鳴虫山 〜ツツジで賑わう山(前編)〜
(前編) |
【栃木県 日光市 平成22年5月16日(日)】
連休も終わり、平地は初夏の陽気になってきました。この週末は天気も良いし、まあじっとしているわけにはいきませんね。そこで、今回は栃木県の日光にある鳴虫山に行ってみることにしました。「泣き虫」ではなく「鳴虫」です。曰くありげな名前ですね。腹の虫でも鳴くのか?
鳴虫山は日光市街のすぐ南側に鎮座しています。東京からの行程は、首都高、東北道、日光宇都宮道路と走り継ぎ、ほぼ高速道路のみで行くことができます。日光ICを下りると市営駐車場までは約1q。この駐車場は中央公民館のものですが、登山者の駐車も可能。また、登山コース中にトイレがないことから、中央公民館やその隣にある消防署のトイレを利用してくださいとのありがたい張り紙も。実際、消防署の方は快く貸してくださいました。
公民館越しに |
トイレを済ませ、消防署の前から公民館越しに見えた山。あれがこれから登る鳴虫山か。(後で分かったのですが、実は前衛の神主山でした。)
案内板 |
駐車場に着いたのは8時過ぎでしたが、装備を整えたり、ストレッチをしたり、うだうだしたりしているうちに出発は8時40分になってしまいました。
登山口への案内板はよく目立っていて迷うことはあり得ません。何組かの団体さんをやり過ごしてからゆっくりと登り始めました。
Kashmir 3D |
今日のコースは、登山口からグググッと高度を上げて、神主山(こうのすやま)を経由し鳴虫山山頂へ。その間はずっと尾根道です。山頂からは北西の尾根を下り、含満淵(がんまんがふち)のたもとに下山するというものです。標高差は550mほどあり、yamanekoにとってはそこそこ歩き応えのある山です。
山の名の由来は、この山に雲がかかると雨になることから「泣き虫山」と呼ばれ、転じて「鳴虫山」となったのだそうです。やっぱり「泣き虫」が元だったか。
ヤマツツジ |
登山口からいきなりジグザグの上り。その登山道をヤマツツジが彩っていました。満開です。新緑に朱色が映えます。補色の関係ですからね。
ヤマツツジは野生のツツジの代表選手で、分布域も最も広いのだそうです。葉も花も生き生きとしていますね。
マムシグサ |
登山道脇のマムシグサ。造形的にはなかなかのもの。なんとなく魔法使いを彷彿とさせる姿です。
チゴユリ |
チゴユリはちょっと盛りを過ぎたあたり。でもこの株はみずみずしかったです。なのでパチリ。
こんな気持ちのいい道を歩けるなんて、山歩きがやめられないのも分かるでしょう。
サルトリイバラ |
西日本ではこのサルトリイバラの葉で柏餅を作ります。カシワじゃないからサルトリ餅ですか。yamanekoの田舎ではこれを「ちまき」と呼んでいました。ん? なんかねじれていますね。
ヤマツツジのベストの時期に来たんですね。鳴虫山はツツジの山と聞いていましたが、本当でした。
天王山神社 |
尾根筋に出たところに天王山神社がありました。鳥居は石造りで立派なものでしたが、本殿、というより祠は小さく、外側のみ比較的新しいものに作り替えられているようでした。今日の山歩きの無事を祈って、しばし手を合わせました。
コアジサイ |
暗い森とのコントラストも鮮やかなコアジサイの若葉。コアジサイの花には街角で見かけるアジサイのような装飾花がなく、直径5ミリほどの小さな両性花が散形状にたくさん付きます。来月には薄紫の花がこの葉を飾るでしょう。
尾根道 |
スギとヒノキが混植された尾根道を歩きます。木漏れ日が気持ちいいです。
フイリフモトスミレ? |
スミレはよく分からなくて、図鑑の写真だのみなのですが、このスミレはフイリフモトスミレのようでもあり、フモトスミレとヒメミヤマスミレとの交雑種のようでもあり(この辺りは両種の混生地のようです。)。全体の印象からは後者のようでもありました。
イチヨウラン |
迷彩色のような登山道の脇に一株だけ咲いていたイチヨウランと、奇跡的に目が合いました。本当に「たまたま目が合った」という表現がピッタリで、見つけたときは何かドキドキしました。生で見るのは初めてだったので、この場で10分間くらい止まって観察したり写真を撮ったり。これだけでも遠路はるばるやって来た甲斐があったというものです。
萼片と側花弁は黄緑色。唇弁は3つに分かれていて、真ん中の裂片が一段と大きいです。紫色の斑紋が浮かび上がるように見えるのが趣深いですね。長くこの地に生き続けることを祈りたいです。
ヤマタイミンガサ? |
ヤマタイミンガサかな、それともヤブレガサか?
夏鳥の声 |
鳥の声は写真には写りませんが、遠くの森でツツドリが鳴いているのが聞こえてきました。夏が近いということですね。
ツツドリはその姿を見るのは難しく、いつもポポ、ポポポという声だけです。
大谷川 |
涼しい風が吹いてくると思ったら、樹林が切れたところがあり、そこから麓の大谷川が望めました。中禅寺湖に端を発し、鬼怒川に注ぐ川です。ちなみに「だいやがわ」と読みます。
この川は昔から洪水による土砂災害が多く、たくさんの犠牲者を出してきた歴史があるそうです。その結果、大谷川には「床固工」と呼ばれる堰のような砂防施設が短い間隔でいくつも設置されていて、上の写真の辺りでは50mくらいの間隔で設置されています。ちょっと分かりにくいですが、肉眼で見るとギョッとするほど。なんか満身創痍といった感じで痛ましくもあります。床固工の役割は川底の勾配を小さくして流れを緩やかにするというものだそうです。
神主山 |
10時ちょうど、神主山に到着しました。ガイドブックによると、鳴虫山の山頂よりこちらからの方が眺望が良いのだとか。どれどれ…。
男体山 |
西の方角には…、おお、男体山(2484m)。山頂には雪も見えます。雄大な山だこと。
女峰山 |
木立をはさんで右手には、雲を頂いた女峰山(2464m)が広ーいすそ野を広げていました。女峰山なのに男体山よりも荒々しい山肌なのはなぜ? 曲がり角を曲がったか?
高原山 |
さらに右に振って北東方向には、遠くに高原山(1795m)の姿が。なかなか特徴のある形をしていますね。
鳴虫山へ |
神主山で10分ほど休憩して、鳴虫山に向かいます。ここからだと標高差は約250mほどです。
トウゴクミツバツツジ |
鮮やかな紫色のトウゴクミツバツツジ。主に1000m以上の高地に生えるミツバツツジの仲間で、関東地方に多いことから「東国」の名が付いたのだそうです。ちなみに「西国」と「南国」のミツバツツジもあるようです。
アカヤシオ |
鳴虫山はアカヤシオでも有名。花は1か月前が見頃で、この時期には花に代わってみずみずしい葉が展開していました。
ミズナラ |
大きなミズナラに出会いました。古木と言っていいでしょう。人の背丈くらいの所から幹が分かれているのは、若い頃何回か伐採されたのだと思います。戦後のエネルギー革命で薪炭材の需要が減ったことが、このような古木を残す結果につながったのかもしれません。ちょっと複雑な心境です。
頭上には透きとおるような緑のサンシェードが。深呼吸すると緑色に染まった空気が全身に染み込むようです。
さあ、鳴虫山の山頂まではあとちょっと。サクサク登るともったいないので、楽しみながらゆっくりと行きたいと思います。《後編へ続く》