木曽駒ヶ岳 〜4年ぶりのリベンジ登山(前編)〜


 

 (前編)

【長野県 駒ヶ根市・木曽町 平成29年8月20日(日)】
 
 巷ではお盆も終わり、そろそろ夏休みも終盤に。yamanekoも後れを取らないよう夏休みを取って山に行くことにしました。目的地は中央アルプスの木曽駒ヶ岳。ここは4年前に訪れるも悪天候で登頂を断念したところです。ただ、「山は逃げない」とはよく言ったもので、今回のリベンジをちゃんと待っていてくれました。(前回の様子
 
                       
 
 前日の8月19日は早朝から出発。中央道を西進し、山梨県を横断して、長野県に入りました。この先、中央道は諏訪湖畔で方向を南に変え、天竜川が開いた伊那谷を通ります。本来なら延々中央道を走って木曽駒ヶ岳の東麓の駒ヶ根ICで高速道路を下りるところですが、今回は、諏訪湖畔から長野自動車道に入り、10kmほど先の塩尻ICで下りました。そして、伊那谷と中央アルプスを挟んで西側に並行する木曽谷。そこを通る中山道(国道19号線)を南下します。かねてから訪れてみたかった奈良井宿や福島宿など木曽路を観光するためです。午前10時には現地に到着したので、たっぷり時間をかけて散策。天気も良く、楽しい思い出ができました。
 そして、夕方に中央アルプスをトンネルで抜けて、東側の伊那市へ。そこからあらためて中央道に乗って一人区間だけ走り、駒ヶ根市に入りました。

 木曽駒ヶ岳

 一夜明けて、木曽駒ヶ岳登山当日。ホテルの窓のカーテンを引くと、朝日を正面から受けた木曽駒ヶ岳(正確にはその前面の宝剣岳)の姿が見えました。おおー。

 千畳敷カール

 アップにすると千畳敷カール(圏谷)の地形がはっきりと見てとれます。うーん、早くあそこに行きたい!
 手早く支度を済ませ、5時40分にホテルをチェックアウト。登山の起点になる菅の台の駐車場には5時50分に入りました。一般車はこれより先には入れないので、ここでバスに乗り換えるのですが、バス停には既に長蛇の列ができていました。収容1千台の駐車場もかなり埋まっています。
 ハイシーズンということもありバスは臨時便も含めて頻繁にやって来るのですが、いかんせん列が長いのでなかなか順番がやって来ません。結局乗車まで1時間待ちでした(じわじわ進んでいたので、それほどストレスはなし。)。yamaneko達が乗ったバスは6時50分の発車でした。

 しらび平

 標高850mの菅の台からロープウェイ駅のあるしらび平まで。標高差850mの細くくねった道ををバスで上がります。その間にお客さんを降ろし空になって帰ってくるバスと何台もすれ違いました
 標高1700mのしらび平に到着したのは7時25分。気温は18.5度と少し涼しいです。
 ロープウェイも臨時ダイヤになっていて、約10分間隔でのピストン運行。なので、ここでの待ち時間は25分ほどで済みました。


 Kashmir 3D

 7時50分、ロープウェイ発車。あっという間で千畳敷駅に到着しました。乗車時間は7分ほどでした。早朝、ホテルの窓からここを見て2時間半でこの地に立ったことになります。
 木曽駒ヶ岳の標高は2956mで、中央アルプスの最高峰。周辺の中岳、宝剣岳、木曽前岳、伊那前岳(いずれも2800m超)をひっくるめて「木曽駒ヶ岳」と言う場合もあるとのことです。今日はここからカールの中を歩き、最奥部から壁面を登って乗越浄土(のっこしじょうど)へ。そこからは広い稜線の道となり、中岳を経て、木曽駒ヶ岳の山頂に向かいます。復路は来た道を戻ります。

 「木曽駒コロッセオ」

 ロープウェイ駅を出るとこの風景。カールの壁面がコロッセオ(円形闘技場)のようで、圧倒的な迫力で迫ってきます。
 写真左側の尖峰が宝剣岳。その右手の最もくびれたところが乗越浄土で、あそこに登っていきます。ここからだとほぼ垂直の壁に見えますが…。

 スタート

 入念にストレッチをした後、8時10分、スタートしました。今日はいろんな花に出会えると思うので、密かにワクワクが止まりません。

 ヨツバシオガマ(実)

 さっそく珍しいものが。よく見ると丸っこいものはヨツバシオガマの実のようです。

 エゾシオガマ

 こちらはエゾシオガマ。これが開花の状態で、花は花茎に対してスクリューのようにねじれて付きます。ヨツバシオガマと同じハマウツボ科の植物です。

 信州駒ヶ岳神社

 山道に入る前に駒ヶ岳神社に参拝して、道中の安全を祈願しました。あと世界平和と。
 正面の尖峰はサギダルの頭。残雪期にサギが舞い降りるような形をした雪形が現れることが名の由来のようです。

 シナノオトギリ

 細かく分化しているオトギリソウの仲間。これはシナノオトギリだと思います。

 散策路

 ロープウェイで上がってきた人は、カール内を散策する際、二つのルートのいずれかに向かうことになります。一つは写真のルート。ほぼ標高を保ってカールの奥に続いています。もう一つは写真右手に比高30mほど下り、剣ヶ池というところまで下りたらカールの奥に向かって登っていくルート。この二つのルートは八丁坂分岐というところで出会います。つまり周回できるということです。八丁坂分岐から先は乗越浄土に向かって急な坂道が続いていきます。

