金峰山 〜雲上のモニュメントへ(前編)〜


 

 (前編)

【山梨県 甲府市 平成25年6月23日(日)】
 
 6月後半、巷ではもうほとんど夏本番ですが、これが高山となると花の季節を迎える頃ということになります。この時期ちょっと高めの山に行くのが何よりの楽しみ。ただ梅雨のまっただ中なので、行くときには数日前から天気予報とにらめっこしてタイミングを見計らわなければなりません。そうやって出かけても山の上となるとこれまた不確定なんですよね。
 で、今回も天気予報を頻繁にチェックして、山梨県と長野県との県境に位置する金峰山に行くことにしました。なにしろこの山は標高が2599mとかなりの高山でありながら、なんと2360mの大弛峠まで車で行くことができるのです。ただ、そのアプローチの簡単さから気軽に来られる反面、標高に相応して自然は厳しいので、常に悪天候を想定した装備が必要になります。お気軽は禁物です。
 
                       
 
 午前5時前、首都高4号線の初台ランプから高速に上がり、中央道を山梨に向かってひたすら走ります。なぜこんなに早く出発するのかというと、現地での登山の基点となる大弛(おおだるみ)峠の駐車場のキャパ。約30台分あるようですが、早着しないとすぐに満車になるとのことだからです。
 
 甲府盆地に入り勝沼ICで一般道へ。牧丘町の道の駅で休憩し、ここから林道に入っていきます。なんとその距離約30q、標高差1800mと、かなりのLong and Winding Road です。幸いすべて舗装されていますが、道は細く、ステアリングがねじ切れそうなくらい急カーブの連続です。

 大弛峠

 そして午前7時30分、大弛峠に到着しました。なんと残り2台分というタイミングでした。それにしてもみんな何時頃到着していたんだ?
 駐車場はきれいに整備されていました。背景の空や雲の様子が、ここの標高がただならぬものであることを物語っていますよね。


Kashmir 3D

 今日のルートは、大弛峠から稜線を真西に辿るというシンプルなもの。途中、朝日岳(2579m)、鉄山(くろがねやま)(2531m)などのピークを超えていきます。

 スタート

 さて、準備を終えて、午前8時にスタートです。もう既にたくさんの人が出発した後のようです。

 木漏れ日の道、気持ちいいです。
 金峰山は太古、修験の地として開かれた山。室町時代には奈良吉野の金峰山寺から蔵王権現が分祀され、さらに栄えたのだそうです。車でぴゅーっと来られる現代とは違って、その頃はこの地に立つだけで命がけだったのでしょうね。

 森の中はこんな感じ。倒木が新しい命を支えています。yamanekoはこんな風景が大好きです。

 ミツバオウレン

 気温が低く花の季節にはまだちょっと間がある感じでしたが、ときおりこんな花が迎えてくれます。これはミツバオウレン。花冠の中心部にある黄色いのが花弁。その外側の白い花弁のようなものは萼片です。

 ナナカマド

 ナナカマドの葉はもう展開し終えていました。針葉樹の濃い緑色の中で、頭上を覆うナナカマドの明るい緑にほっとさせられます。

 時折、枯れた木立の向こうに深い山並みが臨めました。写真は南側の展望で、牧丘から大弛峠に至る長い林道が通っている谷。修験者はこの谷を遡ってきたのでしょうか。

 

 稜線の道には大きな石がゴロゴロ。足首がグキッとなりそうです。

 ウラジロモミ

 ウラジロモミの雌花を拾いました。大きさは2.5pほど。鮮やかな紅色ですね。

 ウラジロモミ

 これがウラジロモミの枝です。モミの葉は先端が針のように尖っていて触ると痛いですが、このウラジロモミは先端が丸まっていて触った感じは柔らかです。

 

 標高2000mを超える稜線だからか、木々の背丈はそれほど高くはありませんね。深い森のようなのに頭上には青空が開けている。なんか変な風景です。

 そしてゴツゴツした岩の急登。いろんな表情を次々に見せてくれる、そんな山道を登るのは楽しいです。

 朝日峠

 8時45分、朝日峠に到着しました。鞍部は少し広くなっていて、小石でケルンが積まれていました。ここは素通りです。

 コバイケイソウ

 峠からはまた上りになります。林床にはコバイケイソウの若葉が群落を作っていました。触ってみるとまだ柔らかかったです。辺りは鳥の声が聞こえるだけで、後は無音の世界。時折ぞくっとする瞬間もあったりします。

 カモノハシ?

 木の幹にこんなものが。折れた小枝に苔が密生したもので、なんかカモノハシのようにも見えますね。

 さらに傾斜が増してきました。ノッコノッコと登っていきます。

 9時20分、岩稜に出ました。木立がなくなって背中側(東側)の眺望が開けます。大きな岩の上に立って振り返ると、大弛峠を挟んで反対側にある国師ヶ岳や北奥千丈岳が臨めました。北奥千丈岳は秩父山塊の最高峰(2600m)です。

 岩峰

 北の方向には奇岩の峰が。風化浸食にさらされた花崗岩の峰です。遠吠えがこだまするオオカミ要塞のようです。

 

 ?  ハナゴケ

 ん? 苔むした岩の上に白っぽいものが。何かの花かと近づいてい見ると、何やらサンゴのような形状。なんとなく地衣類のようです。そうなるともうまったく分からないので、帰ってから調べることに。するとこれはハナゴケという地衣類でした。地衣類は「○○ゴケ」という名のものがほとんどですが、コケは植物、地衣類は菌類なのだそうです。

 朝日岳

 9時35分、朝日岳の山頂に到着しました。辺りは白い雲に覆われて視界は今ひとつです。

 朝日岳からはまた急な下りになります。向こうに霞んで見えるのは鉄山でしょうか。

 急傾斜の岩場をヨタヨタと下っていく妻。

 

 9時55分、鉄山との鞍部に下りてきました。

 コバイケイソウ

 食べたくなるくらいみずみずしいコバイケイソウの葉。でも有毒なので食べてはいけません。

 金峰山

 鉄山へ向かう稜線上でようやく金峰山が姿を現しました。夏空をバックに五丈岩がそそり立っているのが見えます。五丈岩は金峰山山頂部に屹立する巨大な岩のモニュメント。遠くからでもその姿を確認することができ、古代から信仰の対象だったのだそうです。数年前、瑞牆山から見上げた五丈岩。その大きさから何か遠近感がおかしくなったのを覚えています(そのときの写真)。
 さて、目的地が見えたことで急に元気が出てきました。もうひと頑張りすれば絶景を楽しめるはずです。(後編へ続く)