那須岳 〜火山・地球の息吹を聞く(前編)〜


 

 (前編)

【栃木県 那須町 平成28年10月22日(土)】
 
 10月も下旬だというのにちょくちょく夏日がぶり返してきたりしています。季節の進み方が「一歩さがって二歩進む」とか穏やかなものではなく、「十歩さがって十一歩進む」みたいな激しいことになっていて、会社にも風邪ひきの人がちらほら見られます。 そんな季節感のよく分からない日々ですが、野山に出かければきっと本来の季節を感じることができるだろうということで、山に行くことにしました。場所は栃木県の最北端、那須岳です。ここにはロープウェイがあって、お手軽に山歩きができそうなので、前から行ってみたかったのです(8年前に直前で挫折した経験あり。)。
 
                       
 
 午前2時(!)起床。準備を済ませ2時半にドリーム号で出発しました。当然にまだ真っ暗です。圏央道から東北道に入り、那須ICで高速を下り一般道へ。この時点で時刻は5時半。ようやく山の端が白み始めました。高速を下りたあとは一本道。那須岳の裾野をぐんぐん登って行きます。この道はロープウェイの乗り場を過ぎて最終的には県営駐車場で行き止まり。yamaneko達は途中のロープウェイ駅駐車場に入ります。
 現地に着いてみると、駐車場は7時開場とのことで、路上には既に10台程度の車が列を作っていました。その最後尾に付けて、とりあえず車外へ。ロングドライブで窮屈だったので、深呼吸でもしますか。

 日の出

 ちょうど日の出のタイミングです。今日の予報は東京は曇りでしたが、北関東は晴れ。ただし、午後には雲が多くなるというもの。なんとか下山まで秋晴れだったら良いのですが。

 ロープウエイ山麓駅

 少し早め、6時半くらいに駐車場が開き、待機していた車は順次駐車場に入って行きました。そこで今度はロープウェイが動き出すまで待機です。
 車内で時間を潰すこと40分。ロープウェイがこちらも普段より早く、7時20分に始発が出るとの放送があり、yamaneko達もおもむろに乗り場に移動しました。すると既に長蛇の列で、始発には乗れず、次の便に乗って登って行きました。さすがは紅葉の時期です。

 雲海

 ロープウエイの乗車時間は4分弱。あっという間に到着です。これは山頂駅のバルコニーからの眺め。眼下には雲海が広がっていました。
 しばらくして登山客のほとんどがいなくなってから、ゆっくりと準備運動をして、8時ちょうどにスタートです。


 Kashmir 3D

  那須岳は、ほぼ南北に連なる南月山、茶臼岳、朝日岳、三本槍岳、甲子旭岳の集合体のことで、那須連山とも那須火山群とも言ったりします。
 今日のルートは、まず那須連山の主峰、茶臼岳の山頂を目指します。登頂後はお鉢を回って、登って来た道を戻り、山腹を巻く道を通って牛ヶ首へ。牛ヶ首は茶臼岳と日の出平との鞍部です。そこから茶臼岳の西側をぐるっと回って、峰の茶屋跡避難小屋へ。ここは茶臼岳と剣ヶ峰との鞍部。そこから朝日岳との間の谷を下り、ロープウエイ山麓駅の駐車場に戻ってくるというものです。

 まずは山頂に向けて直登する道への分岐を目指します。時間が早くまだ観光客はいないので、静かです。

 鰯雲

 山頂はあのこんもりとしたピークの奥にあるはずです。上空には鰯雲。天気が徐々に下り坂に向かう前兆ですね。



 この辺りの道はよく整備されていて、山頂を目指さない観光客にも問題なく歩くことができそうです。ただ、周辺に身を隠すところがなく、ひとたび天候が荒れると強風をもろに受けるので気をつける必要があるとのこと。また、濃霧となると目標物もなく、現在地を見失うこともあるそうです。自然を侮ってはいけませんな。

 ヤマハハコ

 ヤマハハコのドライフラワー。かっさかさに乾いています。

 シラネニンジン

 こちらはシラネニンジンの葉。綺麗に黄葉していますね。この時期、長い花茎は枯れてしまっています。

 シラタマノキ

 シラタマノキ。白い実のような部分は萼が肥大化したものだそうです。ということはあの内部に花(今は実か。)が包まれているということか。

 ロープウェイの山頂駅から黙々と歩いてきています。ほぼ無風。絶好の山日和です。

 南月山

 左手に見えているのは南月山とそこから南東に伸びる稜線です。空気も澄んで、気持ちいい!

 山頂・牛ヶ首分岐

 ほどなく山頂と牛ヶ首方面との分岐に至りました。観光客が街履きの靴で安全に歩いて来られるのはこの辺りまで。yamaneko達はここから正面の坂を登っていきます。足元がズリズリと滑るので、一歩一歩確実に。山頂を踏んだ後、またここまで下りてきて、今度は左手の道を牛ヶ首方面に向かって歩いて行く予定です。

 朝日岳からの稜線

 右手にはこの風景です。左の尖った山は朝日岳。写真中央付近、スプーンですくい取った跡のようなところの右端が鬼面山です。方角としては北東方向を向いています。遠くにうっすらと見えている山は福島県の安達太良山です。

 朝日岳

 荒々しい風景。朝日岳は既に活動を終えているそうで、活動期は20万年前から5万年前まで。茶臼岳より古い火山です。

 南月山、日の出平

 左手には先ほどの南月山と、そこから茶臼岳方向に伸びる稜線。右端の辺りを日の出平と言います。その遥か奥に見えているのが日光連山(女峰山、男体山など)です。

 登山道脇に大きな岩が出てきました。茶臼岳の火口から、飛んできた噴石でしょうね。こんなのが降ってきても逃げ場がありません。ロープウエイの山頂駅からずっと、なかなかの荒涼感ですが、茶臼岳のこちら側斜面は明治14年に起きた噴火の際に火砕流に襲われたところで、現在でもかなり下まで不毛な斜面が続いています。

