石ヶ谷峡 〜久々の広島自然観察会(後編)〜


 

  (後編)

【広島市 佐伯区 平成30年3月18日(日)】
 
 「石ヶ谷峡の春を楽しむ」をテーマに行われた広島自然観察会の3月定例観察会。久しぶりにお邪魔しています。後編です。(前編はこちら


 Kashmir 3D

 往路の半分くらいまで来ました。時刻は12時過ぎ。そろそろお腹もすいてきました。

 ほどなく少し開けたところに出ました。東屋とトイレがあります。ここで昼食です。

 アテツマンサク

 ああ、久しぶりに出会いました。アテツマンサクです。この花に初めて出会ったのは20年くらい前のこと。広島市東区の二ヶ城山の谷の中でした。これに限らず、自然観察を始めた頃に出会った植物にはなぜかいつまでも愛着があります。あの頃の自分を知ってくれているような気がするのです。

 昼食

 懐かしい仲間と野山で食す昼食は美味いです。それがたとえコンビニむすびであっても。通常のおむすびよりもやや大きめな山賊むすび(鮭、しそ風味昆布、梅おかか)と海賊むすび(海老マヨネーズ、しそ風味昆布、ツナマヨネーズ、辛子明太子)。あとゆで卵も。暖かいものがあればさらに良かったのですが、それでも楽しいひとときでした。

 野点

 観察会で食後にいつも抹茶を振る舞ってくれる飛田さん。ありがとうございます。「光の春、音の春」だけでない、「香りの春」です。美味しくいただき、体も少し暖まりました。

 ドングリ

 食後は周辺で観察を。リーダーがドングリを拾ってきました。ひょろっと根を伸ばしています。ドングリは落ちてからせいぜい2週間くらいしか生きていられないそうです。その間に根を伸ばして水を吸うことができたものだけが生き延びられる。その後の生存競争も厳しいものがあるのでしょうが、まずこの関門を突破しなければならないのです。

 ここでスタッフの六重部さんから出題。ドングリの根と芽の出方として正しいものはどれでしょうか。芽は先端から、根は殻斗側からという回答が結構多いそうですが、正解は芽も根も先端からです。

 キヨスミイトゴケ

 今度は木の枝からぶら下がる毛のようなものについて。これはキヨスミイトゴケです。これでもコケなんですね。そしてこれと同じものを探そうというミッションにみんながキョロキョロ。気づきの感度が高くなっているせいか、「あった!」、「ここにも!」すぐに見つけられました。

 海老フライ?

 一見小さな海老フライにも見えるこれはムササビが食べた後の松ぼっくり。ムササビにそんな意図はないのでしょうが、なかなかの造形です。

 シキミ

 再び歩き始めます。シキミの花が咲いていました。誰かが「あっ、シキミ」。そう、「悪しき実」がシキミの名の由来と考えられています。シキミの花、葉、幹すべてには猛毒の成分が含まれていて、昔から誤食による死亡事故が絶えなかったといいます。そのため「悪しき実」と呼ばれ、それが「シキミ」に転化したというのが有力なのだそうです。

 はい、こんなん出ました

 しばらく行くとみんなが人垣を作っていました。円の中心を見てみると…、ヒキガエル(地域的にニホンヒキガエルか。)です。首根っこをつかまれてぐうの音も出ないといったところ。いや、実際にはググッ、ググッと小さな声をだしていて、これをリリースコールというのだそうです。「放せ、俺はオスだ」と言っているのでしょう。後頭部の耳腺から強力な毒を分泌するそうなので要注意です。ダメージの少ないように観察して、近くに放しました。

