伊吹山 〜太古のサンゴ礁からの贈り物(後編)〜


 

  (後編)

【滋賀県 米原市 平成30年7月21日(土)】
 
 花の楽園を楽しみにやってきた伊吹山。後編です。(中編はこちら

 Kashmir 3D

 駐車場から西登山道コースを歩いて山頂へ。平坦な山頂部を巡って様々な花に出会いました。時刻は10時50分。これから東登山道コースで駐車場まで下ります。その後中央登山道コースで再び山頂まで登ってくる予定です。

 東登山道コース

 山頂部から東登山道コースに入る分岐地点には、軽装備での進入を戒める注意書きがありました。確か前回歩いた15年前にはこんな看板はありませんでした。そのときの記憶によると特に危険な箇所はなく普通の登山道なのですが、ここは観光地なのでサンダルなど街歩きの格好の人も多く、そんな人にとっては足が痛くなったりするかも。過去に怪我をした人がいたとか、そうではなくても辛い思いをして「ちゃんと書いておいてよ」といった苦情が寄せられたとか、そんなことがあっての注意書きなのかもしれません(勝手な想像)。

 サラシナショウマ

 サラシナショウマの若い花穂。まだ蕾の状態の花が穂状に並んでいます。開花は来月くらいか。けっこうな群落を作っていました。

 マルバダケブキ

 遠くにマルバダケブキを発見。人の背丈ほどにもなるキク科の大型の花です。この花もこれからが盛りでしょう。



 クガイソウにアキアカネ(ナツアカネか?)



 正面の丘を越えると下り坂になっていきます。

 ヒヨクソウ

 ヒヨクソウ。漢字では「比翼草」と書きます。比翼とは古代中国の伝説上の生物「比翼の鳥」のことで、翼と目が一つずつしかないので雌と雄が身を寄せ合って助け合わないと飛べなかったというもの。ヒヨクソウは葉腋から対になって花序を出すので、その姿を比翼の鳥が翼を広げたところに例えたということです。すごい想像力ですな。
 そういえば、さっき山頂にキバナノレンリソウが咲いていましたね。図らずも伊吹山の山頂で「比翼連理」にお目にかかれるとは。連理(れんり)とは「連理の枝」のことで、隣り合う樹木の枝が年月を経て癒着結合したもの。「比翼連理」で、男女の仲が睦まじい様子を表す故事成語(?)です。その昔、楊貴妃と白楽天が「天にあっては願わくは比翼の鳥とならん、地にあっては願わくは連理の枝とならん」と語り合ったのだとか。



 振り返るとさっき越えてきた丘。注意書き効果か、こちらのルートには観光客はほとんどいません。したがって静かです。

 イワアカバナ

 イワアカバナ。花冠の経は1cmほどと小さく、目立ちません。よく見ると雌しべの柱頭の先が球状になっていて、個人的には「団子っ鼻」と呼んでいます。

 シモツケ

 シモツケとは名前のとおり下野国(現在の栃木県)を表す名前ですが、北海道から九州まで日本各地で見られるそうです。



 伊吹山山頂部の東端にあるピークです。あの手前を左手に下っていきます。

 センチコガネ

 センチコガネ。金属光沢が美しい甲虫で、その体色は個体によって紫色、藍色、緑色、金色など様々なのだそうです。

 イブキトリカブト

 これはイブキトリカブトの蕾ですね。8月には青紫色の花をたくさん咲かせることでしょう。

 クサタチバナ

 ずいぶん下りてきました。登山道は森の中を下っていきます。これはクサタチバナの実。この形の果実はガガイモ科に特有のものです。中にはふんわり綿毛で風に吹かれる種子がたくさん詰まっています。

 ウバユリ

 ウバユリの背景には暗い茂みがよく似合います。陶器のような質感の白い花冠が際立ち、より栄えるような気がするのです。



 そうこうするうちに出発地点の駐車場が見えてきました。

 バイケイソウ

 バイケイソウです。高さは1.5mほど。直立した茎から分かれる花茎にびっしりと花が付いています。花の色は薄緑色で派手さはありませんが、全体からはキリッとした力強さを感じます。
 背後にはマルバダケブキの群落が。その名のとおり丸葉ですね。



 時刻は11時30分。さあここから中央登山道コースでもう一度山頂を目指します。我ながら元気です。

 クガイソウ

 風に吹かれるクガイソウ。



 ルリトラノオは咲いていないかと探してみるのですが、これも、これもクガイソウみたいです。

 太古の海底から

 山頂までの4分の3ほど高さまで登ってきました。しかしこの風景、この辺り一帯、数億年前は南洋の海底だったとは。目を閉じると広大なサンゴ礁か…、いやなかなかイメージしがたいです。ところで、数億年後、この場所はいったいどうなっているんでしょうか。

 クガイソウ

 おっ、これは…、クガイソウですね(クガイソウが悪いわけではない。)。



 隣り合った場所に咲いていた二叢のクガイソウ。花穂の様子も葉の形も微妙に異なるのですが、葉が輪生することや雄しべの葯が褐色であることから、やはり両方ともクガイソウなんだと思います。ルリトラノオは葉が対生に付き、葯は白色をしています。前回訪れたときはお目にかかれましたが、8月下旬だったので、もしかしたらこれから咲き始めるのかもしれません。



 ああ、すがすがしい景色! 大阪でのバタバタした日常が一時なりとも消え去ってくれるようです。写真奥の方は琵琶湖の北端部、木之本の辺りが見えています。

 山頂再訪

 11時55分、再び山頂に戻ってきました。お久しぶり!

 キンバイソウ

 さて、あらためて駐車場に下ります。これはキンバイソウ。仲良く咲いていますね。

 ウツボグサ

 ウツボグサ。自然界の色とは思えないほど鮮やかな紫色をしています。

 シモツケソウ

 シモツケソウは淡い桃色。まだ蕾の状態のものも多いです。樹木のシモツケよりも柔らかい印象ですね。草本ですから。

 マタタビ

 これは??? 何かの花が終わった跡ですね。蔓先の葉を見ると一部に白く粉を吹いたようなものが。ああ、マタタビか。しぼんだ花が先端に残っていて、その基部に膨らみつつある子房があります。ここがマタタビの実になるんですね。熟した実を旅人が見つけ食べると、元気が出て「また旅を続けられる」ことから名が付いたのだとか。

 展望台から

 12時10分、駐車場に戻ってきました。レストハウス横の展望台に登ってみます。駐車場はほぼ埋まっていますね。



 琵琶湖方面。湖面に竹生島がうっすらと見えます。あと、手前の山体には石灰石の採掘場も。

 山頂方向

 山頂方向。手前に西登山道コースの入り口が見えていますね。ここから直接山頂は見えませんが、標高差は100mくらいなので、ここからだと丘のような感じです。
 
 さて、今回の野山歩き。地理的にも成因的にも特殊な伊吹山で、日常では出会えない多くの花々に会うことができました。大阪からわざわざレンタカーを借りてやって来た甲斐がありました。ま、好きだからできるんですけどね。今度は麓から歩いて登ってきたいと思います。それはもうちょっと涼しくなってからかな。