鷲ヶ峰 〜高原の絶景展望台(前編)〜


 

 (前編)

【長野県 下諏訪町 令和3年8月28日(土)】
 
 8月も下旬に至り、巷にはまた猛暑がぶり返してきました。都心はもちろん関東平野のどこに行ってもこの暑さからは逃れられないでしょう。そこで、今回は長野県の霧ヶ峰で野山歩きをすることにしました。そこまで行けば高原の涼やかな風が迎えてくれるでしょうか。(期待大)
 
                       
 
 午前6時、ドリーム号Vで出発。今回は妻が同行しています。
 圏央道から八王子JCTで中央道に入り、後はひたすら西進。甲府盆地に入ると、朝靄も消え去り素晴らしい晴天になってきました。

 甲斐駒ヶ岳

 途中の八ヶ岳PAで休憩。見えているのは八ヶ岳ではなく、南アルプスです。正面の三角形の峰は甲斐駒ヶ岳。風格がありますね。武田信玄みたいです。

 八島湿原駐車場

 中央道を諏訪ICで下りて、上諏訪の街をしばらく走った後、霧ヶ峰に向けて急な坂道を上がっていきました。
 そして9時30分、ビジターセンター前にある駐車場に到着。yamaneko達のわずか2台後の車で満車になるという、ギリギリセーフのタイミングでした。満車の場合は、路肩に連なって順番を待つことになります。
 正面に見えているのは鷲ヶ峰、の前衛。山頂は少し奥にあって、ここからはその姿を拝むことはできません。

 Kashmir3D

 今日のルートは、まず駐車場の正面に見えていた鷲ヶ峰(1798m)に登り、眺望を楽しんだ後、元来た道を下山。その足で八島ヶ原湿原に向かって、たっぷり植物を観察しようというものです。スタート地点と鷲ヶ峰山頂との標高差は150mほどなので、荒天時でなければお手軽なハイキングといった感覚です。
 ちなみに、霧ヶ峰には「霧ヶ峰」というピークはなく、鷲ヶ峰を含めた八島ヶ原湿原を取り巻く高原状のエリア一帯をいいます。最高峰は車山(1925m)になります。



 まずはビジターセンターの前で準備体操。
 準備が整ったら、目の前のトンネルをくぐって車道の向こう側に出て、その先にある湿原の方に進んでいきます。
 9時50分、スタートです。



 トンネルをくぐってほどなく、眼前に広場が現れました。ベンチや案内板も設置されています。

 八島ヶ原湿原

 広場の先にはこの広々とした空間が。標高1600mに広がる八島ヶ原湿原です。湿原の大きさは概ね1q四方で、奥には車山や蝶々深山、男女倉越など、湿原を取り囲む山々が並んでいるのが見えました(蓼科山は北八ヶ岳連山に属し、遠くにある山です。)。日常生活で1q先まで何もないといった場所に立つことはそうはないのです。(あ、海…)

 ナンブアザミ

 湿原散策は午後にするとして、まずは鷲ヶ峰へ。さっきの広場から登山道が延びています。

 ヤマハハコ

 ヤマハハコでしょうか。近縁のホソバノヤマハハコとの区別はもっぱら葉の幅の細さですが、ヤマハハコの葉の幅も6oから15oと十分細いです(ホソバノヤマハハコは2oから6o)。両者の分布は日本列島を二分する形で比較的明確に分かれているとのこと。福井県、愛知県より西がホソバノヤマハハコ、それより東がヤマハハコなのだそうです。もちろん境界域では混在していたりするでしょうね。

 ツリガネニンジン

 ツリガネニンジン。名前のとおり釣り鐘型の花を付けています。花にはこのツリガネニンジンのように下に向いて咲くものの他、ヒヨドリバナのように上に向いて咲くもの、キキョウのように横に向いて咲くものと様々です。この違いはいったい何でしょうか。花冠に雨が入るのが嫌な花は下を向いて咲くのでしょうか。虫の訪問には若干不利なような気もしますが。