 ミヤマリンドウ

 深い青色のミヤマリンドウ。湿ったところを好む花で、その姿から和装美人といった印象を受けます。

 ヨツバシオガマ

 カールの中程ではまだヨツバシオガマが花を付けていました。ヨツバとは4個の葉が十字対生に付いているからです。花序は結構華やかですね。

 ウサギギク

 初めて出会ったときから「何でこれがウサギなんだろう?」と疑問に思っていました。どうやら長い葉の形がウサギの耳を思い起こさせるからということのようです。写真では、大きな葉(オンタデか?)の下に見える細長い葉がそれです。かつてはキングルマ(金車)とも呼ばれていたようで、花の印象としてはこちらの方がしっくり来る気がします。



 少しずつ近づくカールの壁。ホントにあそこを登るのか?ここから見るとそんな風に感じます。この地形は氷河が長い歳月をかけて削り出したもの。約2万年前の氷期に作られたものだそうです。

 チングルマ

 チングルマの花畑。風が吹くと一斉に頭を揺らすので、見ていて可愛いです。これでもバラの仲間。

 サクライウズ

 なかなか種の同定が難しいトリカブトの仲間。これはサクライウズだそうです。ウズとは漢字では「烏頭」と書き、本来トリカブトの塊茎から作った漢方薬や毒のこと。トリカブトの仲間には、○○トリカブトといったもの以外に○○ウズという名前のものもよくあります。ちなみにサクライは人名だとか。

 クルマユリ

 高山の夏を彩るクルマユリ。yamanekoの好きな花です。

 タカネグンナイフウロ

 タカネグンナイフウロは茎や葉柄に細かい毛が密生しているのがよく目立ちます。「タカネ」は「高嶺」で高山に生えるという意。「グンナイ」は「郡内」で、おそらく山梨県の東部「郡内地方」に由来するものと思われます。

 シナノキンバイ

 高山の雪田などに生えるシナノキンバイ。雪田とは、雪解けの季節にも遅くまで雪が残る窪地など湿り気のあるところのことをいいます。「信濃金梅」。なんか日本酒の銘柄みたいですね。

 ミヤマアキノキリンソウ

 ミヤマアキノキリンソウはアキノキリンソウの高山型。頭花はこちらの方が大きいです。
 ところで高山型であるを示す接頭語(?)として、ミヤマ(深山)、タカネ(高嶺)、クモマ(雲間)といったものがあり、ミヤマ、タカネ、クモマの順でより高山であることを示しているようです(推測)。山と渓谷社刊の図鑑「高山に咲く花」では、ミヤマが付く植物は94種、タカネは63種、クモマは11種掲載されていました。




 正面に乗越浄土。ここからの標高差は200mほどです。あそこを越えるとどんな風景が広がっているのか。

 エゾシオガマ

 足元にはエゾシオガマの群落。



 進行方向左手の稜線です。写真右端が宝剣岳。左端のピークはサギダルの頭。この稜線を「サギダル尾根」と言うそうです。ここを縦走するルートもありますが、初級者の進入は強く戒められています。それにしても氷河は粗々しく削ったものです。

 イワツメクサ

 朝霧(昨夜の雨?)に濡れるイワツメクサ。花弁が10個あるように見えますが、深く2つに裂けた花弁が5個です。

 

 カールの中を見下ろした風景。麓から沸き立つ雲が顔を出しています。遠くには南アルプスの稜線が。雲間に見えるピークは塩見岳(3047m)です。ここより400mくらい高いはずですが、なんか低く見えますね。



 あと少しで八丁坂分岐。清々しい山歩きです。

 ミヤマキンポウゲ

 ミヤマキンポウゲです。金属光沢の花弁が特徴。八重咲きのもの(右の写真)を特にヤエミヤマキンポウゲというのだそうです。

 ホテル千畳敷

 カールの縁に建つロープウェイ駅。ホテル千畳敷と一体となっている建物です。前回はあそこに前泊しました。

 八丁坂分岐

 8時40分、八丁坂分岐に到着しました。ここから急登が始まります。スタートからここまで30分。ちょっと休憩。

 クロトウヒレン

 しばしの休憩の後、再スタート。
 これはクロトウヒレン。花は蕾の状態で、まさに黒いです。唐(異国の)飛廉(ヒレアザミ)という意味のようです。

 ミソガワソウ

 高山の河原などで見かけるミソガワソウ。初めて見たのは栂池高原でした。名前の由来は、木曽川の最上流部の味噌川流域に多かったからとも。地理的にはここからそんなに離れていない地域です。

 モミジカラマツ

 線香花火のようなモミジカラマツの花。「モミジ」は掌状に裂けた葉の形から。

 ハクサンイチゲ

 出た! 高山の花畑を彩る花のうち、yamaneko的に女王と思っているのが、このハクサンイチゲです。単に美しいというだけでなく、気品が感じられるんですよね。写真のものはやや盛りが過ぎつつある感じか。ここでの見頃は7月とのことです。

 サギダル尾根

 少しずつ斜度が大きくなり、息も上がってきました。でも、カールの中はまさに百花繚乱。たびたび足を止めて写真を撮るので、結果的にゆっくり登ることになり、体力温存にも役立ちました。ただ、写真を撮るときについ息を止めてしまいがちで、酸欠でクラクラしてくるので、細く息を吐きながらシャッターを押していました(結果手ブレ防止の効果も)。
 さあ、山登りはこれからが本番です。続きは中編で