伊吹山 〜太古のサンゴ礁からの贈り物(中編)〜


 

  (中編)

【滋賀県 米原市 平成30年7月21日(土)】
 
 涼を求めてやってきた伊吹山。中編です。(前編はこちら

 Kashmir 3D

 8時45分にスタートし、西登山道コースを小1時間歩いて山頂の手前までやってきました。時刻は9時40分です。



 今日、この辺り(滋賀と岐阜の県境域)は天気は良いのですが、伊吹山の山頂上空に雲があって、なんかどんよりとした雰囲気を醸しています。時折雲の切れ目から陽が差すと、一気に爽やかな風景に変わるんですがね。

 アカソ

 これはアカソ。イラクサの仲間です。アカソの「ソ」は「麻」のこと。系統的にはアサとは別科ですが、日本ではカラムシなどイラクサ科の植物も広義の麻として大括りにしていたのだそうです。確かに細く深く切れ込んだ葉がアサに似ているといわれればそうも見えます。

 ワレモコウ

 ワレモコウ。茎頂の花序に小さな花が窮屈に密生しています。この花序をほぐすと、一つ一つの花が離れ、縮こまっていた花弁が広がって、きれいな星形(手裏剣形?)になります。

 ハクサンフウロ

 ハクサンフウロは本州中部から東北地方にかけて分布する花で、その南限が伊吹山なのだとか。ということは、温暖化が進む現代では生育域の最前線にあって常に存亡の危機さらされているということか。



 山頂が見えてきました。何件かの山小屋(というか売店兼食堂)と寺社っぽいものがあるようです。

 ダイコンソウ

 ダイコンソウの黄色の花。いったい何が大根なのかというと、葉が似ているからなのだとか。大根はアブラナ科で葉はへら形をしていますが、ダイコンソウはバラ科で、葉もご覧のとおり。特に似ているようには見えないのですが。

 伊吹山寺

 山頂に到着しました。神社かなと思いつつ上がってきましたが、これは伊吹山寺というお寺でした。前回来たときにはなかったように思うのですが。とりあえず参拝していつものとおり世界平和を祈念しておきました。

 イブキジャコウソウ

 でた、イブキジャコウソウ。yamanekoのなかでキング・オブ・イブキです。イブキを名に冠する花々の中でその代表格ということです。伊吹山で最初に確認されたことによる名前ですが、海岸などにも咲いていたりします。岩を覆うように咲き、背丈は低いですが、樹木なのだそうです。

 山頂

 9時55分、山小屋群の裏手にある山頂の標識までやって来ました。山頂部は比較的平坦で、あちこちにある小ピークに石碑などがありましたが、統一見解としてここが山頂ということなのでしょう。

 伊吹ドライブウェイ

 山頂部の南側の縁に立って見下ろすと、さっき走って来たドライブウェイが見えました。白く細長く見えるのは駐車場で、こことの標高差は380mほどあります。

 氷イチゴ

 ここまで直射日光こそそんなに差しませんでしたが、やはり登ってきたことによって体は暑くなっています。山小屋の一つに入ってかき氷をいただきました。なかなか良心的な店のようで、最後までシロップが染みていて美味しかったです。生き返りました。



 少し体が冷えたので、山頂部を散策します。再び南側の縁へ。

 南方向

 真南の方角です。眼下に見える大きな建物は、伊吹山で採掘した石灰岩を化学素材や建築資材に加工する工場。伊吹山の西側斜面では現在も良質な石灰石が産出されているとのことです。写真奥に山地が見えますが、これは鈴鹿山脈の北端部で、この辺りは伊勢湾側(写真左側)に流れ下る水系と琵琶湖側(ひいては大阪湾。写真右側)に流れ下る水系との分水嶺となっています。ちなみに鈴鹿山脈でも良質な石灰石が産出されているのだそうです。
 この地域は地勢上でも重要なところだったんでしょうね。関ヶ原の史跡は写真左端(見切れている辺り)になります。現在でも高速道路や新幹線、在来線がこの狭いところを通っています。

 山頂部

 山頂部はこんな感じ。トンボが大量に飛んでいました。ひょっとして「飛ぶ棒」がトンボの名の由来か?

