石ヶ谷峡 〜久々の広島自然観察会(前編)〜


 

  (前編)

【広島市 佐伯区 平成30年3月18日(日)】
 
 先日汗ばむほどの陽気だったかと思えば、ここ数日は底冷えのするような日が続いています。野山の草木もさぞかし戸惑っているでしょう。ただ、「三寒四温」とはよく言ったもので、例年こんな行きつ戻りつを繰り返しながらも少しずつ本格的な春に近づいていきます。
 さて、今回は懐かしい広島自然観察会の定例観察会に参加。場所は広島市佐伯区湯来町にある石ヶ谷峡です。テーマは「石ヶ谷峡の春を楽しむ」。どんな観察会になるでしょうか。
 
                       
 
  yamanekoは今から12年前まで広島自然観察会に所属して観察会の企画・運営などをしていました。転勤で東京に来てからも数年に1回ふらっと参加していましたが、今回所用で2日前から広島入りしていて、帰京するこの日の予定が空いていたので急遽参加することにしたのです。
 現地への移動は、まずJR五日市駅に向かい、そこから湯来ロッジ行きの広電バスに乗り換え。1時間ほどのバス旅の後目的地の石ヶ谷峡入口バス停に到着しました。石ヶ谷峡は水内川の支流、石谷川によって造り出された峡谷で、広く花崗岩を基盤としたエリアにあり、川に沿った道から奇岩、巨岩を楽しむことができます。約80年前の昭和12年に県の名勝に指定されているそうでう。

 Kashmir 3D

 今日のルートは、峡谷入口から石谷川を天上山林道の手前までさかのぼり、同じ道を折り返してくるもの。標高差250mほどをのんびりと歩いて行きます。

 オリエンテーション

 10時20分、オリエンテーション開始。バスで来た人が10数人。自家用車組も合わせて総勢34人の参加です。
 今日のリーダーは吉岡さん。まず話があったのは、今年の冬は平年に比べて寒かったということ。配られた気温の資料を見ると、特に最低気温が平年値を下回っている日が多かったようです。広島には温暖なイメージがありますが、結構寒いんですよね。この寒さ、3月に入っても居座って、2週間前に行われた下見の際には峡谷内だけでなくここに至る道路にも雪が残っていたそうです。結果、本番を1週間遅らせて今日の開会となりました。
 リーダーからは、この観察会のコンセプト、自らの気付きを共有することが大事ということがあらためて紹介されました。「2月は光の春、3月は音の春」という言葉のとおり、気付きによって見えてくる春があるとのことです。最後に注意事項として、川に落ちないこと(笑)。水が冷たいそうです。でしょうね。

 キジバトの羽

 近くに鳥の羽が散らばっていたと参加者の方。さすがはこの会の常連さん。さっそく気づきのアンテナを高くしているようです。鳥に詳しい方が解説を買って出て、その特徴を踏まえこれがキジバトのものと教えてくれました。それぞれの興味と知見を共有する。観察会を行う側と参加する側に役割が固定されないこともこの観察会の特徴です。

 いざ石ヶ谷峡へ

 10時40分、スタートです。さあ峡谷の奥に分け入っていきましょう。

 コウヤミズキ

 この花はコウヤミズキ。まだ蕾がほころび始めたところです。開ききると房状に下垂して少し華やかになりますが、いかんせん開花時には葉が展開していないので、全体として少し寒々しい感じもします。花色も冷たいレモンイエローですし。

 観察会のルールとして、リーダーより前に行かないということがあります。スタッフはあらかじめ下見をして気づきを促すポイントをピックアップしていたりします。このルールは、参加者がそんな情報を聞き漏らすことのないようにという配慮であるとともに、安全管理上の必要ということもあるんですよね。希にはぐれてしまう人がいるので。(恥ずかしながらyamanekoも過去に経験あり。)

 川の中に大きな岩がありました。上流から流されてきたにしては角が立っていますね。左右どちらかの山肌から崩れ落ちてきたものかもしれません。

 お経岩

 その山肌はこんな感じ。花崗岩特有の白っぽい岩が露出しています。むむっ、岩に何か書いてあるぞ。

 「南無阿弥陀仏」。書いてあるのではなく彫ってあるようです。その下には蓮の花の絵。しかも彩色してあります。いったい誰が。
 花崗岩の節理は方状で、サイコロのように割れていく特徴をもっています。お経が彫ってある岩のブロックは高さ3、4mはありそうでした。上の岩が庇のようにオーバーハングしていて、ロープにぶら下がって彫ることは無理のよう。かといって下に足場になるようなところも見当たりません。

 ヤブウツギ?