 「ふー、やれやれ」、「春先は忙しいんだからかわまないでほしいんだよね、ホント。」

 岩塊

 支谷を埋め尽くすように大きな岩が。奥まで続いています。どうやら上から転がってきたものではなく、この場所にあった岩盤が割れてこの景観を作ったもののようでした。

 イワカガミ

 テカテカの葉を広げているのはイワカガミ。岩場に生えていて葉が鏡のようにツルツルしている植物ということでしょう。初夏にピンク色の繊細な花を付けます。

 ツルアリドオシ

 ツルアリドオシの茎がわずかな風に揺られて簾のよう。

 ノギラン

 このドライフラワー、ナツエビネかと思い一瞬テンションが上がりましたが、どうやらノギランのようでした。枯れても花茎をシャキッと立てていますね。

 橋が現れました、これを渡ってスタート以降初めて右岸を歩きます。ちなみに川の上流から下流に向いて右側が右岸、左側が左岸です。

 かなり上流まで上ってきましたが、水量は衰えていません。

 水たまりに

 道から2mほど下がったところにある川岸。岩場の窪みに水が溜まっているところがありました。よく見るとそこにヒキガエルの卵塊が大量に。

 卵塊

 さっそく岩場に下りてみると、おお、あるある。

 そっと手にとってみると、儚くつるっとした感触。他の何かに例えようとしても似たものを思いつきません(強いていえば煮すぎたマロニーちゃんか。)。
 ヒキガエルは元々そんなに水辺に依存して生活しているわけではないとのことですが、繁殖期には一定の水場(水たまりなど)に多数集まってきて短い間に一斉に繁殖するのだそうです。いわゆる「蛙合戦」ですね。

 蓬莱滝

 ヒキガエルにさよならして再び歩き始めます。
 おお、奥行きのある立派な滝です。蓬莱滝とのこと。蓬莱とは古代中国で仙人の住む仙境のこと。仙境にでもありそうな滝ということでしょうか。

 ユリの刮ハ

 ユリの刮ハ(のドライフラワー)。真上から見たところです。何ユリだろう。ササユリという声も。

 イタビカズラ

 どこかで見たことのあるこの葉。参加者の方からイタビカズラと教えてもらいました。ところで、約10年前、栃木県足利市の唐沢山神社を訪れたときに見かけ、以来何だろうと思っていたのがこのイタビカズラだったかもしれません(こちら)。ちょっとすっきりしたような気がします。

 川が大きく弯曲し少し広くなったところに出ました。東屋もあります。この先で道は再び左岸へ。

 面白いものが現れました。幹に打ち付けられた看板がその木に取り込まれようとしています。傷を修復しつつ成長してきた結果でしょうね。エゴノキのようです。看板には「王子製紙」の文字が見えますが、このあたりで紙パルプ用の木材を調達していたのでしょうか。

 アテツマンサク

 満開のアテツマンサク。和のテイストですね。

 そろそろ引き返そうというところ。ここまでの振り返りをしていると…、先行していたスタッフからもう少しおいでと手招きが。

 ゴヨウマツ

 行ってみるとゴヨウマツです。下見のときにはここまで来ていたようです。先ほど見たアカマツとの違いを観察しましょう。ゴヨウマツは漢字では「五葉松」と書き、その名のとおり葉は5個あります。したがってその断面は中心角72度の扇型。なるほどです。
 さて、時刻は14時15分、ここで折り返します。

 15時28分のバスに間に合うよう、復路は黙々とウォーキング。

 ウラジロ

 途中見かけたウラジロに広島の山を感じました。そうそう、この感じです。
 15時20分、無事に峡谷の入り口に到着。バス組は急いでバス停に向かいます。
 
 広島市内ではそろそろ桜の便りも聞かれようかという頃ですが、この峡谷では木々の冬芽がようやく活動を始めたばかりでした。でも比較的常緑樹が多かったせいか、あまり冬枯れ感はしません。やはり瀬戸内なんですね。
 今回のテーマ「春を楽しむ」。でも実際には「春の気配を楽しむ」と観察会となりました。季節の移ろいを感じられそれはそれで良かったです。またふらっと参加したいと思います。