生田緑地 〜多摩丘陵の冬・12月〜


 

【川崎市 多摩区 平成20年12月27日(土)】
 
 今年も年の瀬になってしまいました。生田緑地の観察もいよいよ最終回です。天気予報では年末年始とも、ずーっと晴天続き。今日も日向ではポカポカ陽気です。さあ、今回はどんな自然を見せてくれるでしょうか。

 西口駐車場

 いつもの西口駐車場はご覧のとおりガラガラ。暮れの忙しい時期、世の中の人は生田緑地などに来てる場合じゃないということでしょうね。

 尾根筋の道

 尾根筋の桜並木の道を、観察路入口までのんびりと歩いていきます。桜の時期にはさぞや艶やかでしょうね。今年の春に観察に来たときには時期が合わず、その姿を見ることはできませんでしたが。

 観察路入口

 いつもの入口。ここから西の谷地に向かって下っていきます。左手には先月美しく紅葉していたメグスリノキがあります。とはいえ、裸の状態では何の木だかさっぱり分かりません。

 下りていくと

 階段を下りていくと谷地の一番奥の部分に行き着きます。この辺りはまだ尾根下の斜面。水が浸みだしてきて湿地や水路を作るのはもう少し下ったところになります。

 キブシ

 枝先にゴマ粒のような花芽をつけているのはキブシ。春先には薄黄色のこんな花になります。でも、その前に厳しい冬を越えなければ。

 霜柱

 日陰には霜柱が融けずにありました。本格的に冬ですね。昨冬はそこそこに寒く、その前の年は暖冬でした。この冬はどうでしょうか。

 アオキ

 アオキの実です。枯れ色が広がる野山にこのつややかな緑色。葉といい実といい、その名に恥じない濃い緑色をしています。冬が終わる頃にはこの実が赤く色づき、ヒヨドリなどが好んで食べます。

 斜面を下る道

 足下の段に注意しながら谷地の東斜面を少しずつ下っていきます。風もなく穏やかな休日です。視線を前方に上げると、谷をはさんだ反対側の尾根上に専修大学の校舎が見えました。これが夏場には木々の葉に遮られてまったく見えなくなります。

 ハリギリ

 おっと、この鋭いトゲトゲはハリギリですね。大きな木になるのですが、これはまだ幼木です。ここでは光の争奪戦に勝利するのはなかなか難しいでしょう。それにしてもこの刺、いったい何から身を守ろうというのでしょうか。

 冬晴れの空

 見上げると葉を落とした木々を透かして冬晴れの空が望めました。この梢の一つ一つにびっしりと葉が付くと、ほとんど光は差し込んでこなくなります。木々は巧みに光の陣取り合戦をしているのです。

 ヤブツバキ

 ヤブツバキの蕾がふっくらと膨らんできていました。こちらはもうじき開花するでしょう。テカテカと照り返す葉。ヤブツバキは照葉樹林の代表選手です。

 アズマシャクナゲ

 このドライフラワーのように見えるのは、アズマシャクナゲの果実が開裂したもの。花のない時期には果実を使って楽しませてくれる。なかなかのエンターティナーです。

 次の耕作に向けて

 ここはサトイモ畑だったところ。来年の耕作に向けてきれいに手入れがされていました。yamanekoの故郷にもこんな風景が広がっていたなぁ。

 ウメの蕾

 緑色の部分が今年伸びた枝です。もうちゃんと蕾が付いていて、これから少しずつ丸く膨らんでいきます。平地の梅園では2月が見頃ですが、ここでは3月下旬が見頃でした。ずいぶん遅いです(そういう品種なのかもしれませんが。)。

 スケートリンク

 田んぼに張られた水が凍っていました。午前中の光を反射して眩しいです。でも、まてよ。yamanekoの子供の頃、冬場の田んぼに水が張られていた記憶はないのですが。なにしろ田んぼで凧揚げとかしていましたから。

 定点写真

 東西二つの谷地が合流する地点。ここで毎回同じアングルで写真を撮ってきました。並べてみると1年の変化が分かります。それなりに。→こちら

 コブシ

 こちらもほぼ毎回にわたって観察してきたコブシ。来年の花、果実、種子のすべての元がこの芽の中に入っていると考えると、生物の不思議を感じずにはいられません。

 ???

 戸隠不動の参道に落ちていた何かの果実。しばらく考えましたが、何の果実か見当も付きませんでした。カサカサに乾燥していて、ほとんど重さは感じません。もともとは細長いラグビーボールのような形の果実で、その皮がラッパ状に5裂して反り返っています。皮は結構硬いです。身の部分はウレタンのような質感で、折るのにちょっと力がいるほどでした。断面を見ると5つの稜に近い部分に黒い種子(?)がありますが、粒ではなく、細長い状態のものでした。これを拾った周囲にはサクラとエノキくらいしか見あたらず、どっか(民家の庭先も含めて)から飛ばされてきたものなのかもしれません。
 最終回に生田緑地から宿題が出たので、引き続き調べてみたいと思います。

 戸隠不動の参道

 参道の坂道をゆっくりと登っていきます。正面には戸隠不動跡。礎石のあった場所に石柱が建てられていて、モニュメントのようなものになっています。

 東の谷地

 東の谷地。こちらは西の谷地に比べてやや乾燥しているように見えます。特にここから奥(写真に向かって背後)は谷の幅も狭く、水田には不向きだったと思われ、昔は柴刈り場だったかもしれません。

 桜と紅葉の広場

 入射角の小さい光線が斜面に面白い模様を映し出しています。ここは一月前、たくさんの紅葉に彩られた場所ですが、今日、鮮やかな色はこの広場のどこにもなく、シンとした静寂の空間になっていました。

 ヤブムラサキ

 西の谷地にもどって、再び谷地をさかのぼります。スギ林の縁を歩いていると、丸裸になったヤブムラサキの枝先にその名のとおりの紫色の果実だけが残されていました。民家の庭先で見かける実がびっしりと付いたやつはだいたいコムラサキです。


 
 池

 池をのぞいてみても生き物の影は見あたりませんでした。ただ水底に落ち葉を積もらせているのみです。春にこの池を賑わすカエルたちも、いまはこの近くの土の中でじっとしているのだと思います。

 観察を終え、再び駐車場まで戻ってきました。ここからはちょうど西の谷地を見下ろすことができます。手前が谷地の頭、奥が谷地の出口です。そしてその向こうには広大な市街地が広がっています。
 ここ生田緑地はちょうど多摩丘陵の辺縁に位置していて、背後に丘陵地帯が続いているのですが、そこは何十年も前から宅地や商業地が造成され続け、航空写真などを見ても自然豊かなところは少なくなっているのが分かります。そういった意味では、ここの里山や谷地は人間と自然がうまく調和を取りながら共存してきた環境を今に残している、貴重な標本ともいえる場所なのだと思います。
 
 月に1回ずつ、1年間この場所に通ってみました。不思議なことに、この谷地に何度か入るうちにyamanekoの子供の頃の思い出がよみがえるようになりました。西日本と東日本では植生や土質なども異なるはずなのですが、時、場所ともに遠いあの故郷に似た風景を確かにそこに見ることができたのです。それはきっと、かつて日本中で見られた古き良き、そして懐かしき昭和の風景が、ここ生田緑地には残されていたからなのでしょう。我々世代には貴重な空間です。これを次の世代にも、いや、むしろ昭和のことを知らない世代にこそ残しておいてあげなければならないのかもしれません。
 
  

  多摩丘陵と生田緑地