 イブキフウロ

 おお、イブキフウロ。今回会いたかった花の一つです。先ほど見かけたハクサンフウロと親戚ですが、こちらは花弁の先が3つに分かれていて、少しおしゃれな感じ。

 イブキジャコウソウ

 イブキジャコウソウは群落を作るのが普通ですが、一つ一つの株はこんな感じ。これはこれで可愛いですね。ちなみにジャコウソウという花も別にあり、こちらはシソ科で、まったく似ても似つかない姿をしています(シソ科に多い唇形花)。

 三角点

 山頂部の東寄りのところに三角点がありました。さっきの山頂の標識からはずいぶん離れたところにあります。立派な解説版が併設されていましたが、要は「三角点を大切にしましょう」という内容のものでした。

 キバナノレンリソウ

 キバナノレンリソウは、ヨーロッパ原産で、伊吹山だけに帰化した植物なのだとか。これは室町時代の終わり頃、織田信長がポルトガルの宣教師に伊吹山の山上で薬草園を開かせたことがあったそうで、その際に薬草に混じって入ってきたものだろうと考えられているようです。同様にイブキノエンドウなども。しかし、織田信長っていろんなことをしていたんですね。しかもなぜ故に伊吹山の山頂?



 これはキオンの群落だと思います。花はまだです。

 メタカラコウ

 こちらはメタカラコウの群落。今が盛りですね。

 キンバイソウ

 キンバイソウも咲き誇ってます。訪れる虫にしてみると、もう目移りしてしまって大変でしょう。

 イブキジャコウソウ

 しつこいですがイブキジャコウソウ。この花を初めて見たのは、島根県の立久恵峡でした。高い岩場の上に咲いていたのを思い出します。

 コバノミミナグサ

 伊吹山の中でも標高の高い石灰岩質のところにのみ生えるというコバノミミナグサ。伊吹山に特産するものだそうで、平地で見られるミミナグサとは花が大きいことや葉が細くて小さい点が異なるのだそうです。こういう特殊な環境のところでも生きられる植物は、むしろ普通の環境下では弱者で、他の植物との競争に勝ち残れないのだとか。普通の環境で生きられるものにとってはわざわざ厳しい環境に入っていく必要はないわけで、コバノミミナグサなどはそのような環境に活路を見いだして生きているということなんですね。



 広々とした風景ですね。冬には写真奥の方角から季節風に乗って次々と雪雲が押し寄せてくるのだと思います。この付近、降雪による新幹線の遅れがよく生じるところでもあります。

 コウゾリナ

 タンポポのような頭花はコウゾリナのもの。茎や葉に粗い毛があって触るとジョリジョリ感があります。名前は「顔剃り菜」から来ているのだそう。

 キリンソウ

 キリンソウの花冠をアップで。小さな花が寄り集まっていることが分かります。葉はやや肉厚で、サメの歯のような形をしています。



 イブキアザミの大群落の中で一人佇むシシウド。広々として、心がスカッとする風景です。

 キンバイソウ

 やはり光が差すと花々は急に輝き出しますね。キンバイソウの黄色も明るいです。

 カワラナデシコ

 草原の花、カワラナデシコも色鮮やかです。ちなみに名前のとおり河原でも見かけます。

 タチイヌノフグリ

 うーむ、これはタチイヌノフグリか。小さな花なのでつい見逃すところでした。



 中央登山道コースとその先に駐車場が見下ろせます。その向こうに広がる山々の雄大さ。いい感じです。
 さあ、これから東登山道コースを歩いて、いったんあの駐車場まで下り、そこから眼下に見える中央登山道コースで再びここにやってくる予定です。まだまだ伊吹山の花々を堪能させてもらいます。(後編に続く