宮島・室浜 〜コバンモチは美味いのか?〜


 

【広島県宮島町 平成15年1月25日(土)】
 
 今日は宮島PV(パークボランティア)の活動で、宮島に生育するコバンモチ(ホルトノキ科)をシカの食害から守るために防護ネットを設置します。

 宮島
 は弥山

 宮島口からフェリー(上写真の白線)で宮島へ。
 桟橋前に9時集合。車に分乗して室浜にある広島大学理学部附属宮島自然植物実験所(上写真)へ向かいます。
 桟橋から厳島神社、宮島水族館辺りまでは民家や商店が密集し、軒先をかすめるようにしてゆっくりと車を走らせます。朝早いのに既に観光客が。
 でも観光地宮島の表情を見せるのはこの辺りまで。水族館を過ぎ、大元公園を過ぎると、あとは海岸沿いに細い車道が続くだけ。車道は約4q先の実験所まで続いています。いつ来ても観光客の姿はまず見かけません。
 この道は去年の7月、広島自然観察会で定例観察会を行った道です。
 
 宮島は思っている以上に緑が深い島です。観光客でにぎわうのは島の北端の厳島神社や包ヶ浦周辺だけ。島民のみなさんもほとんどがここに住んでいます。残りの95%くらいはうっそうとした森が延々と広がる島なのです。道らしい道もなく、海岸沿いにぐるっと回ることもできません。

 実験所前

 9時30分、実験所に到着。晴天ですが日陰ではじっとしていられないほど冷え込んでいます。
 鎌などの用具やネット、針金などは広島大学と宮島町が用意してくれました。
 今日の作業地域はここから海岸と山道を歩いて20分ほどのところ(最初の写真の赤丸部分)。道をふさぐコシダを刈り払いながら進みます。

 山道を進む

 作業地域は山の斜面で、海面から20m〜60mの幅に85本のコバンモチがあります。なぜ詳細に分かっているかというと、去年の6月、実験所の向井氏が3日間にわたって現地調査を行い、地図上に対象となる木の位置を正確に記録するという事前準備があったからこそ。コバンモチを探しながらやっていたら作業はてんではかどりません。

 コバンモチ

 コバンモチはホルトノキ科の常緑高木で、比較的海岸に近い斜面の中腹に多く生えます。葉の付き方に特徴があり、互生ですが枝先に集まって付くため輪生のように見えます。また、葉柄が5pくらいあるのも特徴です。
 実験所の豊原教授によると、この木はもともと南方系の樹木で、ここ宮島はほぼ分布の北限域に当たるそうです。このように分布の限界域に生息する個体はその種にとっての好適地を探して生育するものなのだそうです。宮島の周辺では岩国市や大竹市、やや離れて安芸津町(安芸ノ島の故郷)に点在しているそうです。それぞれコバンモチにとって暮らしやすい環境だったのでしょう。

 before  after

 山道から地図を頼りに斜面を登ったり、または、下ったり。下草に足を滑らせながら、ネットを担いで木のもとまでたどり着きます。
 見るとよほどこの木が美味いのか、狙い撃ちのように食べられています。比較的若い木では食害により枯死しかけているものもありました。
 宮島のシカはもともとこの島に自生していたものだそうで、この島の森の中から食物を採取していました。
 豊原教授が観察してきたここ20年、宮島のコバンモチの植生に大きな変化はないそうですが、シカによる食害は急激に増えたそうです。どうやらシカの嗜好が変わったのではないかとのこと。宮島のシカの餌についての問題は以前このサイトでも紹介しましたが(H14.7.14参照)、それとこの食害との間に何らかの因果関係があるのでしょうか。

 ロール状のネットを裁断

 幹の太さはまちまちで、直径10pくらいのものから60pくらいのものまで。幹のサイズから若干余裕をもたせてネットを裁断します。

 急斜面での作業

 株立ちになっている幹にはまとめて巻くので、長さ3m以上のネットが必要です。

 凝りすぎ?

 1本終わると次の株を探して斜面をよじ登ります。そして見つけると紐で幹の大きさを測り、それを持ってネットのあるところまで降りて、裁断したネットを持ってまた木のところまでよじ登ります。そしてまた次の株を探します。
 これを何回か繰り返すうちに、うっすらと汗をかくほどまでに暖まりました。

 視界が開けた!

 コバンモチを探しながらずいぶん登ってきました。すると急に視界が開け、眼下には大野瀬戸が広がっています。ちょうどいい具合に大きな岩があり、その上に立つと対岸の経小屋山(597m)がきれいに望めました。一息つくにはもってこいの場所です。

 明るい葉

 コバンモチの木を上から眺めると、テカテカと陽光に照り映えて明るく輝いています。よく目立ちます。

 小判のような形

 この葉が光を反射してしまうので、林床は薄暗いのです。
 
 昼食をはさんで予定していた85本のうちのほとんどにネットを巻くことができました。作業の途中で新たに発見した株もあったので、用意したネットが足りなくなり、ここで作業終了です。時計を見ると2時を回っていました。
 しかし、昨年5月に行った砲台跡地の整備のときもそうでしたが、皆さんホント元気ですわ。平均年齢はかなり高いのに。しかも手際がいい。指示待ちでぼーっとしているような人はまったくいませんでした。やっぱりあの年代は鍛え方が違うのでしょう。心底敬服しました。
 


 
 作業に熱中しているときには気がつきませんでしたが、帰る道々、ヒノキバヤドリギがあちこちに寄生しているのが目につきました。

 ヒノキバヤドリギ

 周囲をぐるっと見回しただけで、アセビ、サカキ、ヒサカキ、ツバキ、クロキ、ソヨゴと6種類の木にくっついていました。
 ヤドリギが落葉広葉樹に寄生するのに対し、ヒノキバヤドリギはツバキ科やモチノキ科などの常緑樹に寄生するのだそうです。