野川公園 〜水無月の武蔵野〜


 

【東京都 調布市 平成19年6月17日(日)】
 
 梅雨入り宣言の後に真夏のような日々が続くのは例年のこと。今年もさっそく梅雨明けしたかのような夏空が続いています。
 さて、野川公園の生きものたちは恵みの雨を待っているでしょうか。

 芝生広場

 駐車場から野川に向かう間には芝生の広場があります。ここではいつも家族連れを中心として様々な人がくつろいでいます。yamanekoも今日はここでコンビニ弁当を広げようと思います。

 ロウバイ

 薫風に吹かれながら食後ののんびりとした時間を過ごしたので、そろそろ観察を始めようと思います。
 毎月観察しているロウバイです。夏を前に葉を密に繁らせていました。偽果の様子は先月とあまり変わりはないようです。冬の乾燥した偽果の中は以前観察しましたが、今はどんな風なんだろう。ということで一つだけいただいて中を割ってみました。果実の周囲の白い部分はちょうど夏ミカンの厚い皮の部分のような感じ。果実はしなやかで、ちょっと予想外でした。

 自然観察園へ

 東八道路の陸橋を渡り、野川を越えると自然観察園です。野川の河原の草もやや潤いを欠いているように見えますね。適度の雨が望まれるところです。
 この写真の風景も毎月撮影していますが、冬から春、春から初夏と、この半年で大きく変化しています。これからどう変化していくか、これも楽しみの一つです。

 ガガイモ

 園内に入って最初に目に入ったのは薄紫色のガガイモの花。花弁は厚みがあり白い毛が密生していて、まるでフェルト細工の花のようです。

 アカザ

 こちらはアカザ。若葉が紅紫色なのが特徴です。古い時代に帰化したと考えられていて、原産はユーラシアだそうです。このアカザの仲間にはホウレンソウやビート(砂糖の原料)など人間の食生活と関わりの深いものが多いようです。

 ドクダミ

 この季節の野草としてはこの花を欠かすわけにはいきません。名前の印象は良くないですが、消炎、利尿など様々な薬効があり、なかなか役に立つやつです。名前も「毒、痛みに効く」というところから付けられたのだとか。ちなみに、白い花弁のように見えるのは総苞片で、中心にある髭のようなものの一つ一つが花です。

 園内

 もう夏のものと言ってよいほどの日差しが、林の中にくっきりとしたコントラストを作っています。こういうときって写真を撮りにくいんですよね。そう考えてみると人間の目ってすごいと思います。明るいところも暗いところも鮮やかに見えるのですから。目の機能だけではなく脳で補正しているのでしょうが。

 ホタルブクロ

 純白のホタルブクロ。涼しげですね。その名前がまた風流です。園内のホタルブクロは野生のものより花数が多かったですが、やっぱり肥料とかが施されているのでしょうか。1本の茎にまとわりつくように花を付けているものもありました。

 池が…

 おお、池が干上がっているではありませんか。ここのところ雨が少ないから…。という訳ではなく、人為的に水を抜いたみたいです。他の池の水は普通にありましたから。でも、ここにも小魚がいたはずですが(いつかカワセミが採餌していましたから)、どうしたのでしょうか。

 イロハモミジ

 翼をつけた果実が2個水平にくっついてプロペラみたいな果実。あと1、2ヶ月で熟す頃を迎えます。イロハモミジの名前は、葉の裂片を「い、ろ、は、に、ほ、へ、と…」と数えたからといいますが、写真の葉は裂片が5個。中には7個のもの、9個のものもあります。11月も下旬を迎える頃になると、燃えるような紅葉を見せてくれるでしょうね。

 ???

 これは何でしょうか? 水滴が連なったような果実と敷石のような葉脈の葉。答えは、春に白い小さな花を付けていたフタリシズカです。花の時期にはピンと立っていた花穂も、果実の時期にはだらんとしています。虫媒花なので花の時期にはよく目立つように直立していたのでしょうが、この時期にはもうその必要もないのでしょう。

 オオバジャノヒゲ

 ユリの仲間、オオバジャノヒゲです。林の下でひっそりとうつむき気味に咲いています。こんなふうに花は遠慮がちなのですが、冬になると艶のある紺碧の種子がよく目立ち、yamanekoが子供の頃はこれは格好のおもちゃでした。シノダケを節と節との間で切ってきて、このジャノヒゲの種子を両端から1個ずつ詰めて、水鉄砲の要領で棒で突くと、圧縮された空気によってポーンと勢いよく種子が飛び出すのです。こんなことを通じて小刀の使い方とかを身につけたものですが、最近ではこんな遊びはしないのでしょうね。

