入笠山 〜花と絶景の回廊へ(前編)〜


 

 (前編)

【長野県 富士見町 令和2年8月11日(月)】
 
 「山上の湿原とアルプスの大展望」 オーブンレンジの中で照り焼きにされているような毎日にあって、なんて魅力的なフレーズでしょうか。聞いただけで体温が3℃ほど下がりそうです。今回は、そんな夢のような場所、長野県富士見町の入笠山(1955m)での野山歩きです。yamanekoにとっては、かれこれ12年ぶりの訪問になります。 (前回の様子はこちら
 
                       
 
 午前6時過ぎ、ドリーム号Vで出発。遠出にしてはちょっと遅めですが、早く着いても麓のロープウェイの運行が9時からなので、それに間に合えばよいのです。
 圏央道の高尾山ICから高速に乗り、すぐに中央道に入って、後はひたすら西進。諏訪南ICで下りると、そこがもう富士見町です。

 富士見パノラマリゾート

 インター近くのローソンで昼ご飯を買い求め、今日の野山歩きの起点となる富士見パノラマリゾートへ。到着したのは予定どおり9時前でした。 この辺り、標高が約1千mあるとはいえ、真夏の強い日差しで既にかなり暑いです。

 Kashmir3D

 今日のルートは、まずロープウェイで標高1770mまで上がり、そこから若干下る形で入笠湿原へ。そこで夏の花を堪能した後、御所平峠を経て入笠山の山頂へ。復路はところどころ道を変えつつ、ロープウェイ駅に戻ってくるというものです。



 このこんもりとした山は手前のピークで、入笠山の山頂はもっとずっと奥になります。それにしても鮮やかな青と緑ですね。

 山麓駅

 しばらく歩くとロープウェイの山麓駅が見えてきました。乗客はまばらで、6人くらい乗れそうなゴンドラにyamanekoと妻の二人だけでした。前後のゴンドラも無人です。



 乗車時間は10分弱。正面(背面?)に八ヶ岳の全貌が望め、迫力満点で退屈しませんでした。



 山頂駅前はこんな感じです。冬場はスキーリゾートになるので、ここはゲレンデの最上部ということになります。
 写真の山頂カフェのソフトクリームがオススメとのことです。



 9時25分、カフェの脇のハイキングコース入り口からスタートしました。この辺りまでは人が多めなのでマスク着用です。

 レンゲショウマ

 いきなりレンゲショウマの登場。涼やかです。(今回はいろんな花が次から次へと出てきます。)



 小さなピークを回り込むように緩い坂道を下っていきます。下界とは明らかに違う空気感。山頂駅には「気温20℃」と表示されていましたが、それよりも更に涼しく感じます。

 ヤマホタルブクロ

 多摩丘陵でも見かけるヤマホタルブクロですが、さすが南アルプス。ここのは色が濃いです。まあ、たまたまでしょうね。



 ほどなくゲートが現れました。ニホンジカなどが入り込んで食害を及ぼすのを防止するためのものです。

 ヒョウモンチョウの仲間

 アザミの花を訪れるヒョウモンチョウの仲間。ハナアブも来ています。

 チダケサシ

 チダケサシ。漢字では「乳茸刺」と書きます。山にキノコ狩りに出かけ、乳茸(チダケ)をこの花の長い茎にたくさん串刺しにして持ち帰ったという話から、この名が付いたということです。同じユキノシタ科のアカショウマなどチダケサシと同じような姿をしているものはだいたい花が白いのですが、このチダケサシは薄桃色をしています。

 キバナノヤマオダマキ

 トランプのジョーカーが被っている帽子のような花。キバナノヤマオダマキです。長い名前はいくつかに分解できます。核になるのは「苧(お)」と「環(たまき)」。「苧」は麻などの植物性繊維で作った糸のことで、これを管にぐるぐると巻き取ったものを「苧環(おだまき)」と呼んだそうです。山にあってその苧環に似ている花ということで「山苧環(やまおだまき)」。通常その花は萼片や距が紫褐色をしているのですが、全体が薄黄色のものもあり、これを「黄花の山苧環」と呼んだのだそうです。
 とまあ名前の由来はこういうことなんですが、本当の苧環は「マンガ肉」みたいな形状をしていて、そもそもこの花の姿が苧環にまったく似ていないという根本的な問題があったりします。いまいち釈然としません。

