北本自然観察公園 〜荒川中流の春・3月〜


 

【埼玉県 北本市 平成23年3月19日(土)】
 
 「三寒四温」とはよく言ったもので、真冬並みの冷え込みの日が続いたかと思えば、ポカポカ陽気で汗ばんだりする日もあったりする今日この頃。そうやって少しずつ春の足音が近づいてきているようです。気がつけばもう彼岸の入り。そろそろあちこちから桜の便りも届き始めています。
 3月の北本自然観察公園の様子はどうでしょうか。春は来てるのか?
 
 今回は公共交通機関を使ってやってきました。湘南新宿ラインを使えば北本駅まで乗り換えなしでいけますが、運休中なので、赤羽で埼京線から高崎線に乗り換えます。湘南新宿ラインは、大宮-(東北本線)-田端-(山手貨物線)-大崎-(東海道線)-大船の系統路線のことで、さらに大宮から先の高崎線、宇都宮線へ、そして大船から先の東海道線、横須賀線へと広域に直通運転をしているので、これらの路線のどこかでダイヤの乱れがあると、湘南新宿ライン全線をストップせざるを得ないということがしばしばあるのです。首都圏では湘南新宿ラインは止まって当たり前といった共通認識もあるほどです(いいすぎか)。
 北本駅からはバスで15分。「自然観察公園前」というバス停で下りればすぐそこなので便利です。都心から乗り換えを含めて1時間半もあれば十分でしょうか。

 正面入口

 バス停から20mで自然観察公園の正面入口に。ここからふれあい橋を渡って入っていきます。

 定点写真(北側の谷地)

 ふれあい橋から北側に延びる谷地の定点写真です。うーん、ぱっと見、先月に比べて大きな変化はありませんが、正面の耕耘地が若干広がり、その手前の葦原のアシが刈られているようです。これも春を迎える準備でしょうか。
 写真奥の左手にはこの自然観察公園のシンボルともいえる樹齢約200年のエドヒガンザクラ(市指定天然記念物)の大木があるそうです。咲き始めると多くの人で賑わうのだそうですが、開花までにはまだちょっと間があるようです。

 自然学習センター

 今日も穏やかな天気です。「四温」の方ですね。

 館内

 この三連休は「サクラの日」と銘打って、クイズや工作、観察会などサクラにちなんだいろんなイベントが開催されているようです。

 

 これはサクラには関係ありませんが、園内で拾われた羽根が展示されていました。一番大きいのはトビのもの。下段右から2つ目の縞々模様はフクロウだそうです。

 八つ橋

 定例観察会は2時から。ちょっと時間があるので、園内を散策してみることにしました。八つ橋を渡って南側の雑木林の縁に行ってみましょう。

 コガモ

 橋の上からは水鳥たちの姿がよく見えます。コガモのつがいがひっきりなしに水面に顔を突っ込んでいました。水が温むと水棲昆虫なども活発に動き始めるので、それを食べているのでしょう。

 定点写真(高尾の池)

 まだ木々は茶色で、芽吹きの様子は見られませんね。来月には黄緑色が広がっていると思います。写真では分かりにくいですが、水面にはマガモとコガモが浮かんでいました。もうそろそろ旅立ちの準備をしなければならないのでは。

 里山

 この谷地を奥まで行くと北入口に至ります。里山風景が広がっていますね。水辺あり、疎林あり、耕耘地ありで、里山の要素がすべて揃っています。荒川が氾濫したときには、昔はこの谷地の奥まで水に浸かったのでしょうね。それで運ばれてきた種子などで植生が拡大していったり、土壌が肥沃になって生物相が多様になったりしていったのだと思います。

 アオジ

 このアオジも冬鳥。もうじき北の山の方に渡って行くでしょう。来年もまた戻って来いよ。

 春の定番

 毎年このオオイヌノフグリを見ると、春が来たなぁと感じます。この花はローアングルで見るのがいいですね。

 カントウタンポポ

 春の花、タンポポです。日本にはなんと20種もあるのだそうで、これはカントウタンポポです。近年、市街地でよく見かけるのは外来種のセイヨウタンポポで、花をひっくり返して総苞片を見てみるとすぐに見分けが付きます。カントウタンポポは写真のように総苞片が直立していますが、セイヨウタンポポは外側の総苞片が反り返っているのです。外来種進出の分かりやすい指標ですね。

 タネツケバナ

 種籾を水に漬け、苗代の準備をする頃に咲く花というのが名の由来のタネツケバナ。でも、近頃は「苗代」と言っても何のことか分からない人も多いでしょうね。「福島の湖だっけ」とか言われたりして。アブラナ科の仲間の特徴として、花弁は4個。花の上に突き出ている棒のようなものは果実です。