 ムラサキシキブ

 ムラサキシキブの花はやっぱり紫色。果実の紫の方がより濃い色をしています。園芸店などでムラサキシキブとして売られているのは別種のコムラサキであることが多いようです。コムラサキの方が実の付きがよく見栄えがよいのです。

 リョウブ  エゴノネコアシ

 強い日差しを浴びて生き生きしている樹木たち。リョウブは花穂を伸ばし、たくさんの蕾をふくらませつつありました。リョウブは漢字で書くと「令法」。お上からの通達という意味で、昔、有用なこの木を栽培するようお達しがあったことから名が付いたといわれています。
 右の写真のバナナの房のようなものは、エゴノキに付く虫コブで通称「エゴノネコアシ」と呼ばれるもの。普通、虫コブは葉一面がブツブツになったりしてちょっと引いてしまいがちですが、これは一見果実のようでおもしろいです。虫コブができる原因は、その木に応じた様々なアブラムシが付くことにより、葉や茎が変形するためで、このアブラムシがなかなか造形の天才なのです。花の蕾そっくりなものや果実のようなもの、中にはリンゴそっくりな虫コブを作るものもいます。

 木陰

 もう木陰が恋しい季節です。夏本番までにはうっとうしい梅雨を越さなければならないのですがね。写真からは降りそそぐような蝉時雨が聞こえてきそうです。

 ハンゲショウ  チョウジソウ

 湿地の植物を二つ。左の写真はハンゲショウの葉。二十四節気をさらに細分したものに七十二候というものがあり、そのうちの一つ、夏至から11日目を「半夏生」といいます。このころに花を開くことから名が付いたといわれています。また、葉が半分白くなることから「半化粧」と書くこともあります。
 半夏生は農作業にとっては重要な節目だそうで、この日から数日間は農作業をしてはいけないとされていたそうです。例年この時期には大雨が降ることが多いのと関係しているのかもしれません。
 右の写真はチョウジソウの果実。あの可憐な花の姿からは想像できないとんがり方です。これでは「丁字草」ではなく「V字草」ですね。キョウチクトウ科の植物で、花はキョウチクトウとは似ても似つきませんが、果実の形はそれを想像させる形をしています。

 ニホンカナヘビ

 葉陰で休むニホンカナヘビ。名前はカナヘビですが、トカゲの仲間です。ニホントガケが全体に艶があり尾の先端が青っぽいのに対し、ニホンカナヘビは褐色で表面は乾いているように見えます。じっくり見るとなかなか可愛いやつですよ。手のひらに乗せるときっとひんやりとしているでしょうね。

 ヒガンバナの原っぱ

 ヒガンバナの原っぱにはもうその葉はどこにもなく、夏草が茂りはじめていました。競争相手のいない時期に葉をいっぱいに広げて養分を蓄え、今は地下でじっと花の時期を待っているのです。

 ヘビイチゴ

 見事な球形のヘビイチゴの果実。といっても本当の果実は表面のつぶつぶの一つ一つで、その土台の球体は果床といわれるもの。果物のイチゴはこの部分がみずみずしくて美味しいのですが、ヘビイチゴの場合はパサパサしていて、まあ食べられはしますが不味いです。有毒と思っている人も多いようですが、無毒です。

 ソメイヨシノの実

 ごくまれにしか結実しないソメイヨシノの果実。苦みが強く食べられないそうです。(yamanekoも食べたことはありません。)
 ご存じの方も多いでしょうが、ソメイヨシノは自力で子孫を残すことができません。子房が不稔性で種子ができず、一般に接ぎ木などにより増やしていくのです。ソメイヨシノはもともとはオオシマザクラとエドヒガンザクラとの自然交配により生まれたものと考えられていて、その寿命は60年程度。人との共生がなければあっという間にこの世から絶えてしまっていた種なのです。春を待つ心とともにふくらむ蕾。一斉に咲き誇る満開の花。そして潔く散り、その後には眩しい青葉を揺らす。ソメイヨシノは日本人の心をつかむことで、最初の1本を日本の津々浦々にまで広げていったのです。そして、今でも植樹といえばソメイヨシノですよね。おそらくこれからも日本中でソメイヨシノが絶えることはないでしょう。
 ここまで書いてきてふと心をよぎったこと。それは彼(彼女?)の深い孤独です。日本全国に広がったソメイヨシノですが、正確にはそれは子孫ではなく、自分自身。そう、自らの子孫を残すこともできず、この広い世界に彼はひとりぼっちなのです。そう考えると、これからはソメイヨシノを見る目が少し変わるかもしれません。
 
 

  武蔵野台地と野川公園