 ウツボグサ

 これはウツボグサですね。「ウツボ」は海のギャングといわれるあの生き物のことではなく、「靫」すなわち矢を持ち運ぶ際の円筒状の入れ物のことです。確かに花穂が円筒状にも見えますね。花は花穂の下から咲いていくので、もうそろそろ咲き終わりのようです。

 アサギマダラ

 漂泊の旅人、アサギマダラ。羽毛が風に乗るようにふわふわと飛ぶその姿はまさに漂泊です。このか弱い体で1千km以上も旅をするというから、ほんとびっくりですね。風に乗るのは省エネ飛行法なんでしょうね。

 クガイソウ

 クガイソウです。漢字では「九蓋草」とか「九階草」とか書きます。いずれも葉の付き方から名付けられたもので、輪生する葉が何段かの層になって付いている姿を現したものです。

 ゴマナ

 小ぶりの頭花が茎の頂に散房状に付くのが特徴のゴマナです。漢字では「胡麻菜」。葉が胡麻のそれに似ていたからだとか。およそ「菜」の字が付けられたものは食用にされた歴史を持つと言われますが、このゴマナも若い苗のものが食べられたとのことです。



 森が開け、湿原が見えてきました。奥の山が入笠山のピークになります。

 サワギキョウ

 鮮やかな紫色の花。サワギキョウです。あちこちに林立していました。



 湿原に出てきました。ここからまた一気に花が増えます。

 コオニユリ

 濃いオレンジ色がよく目立つコオニユリ。強い日差しもはね返します。

 ヤナギラン

 夏の高原というと思い浮かべるのがこのヤナギランです。ランと名が付いていますが、見た目ランの特徴はまったくありません。アカバナ科です。

 エゾリンドウ

 エゾリンドウ。といっても北海道だけでなく分布は本州中部地方以北。深山の湿地帯で見られます。



 森の縁には湿地よりもやや乾燥した環境を好む花々が咲いています。自然が豊かです。

 クルマバナ

 クルマバナ。車輪状に付いた花が数段重なり花穂が構成されています。だから「車花」。茎の断面は四角形で、シソ科の特徴を備えています。

ツリフネソウ 

 ツリフネソウは天然のモビールです。大きな唇弁は虫のためのプラットホーム。吊られているのでぐらぐら揺れますが、そこを足場に花冠の奥に頭を突っ込んで蜜を採ります。

 クジャクチョウ

 ギョロッとした目で睨まれているよう。これはクジャクチョウです。西日本では見ることのない蝶です。訪れているのはヒヨドリバナですね。



 木道は幾筋か敷設されていて、そのうちの湿原の縁に沿って延びる道を行きます。

 オカトラノオ

 オカトラノオ。明るい林内に咲く花です。花穂の根元から先端に向かって順次咲いていきます。

 オミナエシ

 秋の七草のうちの一つ、オミナエシです。見た目に涼やかですが、切り花にすると悪臭がします。やはり野にあっての花なんですね。

 ミヤマアキノキリンソウ

 こちらはミヤマアキノキリンソウ。実際には夏から咲いています。野山に咲くアキノキリンソウの高山型ですね。アキノキリンソウは茎全体にまばらに花を付けますが、このミヤマアキノキリンソウは茎頂に集中して花を付けるのが特徴です。

 カワラナデシコ

 カワラナデシコ。これも秋の七草のうちの一つですね。草原の花というイメージで、あまり河原では見かけません。

 ウツボグサ

 こちらのウツボグサは花穂の下の方が咲いているので、花期はまだこれからでしょう。花の色も濃いです。

 オオマツヨイグサ

 オオマツヨイグサは夜に咲く花。時刻は10時15分。まだしぼむことなく新鮮な状態でした。



 対面の山の斜面が切り開かれ、草原状になっています。その真ん中に道が整備されていて、午後はそこを通ってロープウェイ駅に戻る予定です。

 ホソバトリカブト

 葉が細かく咲けているような形をしているトリカブト(左の写真手前の大きな葉はハンゴンソウ)。トリカブトには似たようなものが多く、言われないとその違いが分かりません。

 ハンゴンソウ

 こちらがハンゴンソウ。漢字では「反魂草」と書き、葉が風に揺れる様を、黄泉の国から魂を呼び戻すため手招きしている様子に例えたものだそうです。



 10時30分、擂り鉢状の湿原の最も低くなったところにやって来ました。写真正面奥から湿原に入り、左手の林の縁を反時計回りに巡ってここまでやって来たことになります。もうしばらくこの辺りを散策し、その後山頂を目指して移動していこうと思います。(続きは中編で。)