入笠山 〜花と絶景の回廊へ(後編)〜


 

 (後編)

【長野県 富士見市 令和2年8月11日(月)】
 
 花と絶景の回廊を巡る野山歩き。後編です。(中編はこちら
 
                        

 Kashmir3D

 ロープウェイで標高1770mまで上がり、入笠湿原を巡った後に入笠山(1955m)の山頂までやってきました。時刻は12時30分です。



 西の方角に中央アルプス。雲がなければ正面に木曽駒ヶ岳などの峰々が望めるはずです。麓の里は伊那盆地ですね。



 北の方角、こちらは諏訪盆地ですね。フォッサマグナのメインルートにできた盆地です。

 諏訪湖

 諏訪湖をアップで。ここの水は天竜川となって約200kmを下り、太平洋に注ぐことになります。



 南方向。やはり富士山は他の山とは明らかに異なる姿をしていますね。



 山頂を渡る風に吹かれながら、しばしまったりとしました。



 12時55分、下山開始です。いったん来た道とは反対側に下ります。

 オオヤマフスマ

 オオヤマフスマは漢字では「大山衾」と書き、「衾」とは昔の薄い掛け布団のような夜具のことだそうです。名前の由来は若干複雑なのですが、この花とは別にノミノフスマという植物があり、全体に小型のその植物の葉がノミの夜具にちょうど良いほど小さいということで名が付けられたというもの。そのノミノフスマに似てより大型だということで、オオヤマフスマだそうです。

 オトコエシ

 「女郎花」オミナエシに対する「男郎花」オトコエシ。全体の立ち姿もオミナエシに比べてがっしりしています。



 草原の最上部まで戻ってきました。胸のすくような風景ですね。ここから花を楽しみながら下って行きます。

 イケマ

 ツル性の植物、イケマ。以前はガガイモ科に属していましたが、最近の分類ではキョウチクトウ科。なかなかピンときません。ちなみに、イケマとはアイヌ語に由来するものだそうです。

 ヤナギラン

 ヤナギランといえばこんな風景。ザ・夏の高原ですね。

 シモツケソウ

 バラ科のシモツケソウ。これがバラの仲間だなんて。何がどう共通しているのかさっぱり分かりません。



 草原の途中。下から涼しい風が吹き上げてきます。ああ、来て良かった。(しみじみ)

 ヤマハハコ

 ヤマハハコ。白い小型の頭花が散房状に寄り集まっています。葉は細いですが、更に細いホソバノヤマハハコという仲間もいます。ヤマハハコは東日本に、ホソバノヤマハハコは西日本に、それぞれ生育地を分けています。

 クガイソウ

 まっすぐに立つのはクガイソウ。凜々しいです。

 ノハラアザミ

 アザミもたくさんの種類があってなかなか分かりにくいです。これは本州中部地方以北に生育するノハラアザミ。葉には鋭い棘があります。

 カラマツソウ

 カラマツソウです。この花の姿がカラマツの葉を連想させるからということだそうです。花といっても花弁はなく、たくさんの白い線状のものは雄しべとのこと。花の構造って不思議ですね。

 ノコンギク

 尽きることなく花が出てきます。これはノコンギク。野菊といえばこれ、というほどポピュラーな存在で、薄い青紫色が素朴感を醸しています。

 キリンソウ

 一見、これもキクの仲間かという感じですが、ベンケイソウ科のキリンソウです。写真のとおり黄色の花が輪状に付くことから「黄輪草」。てっきり「麒麟草」だと思っていました。アキノキリンソウは「秋の麒麟草」なんですよね。

 マルバダケブキ

 草原エリアを出ました。森縁の道を入笠湿原に向かって戻っていきます。これは立派なマルバダケブキ。高さは1mくらいあります。yamanekoの好きな花の一つですよね。

 コウゾリナ

 コウゾリナ。茎などにざらざらとした粗い毛があります。触ると手が切れそうだということで、カミソリに例えて「髪剃菜」だそうです。



 13時50分、入笠湿原まで戻ってきました。これからいったん窪地の底まで下りて、正面に見える小山の斜面を登っていきます。木道が一本延びているのがここからも見えます。



 日差しを遮るものが何もない中、階段を上っていきます。この小山を越えるとロープウェイ駅に出る道に出るはずです。

 オミナエシ

 オミナエシです。さっき見たオトコエシより華奢な感じがしますね。オミナエシは秋の七草のうちの一つ。太陽はギラギラですが、暦の上ではもう秋なんですよね。

 コバギボウシ

 湿った環境を好むコバギボウシ。若い蕾が橋の欄干に付ける擬宝珠(ぎぼし)に似ているということで名が付いたといいます。コバは「小葉」ということですね。
 擬宝珠というとタマネギのようなずんぐりむっくりとした姿ですが、この花の蕾をはそこまで丸っこくはありません。

 ワレモコウ

 先ほどシモツケソウを見てこれがバラの仲間かと感心したところですが、このワレモコウもバラの仲間。もう何でもありですね。バラ科の懐の深さに脱帽です。

 ヒヨドリバナ

 ヒヨドリバナ。小さな花が散房状に寄り集まったもので、棘のように見えるのは雄しべなんです。普通、雄しべや雌しべは大切な器官なので、花冠の中心部で守られるようになっているのですが、これだけ花が寄り集まっていると、受粉優先で外にむき出しになっていても良いという戦略なのかも。

 キクイモ

 これはキクイモですよね。こんな高山の草原にまでやって来ているとは。北アメリカ原産の外来種で、幕末の頃移入されたものだとか。飼料用としても栽培されていたらしいので、このあたりの牧場から逃げ出したものかもしれません。



 木道を上りきって振り返ると、ああ、写真ではやっぱり高度感は分かりにくいですね。



 森に入ってしばらく行くと獣除けのゲートが現れました。



 夏の日差しの下をロープウェイ駅に向かって歩いて行きます。

 クサボタン

 クサボタン。花冠の色合いが青みがかったものと赤みがかったものがありました。アジサイみたいに土壌の関係で発色が替わる仕組みだったりして。



 14時15分、ロープウェイ駅まで戻ってきました。正面に八ヶ岳です。

 エゾリンドウ

 山野草公園という散策路が整備された園地に寄ってみます。
 鮮やかな瑠璃色のエゾリンドウ。これで満開の状態です。

 ユウスゲ

 夕方から咲き始めるとされるユウスゲ。といっても、けっこう昼間から咲いているのを見かけるのですが。

 キキョウ

 キキョウ。これも秋の七草のうちの一つですね。今日は入笠湿原ではあまり見かけませんでした。

 フシグロセンノウ

 フシグロセンノウは、このビジュアルでもナデシコの仲間という不思議。

 ウド

 「ウドの大木」という言葉の元、そのウドはこんな姿をしています。漢字では「独活」。何か意味ありげな名前です。婚活の反対ということではないですね。



 野草園があまりに広いので、3分の2ほど巡って戻ってきました。八ヶ岳連山にかかっていた雲が上がり、もうほとんど稜線が姿を現しています。
 この風景を眺めながら味わうソフトクリーム。美味しさ1.5倍増しでした。



 休憩後、整理体操をしてから下山しました。これをしておかないと、明日体がロボットみたいになってしまいますからね。
 今日は涼しく楽しい野山歩きになりました。
 乗車時間、数分。下りたところも標高は1千mくらいはあるのですが、入笠山の上に比べればやっぱりそこは酷暑でした。