 ハンゴンソウ

 次々に花が出てくるのでなかなか先に進めません。
 これはキオンと思って写真を撮りましたが、帰ってからよく見ると葉が3裂していることが分かり、ハンゴンソウではないかということに。



 少し登ってきました。木立の切れ間から八島ヶ原湿原が見えました。気持ちのよい景色です。

 マツムシソウ

 マツムシソウにヒョウモンチョウの仲間が来ていました。秋の訪れを感じますね。

 シラヤマギク

 これはシラヤマギクか。秋のキクの定番ですね。キクの仲間は種子植物の中で最も大きなグループだそうです。確かに、タンポポやヒマワリ、セイタカアワダチソウにエーデルワイス、さっき見かけたナンブアザミ、ヤマハハコ、ハンゴンソウもみんなキク科です。

 タチフウロ

 タチフウロが咲いていました。少し盛りは過ぎているでしょうか。
 ところで、フウロ(風露)とはなんぞやと思い調べてみると、読んで自のごとく「涼しい風と梅雨」とのこと(広辞苑)。もう一つ「ゲンノショウコの誤称」ともあり、こっちの方に関係するネーミングなのかもしれません。なにしろタチフウロをはじめハクサンフウロやイブキフウロなど他のフウロの名を持つものも、ゲンノショウコと同科同属で花の姿もよく似ているのですから。タチフウロは「花茎が立ち上がったゲンノショウコに似た花」ということでしょうか。なぜゲンノショウコを風露と呼んだのかという根本的な疑問は残ったままですが。

 ワレモコウ

 ワレモコウです。こう見えてもバラの仲間。頭花をほぐすと寄り集まっていた小さな花がバラバラ(!)に。



 足下に大福みたいなキノコを見つけました。なんだか柔らかそうです。何でしょうか。(難しいので調べる気なし。)



 登り始めて25分。茂みの中に何やら石碑が現れました。唐突感ありまくりです。正面に大きな字で「大元尊」と彫られていました。どうやら最初の神という意味だそうです。

 カワラナデシコ

 カワラナデシコの花。秋の七草のメンバーです。花弁が細かく裂けていますが、これは傷んでいるわけではなく、正常な姿。繊細な感じに映ります。名前にはカワラ(河原)とありますが、あまり河原で見た記憶はないですね。もっぱら野原とかで見かけるのでノハラナデシコの方がよいのでは。

 小ピーク

 樹林を抜けて小さなピーク(というより稜線上の出っぱり)に出ました。少し開けた場所になっています。湿原も望めました。

 西方向

 そしてこちらが湿原とは反対の方角の眺望。(写真にマウスを乗せると山名表示)
 北西(写真右端)から南西(同左端)にかけての眺めになります。絶景ですね。北アルプス(飛騨山脈)の概ね南半分といった範囲になります。ただこのうち御嶽山は、乗鞍からの延長線上にはあるものの、北アルプスには含めないのが一般的なのだそうです。独立した山塊として位置づけられているんですね。

 穂高連峰

 その穂高連峰をアップで。日本で3番目に高い主峰の奥穂高岳(3190m)が見えます。写真右端には槍ヶ岳の穂先がちょこんと。

 乗鞍連峰

 こちらは乗鞍連峰。穂高連峰に穂高岳というピークがないように、乗鞍連峰にも乗鞍岳というピークはありません。主峰は剣ヶ峰(3026m)で、かなり上まで車道が通っているので、穂高とちがって比較的簡単に頂上に至ることができます。

