車山 〜やっぱり高原は涼しかった(後編)〜


 

 (後編)

【長野県 諏訪市 令和7年8月24日(日)】
 
 期待どおり、高原はやっぱり涼しかった。
 一時の涼を求めた車山での野山歩き。後編です。(前編はこちら
 

 Kashmir3D

 午前9時15分に車山肩の駐車場をスタート。車山の山頂を目指してのんびり登り、10時20分、山頂に到着しました。ここから反対側に下り、車山乗越を越えて車山湿原を歩き、元の車山肩に戻ってきます。(「車山」が多いな)

 リフト乗り場

 山頂から白樺湖方面に少し下るとリフト乗り場がありました。この時間、散策目的の人たちがどんどん上がってきていました。

 北方向の眺望

 坂を下りながら左前(北方向)を見ると、なだらかな樺の丘を見下ろせました。その奥のえぐれたような低地は山彦谷。その名もエコーバレーというスキー場が有名です。更に奥の少し薄い山影は、右が虫倉山、峠を挟んで左が高松山だそうです。



 登山道はリフトに並行して下っています。その遥か下には白樺湖が見えていますね。白い夏雲が目の高さにあるようで、なんだか空を飛んでいる気分です。

 白樺湖

 白樺湖をアップで。湖畔にはホテルをはじめレジャー施設がたくさんあります。関東に住んでいる人はあのCMソングでお馴染みですよね。ここに行ったことがない人でも口ずさんだことはあるのでは。


 

 リフトの方からは子供の歓声が聞こえてきます。夏休みも終盤。車山に来たこともリフトに乗ったこともいい思い出になるでしょうね。



 滑りやすい階段の道を一歩一歩下っていきます。正面の丘が樺の丘。

 ウスユキソウ

 階段をただ下るのなら苦行ですが、こんな可愛い花が出迎えてくれるので楽しいです。これはウスユキソウ。中心に寄り集まった頭花が開花間近です。白い花弁のように見えるのは苞葉ですね。

 カワラナデシコ

  カワラナデシコ。まるで切絵細工のようです。何故に花弁が千々に裂ける必要があったのか。裂けた花弁を持ったことで生き延びてこられたのか。植物の形態って本当に不思議です。

 ナンテンハギ

 蝶形花はマメ科の特徴。このナンテンハギもその仲間です。茎の先に小葉を2個付けていて、一応偶数羽状複葉とされています。小葉がナンテンの葉に似ているということで付けられた名前のようですが、こんな葉は他にもたくさんありますよね。別名のフタバハギの方がしっくりきます。



 階段が終わると、なだらかに下る砂利道になりました。もう少し道なりに進みます。



 ススキは株立ちになります。この点がよく似るオギと異なるところ。標高2千m近い高原ではもう秋の気配が漂っています。その背景には雲に頂きを隠された蓼科山が。今から10年ほど前に登ったことがあります(こちら)。 

 分岐

 しばらく下ると分岐が現れました。ここを左折し、車山乗越に向かいます。「乗越」は「のっこし」と読み、峠と同義です。

 樺の丘

 左折後は右手に樺の丘を見ながら歩いていきます。

 コウリンカ

 yamanekoの好きな花、コウリンカ。夏の高原を彩る花です。ただちょっと花期が過ぎ、枯れ始めている模様。生き生きと咲いている状態でも似たような感じなんですが。



 正面の地平線(?)が車山乗越。あそこを越えていきます。それにしてもここ、 富良野か?

 車山乗越

 10時50分、車山乗越までやってきました。ここを右に折れると樺の丘。yamanekoは直進して車山湿原に下っていきます。

 ウメバチソウ

 小休止の足元で咲いていたウメバチソウ。膝をついて花冠の中をじっくり観察しました。
 長い髭のようなものは仮雄しべ。先端に黄色い腺体(蜜など分泌する器官)が付いています。中央に柏餅のようなものが丸く並んでいますね。これは雄しべの葯。5個の雄しべは今は真ん中の雌しべを守るように寄り添っていますが、日に1個ずつ、5日かけて外側に向かって開いていきます。

 Y字分岐

 再スタートしてほどなく、Y字分岐が現れました。ここを右に辿ると、正面の蝶々深山に至ります。yamanekoは左の木道に入り、湿原の縁を歩いていきます。

 車山湿原

 湿原にはササが茂っていました。これではある程度丈の高い植物でなければ目に留まりません。



 左手を見上げると車山のレーダー観測所が見えました。冬場はなかなか厳しい環境でしょうね。ただ、普段は無人で、長野地方気象台から遠隔操作をしているそうです。

 コバイケイソウ

 湿原のあちこちに枯れたコバイケイソウが屹立していました。花の時期は1か月ほど前です。この湿原に限らず、大規模な花畑になる年とほとんど姿が見られない年があり、かといって表年・裏年といった特定の周期性があるわけでもないそうです。不思議ですが、どうやらこれはその年の気候、特に遅霜の影響によろところ大のようです。

