ホトトギスの花冠は紫色ですが、タマガワホトトギスは黄色。初めて見たときは衝撃的でした。ちなみに、タマガワホトトギスの「タマガワ」は多摩川のことではなく、京都府の木津川の支流、「井出の玉川」のことだそうです。



 明るい林の中を歩いて行きます。

 サワギク

 サワギク。名前のとおり沢の近くのような少し湿った環境を好むキクです。別名をボロギクといい、これはきっと葉の様子から名付けられたのでは。ボロボロの布きれのように深く裂けているのです。

 クリンソウ

 実を付けたクリンソウです。花の時期は春から初夏。五重塔の最上部にある「九輪」に確かに似ていますね。



 山の斜面が草原状に切り開かれているところがありました。前回来たときにはこんなことにはなっていなかったような気がしますが。ただ、一面に花が咲いていて綺麗です。ジグザクに遊歩道がありますが、それは帰りのお楽しみとして、とりあえず従来からの登山道(草原と林との境界に延びている)を登っていきます。

 クサフジ

 マメ科のツル性植物、クサフジです。花穂をまっすぐに立てていますね。

 ウバユリ

 林の中にはウバユリが。こちらも背筋をピンと伸ばしています。

 ハクサンフウロ

 薄紫の花弁を揺らすハクサンフウロ。亜高山帯より高いところで出会う花です。ハクサンはあの加賀の霊峰、白山のことですね。

 ヒヨドリバナ

 ヒヨドリバナ。小さく繊細な花が多数寄り集まって花序を作っています。アサギマダラ御用達の花です。

 キツリフネ

 ツリフネソウの黄色バージョンだから「黄吊舟」。ただ、このキツリフネ、後に長く伸びる距がありませんね。この株の花はなぜかみなそうでした。

 ナンバンハコベ

 藪の中でほぼ雑草のように見えてしまうナンバンハコベ。でも花冠は現代アートのような雰囲気です。「南蛮」と名が付いていますが、日本在来の種だそうです。

 シモツケソウ

 初めは木本のシモツケと思っていましたが、あらためて写真を見て草本のシモツケソウだと思い直しました。決め手は葉で、形はむしろシモツケに似ているのですが(シモツケソウの葉は掌状)、質感が柔らかそうに見えることや葉の基部まで鋸歯がある点がシモツケではなくシモツケソウとする理由です。いずれにしても現地でしっかり見てくれば良かった。

 ソバナ

 ソバナ。嶮岨な崖などに生えることから「岨菜」です。また、葉がソバに似ることから「蕎麦菜」という説も。

 御所平峠

 11時45分、御所平峠までやって来ました。ここには山荘が数軒あり、反対側の斜面から車道が通っています。

 コオニユリ

 コオニユリです。中部山岳で最もポピュラーなユリなのだそうです。

 ミヤマニガイチゴ

 標高の高いところに生えるニガイチゴということで、花は確かにニガイチゴに似ていますが、葉の様子は大きく異なります。果実が甘く美味しい点は共通しています。

 ツバメオモト

 瑠璃色の実を付けているのはツバメオモト。山で出会うとハッとするほど鮮やかな色をしています。



 振り返るとこんな感じ。ずいぶん登ってきました。入笠湿原は奥の森の中で、ここからは見えていません遠景は北の方角。写真右手の八ヶ岳連山は山頂部に雲がかかっています。写真左手のなだらかなピークは車山です。



 森の中に入ると傾斜が急になってきました。息を整えゆっくりと登っていきます。

 シロバナニガナ

 ニガナの変種とされているシロバナニガナ。花弁のように見える部分一つ一つが別個の花です。

 シラフヒゲナガカミキリ

 地面をノコノコ歩いていました。シラフヒゲナガカミキリです。ぱっと見ゴマダラカミキリにも見えますが、ゴマダラカミキリはヒゲにも白い斑紋があります。

 ヤマノコギリソウ

 葉がノコギリのようなのでノコギリソウ。ヤマノコギリソウはノコギリソウに比してやや北に偏って分布し、舌状花も少し小ぶりです。



 おっ、頭上が開けてきました。いよいよ山頂です。

 入笠山山頂

 12時25分、入笠山の山頂に到着しました。広い山頂にはざっと100人くらいはいるみたいです。

 八ヶ岳

 広い裾野を持つ八ヶ岳連山。相変わらず山頂部をカットするように雲がかかっています。右奥は奥秩父。金峰山や国師ヶ岳などを抱えています。 



 清々しい風が体を冷やしてくれます。しばらく休憩して360度の眺望を楽しみましょう。続きは後編で
 (順番待ちをして山頂の標識を写真に収めました。)