 御嶽山

 そしてこちらが木曽の御嶽山(3067m)。どっしりとした山容ですね。平成26年の水蒸気噴火は記憶に新しいところです。

 諏訪盆地

 その御嶽山から視線を下げると諏訪盆地が見えました。この辺りはフォッサマグナの西の縁にあたり、この盆地は大規模な地殻変動によってできた地形なのだそうです。

 ウド

 付近を見渡すと…、これはウドですね。もう実ができつつあります。

 マルバハギ

 マルバハギ。今日2つ目の秋の七草です。万葉集に詠まれた花で最も多いのがハギなのだそうです。当時から秋を代表する花だったんですね。なにしろハギ(萩)は草かんむりに秋と書きますから。

 1つ目のピーク

 鷲ヶ峰の山頂までのルート上には2つのピーク(今居るところは別として)があり、これらを越えていくことになります。目の前に見えているのはその1つ目のピークです。途中までは陽射しを遮るものはないようですね。あそこまで上がってしまうとあとは多少のアップダウンはあるものの山頂まで大きな標高差はありません。

 ツクバトリカブト

 さて、その最初のピークに向けて歩き始めます。
 道の脇に姿勢良く立っていたのはツクバトリカブト。ヤマトリカブトの亜種とのことで、猛毒で知られています。植物の中には食べられることによって分布の拡大を図ろうとするものも多いですが、毒を持つ、すなわち食べられないようにするとは、いったいどういう戦略なのでしょうか。

 南方向

 少し高度を上げて振り返ると南側の展望が開けていました。中央アルプス(木曽山脈)の木曽駒ヶ岳や南アルプス(赤石山脈)の仙丈ヶ岳などが見えています。(写真にマウスを乗せると山名表示)
 眼下にはドリーム号Vが待っている駐車場が見えています。

 木曽駒ヶ岳

 木曽駒ヶ岳をアップで。写真では若干分かりにくいですが、特徴的な宝剣岳の尖峰や千畳敷カールなども見て取ることができました。

 仙丈ヶ岳

 こちらは仙丈ヶ岳。たおやかな稜線の広がりが女性的なイメージを彷彿とさせるのか、「南アルプスの女王」と呼ばれたりしています。



 足下の悪い稜線の道を登っていきます。陽射しを遮るものはありませんが、涼風が気温の上昇を抑えてくれていて、快適です。

 ヤマハッカ

 これはヤマハッカですね。漢字では「山薄荷」と書き、薄荷とはミントのことです。ただ、本家のハッカには涼やかな香気がありますが、ヤマハッカではほとんど感じられません。



 また少し高度が上がって眺めも少し良くなりました。車山の向こうにある蓼科山の山体もだいぶん見えてきました。

 南アルプス

 同様に南アルプスの仙丈ヶ岳や甲斐駒ヶ岳も。その奥にある北岳は日本で2番目に高い山です。3位、2位ときて、あと富士山が望めればベスト3コンプリートです。

 タチフウロ

 これもタチフウロでしょう。ササ藪から頭一つ出て陽を浴びていますね。

 カワラナデシコ

 カワラナデシコ。今が盛りの時期ですね。よく見ると、花弁の裂け方は一様ではなく、ちょうどセンダングサの実のように、深く裂けたものの先端がそれぞれ浅く裂けているようです。

 ???

 この植物は…、何だろう。これからもっと伸びるところのようですが。センブリ?

 オトギリソウ

 山野から亜高山に生えるオトギリソウ。薬効のある植物で、葉を油に浸したものを切り傷や神経痛の治療薬として用いたのだそうです。



 最初のピークに近づきました。ここから先は若干木立があるようです。

 ツクバトリカブト

 こちらは弧状にしな垂れたツクバトリカブト。ビビッドな色合いです。吹き上げる涼風に揺れていました。



 振り返ると更に眺めが良くなり、蓼科山の両肩や、それにつながる北八ヶ岳の稜線も望めるようになりました。この辺りで登り始めから120mほど標高を上げています。
 
 さて、ここまででも十分に素晴らしい眺望なのですが、まだ北側の眺めを得ていません。最初のピークを越えればその方向の眺望も得られるでしょう。続きは後編で