 大岩

 この大きさは…。これは溶岩ドームが崩落してきたものかもしれませんね。

 道標

 那須岳のあちこちに道標が設置されています。それぞれに連番が振ってあって、濃霧や風雪の際に現在地を特定できるようになっているのだそうです。

 岩の間でツツジの仲間(ベニサラサドウダンか。)が紅葉しています。生き物の気配に乏しい荒涼とした世界に、少しホッとする風景です。

 朝日岳

 朝日岳の全体像が見えてきました。どっしりとしていますね。

 そろそろ山頂火口の縁まで登ってきました。溶岩ドームの崩れ残りでしょうか。結構大きな岩塊です。あの岩の下側をを巻くように登山道があり、そこを歩いている人の大きさと比較すると、岩の大きさが推し測れますね。あの登山道は、茶臼岳と剣ヶ峰の鞍部(峰の茶屋跡避難小屋がある。)から登ってくるルートです。

 下を見ると、ロープウェイの山頂駅からでもずいぶん登ってきたことが分かります。下界は相変わらず雲海の下ですね。

 茶臼岳火口

 山頂部にやって来ました。目の前には茶臼岳の山頂火口です。なんだか巨大アリ地獄みたいですね。那須連山の火山活動は約60万年前から始まったそうですが、この茶臼岳は最も遅い約3万年前に噴火したものだそうです。ここの溶岩は粘り気の強い安山岩質で、立派な溶岩ドームを造ったことは今見ても分かります。それより古い南月山や朝日岳の噴火では粘り気の弱い玄武岩質の溶岩が噴出し、なだらかな裾野を造ったのだそうです。この火口、つい最近できたものなんですね。

 山頂へ

 火口の縁を歩いて行きます。足元が赤っぽいのは地表が噴火の高温にさらされたことを示すもの。正面の小高いところが茶臼岳の最高点です。

 荒涼とした山頂。向こうに鳥居が見えます。それはそうと上空が薄雲で覆われましたね。

 那須嶽神社

 鳥居をくぐった先に石の祠がありました。那須嶽神社。麓の那須温泉神社の奥宮になるのだそうです。時刻は8時55分。1時間弱で到着したことになります。二礼二拍手一礼でこれからの無事をお願いしました。家に帰るまでが遠足ですから。

 北方向

 山頂からの北側の眺望。右側の山塊は朝日岳とその奥に連なる三本槍岳など。遙か奥には安達太良山、磐梯山、更に遠くに飯豊山なども見えています。左側の山塊は三本槍岳から西に延びる稜線を構成する、流石山。

 西方向

 上の写真の更に西側。流石山からは大倉山、三倉山と続いていきます。左側には南会津の山並みが続き、尾瀬や奥日光の山々も見えています。

 山頂で少し休憩。その後は火口の縁を回るお鉢巡りをしてから下山することにしました。

 お鉢巡り

 火口の縁を行く。荒々しい岩の世界です。お鉢巡りをしている人はそこそこいました。

 火口の縁から北側に削り込まれた谷が望めました。眼下には峰の茶屋跡避難小屋。その奥が剣ヶ峰や朝日岳の山塊。最も奥に頭だけ出しているのが三本槍岳です。那須連山の主峰は茶臼岳(1915m)ですが、標高は三本槍岳(1917m)の方が2mほど高いです。

 下山

 火口をぐるっと回ったところで、元来た道を下っていきます。 まだこれから登ってくる人もたくさんいました。

 足場が悪いので一歩一歩慎重に。岩など蹴り転がさないように。

 こうやって見ると結構な斜度ですね。この馬の背のようなところを下っていきます。奥の人が溜まっている辺りが分岐。そこを右に行きます。(ここを火砕流が駆け下っていったのか…。)

 分岐

 10時ちょうど、分岐まで降りてきました。観光客で賑わっています。ここは右手に折れて牛ヶ首へと向かいます。


 ここからの道は等高線をなぞるように伸びていて、大きなアップダウンはありません。あの稜線を回り込んでしばらく行ったところが牛ヶ首です。

 ガンコウラン

 この標高まで下ると若干の植生が見られます。これはガンコウラン。丈のほど約10cmと背が低い植物ですが、これでも樹木。ツツジの仲間です。

 紅葉

 ベニサラサドウダンの紅葉です。谷の下の方にあったものを望遠で。陽が当たっていたらもっと綺麗だったのでは。

 しかし遮るものが全くないですね。急に風雨が激しくなったりしたら 身を隠すところもありません。雷がゴロゴロ言いだしたら生きた心地がしないでしょうね。

 ガンコウラン

 これがガンコウランの実。ツヤ消しブラックです。花は白く壺型の可愛い姿をしているのですが。

 シラタマノキ

 対照的に白い実はシラタマノキ。これもツツジの仲間です。

 ウラジロタデ

 この黄葉しているのはウラジロタデ。茶臼岳の周辺に多いそうです。

 断面図

 地面が削れているところでガンコウランの群落の断面を見ることができました。緑色の部分が地上部で、白い枝のように見えるのは本来は地中にある根の部分です。

 牛ヶ首近し

 正面に鞍部になっているところが牛ヶ首辺りです。あとちょっと(最後に上りが待っているか?)。

 溶岩ドーム

 右手を見上げると茶臼岳の巨大溶岩ドーム。あれが崩れてきたらヤバイです。などと考えつつ、後編へ続く。