鳴虫山 〜ツツジで賑わう山(後編)〜


 

 (後編)

【栃木県 日光市 平成22年5月16日(日)】
 
 (前編はこちら


Kashmir 3D

 神主山からは延々と緩やかな上りで、ときおりきつい斜面も現れます。おおむね左斜面は植林地、右斜面は雑木林といった状況でした。一歩一歩ふくらはぎを伸ばしながら登っていきます。

 一面に

 尾根筋を木の根が一面に覆っていました。これじゃあ踏まないように歩こうにも、ちょっと無理。こんな感じの場所がずーっと続いています。

 左はホトトギス、右はカタクリの葉です。ホトトギスの花はこれから。葉で作った栄養をこれから花を咲かせるために使うのです。一方、カタクリの花はもう終わってしまっています。今作っている栄養は地下茎に貯蔵して、来年の花のために使うのです。

 山頂直下

 おっ、なんか賑やかな人の話し声が。山頂か。

 鳴虫山山頂

 11時40分、鳴虫山の山頂に到着しました。結構長い道のりでした。標高は1103m。yamanekoの故郷の山、三瓶山と同じような高さですが、三瓶山の方が高く感じるのは独立峰だからでしょうか。

 大賑わい

 山頂にはざっと100人ばかりの人で賑わっていました。シートを敷いて腰を下ろすこともままならない状況です。

 女峰山

 とりあえず景色を楽しむことに。神主山で見たときより女峰山にかかる雲が多くなったような気がします。

 嵐が去って

 しばらくすると複数の団体さんが下山していきました。おかげで山頂はウソのように静かになってしまいました。さあ、ご飯ご飯。
 静かになると、ときおり吹いてくる風も気持ちよく感じられます。南側の展望はありませんが、北側の木立越しに見える表日光連山を堪能しました。その昔、この山は日光山の僧の修行の場だったそうで、厳しい登山の後にこの神々しいまでのパノラマを拝むと、心身ともに清められたような気になったのかもしれません。

 下山開始

 12時30分、yamanekoたちも下山開始です。これがなかなかの斜度。足元に注意しながらゆっくりと。

 シロヤシオ

 満開のシロヤシオに出会いました。白磁のように滑らかな白。きれいですね。ところでシロヤシオは「白八汐」と書くようですが、どういう由来があるのでしょうか。先述のアカヤシオの他にムラサキヤシオというのもあるようで、いずれもアケボノツツジの変種なのだそうです。

 ひたすら下る

 写真ではそれほど感じられませんが、転がり落ちそうな坂道です。そろそろ膝が笑ってきはじめました。

 カタクリの果実

 ぷっくりと膨らんだカタクリの果実。もう少しすると先端から裂けて、小さな種子が地面に撒かれます。で、ここからがおもしろく、その種子にはアリの蛹ににた臭いがついていることから、アリが間違えて自分の巣に運び込んでしまい、やがてそこで発芽するという仕組みなのだそうです。これだと地表で乾燥することなく地中に埋めてもらえるので有利ですね。

 鳴虫山

 下山途中の尾根道から、木立越しに鳴虫山の姿を見ることができました。山頂から右側に下る斜面を下りてきたことになります。

 カラマツ

 北西斜面にカラマツ林がありました。寒冷な地方ではスギやヒノキを植林する際に苗の防寒用にカラマツを植えたという話をきいたことがありますが、ここもそうでしょうか。

 独標

 1時30分、独標というピークまでやってきました。樹林に囲まれ、展望は利きません。「独標」とは、測量用語で「独立標高点」の略称だそうです。地形図上に「・」が打ってあって標高の数値が書き添えてある、あの点のことですね。
 ここまで大学生とおぼしき4人組と前後しながら下りてきました。仲間内で会話しているのを聞くと今風の若者言葉の会話なのですが、こちらに話しかけるときにはきちんとした敬語で、ちょっと感心しました。こういう山好きの若者達がどんどん増えるといいですね。

 ミズナラ

 ミズナラの若葉。触ってみると柔らかく、しっとりとしていました。

 ミツバツチグリ

 ミツバツチグリは日向を好む花。独標を過ぎると、だんだん里の雰囲気が濃くなってきました。

 含満淵側の登山口

 2時15分、含満淵側の登山口まで下りてきました。いつのまにか上空には薄い雲が。ここからは日光の隠れた名所、含満淵(かんまんがふち)を目指します。

 クサボケ

 藪の中に真っ赤な花が咲いていました。クサボケですね。笹の茎をかき分けて撮った写真です。

 発電所

 フェンスに囲まれた窪地に可愛らしい建物が。看板を見ると「東京電力日光第一発電所」とあります。大谷川から分水した水を使って、大正7年からこの地で発電をしているのだとか。約25mの落差を利用して、毎秒6立方メートルの水を落としているのだそうです。

 合峰

 振り返るとピークが見えました。位置的におそらく合峰と思われます。

 導水路

 発電所から流れ出た水がこの導水路を通って再び大谷川に注ぎます。その合流点あたりが含満淵です。

 フデリンドウ

 道ばたに小さなフデリンドウを見つけました。しゃがみ込んでよく見てみると、涼やかな花ですね。

 激流

 発電所からの水が大谷川に注ぐところ。「毎秒6立方メートル」と聞いて、意外と少ないなと思っていましたが、この映像を見るととんでもない。怖いくらいの水量でした。実は合流される側の大谷川も激流状態で、激流と激流がぶつかり合って大変なことになっていました。

 並び地蔵

 含満淵に沿って、たくさんのお地蔵さんが並んでいました。ちょっとぞくっとするような光景です。看板によると、慈眼大師天海という僧の弟子約百人が寄進したものだそうで、創建当時には一番奥に大きな親地蔵があったそうですが、明治35年の大洪水でいくつかの地蔵とともに流されてしまったそうです。
 この地蔵は別名「化け地蔵」ともいい、数えるたびに数が合わないという不思議なお地蔵さんなのだそうです。

 含満淵

 この含満淵は男体山から流れ出した溶岩によって作られた奇勝で、古くから不動明王が現れる霊地と言い伝えられているそうです。川の流れが不動明王の真言を唱えるように響くので、晃海大僧正という僧が真言の最後の句の「カンマン」を取って名付けたのだそうです(「含満淵」とも「憾満淵」とも書くようです。)。なんか、霊験あらたかな場所ですね。

 ウワミズザクラ

 対岸の岸辺にウワミズザクラの枝が張りだしていました。ちょうど花が咲いています。風情がありますな。

 含満淵

 遠くにこの流れの源にあたる表日光連山の峰が見えます。それにしてもちょっと圧倒されるほどの水量です。これだけの流れだと、まちがって落ちてしまったら、あっという間に下流の方まで流されてしまいますね。

 ワチガイソウ

 水際を離れ、森の方に足を向けると、林縁に可憐な花たちが。ワチガイソウの群落でした。この花を覗き込んでいるときだけは、淵の音がふっと消えたような感じでした。

 含満淵

 この含満淵は、大観光地日光にあって訪れる人もまばら。東照宮というあまりにメジャーなスポットが近くにあるせいで目立ちませんが、立派に輝いている景勝地でした。ここでのんびりしていると癒されること請け合いです。
 
 ここからは、下流にある橋を渡って、対岸の住宅地を通りぬけ、東照宮の入口近くにあるバス停へ。路線バスでスタート地点の消防署前に向かいました。
 
 今日はツツジなど、たくさんの花に出会えて楽しい山歩きでした。そして、天王山神社で拝んだ御利益もあって、無事に家まで帰り着くことができました(途中、東北道がちょっと渋滞しましたが。)。