 この花殻はヤブウツギ、それともタニウツギか。いずれにしてもスイカズラ科のウツギだと思います。

 日和見岩

 日和見岩。昔、この岩に登って日和(天候)を見たのかもしれませんね。それとも長いものには巻かれろ的なあれか?

 川の水が嘘のように透明です。これは花崗岩質の土壌に特有の貧栄養ゆえのことでしょうか。

 筍岩

 こちらは筍岩とのこと。うむ、見えないこともないですね。

 ツゲ

 ツゲ。櫛や将棋の駒などに加工されるいわゆる「本つげ」というやつです。生垣などでよく見かけるイヌツゲとは科も異なる赤の他人ですが、ぱっと見似ています。葉が対生であること、葉先がやや尖っていることなどがイヌツゲとの見た目の相違点です。

 テイカカズラ

 おや、何かぶら下がっていますね。これはテイカカズラの果鞘。既に裂けて種子を飛ばした後のようです。種子はタンポポの綿毛のような羽毛を持っていて、成熟すると風に吹かれて果鞘を離れ、飛んでいきます。

 そのテイカカズラの種子が果鞘にどのように格納されているのか、どのように飛び立つのか、実際に飛ばしてみて皆が納得です。

 右に写っている道路と比較すると河床の幅が結構あることが分かると思います。流れる水で滑らかに削られてはいるものの、ここでも花崗岩の節理を見ることができます。

 ときおりこうやって陽が差します。すると心も弾みますね。

 アカマツ

 アカマツ。養分の乏しい花崗岩質の場所で勢力を広げることができる種です。葉は2枚(2本?)で全体によじれています。断面は半月形で、二つを合わせると丸い形になるとのこと。なかなか断面のことまで気にして見ませんよね。

 バイカツツジ

 バイカツツジは花の時期でもその姿を見つけにくいです。それは葉の下に隠れるように花を咲かせるから。しゃがんで下から覗き込むと可憐な白い花を見られます。写真でも去年の花殻が残っているのがわかります。

 アブラチャン

 早春の渓谷を彩るアブラチャン。クスノキの仲間で、枝に油分があり、折ると良いかおりするそうです(むやみに折ってはいけません。)。

 三龍頭

 鋭い岩峰が現れました。標識によると「三龍頭」(みつがしら)とのこと。まさに見上げるようです。太古あの高さまであった岩盤が削られてここまで深い谷になったということなのだろうか。

 陽が差すと流れが急にきらめき出します。春の音が聞こえてくるようです。

 夕立滝

 夕立滝。つるっとした岩面を水が滑り落ちています。名前は上から飛沫が降り注ぐから?

 ヤマグルマ

 これはヤマグルマ。立ち上がっているのは去年の花殻です。渓流沿いを好む木のようですが、山の上でも見たことがあります。広葉樹でありつつ、水を吸い上げる仕組みが針葉樹と同じ(仮道管)なんだそうです。変わったやつですね。

 ヤマシグレ

 このシャープなフォルムはヤマシグレの若芽。この先、葉脈のくっきりした葉を広げます。赤い実を見るとガマズミの仲間であることがよく分かります。

 コウヤコケシノブ

 もさもさのふわっふわ。コウヤコケシノブというシダです。岩の表面を覆うように群生していました。触らずにはいられません。


 流れを左に見ながらゆっくりと歩いて行きます。

 ツクバネガシ

 常緑樹のツクバネガシ。ツクバネ(突羽根)とは羽根突きの羽根のことで、葉の形や付き方に由来しているようです。葉の縁が少し裏側に巻くような形になっていて、もともと厚めの葉がこの形状により強度を増しています。陽に透かすとその縁が白く見えるとのこと。確かにそうですね。

 ヤマコウバシ

 ヤマグルマ、ヤマシグレときてヤマコウバシです。枯れても冬の間葉が落ちないことでおなじみですね。そういえば花は初めて見た気がします。さっき見たアブラチャンに似ていますね。同じクスノキ科です。
 さて、往路の半分くらいまで来たでしょうか。そろそろ昼食を兼ねて休憩といきたいところです。(後編に続く)