 観察会スタート

 観察会の開始時刻が近づいたので、自然学習センターに戻ってきました。今回の参加者は10人弱です。テーマはサクラの日にちなんで「サクラ色の花を探そう」です。まだサクラ本体は咲いていないからということで設定が若干こじつけ気味ですが、そんなことは気にしてはいけません。(笑)
 まずはサクラについての簡単なレクチャーから。サクラはバラ科に属していて、バラ科には世界で約3千もの種があるとのこと。イチゴやビワなどもバラ科です。そのバラ科の中にサクラ亜科というグループがあり、これにはサクラのほかウメやアンズ、モモなどが属しています。姿かたちが何となくサクラの親戚といった仲間ですよね。そしてその中にさらにサクラ属サクラ亜属というのがあり、これがいわゆる「サクラ」と聞いてイメージするあのサクラたちです。
 園内には5種類ののサクラがあるとのことで、先ほどのエドヒガンザクラと、あとソメイヨシノ、ヤマザクラ、ウワミズザクラ、イヌザクラ。ソメイヨシノは人工的に作り上げた種ですが、それ以外は野生種です。一番早く咲くのはエドヒガンザクラ。昨年は3月27日が満開だったそうです。約1週間遅れてソメイヨシノ。さらに少し遅れてヤマザクラです。ヤマザクラは花と葉が同時に開くので、ソメイヨシノとは違って満開でもサクラ色一色といった風景にはなりません。でも、これはこれで情緒がありますね。昔、サクラを詠んだ歌のほとんどはこのヤマザクラのことだったようです(ソメイヨシノが作られたのは江戸時代のこと。)。ウワミズザクラとイヌザクラは5月になってから開花。姿もいわゆるサクラのものとは違って、試験管ブラシのような形に花が付きます。(ウワミズザクラはこちら
 
 さて、外に出てサクラ色の花を探してみましょう。サクラには薄ピンク(ヤマザクラなど)、紅(カンヒザクラなど)、白(カスミザクラなど)、黄緑(イヌザクラなど)の色のものがあるとのことです。

 まずはいきなりレアなところで黄緑色の花を。玄関前のクスノキの根本に植栽されているシュンランです。右の写真は去年咲いた株の果実ですね。

 

 次に見つけたサクラ色は紅色の花。似ているけれどよく見ると違うこの花は…。

 ヒメオドリコソウ  ホトケノザ

 シソ科の花2種。ヒメオドリコソウもホトケノザも背が低く、野辺の日当たりのいいところを選んで群生しています。花はシソ科の特徴の唇形花。茎を触ってみると円柱形ではなく四角柱の形をしています。これもシソ科の特徴です。まだ虫もあまり活動していないこの時期、この花を訪れるのは誰なんでしょうか。アリか?

 北側の丘

 自然学習センターの北側にある丘の上にやって来ました。ここは草原になっていて、東側にはイチョウが林立しています。

 ノビル

 ノビルは野生のネギ。まだ伸び始めたばかりで、アサツキより細く、噛んでみると柔らかい辛みがありました。上品な風味です。

 ウグイスカグラ

 3つ目のサクラ色、薄ピンク色の花はウグイスカグラです。林の縁で咲いていました。この花も早春に咲く花で、夏には甘くジューシーな実を付けます。

 切り株

 足下には所々に切り株のようなものが。これはススキの切り株で、株分けして植えているのだそうです。この場所を元あった姿に戻そうという取り組みの一環だそうで、そうすることによって生態系も本来の姿に戻ることを期待しているのだそうです。この自然観察公園ができた20年前には見られたノウサギが、近年ほとんど見られなくなっていたそうですが、最近になって糞が確認されるようになったことのことです。

 

 で、これがノウサギの糞。カチカチに完全に乾燥しているので汚くありません。割ってみると食物繊維のみでした。

 スイバ

 スイバも少しずつ葉を伸ばしているようです。一枚ちぎって噛んでみると、ほのかに酸っぱく、子供の頃の野遊びの光景がよみがえりました。味覚とか嗅覚って、遠い昔の思いがけない記憶を呼び起こしますよね。
 このスイバの葉を好んで食べる虫がコガタルリハムシ。これまで特に意識したことのない虫でしたが、小さいながら青い金属光沢のきれいな姿を虫でした。この時期、虫食いの葉っぱをよく見ると見つけることができるかもしれません。

 野桑

 クワの落ち葉にくるまれた繭がありました。「くわこ」とよばれる野生のカイコのものだそうです。写真のとおりの繭なので、実用には向かないとのことです。

 クワ

 そして目の前には大きなクワの木が。高さは10mくらいでしょうか。養蚕に使うクワ畑のものは作業しやすいように枝が刈り込まれていますが、自由に伸びるとこんな形になるんですね。

 コスミレ

 コナラの根元で咲いていたコスミレ。名前に反して結構大きく育つスミレです。この株が今年初めて咲いたものだそうです。

 ヒサカキ

 最後のサクラ色は白い花。ヒサカキです。まだほとんどが蕾ですが、ほんの少しだけ開いているものがありました。それでもあの特有の香りを辺りに振りまいていました。でも、白というよりこれも黄緑っぽいですよね(シロバナタンポポも見かけたので、そっちの方が良かったか。)。

 スイカズラ

 冬を忍んで春を迎えたスイカズラ。漢字で書くと「忍冬」です。
 
 こんな感じでのんびりと自然観察をして1時間が経過しました。今日もいろんな自然に出会うことができました。楽しい時間はあっという間です。さて、自然学習センターに戻ってから解散です。今日の総移動距離は約500mでした。

 

 解散後、バス停に向かってふれあい橋のところまで歩いて行くと、カメラの砲列が。ははん、みんなカワセミを狙っているようです。なのでyamanekoもパチリ(ん? カメラのシャッター音って、なぜ昔からパチリなんでしょうか。そんな音のするカメラ見たこともないですが。)。
 
 

  荒川と北本自然観察公園