 ススキ

 ススキが開花しています。開花と言っても花弁があるわけではないので地味なものです。黄色の葯がぶら下がっているのが見えますね。花粉を風に飛ばしているところです。

 車山肩

 車山肩を背中側、いや裏側から見たところ。これから丘を上ってあそこに向かいます。

 コバイケイソウ

 黒褐色の刮ハになったコバイケイソウ。それぞれの果実の下部が裂けて、そこから種子を散布する構造です。それにしても純白の花とはギャップが大きすぎます。

 鷲ヶ峰

 蝶々深山の左すそ野を巻くように谷が延びていて、そこを湿原の水が流れ下っていきます。その奥にはポッコリとした鷲ヶ峰の姿が望めました。4年前に登った山です(こちら)。そことの間には八島ヶ原湿原が広がっていますが、ここからは見えていません。八島ヶ原湿原はここ車山湿原より140mほど低いところにあるのです。

 カワラナデシコ

 何度見ても写真を撮りたくなるカワラナデシコ。秋の七草のうちの一つです。
 万葉集にある山上憶良の詠んだ歌「萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 姫部志(をみなへし) また藤袴 朝貌の花」が元で、現代の呼び名では、ハギ、ススキ、クズ、カワラナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウになります。秋の野山を彩る草花の代表ということでしょうね。歌人らしいセレクトだと思います。一方、春の方は特段元歌のようなものははく、小正月の風習「七種粥」の具材から。つまり民の風習からきているということ。そのためか春の方は「七種」(ななくさ)と表し、秋の方は「秋の七草」と呼ぶのだそうです。



 湿原を離れ丘を登っていきます。

 蝶々深山

 振り返ると穏やかな姿の蝶々深山が。灌木の類が全くと言っていいほどないですが、春先に山焼きでもしているのでしょうか。

 ハクサンフウロ

 木道沿いは日が当たるのでこういう花も見られます。このハクサンフウロ、花弁の淡いグラデーションが何とも言えず美しいです。



 この丘が車山肩。その向こう側を少し下ったところに駐車場があります。見えている建物は宿泊施設だそう。ちょっとシャレオツなカフェが併設されていて、表に回ってみたら行列ができていました。



 11時10分、車山肩に戻ってきました。この大きな看板には霧ヶ峰湿原植物群落についての解説がしてありました。本体といい土台といい相当頑丈な造りです。



 丘の上はこんなに広々としています。駐車場に戻る前に周辺を散策。それにしても向いている方向で天気の印象がまるで違いますね。上の2つの写真は同じ場所で撮ったもの。車山方向を見ると暗い雲が頭上を覆っていますが、その反対を向くと爽やかな夏空です。

 シロヨメナ

 多摩丘陵でもよく見かけるシロヨメナ。代表的な野菊です。

 ツリガネニンジン

 ツリガネニンジンは野山の明るく開けた場所を好みます。訪れるハナバチが止まりやすいよう、花筒の縁がめくれあがっていますね。そこを足場にして体を固定し、蜜を吸うのです。

 マツムシソウ

 このマツムシソウは、中央の筒状花が咲き始めていますね。

 シラヤマギク

 こちらもポピュラーな野菊、シラヤマギクです。茎が赤味を帯びるのが特徴の一つ。

 ワレモコウ

 ワレモコウ。これがバラの仲間だなんて、ちょっと想像できませんね。



 さて、高原の花々を楽しんだところで駐車場に戻りましょう。おお、車山の上空も晴れているではないですか。

 

 その前に売店でソフトクリームを調達。高原の風に吹かれながら美味しくいただきました。

 駐車場

 11時30分、駐車場に戻ってきました。有料駐車場の方も満車になっていました。特段急いだわけではないのですが、2時間15分で戻ってきたことになります。まあ一人だと黙々と歩いてしまいがちですからね。
 ストレッチをして、車山に別れの挨拶をして、帰途に付きました。そして、この高原の涼風を持ち帰るべく、山を下るまで窓を開けて走りました。
 
 帰りの中央道、この時間なのでさすがに大渋滞には巻き込まれませんでした。3時半に予約していた散髪にも余裕で間に合いました。